手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

文字の大きさ
上 下
20 / 67

20 雁さん

しおりを挟む
病院から屋敷に戻って、ホゴラシュにいるはずのない顔を見て、あかりは飛びついた。
雁さん。さとるが呼んだらしい。

日本で、ずっとあかりを警護してくれたあかりの叔父で、敦子とも親しい頼れる親戚だ。
40そこそこのおじさんだが、日本人とは思えないほど銃器慣れしている。
日本にいるころから、さとるが試作した金属探知機をえらく気に入っていて、雁さんの周りでは3台フル稼働だ。
そのせいか、雁さんとさとるは仲が良い。

最近は日本での要人警護を主業務にしていたが、優の警護も引き受けていたことがある。
その頃は、頻繁にホゴラシュに来ていたらしい。
雁さんはマッドさん、まぁ、本名はマッシュだが、とも知り合いだったようで、お互い、『まだお前はカウル周りにいたのか』、『まだお前は優の周りにいたのか』と、感心し合っていた。

そんな雁さんは、正直怖めの顔なのに、ホゴラシュの空港でいきなり野草っぽい花を買ってきた。ひょっとしたら乙女の心を持っているのかもしれない。
謎だ。

ここ数年で、シューバの父も本物のカウルも、カウルを騙ったデジュも死に、ホゴラシュから海外のツテが強い人間がぽろぽろとこぼれ落ちた後の時期だった。
それでも日本にいるあかりに向かって、何件もの狙撃や拉致未遂があった。

その中で2年半、雁さんは、日本にいるあかりに一度も傷をつけたことがない。
さとるが頼る程の数少ない実力者だ。

ただ。さとるの計算違いだったのは、さとるが頼る程の実力者は、あかりも頼れる、という点だったかもしれない。
雁さんを得たあかりは、キュニ人のロジュと頻繁に連絡を取るようになったのだ。

さとるはロジュを覚えていた。

思い出しても反吐が出るあかりの私刑の順番待ちとやらで、十数人の男たちをなだめて現場から引き離していた大男だ。
もちろんあかりを気遣ってのことではない。
先に入った男と、ロジュと、どちらが強いか白黒つけろと騒ぐ奴らと、ロジュの方が強いと声高に主張する男と、もう一度言ってみろと掴みかかる男と。録音機に声が入るから騒いでいる奴らをここからどかせとわめく老人と。

その喧噪の中で、真っ先につかみ合った男2人を引きずって部屋を後にしたやつだ。
ロジュの後を2つのグループに分かれた男たちが追っていき、さらに数人を老人が追い立てて。

畑里の悲鳴が聞こえたドアの前には、2人しか残らなかった。
さとるは、その2人に誰何もせず、消音機付きの銃で上半身に3発ずつ打ち込み、1秒を惜しんで道を開けてとおった。

さとるはその2人の顔を覚えていない。
だがロジュの声も顔も覚えている。
ロジュは敵のなかで一番顔が見えやすい男だった。

当然あかりにとっても、ロジュに会うのは傷口をこすりたてるような負荷なはずで。

それでも、あかりは毎日のようにロジュに会う。
顔色が悪かろうが、動きがこわばっていようがお構いなしで、誰にも介入させない。

1週間で、ロジュとあかりの蜜月の噂が立った。
ロジュは、公の場で、『きゅーぶ』の社長として、クリスタの取締役として、あかりを立てて接しているし、いつの間にかロジュは昔ながらの『きゅーぶ』の顧問だったことになっていた。当然、事実ではない。
2人の間の取引内容は、さとるでさえ知らない状態だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...