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ヨナの覚醒
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その頃ルウイは、証拠集めに奔走していた。汚染水源の特定、投げ込まれた物証の探索、投石機のトレース、生き証人の確保。
サクシアでの証拠集めが一段落すると、ためらいなくシヨラ内部にまで手をのばす。
「さて、行く?」
サジルは自分が行くと言った。
「ルウイ様は、どうぞお近づきになりませんように。発疹が出るほどひどくなりましたら、サクシアでのような対症療法ではお命に触ります。どうしてもとおっしゃるなら、王宮内の秘薬を入手してまいります。どうぞお待ちください」
「入手はいいわ。私自身にはいらないし」
「は?」
サジルの前で、秘薬のドライフラワーをくるりと回す。
「身内の分だけ薬を持っているから、民も他国も疫病まみれにしようって根性が気に入らない。あの花は人工栽培ができない。どうやったって量が足りないでしょうに」
パセルには、危険だったり量的に極小しかできなかったりで、表に出していない技術がたくさんある。この花の栽培もそのうちの一つだ。王宮にある秘薬のストックもせいぜい数人分だろう。
ルウイが大量にばらまいた薬は、シヨラの秘薬ではない。どちらかというと対症療法の薬だ。
ではなぜサクシアでは、その薬でも劇的な効果が出たのか。
簡単だ。サクシアの一般の民の生活が、シヨラよりも格段に豊かだったからだ。レグラムに至ってはもっと治りが早いだろう。栄養状態がしっかりした個体なら、症状さえ緩和して時間を稼いでやれれば自力で免疫をつけて菌を駆逐するのだ。
ルウイは、サジルに断言した。
「あの手の疫病を根絶するのは、貴重な秘薬じゃない。日々の食事だよ。ま、今回の場合は、特に内分泌腺の発達期の栄養状態で感染の有無が決まるのだけど、その頃もふくめて私は万全!」
ルウイはそう言って一向にひるまない。
愚かなシヨラ王よ。
自国の民が飢えた歴史が、他国への驚異になるとでも思ったのか。
シヨラでは租税を払いきれない多くの民が、水はけの悪い土地に追いやられ、慢性的に低栄養状態で、過酷な労働を強いられ、過密状態で生活していた。
疫病に蔓延してくれと言っているような環境だっただけだ。
ルウイは、シヨラの複数の箇所で、疫病患者の遺体を汚物にまみれさせて梱包し、次々と運び出している証拠を記録しはじめた。
そして、サクシアとシヨラで集めた証拠をサジルに持たせて、レグラムへおくった。それから「ごめん。治療じゃなくて生き証人の確保分しかないわ」と言いながら、ルウイは、死骸置き場から、まだ生きている人間を拾って手持ちの秘薬を与え、数人を蘇生させることに成功した。
ヨナとアルトは、手紙に導かれて生き証人に合い、遺体を梱包する光景を見ることになる。
ヨナが刑を執行されていた村は、すでにこの世の光景とは思われなかった。村人で、二本足で立てる者は残っていなかったのだ。
よりひどい症状で死んだ個体を探す実験場。
なんという、ことを。
ヨナの瞳が怒りに燃える。
病に苦しみながらヨナに自分の薬を分けてくれようとした。
ヨナを生かそうと必死に水を運んでくれた。
彼らの亡骸を汚物に塗れさせ、敵国の水源に投石器で投げ入れようだと?!
自国の民に対する敬愛の思いをどこに捨ててきた。
誰のせいで、疫病がはやったと思っているのか。
風土病だと?自分たちには秘薬があるだと?
王よ。あなたが、死ぬべきだった。もっと早くに。彼らの遺体やシヨラそのものを侮辱する前に。
自ら埋葬と薬の手配を指揮するヨナの横顔をアルトが盗み見る。
ほーお。これはなかなか。
ヨナの気迫は、アルトの予想以上だった。
確かにこれならついてくる民は多いだろう。
アルトは、ヨナに言質を与えた。
「いいだろう。お前が王となるのなら、レグラムはお前とシヨラに協力しよう。パセルはすでに意思表示をしたのも同然だしな」
ルウイは反対しない。絶対に。シヨラ王の汚い策略を公開する気もない。シヨラを潰す気がないのだから。
「王を拘束せよ」
ヨナはもう迷わなかった。
サクシアで疫病をばら撒いた記録と証言、レグラムに持ち込まれた投石器と梱包された汚物まみれの死骸。
シヨラが薄汚く策略を巡らせ、無差別の害悪を近隣にたれ流そうとした証拠は、既に他国に握られているのだ。
それを、近隣の国に公にするかどうかの決定権がシヨラにはないことを、側近たちに突きつけた。
「戦になっても、どの国もシヨラに味方などせぬ。我々はそれだけ同属への義を汚した!近隣中のそしりを受けながら、汚辱の中に分割されるか?!抑えられるのは、私だけだ。従え!」
側近たちの生存への欲求は強かった。ヨナの後ろにアルトを見、アルトの後ろにレグラムを見た。
王座は主を変えたのだ。
サクシアでの証拠集めが一段落すると、ためらいなくシヨラ内部にまで手をのばす。
「さて、行く?」
サジルは自分が行くと言った。
「ルウイ様は、どうぞお近づきになりませんように。発疹が出るほどひどくなりましたら、サクシアでのような対症療法ではお命に触ります。どうしてもとおっしゃるなら、王宮内の秘薬を入手してまいります。どうぞお待ちください」
「入手はいいわ。私自身にはいらないし」
「は?」
サジルの前で、秘薬のドライフラワーをくるりと回す。
「身内の分だけ薬を持っているから、民も他国も疫病まみれにしようって根性が気に入らない。あの花は人工栽培ができない。どうやったって量が足りないでしょうに」
パセルには、危険だったり量的に極小しかできなかったりで、表に出していない技術がたくさんある。この花の栽培もそのうちの一つだ。王宮にある秘薬のストックもせいぜい数人分だろう。
ルウイが大量にばらまいた薬は、シヨラの秘薬ではない。どちらかというと対症療法の薬だ。
ではなぜサクシアでは、その薬でも劇的な効果が出たのか。
簡単だ。サクシアの一般の民の生活が、シヨラよりも格段に豊かだったからだ。レグラムに至ってはもっと治りが早いだろう。栄養状態がしっかりした個体なら、症状さえ緩和して時間を稼いでやれれば自力で免疫をつけて菌を駆逐するのだ。
ルウイは、サジルに断言した。
「あの手の疫病を根絶するのは、貴重な秘薬じゃない。日々の食事だよ。ま、今回の場合は、特に内分泌腺の発達期の栄養状態で感染の有無が決まるのだけど、その頃もふくめて私は万全!」
ルウイはそう言って一向にひるまない。
愚かなシヨラ王よ。
自国の民が飢えた歴史が、他国への驚異になるとでも思ったのか。
シヨラでは租税を払いきれない多くの民が、水はけの悪い土地に追いやられ、慢性的に低栄養状態で、過酷な労働を強いられ、過密状態で生活していた。
疫病に蔓延してくれと言っているような環境だっただけだ。
ルウイは、シヨラの複数の箇所で、疫病患者の遺体を汚物にまみれさせて梱包し、次々と運び出している証拠を記録しはじめた。
そして、サクシアとシヨラで集めた証拠をサジルに持たせて、レグラムへおくった。それから「ごめん。治療じゃなくて生き証人の確保分しかないわ」と言いながら、ルウイは、死骸置き場から、まだ生きている人間を拾って手持ちの秘薬を与え、数人を蘇生させることに成功した。
ヨナとアルトは、手紙に導かれて生き証人に合い、遺体を梱包する光景を見ることになる。
ヨナが刑を執行されていた村は、すでにこの世の光景とは思われなかった。村人で、二本足で立てる者は残っていなかったのだ。
よりひどい症状で死んだ個体を探す実験場。
なんという、ことを。
ヨナの瞳が怒りに燃える。
病に苦しみながらヨナに自分の薬を分けてくれようとした。
ヨナを生かそうと必死に水を運んでくれた。
彼らの亡骸を汚物に塗れさせ、敵国の水源に投石器で投げ入れようだと?!
自国の民に対する敬愛の思いをどこに捨ててきた。
誰のせいで、疫病がはやったと思っているのか。
風土病だと?自分たちには秘薬があるだと?
王よ。あなたが、死ぬべきだった。もっと早くに。彼らの遺体やシヨラそのものを侮辱する前に。
自ら埋葬と薬の手配を指揮するヨナの横顔をアルトが盗み見る。
ほーお。これはなかなか。
ヨナの気迫は、アルトの予想以上だった。
確かにこれならついてくる民は多いだろう。
アルトは、ヨナに言質を与えた。
「いいだろう。お前が王となるのなら、レグラムはお前とシヨラに協力しよう。パセルはすでに意思表示をしたのも同然だしな」
ルウイは反対しない。絶対に。シヨラ王の汚い策略を公開する気もない。シヨラを潰す気がないのだから。
「王を拘束せよ」
ヨナはもう迷わなかった。
サクシアで疫病をばら撒いた記録と証言、レグラムに持ち込まれた投石器と梱包された汚物まみれの死骸。
シヨラが薄汚く策略を巡らせ、無差別の害悪を近隣にたれ流そうとした証拠は、既に他国に握られているのだ。
それを、近隣の国に公にするかどうかの決定権がシヨラにはないことを、側近たちに突きつけた。
「戦になっても、どの国もシヨラに味方などせぬ。我々はそれだけ同属への義を汚した!近隣中のそしりを受けながら、汚辱の中に分割されるか?!抑えられるのは、私だけだ。従え!」
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