手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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11 よみがえった記憶

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あの時は。

意識がかすかに浮上するなり、腕をねじりあげられている痛みでうめく。
両手両足を拘束されたまま、引きずりあげられていた。

自分に向かって何か怒鳴られているようだが、視覚も聴覚もおかしくて、意味が理解できない。
男たちは、あかりの腕にシリンジにバネが入ったごっつい注射器をさして騒いだ。
中味が何かわからなかったがいいものであるはずはないだろう。
さらに何度か腹を殴られて、やっと、拉致られた実感がわいたところで気絶。

次に意識が浮上したときには、さらに多くの男たちにかこまれていた。多分、あちこち打撲だらけだ。ただ、ごっつい注射器で刺された何かは、即効性の毒ではなかったらしい。痛みも息苦しさも動きづらさも、外傷のせいだと思う。

一応会話が成立するか確かめようと、あかりはホゴラシュ語で語りかけようとした。
「ここはど・・・ぎゃぁあああああ!」
その瞬間、自分のものとは思えない声がほとばしり出た。
首に付けられたベルトから電流が流れたらしい。
体が床にたたきつけられた。
あかりがよだれを流しながら考えたのは、しゃべると流れるのか、他人の手で流されたのかどっちだ?

起き上がろうとすると、再度攻撃が来た。
「ぐぅううああっ」
もう一度、床に顔をつけるハメになる。
人力で確定。

とりあえず勝手に動くなと言いたいわけだ。口で言えよ、まったく。
さっき体を打ち付けた時にひどく肩を打ったらしい。肩を支えに起き上がるのはあきらめたほうがよさそうだ。
多分状況を把握して、対策を立てなきゃいけないのだが、全身がしびれて涙と鼻水とよだれが出るくらいで頭がまったく活性化してこない。ただ、その分恐怖も遅れている気がする。

「女、自分の立場がわかるか?」
おそらく、電流首輪のスイッチを握っているのはこいつだ。
とがった感じのする白髪の老人が手をグーに握って見せびらかしながら、これ見よがしにあかりの前に出てくる。額に音符みたいなくるっとマーク。キュニ人のお偉いさんだ。
周りには、ごつい男どもがうじゃうじゃとおり、早くも股間をおったてている奴までいる。

最終的には殺してやりたいが、現状は服従のふり。
どう考えてもこの電流を流され続けると、内臓がすり潰されたようになって死に至る気がする。

あかりは、大げさに震えながら、とりあえず頷いて見せる。
拉致られた時、あかりを罠に誘導したのはゼルダの社員でタキュ人だった。シューバの周りは、キュニもタキュも連携してあかりをハメたわけか。
なんだかんだと仲がいいじゃないか、内戦やめれば?めんどくさい。

ゼルダ主催の親睦パーティで、キュニのお偉いさんにドレスを汚されてしまったあかりは、タキュ人の顔見知りやら護衛やらに囲まれて着替えに下がる途中で拉致にあった。
電灯が途切れるや否や、顔見知りの護衛に後ろから殴られ、植え込みに引き込まれた。
あのタイミングと暗さではシューバは気づかない。

でも多分、メイの視力ならギリギリ追えたと思う。
さとるは助けに来てくれるだろうか?そう考えて余裕が生まれる。
うん、来るね、間違いなく。
よし、しっかりしよう。私。とにかく時間を稼ぎまくれ。

「シューバ様にはお前をきっぱり諦めてもらわねば困る。わかるか?今からお前をキュニの男たちに抱かせて、記録をシューバ様に渡す。シューバ様がうまくお前を憎めば、彼にとどめを刺してもらえるぞ?」

なるほど。そういう趣向か。それは結構時間がかかりそうな気がする。
「ここにいるすべての方に、ですか?」
「そうだ。各部族から代表を出させた。特定できる男で孕むと殺すときに面倒だからな」

うげ。輪姦とか、ぜひとも遠慮したい。
そもそも孕んだかわかるまで生かしておくつもりなどなかろうに、何のまじないだ。

「わかりました。できれば一つお願いがあります」
「命乞いは無駄だぞ」
「そうではなくて、ぜひ酷目で多人数とわかる状態でお願いします。せめてシューバ様に同情されて死にたいです。永遠に心の中に住めるくらい」

通用するかなぁ、まんじゅう怖い戦略。
そう考えたときには、首から電流が流れていた。
自分のものとは思えないような悲鳴がずるずると続く。

ひときわ大きな体の男が、尖った老人からスイッチを奪い取って、やっと電流がとまった。
「殺す気か?すぐ殺すなら、こんな古い首輪を用意する必要も、攫って来る必要も、俺たちを呼び出す必要もなかっただろうが」

あかりは自分の呼吸が死にかけのように、かはかは言うのを聞いた。
頭ではまだ数時間は殺す気はないはずと思っても、心と体に、苦痛に恐怖がしみわたっていく。

考えろ、考えろ、『こんな古い首輪』?
気絶防止にと、必死に男たちの会話をたどる。
「ああ、済まなかった。どうも外国女の生意気な目は虫唾が走るものでな」
尖った老人が肩をすくめると、大きな体の男は老人にスイッチを返しながら、あかりに忠告した。
「女、お前も余計なことは言わぬがよい、黙っていてもひどいことになるさ」
「は、い」
なるべくほっとして見えるように、あかりはゆっくりと息を吐いて目を閉じた。
起き上がる気力はないが、息のつき方ひとつくらいなら、まだいける。
心安らかに見えるように、ひどくされたのがわかれば、シューバが自分を憎まないと信じて見えるように。
すると、男たちの中から声が上がる。
「同情、というものを聞いたことがあるか?こういう女を哀れむ惰弱さのことで、汚れたことすら同情のきっかけになりうるらしいと聞いたぞ」
「起き上がれなくなった女が自殺せずに犯されただけでは、憎まないかもしれないと?」
「シューバ様は外国の暮らしが長かったのだろう?『同情』を起こさせるのは得策ではないかもしれないな」
「もし、その同情とやらで、憎しみが女に向かず、我々に向いたらどうする?」
「それより、どうすればより確実にこいつを憎ませられるか考えろ」
「女にシューバ様を侮辱する言葉をはかせればよいのではないか」
ひとしきりごちゃごちゃと話し合いが行われた後、あかりは髪の毛をもって引きずり起される。

「おい、女。電流を浴びたくなければ、シューバ様を侮辱しろ。同情を買わぬようにだ」
指示は具体的にしろよ、まぬけ。

ぐるりと男たちを見まわして表情や立ち位置を把握。
それから引き攣れた体と動きの悪い口を、かろうじて脳内悪態で正気に戻して、あかりは台詞をつなぐ。
「もう電流は許してください。おっしゃる通りにいたします。・・・が、あの、どちらの侮辱でしょうか?」
「どちら?」
「私はシューバ様を侮辱します、と言えばよいのか、それとも私はシューバ様より〇〇様を選びます、と言えばよいのか、お聞きしております」
「・・・えらぶ?選ぶだと?女が男を?ふざけるなよ」
老人に電流のスイッチを振りかざされて体がすくむ。

それを見て、横からひょいっと先ほどの大男がスイッチをうばいとった。
「なるほど。強制ではなく、女の意志でシューバを裏切ったとわからせればいい、ということだな」
「おい!ロジュ!」
「すまん、長老に任せておくと、日が暮れそうで、つい、な」
「選ばせるなど!種を特定するわけにはいかんといっておろうが」
「どうせ18人一度につっこむ訳にはいかんだろうが。最初に抱かれたい男でも選ばせればいい。順番ぐらいどうでもよかろう」

ロジュと呼ばれた男がそう言うと、男たちは顔を見合わせた。
「なるほど、な。それはいい考えかもしれない」
「女に、この男に犯されたいと言わせるわけか」
「それは確かにシューバ様にとってひどい侮辱になるな」

悪趣味だな、とは思うが時間稼ぎになるなら、否やはない。
「さぁ、選んでみせろ、女。しっかりと録音してやる」
「でも、おなまえがわからないのですが・・・わ、わかりました!おねがいします、スイッチを押さないで!」

イライラとスイッチを振りまわす老人にむかってあかりがひれ伏す。
さすがに、18人も自己紹介させるほどの時間は稼げないか。
「さっさと顔をあげろ!そして選べ!」

そう一括されて、あかりはぐるりと周りを見回した。
さっきからの一連の会話を反芻しながら、声と容姿を一致させていく。
普通に考えるなら、性格が穏やかそうとか、アレが小さそうとか、被害を減らす方を考えるべきかもしれないが、どうせ次々マワされるのだ。
数十分ぶん被害が少なくてもイマイチだ。
嫌がらせ優先だろうな。

あかりは、さっきから一度も言葉を発していていない、やたらと引き締まった体と冷たい目が目立つ男を指さしながら言った。

「で、では、あの男性とロジュ様のお強いほうの方を最初でお願いいたします。私が、強い殿方が好きなことはシューバ様もご存知ですので、一番お強い殿方を選んだと言えば、私の意志だと思われるかとっ」

あかりは、電流を受けずに言い切れたことにほっとする。

たぶん、ロジュとあの冷たい目の男の二人が、この男たちの中で群を抜いて強い。そして、派閥はそのふたりを中心にした二つだ。
どちらが1番か、この場で決められるもんなら決めてみやがれ。

もちろん、そんなことを考えているなどとはおくびにも出さず、あかりは、ひたすら頭を下げて震え続ける。

吐きそうで、えずいてしまって、なかなか姿勢が保てないので苦労する。
あかりは、こみ上げてくる恐怖をなんとか脳内でごまかす。
怖い。痛い。何も考えたくない。
だめだ、少しでも考えなきゃ。
こんな奴らに。
よし、吐くときは自分を汚すようにぶちまけよう。
ちょっとは萎えるだろ。
えーっと、それから、なんだっけ。

あかりの意識がもうろうとしている間に、両手両足の布が解かれ、布が1枚引いてあるだけの汚い部屋にどつき入れられた。
あの長老とやらがそばいいたので聞いてみる。
「あの、さきほど何か薬を打たれましたが、その、男性と床を共にしてもうつるものではないのでしょうか?」

最初に気づいた時に打たれたあれは何だったのか。
ダメでもともと、ヒントのひとつも引き出せればみっけもの、という程度の問いかけだったが、思いのほかうれしそうな顔がかえってきた。
「ああ、あれはな、お前の死にざまがシューバの母親と重なるようにする薬だ。せいぜい即死せぬように頑張れ。今晩生き延びればお前はシューバの前で死ぬ。お前の死で母親の死を思い出したシューバは、自ら私に縋るのさ」

気持ちの悪い表情で、気持ちの悪い内容を垂れ流す老人に胃液が上がる。

男たちはまだ順番決めでもめているようだ。
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