手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

文字の大きさ
上 下
55 / 67

55 ガワだけゾンビ

しおりを挟む
うーん、髄膜炎かぁ。
こればかりは症状のこっちゃったなぁ。

どうやらレノは、私に人工核酸を入れるときの入れ物に、原虫かウィルスかしらないけれど、寄生生物の外ガワだけを使ったらしい。

寄生慣れしたそのガワは、私の体のあちこちにアンカーをおろし、内に抱いた、可愛くないアレロケミカルだの、恐怖が増幅する神経伝達物質だのを生み出し続ける人工核酸を長生きさせていたわけ。

でも、2年を経過する頃には、人工核酸は、私の根性のある免疫系に敗れて胎内の藻屑と化しまして。
中身が空っぽになった外ガワは、しばらく粘ってたけれど、ついに最近アンカーがぼろっちくなって抜けはじめ、血液の中を脳に向かってどんぶらこ。
サイズ的に脳関門が抜けられなくて切れたのか、このガワときたら狭い所に挟まるたびに、周りをとかして進もうとしたらしい。
ゾンビかよ。

そんなわけで、このゾンビなガワに攻撃されて、繊細な私の髄膜が炎症しています。

マッドさんともノーキンも随分頑張って種類特定して治療薬投与しようとしてくれたけれど、中身が抜けてガワだけだもの、そりゃ既存のプライマーセットじゃ特定できないって。
結論的には、ちょっと変わっているけれども、トキソプラズマっぽいようなそうでもないような?位のところにおちついた。

まぁ、私としては、人工核酸が作らせる伝達物資が一番腹立たしかったから、原虫かウィルスか知らないけど、ガワだけ脳まで流れて来ちゃうくらいなら、許容範囲。
数日で即死モードにならなかったところを見ると、脳喰いアメーバとか狂犬病ウィルスの直撃レベルでもなさそうだし。

ガワだけなら増殖も感染もしない。
たとえシューバを怖がろうが変な物質を出したりもしない。
人工物のアンカーなんて有限だ。
うん、頭は痛いけど多分死なないんじゃないかな。

そう結論した私はがぜん強気になった。

トキソプラズマぁ?
私の免疫をなめるなよ。妄想産業歴より長い唯一の経歴がモフモフ歴だ。
産まれてから、犬猫と離れて暮らしたことはほぼない。
インダス川もガンジス川も泳いでやったし、ペンギンにもハクビシンにもアルマジロにも噛まれたことがある。
ガワだけのゾンビごときが生意気な。
かかってこいやぁ。貪食してやるぜ!

で。
動き回って、あっさり倒れた。
情けなっ!

幸いクルラがそばにいてくれて、安心して気をぬいちゃったのも悪かった。
だって、クルラってば最近の回復が極めて順調で。頼れちゃったりするの。

薬への依存は表面上抜けているように見えるし、マッドと雁がつきっきりでフォローした甲斐あって、落ち着いていられる時間がどんどん伸びていた。まぁ、それ以前に、クリスタの面々がクルラに壮絶なまでに甘々だったから、呑まれたと言う方が正しいかもしれないけれど。

マッドの、先生とでも恋人とでもお父さんとでも何とでも言え攻撃だけでも強力なのに、雁さんの保父さん攻撃も、さとるとますみのお兄ちゃんだよ攻撃も、かなりすごい。

そんなことを思いながら、ふわふわしてたら完全に気絶しちゃって。

大事にならなくてラッキー、のはずだったのに・・・何がどうしてそうなったの?!



ドア越しだから、音量がちいさくて。
耳を素通りしていた言葉が、ゆっくり意味を連れてくる。

「シューバ様、だめです!あ、あかりさんを、怒っては、ダメ!私たちのまわりは、死んでしまってから、もったいなかったなって、お酒を飲みながら、笑うようなひとばっかりだったけど、ココは、ちがくてっ」

クルラが怒ってる?
それも、シューバに向かって?!
げ、幻聴?!

「・・・なんの話だ?」

「あかりさんが、倒れてっ。苦しいってすら言えないのにっ。ダメなものはだめっ」

ベッドから跳ね起きる。
やばい、誤解させた。

シューバが怒ったから、私が倒れたと思っちゃったのね。
そんで、私のために怒ってくれてる、と。

引きずり倒してかいぐり倒したくなるほど、かわいい震え声。
細くてちっこい子猫が一生懸命毛を逆立てて、はじめてからだを大きく見せながら、ふーふー言っているみたいな。

だけど、クルラの呼吸音が、ひゅー、ひゅーいうのはまずい。
そこからわかるのは。極度の緊張と、心理的抵抗と、恐怖・・・って、おい、大丈夫なの?!

クルラはかなり念の入った被虐待児だし、シューバは彼女の神様枠に入っているのだろうし。
逆らうだけで心理的抵抗すごかろうに、一足飛びに、怒り飛ばそうとは思い切りすぎ!
『かわいいよぉ、ありがとぉ』とか言ってる場合ではないことは、覚醒後10秒の頭でもわかる。

あでで、頭いたっ。
ふらついて、いろいろ蹴躓いた気がするけど、とりあえずドアに向かう。

私がドアを開けるのと、シューバがクルラを突き飛ばすようにして、向かって来るのが同時だった。

シューバと目が合い、口を開くのも同時。
「あかり、倒れ・・」
「マッドさん呼んで!」

クルラは、真っ青な顔でへたへたと座り込んで、呼吸の浅さが半端ない。

「何が・・」
「マッドさんを呼べって言ってんのよ!!」

シューバを思い切り怒鳴り飛ばすと、クルラが、目も口も思い切り開いた。
クルラのぼやけていた目の焦点が、あかりに定まり、かはかは言っていた呼吸音が、ひくっっていう音とともに一時停止。
えーと、これもショック療法?

「クルラ偉い、クルラありがと、クルラ可愛い。呼吸はできればゆっくり深めで。すぐマッシュ先生くるからね」

胸に抱き込み、両腕で抱きしめるようにして話す。

「あかりさん、大丈夫ですか?シューバさまは、ホゴラシュの男のひとになりませんから、絶対になりません。違うんです・・」

あー、そういう心配で、がんばってくれたのか。
まだ虐待明けから間もなくて、麻薬支配から抜けきってもいないのに。
シューバを心配し、私を心配し。
本当にやさしくて、勇敢で、賢い子で・・・マジにデジュじゃなくてカウルさんの子じゃないの?とか失礼な妄想が出るあたり、私も業が深いわね!

「うん、わかった。大丈夫、私もそう思う。あとね、さっきも、私は、シューバに怒られて倒れたわけじゃないのよ。もちろん叩かれてもいないわ。ちがうの。大丈夫」

しがみついてくれる小さな震える手と、涙コーティングの綺麗な瞳と。
もう文句なく、胸きゅんモノです。脱がせたいです。

煩悩が出はじめたところで、マッドさんが到着し、経緯を話すと、ものすごく優しい笑い方をして、クルラを抱き上げて行った。
いいなぁ。マッドさんとクルラのらぶらぶ。

それに比べて。

う。きまずい。
黒歴史のばか。

シューバは自分の体ごと私を会社内に臨時で作った寝室におしもどして、倒れた点滴スタンドをにらみつけている。

あー、起こしましょうね。
このスタンドが倒れたのは先刻私があわてたせいであって、不良品でもなければ、医療ミスでもないので、睨まないでくれますか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...