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55 ガワだけゾンビ
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うーん、髄膜炎かぁ。
こればかりは症状のこっちゃったなぁ。
どうやらレノは、私に人工核酸を入れるときの入れ物に、原虫かウィルスかしらないけれど、寄生生物の外ガワだけを使ったらしい。
寄生慣れしたそのガワは、私の体のあちこちにアンカーをおろし、内に抱いた、可愛くないアレロケミカルだの、恐怖が増幅する神経伝達物質だのを生み出し続ける人工核酸を長生きさせていたわけ。
でも、2年を経過する頃には、人工核酸は、私の根性のある免疫系に敗れて胎内の藻屑と化しまして。
中身が空っぽになった外ガワは、しばらく粘ってたけれど、ついに最近アンカーがぼろっちくなって抜けはじめ、血液の中を脳に向かってどんぶらこ。
サイズ的に脳関門が抜けられなくて切れたのか、このガワときたら狭い所に挟まるたびに、周りをとかして進もうとしたらしい。
ゾンビかよ。
そんなわけで、このゾンビなガワに攻撃されて、繊細な私の髄膜が炎症しています。
マッドさんともノーキンも随分頑張って種類特定して治療薬投与しようとしてくれたけれど、中身が抜けてガワだけだもの、そりゃ既存のプライマーセットじゃ特定できないって。
結論的には、ちょっと変わっているけれども、トキソプラズマっぽいようなそうでもないような?位のところにおちついた。
まぁ、私としては、人工核酸が作らせる伝達物資が一番腹立たしかったから、原虫かウィルスか知らないけど、ガワだけ脳まで流れて来ちゃうくらいなら、許容範囲。
数日で即死モードにならなかったところを見ると、脳喰いアメーバとか狂犬病ウィルスの直撃レベルでもなさそうだし。
ガワだけなら増殖も感染もしない。
たとえシューバを怖がろうが変な物質を出したりもしない。
人工物のアンカーなんて有限だ。
うん、頭は痛いけど多分死なないんじゃないかな。
そう結論した私はがぜん強気になった。
トキソプラズマぁ?
私の免疫をなめるなよ。妄想産業歴より長い唯一の経歴がモフモフ歴だ。
産まれてから、犬猫と離れて暮らしたことはほぼない。
インダス川もガンジス川も泳いでやったし、ペンギンにもハクビシンにもアルマジロにも噛まれたことがある。
ガワだけのゾンビごときが生意気な。
かかってこいやぁ。貪食してやるぜ!
で。
動き回って、あっさり倒れた。
情けなっ!
幸いクルラがそばにいてくれて、安心して気をぬいちゃったのも悪かった。
だって、クルラってば最近の回復が極めて順調で。頼れちゃったりするの。
薬への依存は表面上抜けているように見えるし、マッドと雁がつきっきりでフォローした甲斐あって、落ち着いていられる時間がどんどん伸びていた。まぁ、それ以前に、クリスタの面々がクルラに壮絶なまでに甘々だったから、呑まれたと言う方が正しいかもしれないけれど。
マッドの、先生とでも恋人とでもお父さんとでも何とでも言え攻撃だけでも強力なのに、雁さんの保父さん攻撃も、さとるとますみのお兄ちゃんだよ攻撃も、かなりすごい。
そんなことを思いながら、ふわふわしてたら完全に気絶しちゃって。
大事にならなくてラッキー、のはずだったのに・・・何がどうしてそうなったの?!
☆
ドア越しだから、音量がちいさくて。
耳を素通りしていた言葉が、ゆっくり意味を連れてくる。
「シューバ様、だめです!あ、あかりさんを、怒っては、ダメ!私たちのまわりは、死んでしまってから、もったいなかったなって、お酒を飲みながら、笑うようなひとばっかりだったけど、ココは、ちがくてっ」
クルラが怒ってる?
それも、シューバに向かって?!
げ、幻聴?!
「・・・なんの話だ?」
「あかりさんが、倒れてっ。苦しいってすら言えないのにっ。ダメなものはだめっ」
ベッドから跳ね起きる。
やばい、誤解させた。
シューバが怒ったから、私が倒れたと思っちゃったのね。
そんで、私のために怒ってくれてる、と。
引きずり倒してかいぐり倒したくなるほど、かわいい震え声。
細くてちっこい子猫が一生懸命毛を逆立てて、はじめてからだを大きく見せながら、ふーふー言っているみたいな。
だけど、クルラの呼吸音が、ひゅー、ひゅーいうのはまずい。
そこからわかるのは。極度の緊張と、心理的抵抗と、恐怖・・・って、おい、大丈夫なの?!
クルラはかなり念の入った被虐待児だし、シューバは彼女の神様枠に入っているのだろうし。
逆らうだけで心理的抵抗すごかろうに、一足飛びに、怒り飛ばそうとは思い切りすぎ!
『かわいいよぉ、ありがとぉ』とか言ってる場合ではないことは、覚醒後10秒の頭でもわかる。
あでで、頭いたっ。
ふらついて、いろいろ蹴躓いた気がするけど、とりあえずドアに向かう。
私がドアを開けるのと、シューバがクルラを突き飛ばすようにして、向かって来るのが同時だった。
シューバと目が合い、口を開くのも同時。
「あかり、倒れ・・」
「マッドさん呼んで!」
クルラは、真っ青な顔でへたへたと座り込んで、呼吸の浅さが半端ない。
「何が・・」
「マッドさんを呼べって言ってんのよ!!」
シューバを思い切り怒鳴り飛ばすと、クルラが、目も口も思い切り開いた。
クルラのぼやけていた目の焦点が、あかりに定まり、かはかは言っていた呼吸音が、ひくっっていう音とともに一時停止。
えーと、これもショック療法?
「クルラ偉い、クルラありがと、クルラ可愛い。呼吸はできればゆっくり深めで。すぐマッシュ先生くるからね」
胸に抱き込み、両腕で抱きしめるようにして話す。
「あかりさん、大丈夫ですか?シューバさまは、ホゴラシュの男のひとになりませんから、絶対になりません。違うんです・・」
あー、そういう心配で、がんばってくれたのか。
まだ虐待明けから間もなくて、麻薬支配から抜けきってもいないのに。
シューバを心配し、私を心配し。
本当にやさしくて、勇敢で、賢い子で・・・マジにデジュじゃなくてカウルさんの子じゃないの?とか失礼な妄想が出るあたり、私も業が深いわね!
「うん、わかった。大丈夫、私もそう思う。あとね、さっきも、私は、シューバに怒られて倒れたわけじゃないのよ。もちろん叩かれてもいないわ。ちがうの。大丈夫」
しがみついてくれる小さな震える手と、涙コーティングの綺麗な瞳と。
もう文句なく、胸きゅんモノです。脱がせたいです。
煩悩が出はじめたところで、マッドさんが到着し、経緯を話すと、ものすごく優しい笑い方をして、クルラを抱き上げて行った。
いいなぁ。マッドさんとクルラのらぶらぶ。
それに比べて。
う。きまずい。
黒歴史のばか。
シューバは自分の体ごと私を会社内に臨時で作った寝室におしもどして、倒れた点滴スタンドをにらみつけている。
あー、起こしましょうね。
このスタンドが倒れたのは先刻私があわてたせいであって、不良品でもなければ、医療ミスでもないので、睨まないでくれますか?
こればかりは症状のこっちゃったなぁ。
どうやらレノは、私に人工核酸を入れるときの入れ物に、原虫かウィルスかしらないけれど、寄生生物の外ガワだけを使ったらしい。
寄生慣れしたそのガワは、私の体のあちこちにアンカーをおろし、内に抱いた、可愛くないアレロケミカルだの、恐怖が増幅する神経伝達物質だのを生み出し続ける人工核酸を長生きさせていたわけ。
でも、2年を経過する頃には、人工核酸は、私の根性のある免疫系に敗れて胎内の藻屑と化しまして。
中身が空っぽになった外ガワは、しばらく粘ってたけれど、ついに最近アンカーがぼろっちくなって抜けはじめ、血液の中を脳に向かってどんぶらこ。
サイズ的に脳関門が抜けられなくて切れたのか、このガワときたら狭い所に挟まるたびに、周りをとかして進もうとしたらしい。
ゾンビかよ。
そんなわけで、このゾンビなガワに攻撃されて、繊細な私の髄膜が炎症しています。
マッドさんともノーキンも随分頑張って種類特定して治療薬投与しようとしてくれたけれど、中身が抜けてガワだけだもの、そりゃ既存のプライマーセットじゃ特定できないって。
結論的には、ちょっと変わっているけれども、トキソプラズマっぽいようなそうでもないような?位のところにおちついた。
まぁ、私としては、人工核酸が作らせる伝達物資が一番腹立たしかったから、原虫かウィルスか知らないけど、ガワだけ脳まで流れて来ちゃうくらいなら、許容範囲。
数日で即死モードにならなかったところを見ると、脳喰いアメーバとか狂犬病ウィルスの直撃レベルでもなさそうだし。
ガワだけなら増殖も感染もしない。
たとえシューバを怖がろうが変な物質を出したりもしない。
人工物のアンカーなんて有限だ。
うん、頭は痛いけど多分死なないんじゃないかな。
そう結論した私はがぜん強気になった。
トキソプラズマぁ?
私の免疫をなめるなよ。妄想産業歴より長い唯一の経歴がモフモフ歴だ。
産まれてから、犬猫と離れて暮らしたことはほぼない。
インダス川もガンジス川も泳いでやったし、ペンギンにもハクビシンにもアルマジロにも噛まれたことがある。
ガワだけのゾンビごときが生意気な。
かかってこいやぁ。貪食してやるぜ!
で。
動き回って、あっさり倒れた。
情けなっ!
幸いクルラがそばにいてくれて、安心して気をぬいちゃったのも悪かった。
だって、クルラってば最近の回復が極めて順調で。頼れちゃったりするの。
薬への依存は表面上抜けているように見えるし、マッドと雁がつきっきりでフォローした甲斐あって、落ち着いていられる時間がどんどん伸びていた。まぁ、それ以前に、クリスタの面々がクルラに壮絶なまでに甘々だったから、呑まれたと言う方が正しいかもしれないけれど。
マッドの、先生とでも恋人とでもお父さんとでも何とでも言え攻撃だけでも強力なのに、雁さんの保父さん攻撃も、さとるとますみのお兄ちゃんだよ攻撃も、かなりすごい。
そんなことを思いながら、ふわふわしてたら完全に気絶しちゃって。
大事にならなくてラッキー、のはずだったのに・・・何がどうしてそうなったの?!
☆
ドア越しだから、音量がちいさくて。
耳を素通りしていた言葉が、ゆっくり意味を連れてくる。
「シューバ様、だめです!あ、あかりさんを、怒っては、ダメ!私たちのまわりは、死んでしまってから、もったいなかったなって、お酒を飲みながら、笑うようなひとばっかりだったけど、ココは、ちがくてっ」
クルラが怒ってる?
それも、シューバに向かって?!
げ、幻聴?!
「・・・なんの話だ?」
「あかりさんが、倒れてっ。苦しいってすら言えないのにっ。ダメなものはだめっ」
ベッドから跳ね起きる。
やばい、誤解させた。
シューバが怒ったから、私が倒れたと思っちゃったのね。
そんで、私のために怒ってくれてる、と。
引きずり倒してかいぐり倒したくなるほど、かわいい震え声。
細くてちっこい子猫が一生懸命毛を逆立てて、はじめてからだを大きく見せながら、ふーふー言っているみたいな。
だけど、クルラの呼吸音が、ひゅー、ひゅーいうのはまずい。
そこからわかるのは。極度の緊張と、心理的抵抗と、恐怖・・・って、おい、大丈夫なの?!
クルラはかなり念の入った被虐待児だし、シューバは彼女の神様枠に入っているのだろうし。
逆らうだけで心理的抵抗すごかろうに、一足飛びに、怒り飛ばそうとは思い切りすぎ!
『かわいいよぉ、ありがとぉ』とか言ってる場合ではないことは、覚醒後10秒の頭でもわかる。
あでで、頭いたっ。
ふらついて、いろいろ蹴躓いた気がするけど、とりあえずドアに向かう。
私がドアを開けるのと、シューバがクルラを突き飛ばすようにして、向かって来るのが同時だった。
シューバと目が合い、口を開くのも同時。
「あかり、倒れ・・」
「マッドさん呼んで!」
クルラは、真っ青な顔でへたへたと座り込んで、呼吸の浅さが半端ない。
「何が・・」
「マッドさんを呼べって言ってんのよ!!」
シューバを思い切り怒鳴り飛ばすと、クルラが、目も口も思い切り開いた。
クルラのぼやけていた目の焦点が、あかりに定まり、かはかは言っていた呼吸音が、ひくっっていう音とともに一時停止。
えーと、これもショック療法?
「クルラ偉い、クルラありがと、クルラ可愛い。呼吸はできればゆっくり深めで。すぐマッシュ先生くるからね」
胸に抱き込み、両腕で抱きしめるようにして話す。
「あかりさん、大丈夫ですか?シューバさまは、ホゴラシュの男のひとになりませんから、絶対になりません。違うんです・・」
あー、そういう心配で、がんばってくれたのか。
まだ虐待明けから間もなくて、麻薬支配から抜けきってもいないのに。
シューバを心配し、私を心配し。
本当にやさしくて、勇敢で、賢い子で・・・マジにデジュじゃなくてカウルさんの子じゃないの?とか失礼な妄想が出るあたり、私も業が深いわね!
「うん、わかった。大丈夫、私もそう思う。あとね、さっきも、私は、シューバに怒られて倒れたわけじゃないのよ。もちろん叩かれてもいないわ。ちがうの。大丈夫」
しがみついてくれる小さな震える手と、涙コーティングの綺麗な瞳と。
もう文句なく、胸きゅんモノです。脱がせたいです。
煩悩が出はじめたところで、マッドさんが到着し、経緯を話すと、ものすごく優しい笑い方をして、クルラを抱き上げて行った。
いいなぁ。マッドさんとクルラのらぶらぶ。
それに比べて。
う。きまずい。
黒歴史のばか。
シューバは自分の体ごと私を会社内に臨時で作った寝室におしもどして、倒れた点滴スタンドをにらみつけている。
あー、起こしましょうね。
このスタンドが倒れたのは先刻私があわてたせいであって、不良品でもなければ、医療ミスでもないので、睨まないでくれますか?
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