手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

文字の大きさ
上 下
62 / 67

ゼルダの夜会の後日

しおりを挟む
「メイ、ちょっとおいで」
マッドさんに呼ばれてついて行くと、医療ジェットに連れ込まれた。
「君もあの水、飲んだでしょう?昨日の会食時の、防犯カメラ映像に映っていましたよ」
あー。確かにこの人なら。
治療の手がかりになる情報はかけらも逃さない人だから、防犯カメラの映像くらいチェックするか。

うかつだったなと、メイは反省する。
「ほんの、少しです。ナノ磁石とdeltaFosBでしたか?ひどいことを考えますね。ジアモルヒネ自体は意識を犯すほどじゃなかったから気になって」

ガンッ
カーテンの後ろからパイプベッドを蹴り飛ばした音がして、メイが『しまった』という顔になる。
メイは未だに、さとるに怒られるのは弱い。

「さとる、怒らないという約束ですよ」
マッドがあきれたように仲裁する。

「怒ってない、いら立ってるだけだ。飲んでないフリしやがって。言い訳があるなら言ってみろ」
「すみません。単発で効果が弱い薬を入れた理由が推測できませんでした」
「だから?」
「あかりさん狙いかなと思いましたし、クルラの体は薬物治療中で過敏です。私がいちばん暇でした。せっかく飲んだので自分で、あの水の理由や効果を見つけようかと」

そういってさとるの手を逃れて、するりとマッドの後ろに回り、ひそひそ声を出す。
「マッドさん、マッドさん、気になりませんか。本当に何でも言うこと聞いてしまう程の禁断症状を人工的に作れるのかとか。さとるさんに怒られないようにしてくれたら、私が実験体やりま・・・きゃいん」

さとるはマッドの背中からメイを引っぱり出す。メイのほっぺたをつまんで。
「マッド、実験じゃなくて、治療だけしろ」
「えーっと、ち、治療の途中で、ちょっと多めにデータとる位は・・・」
「このジェット鉄くずにするぞ!」

もう、しょうがないな。
そんな感じで、メイは自分の頬をさすりながらさとるの耳に口を寄せて可聴域ぎりぎりでささやく
『これ、たぶん、後日の拷問とか意思を捻じ曲げた行動させる用です。私からデータが取れないと、さとるさんがあかりさんにつきっきりになって寂しいのでデータをあげたいです』

じとっ。
そんな擬音がぴったりな目でメイを見て、さとるが大人しくなる。
「本当に、苦しくなったり、後に響くようなことしないか?」
「「約束します!」」
何故だかマッドまで一緒にこたえて、ふたりの声がはもる。
さとるが眉間と鼻にすごいしわを寄せて、引いた。
「部屋で、待ってる」
そういって、ジェットを降りたのだ。

さとるが視界から消えるなり、マッドが言った。
「すっごいですね、メイ。いつの間にこれほどのさとる操縦術を?」
うずうずの顔が、実験データをとれるプラスアルファに輝いている。

どうやらマッドは、さとるとメイのカップル観察が好きらしい。
「日々成長しております」
とメイが答えると、マッドは、ぷふふと笑って、メイの髪の毛を撫でた。

「本当に、データ取りだけです。脳までナノ磁石持って行ったりしませんから、楽にしてて」
そう言いながら機器類をセットし始める。

「私は、構いませんよ、マッドさん。クルラの体もあかりさんの心も心配でしょう」
クルラは体で、あかりは心、ね。
よく見ているなぁと感心しながらも、マッドはメイの目を覗き込むようにして、噛んで含めるように言い聞かせる。
「あなたが一番心配ですよ。さとるまで御せるようになってしまったら、誰があなたを止めるんです」
「御したわけでは、ないです、よ?」
マッドがもう一度メイの頭を撫でる。
メイは、指数関数的に増えていく頭を撫でられる回数をカウントして楽しんだ。

マッドは、あかりの体内のナノ磁石の位置と、体外から位置を動かせるか、転写因子が動いているかのデータをとり、メイに教え、それから凝集包埋と排出の処理をした。

「見つかりさえすれば、処理はむつかしくないけど、悪用が簡単だなぁ。ナノ磁石に自分のロット番号でも覚えさせるか、包埋処理を専門知識なく出来るようにするか・・・」
ぶつぶつぶつ。ニコニコ。がさごそ。ニヤニヤ。

あー、なんとなく、わかってしまったな、とメイは思う。
「マッドさんは、昔からそんな感じですか?」
「はい?そんな感じ?」
マッドは手を休めずに聞き返した。
「怖いことが頭に浮かぶ度に、無理に楽しそうな顔をして、対策のめどが立つまで動き続ける」
この人多分、サイコパスどころか、マッドサイエンティストですらない。

楽しそうに見せる癖がついたのは、止められたくないからだ。
真剣な顔で同じことをやったら、まず間違いなく、そんなに根を詰めるな、見ていられないと周りからストップが入るだろう。

マッドのニコニコ顔が、やれやれ顔に変わる。
「全く。最近若い女の子に優しくされることが増えて感慨深いですよ。今日の分の治療は終わりです、メイ。さとるが心配しているから、まっすぐ部屋へ戻ってあげて」
「はい、マッドさん」

メイは静かにジェットから出て行った。
今日手伝えることは、もうないだろうから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...