手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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36 幼馴染み恐るべし

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シューバの洗脳具合を確かめに来たレノは、シューバの様子に大いに満足したらしい。
すぐに、シューバを使って、いくつも自分達の都合丸出しの階段をセットし始めた。

ゼルダ資本で、キュニ主体の子会社もいくつか設けられてはいた。だが、ロジュが直接舵を取っている2~3社を除いて、枯れかけだ。
レノには、ラノンのような商売の才は無いのだ、
シューバをバックにちらつかせて商談に持ち込んだところで成果はたかが知れている。そう踏んだシューバは、まるでレノの洗脳がうまくいっているかのように、何も逆らうことなく要望をかなえていく。

そして、商談希望相手の中にはクリスタもあった。
キュニ独自の資金源が乏しくなったレノとすれば、資金を大量に動かせる権限もちと話さなければならないが、流石にあかりを呼ぶ程恥知らずではなかったらしい。
人選を微妙にずらしてくる。
技術系の中心人物をという希望で、マッドとノーキンをご指名だ。願ったりかなったり。

早速乗り込むことにして、シューバとマッドとノーキンは堂々と、残りのメンバーはこっそりと入った。



たいして待たずにやって来たチャンスに浮かれたわけでもないのだが。
あかりは自分の迂闊さにげんなりする。

「いでで」
久しく走っていなかったから、気持ち酸欠気味、というレベルで足がもつれた。

素直によろけて壁ででも支えればいいものを、一瞬肩の痛みを思い出して、足首の方を犠牲にした。
腫れ上がり始めただろう足首に血液が集まっていくのを感じながら、自分に腹が立つ。

肩なんてほとんど治っているのに、転んだところで下に剣山が引いてあるわけでもないのに。
あかりが、あの時の下卑な男たちの顔を思い出すのは、ロジュの手をとるときでも、レノに対峙しているときでもない。

今みたいな時だ。恐怖を恐怖で思い出すのではなくて、腹立ちで思い出す。
自分が自分ではないようなポカをする原因が、痛みや汚辱を体に強引にねじ込まれたせいかと思うと、鳥肌が立つし、悔しい。

スピードが落ちたあかりを待つ仲間が見える。
マッドさんにノーキンに、雁さんにメイ、ますみとさとるとシューバ。

もし今一網打尽になったらなんの再起も果たしようがないコア中のコアのフルセットだ。正直、一緒に敵陣に出向いていいメンバーではないがやむを得なかった。

レノはどれだけシューバの洗脳に自信があったのだろうか。それとも、あかりとシューバの縁を潰しきったと信じているのだろうか。
キュニの中でも最も堅固なこのレノの要塞に、ひと払いをして、レノの頭に直接介入できる人間を呼ぶなんて。
シューバがあかりに寝返ったらアウトなのに。・・・いや、実際には、寝返りどころか初めからおんぶにだっこのべったりコアラだが。

レノの話は、欲しい土地はないかという入りだったが、当然、中味はその土地の奥底狙いで。
隕石の衝突層自体は、キュニの支配地域を含めてホゴラシュ中に走っているから、あの希土類は、もっと採れるのではと。世界中が注目している。掘り始めただけでも、地価も株価は高騰するだろう。お互いのwin-winは簡単だと。

マッドさんもノーキンも、根っこは医者で、鉱床の分布など全く分からない。
本気でその手の話ができるのは、クリスタの中でもますみしかいないのだが、そんな極秘情報を漏らすクリスタではない。
マッドさん達は、当然しゃらっと会談に応じ、表向き、レノとつるむ利がないシューバがレノに加担する裏を探る体で、時間を稼ぎまくった。

その間にあかりは家探しをしまくり、例の録音機を見つけ、その場で微入り再入りに破壊したあげくネジ一つ落とさずに回収した。

ますみ程の人材を持たないまでも、ゼルダを率いるシューバ主導であれば、もう少し駆け引きなりきらびやかな交換提案なりができただろう。だが、鉱脈や地質を読める技術系人材を用意できなかったレノは、ボロを出さないために必死で、家探しに気づくとはなかった。

あー、足がずきずきとか言っている場合じゃない。
このメンバーは何が何でも安全に脱出させないと。
あかりは覚悟を新たにする。

シューバ以外がレノに睡眠薬を飲ませるのは不可能だったし、そもそも、シューバが居なければ、マッドさんとノーキンをレノの頭に接近させる機会すら持てなかった。

マッドさんとノーキンがいれば、レノの頭にホワイト・プログラムを仕掛けられる。

だが仕込みもいれば、眠ったレノを会談場所に放置するわけにもいかないし、当然脱出もしなければならないわけで。

さとるは盗聴探知機や監視カメラをかいくぐって舞台設置をするのに必須で、ますみは鉱床がらみのきわどい会話を収音マイクごしにマッドさん達に伝えてレノの気を引くのに必須だった。

雁さんとメイが居なければ、要塞の警護をかいくぐって彼らを移動させるのも脱出させるもの不可能だったし、シューバを操る収音機や証拠品の探し物ができるのはあかりだけだった。

だから、だれも欠けるけることができなかったわけだが、それにしても、みれば見る程コアだ。

「ごめん」
口の形だけでわびて、何もなかったかのように駆け寄る。
3分後に動けなくなるとしても、とりあえず今は、走れるところを見せておかないと、計画に支障が出る。

ずくずくずくずく
腹立たしい痛みが、右足から登ってくる。
無事に脱出するためには、あと何歩走らなければならないだろうか。

逃げ切れたとしても、シューバがあかりを支えているところなど見られたくはない。シューバがこちらサイドだとバレたら一巻の終わりだ。
レノの周りが調べられ、こんなチャンスは二度と来なくなる。
それに比べれば、私が一人で捕まる方がなんぼかマシ。

ただの捻挫。
それでも、怪我の軽重関係なく、シューバにバレたら黙っていない気がするし、本気で走ることになれば遅れるに決まっている。

はふ。
不自然ではなく離脱できるだろうか。

「どうした?」
雁さんの問いかけと、シューバの心配そうな顔の前で、ニタリと笑って見せる。

「もっっのすごくいいこと思いついた」
「あ?」
雁さんが不審げな声をあげるので、自分の口に人差し指をあててウィンク。
「ねぇ、先に行ってて。たぶんだけど、レノの実験所の場所がわかる」
洗脳の、実験所。クルラの言を信じるなら、この瞬間にすら被害者は量産され続けている。
クリスタが欲しがる情報のひとつだ。

「・・・あのな、状況解ってるか?俺たちがこのエリア抜けたら、サシャが、反対側の外層の警報器ならすんだぞ」
「だーかーら、囮になってよ。ちょっと派手目に、逃げてくれたら最高よ。賊を追ってる警護チームほど突破しやすいもんはない」

物申したげなシューバの手を軽く握って安心してのサイン。
これ以上時間はかけられない。
焦りが出ないように、呼吸を意識してゆっくり目にしたところで、さとるのタオルがはいった。

「おい畑里。お前が置いてきたセンサ、レノが寝たままなのに反応してるぞ。実験所の電源落とす係でもいるのか?」
まさしくタオル。
自分の顔色が変わりそうになるところを、あかりはかろうじて我慢する。
なにがセンサに反応、だ。端末のライトを点滅させて手のひらでうまく隠してあかりの話に合わせているだけだ。

さとるの行動が示すところはただ一つ。
あかりの怪我がバレた。
が、他にバラす気はないらしい。

「雁さん、俺が畑里につきます。センサの反応位置わかりますし。警護が厳しそうだったらとっとと諦めさせて、引きずってでももどりますから」
さとるは、口を開きそうになったシューバに、「お前、畑里に弱すぎるから今回はダメ」とたたみかけ、雁さんには「シューバと畑里残すより俺の方が絶対マシです」と言ってうなずいてみせる。

時間の読みに正確な雁さんが、リミットを感じて折れた。
「わかった。無理はさせるなよ。あー、ますみはシューバを振り返らせるな。メイは先生たちにつけ。ほら、いくぞ」

あかりは軽く手を振って、彼らを見送る。
雁さんは、ひょっとしたらあかりのケガに気づいたかもしれない。
それでも、ますみ君とマッドさん達の脱出と、シューバの洗脳が解けているのを隠す、というミッションを優先してくれる当たり、ほんとうにプロだと思う。
まぁ、さとるに対する信頼感が半端ないのもあるだろうけれど。

安心でしゃがみ込みそうになるメイを支えながら、さとるが聞いた。

「で、怪我どこだよ?ひどいのか?」

久しぶりに入ったが、毎度さとるの腕の中は快適だ。
足首のずくずくから焦りが抜けていく。

「右足首捻挫。走れないだけで、軽傷・・って、騙されてくれても良かったんだけど?」

見逃せよ、のプレッシャーを乗せて軽くにらむと、勘弁してくれと言わんばかりの声で即答される。
「おまえな、小学校遠足のオリエンテーリングで使った手そのままじゃねーか!どうやってだまされんだよ!」

言われてみればそんなこともあった気がする。
「無駄につき合い長いからなぁ」

さとるに誘導されて、詰まれたパレットに腰かけると、すぐに靴下がめくられ、携帯のライトが肌をかすめる。

「だな。で、歩けないのごまかすためだけにもう一つ金庫開けようとかかんがえたわけか?いいかげんにしとけよ?」

う。なんでバレた?とかんがえるなり思い出した。

たしかに小学校の時のオリエンテーリングでは怪我をごまかすために、宝箱をひとつ余分にゲットするはめになった。
だって、怪我人出すと商品もらえないルールだったんだもん。

「歩けないとは言ってないわよ、ちょっと走りにくいかないかなって・・」
「警護所から冷すもの盗んでくるから休んどけ」
「いやいや、休みたくて抜けたわけじゃないって。ネタもって帰らないと、シューバにバレるじゃない」
「どっちにしろバレると思うぞ。見るか?しばらく歩けねーよ」

ずくずくずく

「あんたね、助ける気なら最後までつき合いなさいよ」
「俺だって、ごまかせるならごまかしたいぞ。あいつ切れると怖いもん。まぁ、同じ状況でメイが俺のこと撒いてシューバと金庫開けに行ったら、俺もキレるしな!」
「言うことが不吉なのよ!」

動こうとしたさとるの足を無事な左足で踏んづけて支えにしながら、ひっちゃぶいた上着の袖を足首にぎゅうぎゅう巻いて、頭から外したバンダナで固定していく。

「おーい、なんか焦ってる、か?」

焦っちゃいないが、鳥肌とゆーか虫唾が運動会なのだ。
めったに思い出さない、あの時のキュニの男たちの顔が癇に障って仕方がない。
私の価値を下げてやったと勝手に見積もったあの顔が。
ただそれだけだ。

「うっさい!余計に歩かなくたって、手土産くらい脱出経路で拾ってやるわ」

大丈夫、ゆっくりなら動ける。
さとるが体の向きを変え、あかりの右側に自分の体を寄せて杖にさせる。
好きにしろの合図よね?

「・・・どこに向かう気だ?」
「上」
「はぁ?!」
「偵察用のモーターグライダーがあった。ステルス仕様。実物分捕って逃げよう」
「あー、最近うっとおしかったあれか。ちっこいし動力源も最低限だから見つけにくくてむちゃくちゃうざいやつだ」
「うん。電波吸収材とかレーダーの種類とか調べたらずいぶん楽になる。間抜けにもシフト表もあったし、手土産的には十分よ」

立ち上がると、ばかみたいに右足が重い。
シューバだったら潰れるかもレベルに体重をかけてさとるをみるが、なんだ?とばかりに逆に引っ張り上げられる。
友よ、あんたは丈夫だ。

「止まるな。さっさと戻って湿布すんぞ」
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