海月のこな

白い靴下の猫

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いってきます

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ルウイは明らかに、無理ができる時期ではなかったが、髪の毛を黒に染め直し、脇腹の傷口はあえて隠さずに城をでた。
鎮痛剤や麻酔薬を大量に用意して、体内にも意識を保てるぎりぎりまで詰め込む。
目的地についた時には、既にルウイの容態は悪化して見えた。
ミセルは何度も自分が行くと言いだし、ルウイに、何度も切り返される。ミセルが出かけた後なら、さぞかし私も出かけやすいだろうと。
「あー、こりゃケセル君に迎えに来てもらうしかないな。」
隠して身につけることができる武器や薬品を装備すると、衣服や装飾品がどうしても重くなる。
今のルウイの状態では、これらを身につけるとまとも歩く事もおぼつかなかった。
「アルトの入れられている部屋はわかっています。作戦を伝えられたら合図を。石弓でロープを打ち込みます。そこから滑車でアルト王子を脱出させてください。着地地点に馬と仲間を置きます。ルウイはアルトの脱出成功次第、仮死薬をのんでください。どんなことをしても回収しますから。傷の具合から見て猶予はぎりぎり二日です。それでケリがつかなければ、パセルの武器を出してでも奪取します。」
ルウイはミセルのなかば脅しのような指示を、顔をしかめてきいていたが、我慢できなくなって反論する。
「パセルは戦なんてしなくていいのっ。そもそも私たちが無人兵器に凝り過ぎたせいで、職業軍人がオタク化して規律崩壊しているでしょうが」
「パセルが世の中に出すべきでない武器をどれほど持っているか覚えていますよね。私に、この国ごと消させたくなければ、これ以上後悔させないで」
「う、はーい」
なるべく気軽な顔で手を振るが、ミセルの顔が怖い。頑張ろう。
横抱きで、ミセルに暗くなり始めた堀まで運んでもらう。
「ここでいいわ。行って」
城門の衛兵がこちらを見ているが、誰何されるほど近くもない、というギリギリのところでそういうと、ミセルはかるくため息をついてルウイを降ろし、ためらわずに離れていった。
ミセルが十分に離れると、ルウイは堀の土手になる石垣に左半身をもたれさせかけながら、城門の衛兵に手招きをする。
衛兵が2人近づいてくるが、剣は鞘に納まったままだ。
「何者だ。用もなく城門に近づくものではないぞ」
警戒というより心配している声音だ。
「ケセル王にお話がございます。お取り次ぎを」
衛兵はびっくりしたような顔になったが、ルウイを子どもか頭が緩めの女性と判断したらしい。優しい声音のまま諭す。
「ここからの取次はできないのだ」
いい人だな、と思ったルウイの表情も柔らかいままだが、手は淀みなく動き、
肥松の薄片を巻いた火縄の火口に、薬剤をなすりつけた紙を滑らせた。
激しくこすったわけでもないのに、ポポっとかわいらしい音がして、火縄がもえあがる。
「なっ」
衛兵が動く前に、火縄を堀に向かってなげた。そして、衛兵の目の前に人差し指を出して水面の火縄に視線を誘導すると、衛兵が固まった。
堀の水の上に浮かんだ火縄から、白っぽい炎が消えるでもなく大きくなっていく。
古参の兵ならわかるだろう。伝説となったセグアイ戦の火だ。
城門が騒がしくなり、衛兵がもう数人こちらに駆けてくるのが見える。
「どうぞ先師が来たとお伝えください」
衛兵の喉が奇妙にひゅっと鳴った。
後から出てきた衛兵が剣を抜いてわめいている。とりおさえろ!切っても構わん!
茫然と水の上の火を見ていた優しげな声音の衛兵がやっと剣をぬいた。
「引っ立てる!ついて来い!」
ルウイはすこし首を傾ける。それが出来るなら苦労はないのよね。麻酔を飲み過ぎてもうろうとする。
まぁ、これだけ人数がいれば運んでくれるでしょう。
ルウイは遠慮なく意識を失うことにした。
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