手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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20 雁さん

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病院から屋敷に戻って、ホゴラシュにいるはずのない顔を見て、あかりは飛びついた。
雁さん。さとるが呼んだらしい。

日本で、ずっとあかりを警護してくれたあかりの叔父で、敦子とも親しい頼れる親戚だ。
40そこそこのおじさんだが、日本人とは思えないほど銃器慣れしている。
日本にいるころから、さとるが試作した金属探知機をえらく気に入っていて、雁さんの周りでは3台フル稼働だ。
そのせいか、雁さんとさとるは仲が良い。

最近は日本での要人警護を主業務にしていたが、優の警護も引き受けていたことがある。
その頃は、頻繁にホゴラシュに来ていたらしい。
雁さんはマッドさん、まぁ、本名はマッシュだが、とも知り合いだったようで、お互い、『まだお前はカウル周りにいたのか』、『まだお前は優の周りにいたのか』と、感心し合っていた。

そんな雁さんは、正直怖めの顔なのに、ホゴラシュの空港でいきなり野草っぽい花を買ってきた。ひょっとしたら乙女の心を持っているのかもしれない。
謎だ。

ここ数年で、シューバの父も本物のカウルも、カウルを騙ったデジュも死に、ホゴラシュから海外のツテが強い人間がぽろぽろとこぼれ落ちた後の時期だった。
それでも日本にいるあかりに向かって、何件もの狙撃や拉致未遂があった。

その中で2年半、雁さんは、日本にいるあかりに一度も傷をつけたことがない。
さとるが頼る程の数少ない実力者だ。

ただ。さとるの計算違いだったのは、さとるが頼る程の実力者は、あかりも頼れる、という点だったかもしれない。
雁さんを得たあかりは、キュニ人のロジュと頻繁に連絡を取るようになったのだ。

さとるはロジュを覚えていた。

思い出しても反吐が出るあかりの私刑の順番待ちとやらで、十数人の男たちをなだめて現場から引き離していた大男だ。
もちろんあかりを気遣ってのことではない。
先に入った男と、ロジュと、どちらが強いか白黒つけろと騒ぐ奴らと、ロジュの方が強いと声高に主張する男と、もう一度言ってみろと掴みかかる男と。録音機に声が入るから騒いでいる奴らをここからどかせとわめく老人と。

その喧噪の中で、真っ先につかみ合った男2人を引きずって部屋を後にしたやつだ。
ロジュの後を2つのグループに分かれた男たちが追っていき、さらに数人を老人が追い立てて。

畑里の悲鳴が聞こえたドアの前には、2人しか残らなかった。
さとるは、その2人に誰何もせず、消音機付きの銃で上半身に3発ずつ打ち込み、1秒を惜しんで道を開けてとおった。

さとるはその2人の顔を覚えていない。
だがロジュの声も顔も覚えている。
ロジュは敵のなかで一番顔が見えやすい男だった。

当然あかりにとっても、ロジュに会うのは傷口をこすりたてるような負荷なはずで。

それでも、あかりは毎日のようにロジュに会う。
顔色が悪かろうが、動きがこわばっていようがお構いなしで、誰にも介入させない。

1週間で、ロジュとあかりの蜜月の噂が立った。
ロジュは、公の場で、『きゅーぶ』の社長として、クリスタの取締役として、あかりを立てて接しているし、いつの間にかロジュは昔ながらの『きゅーぶ』の顧問だったことになっていた。当然、事実ではない。
2人の間の取引内容は、さとるでさえ知らない状態だった。
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