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9 小物枠で拉致されて
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クルラには、無条件にひれ伏してしまいたくなるひとが二人いる。
1人はシューバさま。宗教色を抜いたモーゼみたいなひと。私の飼い主は、シューバ様の父親と権力者仲間で、仲良しだった。
私の飼い主は私の母を、シューバさまの父はシューバさまの母を殺した。
私の飼い主は私を、彼の父は彼を、地獄で生かした。
私たちは、お互いの地獄と、お互いの悲鳴を知っていた。
やがて、シューバさまは、自力で地獄を出た。十年近くがたって、たまたま目についた私も地獄から出してくれた。
今やホゴラシュ中が彼に夢を託してついて行きたがるくらいだから、私がその力にひれ伏したくなるのは、多分自然なことだと思う。
もう一人は、マッシュ先生。めちゃくちゃ優しい悪魔みたいなひと。
私の遺伝的な父や、私の飼い主や、身勝手なホゴラシュの慣習にすり潰されて死ぬしかなかった母の、麻酔薬で、禁断の果実で・・・想い人だった。
母は、死ぬ大分前から現実を離れ、頭の中のマッシュ先生と一緒に、現実の体がボロボロになるのを笑顔で眺めながら死んだ。
母が死んで十何年もたってから、私を見つけたマッシュ先生は、私に優しくし始めた。
怖いはずだった。
この優しさが、母をあの死に至る笑顔にしたのだろうとわかっていたから。
それでも、逃げられなくて。ただ、私と母が知る世の中の理を超えた力にひれ伏したくなった。
クルラにとってひれ伏すべきこの2人が、そろって女神扱いしている女性がいる。畑里あかり。あかりさん。
当然すごい人で、でも、怖くなくて。シューバさまの恋人だったのに、クルラがシューバさまの側にいるのを許してくれた人。
クルラにとっては恩人だけれど、キュニ人には悪の権化みたいに言われている。
クリスタの中心物で、今でも変わらずシューバ様の想い人で、『きゅーぶ』の代表でもあって、海外への影響力という点では1番だ。
その分、憎しみや、ねたみのブラックホール。操りたい、拉致したい、殺したい、屈服させたいと思っているホゴラシュの勢力の数も1番。
だから、クルラには、目の前の光景が信じられない。
あかりさん・・・なんだってそんな危ない所にいるの?!
クルラの飼い主ことレノはキュニ人だから、その子分が、シューバさまの城下町ともいうべきタキュの市場に出没するだけで怪しい。ゼルダは積極的にキュニ人も雇って融和を図っているけれど、混ざって見えるのは表面だけ。化粧や服や好んでつけるマークなんかを取っ払えばほとんど区別がつかない見かけなのに、社外に出れば買い物する場所どころかトイレすら別という反発具合なのだから。
レノの子分のキュニ人が、タキュの服を着てタキュの市場に何人も。どうせろくでもないことを企んでいるのだろうとおもって尾行したら、そいつの構える麻酔銃のスコープの中に、あかりさんが現れた。
撃たれる?
条件反射で子分を背後から殴り飛ばした段階で、麻酔銃だと気づいたけれど、念を入れて気絶させ、あかりさんの元に走る。
あかりさんのそばにいたSPが、露骨に近づいてきた子分たちを殴り倒したので、あと2人減った。
何人、いるのだろう。レノの子分が単独行動であかりさんを狙うなんて。
人ごみに身を隠す見知った顔がさらに2人はいる。作戦規模は7人?8人?
でも、レノや幹部の命令にしては小規模すぎるし、組織だって行動されていたなら今頃クルラも撃たれていたと思う。
「あのっ、大丈夫ですか?」
一応名前を呼ぶのは控えて、ぼやっとしているあかりさんの頭を下げさせて、自分のヒジャブで覆う。
そもそもあかりさんを、あかりさんだと確信して狙ったのだろうか。
3年前のあかりさんは火薬庫だったが、そのあかりさんが、ホゴラシュに帰ってきたことを知っているひとは少ない。
クリスタのメンバーは隠しているし、シューバさまもクルラも大っぴらに話してはいない。
直接顔を見て覚えていた子分何人かが、功を焦ってというか、あかりさんだという確証を得ようと事を起こしたとみるべきだと思う。
そうだとすると、目立ってはだめ?
あかりさんが、かの有名なあかりさんだとバレない事の方が優先?
クルラは自分の力が微力なことを知っていた。
レノは未だにクルラの飼い主のつもりでいるし、クルラはいつでも殺される程度の虫けら格だ。
しかも、食料買い出しのお使いに来ただけの装備で、シューバさまとマッシュ先生が女神と仰ぐこの女性を守り抜く力なんて、ない。
SPも、目立った動きの子分を追いかけてもどってこないところを見ると、たいして腕は良くない。子分の中にはまだみているだけの奴もいるのに。
レノの目についてしまう位なら、いっそ身代金目的の別くちの悪党にさらってもらって、彼女の仲間を待った方がいい。
彼女の仲間はクルラの何十倍もすごくて、彼女をとても大事にしているから。
クルラは、自分の首元から服に隠れている石付きのネックレスをあかりの首にかけた。
一般的にはかなり高価な宝石だ。
昔のクルラが一生お目にかからなかったような宝石も、シューバの視線をクルラに引き付けようと、今は山と送られてくる。
「襲ってきたの、レノの子分です。レノにだけは捕まらないほうがいい。人目につかない店で、この石売って、人手を借りて戻ってください」
この裏の『人目につかない店』は、ほぼすべて、大手組織に属さず、もめ事を好まない悪党の巣だ。
こんな高価な石を見せれば、まず身代金誘拐に繋がるが、クリスタなら、身代金は払える。
やつらは、金さえ払えばむやみに殺さないし、ことを大きくもしない。
キュニもタキュもいるが混血が多くて大手同士の争いにも民族紛争にもかかわらないスタンスだから、殺してみたら大手ボスの隠し子でした、みたいな突発事故を避けるために、取り返しのつかない悪事を嫌うのだ。
そんなわけで、やつらの縄張りは一種の緩衝地帯になっていて、レノの命令なく動いている子分には踏み込みにくいエリア。
だましてごめんなさい。
でも、レノにだけは捕まっちゃだめだ。シューバさまを操るエサにされる。
虫けら格の自分も、頼りないSPも、こんなところで一人になってしまうあかりさん自身も、独力ではここからあかりさんを離脱させられない。
お金で済むなら、別の悪党の手を借りてでも。
シューバさま、シューバさま、ごめんなさい。
☆
ゼルダに株主として出向いていたあかりが、帰りがけに市場でトラブルに巻き込まれたと、サシャからさとるに電話が入った。
「畑里が、拉致られたぁ?!レノの周りは抑えてたろうが!」
スマホを肩にはさんで、武器や弾薬をせっせと装備しながら、さとるが怒鳴る。
「いえ、一般人として拉致されたというか、あかりさんの価値がわからない雑魚の人質狩りに巻き込まれたというか・・」
「あの阿保!ここまで勘が落ちると、あいつ自身がいちばん凶器だぞ」
「本当は、メイが強行突破して逃げる手もあったのですが、市場裏の緩衝地帯でメイが暴れればあかりさんの身バレに繋がるので止めました。今尾行していますが、キュニのセト砦に行くみたいです。えーと、人質買取業者に売られたと思ってください。そこで上層部にあげるべき人質か、人身売買行きか等の検分になると思います」
シューバにごく近い人間にバレている。だが、シューバを誑かそうとする国民の敵、畑里あかりがホゴラシュに帰って来たことは、武装勢力一般にまで広く知られているわけではない。
たしかに大騒ぎは避けたい。
「わかった。マッドのところによって、強制的にホワイト・プログラム解除する方法聞いてからすぐに追う。身バレしてホゴラシュ中に追われるとか目も当てられない」
「はい、今回、多分ですが、クルラが人質狩りに手引きした可能性が高いです。レノから逃がすためかもしれないので、一概に敵認定はできませんけど」
なるほど。
たぶん、あかりをではなくて、シューバを助けているのだろう。
さとるが医療機器研究室に駆け込むと、話を聞いていたのだろうマッドは、すぐに2個セットのパッドを出してきた。
「あかりさんのホワイト・プログラムの解除装置です。両耳の後ろに貼って起動すると、数秒で隙間が閉じます。記憶の混乱があっても、数分以内にはおさまります。」
「俺、見つけ次第あいつを戻すわ」
「はい。この状況で、キュニの砦で暴れて内紛になるよりましでしょう」
誰も彼もが、あかりをこのままにしておくのは限界だと思っているが、過去の傷があかりを害さないか心配で、二の足を踏む。
あかりが潰れないと、もっとも信じているのはさとるだ。だから、決断するのもさとるでいいはずだ。
さとるが、セト砦につくと、サシャが端末を持って待っていた。
「あかりさんに発信機をつけました。この壁の内側です。強引に奪還するなら、メイが一部隊連れてきますがどうしますか?」
あかりの場所とメイの場所が示された端末を渡しながら、サシャが指示を仰ぐ。
「最悪の場合はそれで頼むが、とりあえず、今晩は俺が一人で入って、こっそり脱出って路線を狙おう」
「はい。基本的には要人用ではないので、ひとの出入りも激しく、兵の練度も低めです。ただ数が多いので、揉めると被害も大きくなるとおもいます」
「了解した」
さとるがそう返事をして、マシンガンを背中側に回すと、サシャがお気をつけてと言いながら、さとるの服や靴に小さな発信機を付けた。
「何をひっくり返してでもご自分の命優先でお願いします。あなたに何かあって『クリスタ』が壊れたら、シューバ様も連爆して、焦土と化します」
「脅さないでくれ」
「事実です」
心配そうな顔のサシャを見ると、さとるはつい昔と比較してしまう。
くす。
「サシャ、俺にやさしくなったなぁ」
「・・・メイにあることない事告げ口されたいですか。もし死んだらあかりさんと駆け落ちしたと報告しますよ」
「勘弁してください。行ってきます」
1人はシューバさま。宗教色を抜いたモーゼみたいなひと。私の飼い主は、シューバ様の父親と権力者仲間で、仲良しだった。
私の飼い主は私の母を、シューバさまの父はシューバさまの母を殺した。
私の飼い主は私を、彼の父は彼を、地獄で生かした。
私たちは、お互いの地獄と、お互いの悲鳴を知っていた。
やがて、シューバさまは、自力で地獄を出た。十年近くがたって、たまたま目についた私も地獄から出してくれた。
今やホゴラシュ中が彼に夢を託してついて行きたがるくらいだから、私がその力にひれ伏したくなるのは、多分自然なことだと思う。
もう一人は、マッシュ先生。めちゃくちゃ優しい悪魔みたいなひと。
私の遺伝的な父や、私の飼い主や、身勝手なホゴラシュの慣習にすり潰されて死ぬしかなかった母の、麻酔薬で、禁断の果実で・・・想い人だった。
母は、死ぬ大分前から現実を離れ、頭の中のマッシュ先生と一緒に、現実の体がボロボロになるのを笑顔で眺めながら死んだ。
母が死んで十何年もたってから、私を見つけたマッシュ先生は、私に優しくし始めた。
怖いはずだった。
この優しさが、母をあの死に至る笑顔にしたのだろうとわかっていたから。
それでも、逃げられなくて。ただ、私と母が知る世の中の理を超えた力にひれ伏したくなった。
クルラにとってひれ伏すべきこの2人が、そろって女神扱いしている女性がいる。畑里あかり。あかりさん。
当然すごい人で、でも、怖くなくて。シューバさまの恋人だったのに、クルラがシューバさまの側にいるのを許してくれた人。
クルラにとっては恩人だけれど、キュニ人には悪の権化みたいに言われている。
クリスタの中心物で、今でも変わらずシューバ様の想い人で、『きゅーぶ』の代表でもあって、海外への影響力という点では1番だ。
その分、憎しみや、ねたみのブラックホール。操りたい、拉致したい、殺したい、屈服させたいと思っているホゴラシュの勢力の数も1番。
だから、クルラには、目の前の光景が信じられない。
あかりさん・・・なんだってそんな危ない所にいるの?!
クルラの飼い主ことレノはキュニ人だから、その子分が、シューバさまの城下町ともいうべきタキュの市場に出没するだけで怪しい。ゼルダは積極的にキュニ人も雇って融和を図っているけれど、混ざって見えるのは表面だけ。化粧や服や好んでつけるマークなんかを取っ払えばほとんど区別がつかない見かけなのに、社外に出れば買い物する場所どころかトイレすら別という反発具合なのだから。
レノの子分のキュニ人が、タキュの服を着てタキュの市場に何人も。どうせろくでもないことを企んでいるのだろうとおもって尾行したら、そいつの構える麻酔銃のスコープの中に、あかりさんが現れた。
撃たれる?
条件反射で子分を背後から殴り飛ばした段階で、麻酔銃だと気づいたけれど、念を入れて気絶させ、あかりさんの元に走る。
あかりさんのそばにいたSPが、露骨に近づいてきた子分たちを殴り倒したので、あと2人減った。
何人、いるのだろう。レノの子分が単独行動であかりさんを狙うなんて。
人ごみに身を隠す見知った顔がさらに2人はいる。作戦規模は7人?8人?
でも、レノや幹部の命令にしては小規模すぎるし、組織だって行動されていたなら今頃クルラも撃たれていたと思う。
「あのっ、大丈夫ですか?」
一応名前を呼ぶのは控えて、ぼやっとしているあかりさんの頭を下げさせて、自分のヒジャブで覆う。
そもそもあかりさんを、あかりさんだと確信して狙ったのだろうか。
3年前のあかりさんは火薬庫だったが、そのあかりさんが、ホゴラシュに帰ってきたことを知っているひとは少ない。
クリスタのメンバーは隠しているし、シューバさまもクルラも大っぴらに話してはいない。
直接顔を見て覚えていた子分何人かが、功を焦ってというか、あかりさんだという確証を得ようと事を起こしたとみるべきだと思う。
そうだとすると、目立ってはだめ?
あかりさんが、かの有名なあかりさんだとバレない事の方が優先?
クルラは自分の力が微力なことを知っていた。
レノは未だにクルラの飼い主のつもりでいるし、クルラはいつでも殺される程度の虫けら格だ。
しかも、食料買い出しのお使いに来ただけの装備で、シューバさまとマッシュ先生が女神と仰ぐこの女性を守り抜く力なんて、ない。
SPも、目立った動きの子分を追いかけてもどってこないところを見ると、たいして腕は良くない。子分の中にはまだみているだけの奴もいるのに。
レノの目についてしまう位なら、いっそ身代金目的の別くちの悪党にさらってもらって、彼女の仲間を待った方がいい。
彼女の仲間はクルラの何十倍もすごくて、彼女をとても大事にしているから。
クルラは、自分の首元から服に隠れている石付きのネックレスをあかりの首にかけた。
一般的にはかなり高価な宝石だ。
昔のクルラが一生お目にかからなかったような宝石も、シューバの視線をクルラに引き付けようと、今は山と送られてくる。
「襲ってきたの、レノの子分です。レノにだけは捕まらないほうがいい。人目につかない店で、この石売って、人手を借りて戻ってください」
この裏の『人目につかない店』は、ほぼすべて、大手組織に属さず、もめ事を好まない悪党の巣だ。
こんな高価な石を見せれば、まず身代金誘拐に繋がるが、クリスタなら、身代金は払える。
やつらは、金さえ払えばむやみに殺さないし、ことを大きくもしない。
キュニもタキュもいるが混血が多くて大手同士の争いにも民族紛争にもかかわらないスタンスだから、殺してみたら大手ボスの隠し子でした、みたいな突発事故を避けるために、取り返しのつかない悪事を嫌うのだ。
そんなわけで、やつらの縄張りは一種の緩衝地帯になっていて、レノの命令なく動いている子分には踏み込みにくいエリア。
だましてごめんなさい。
でも、レノにだけは捕まっちゃだめだ。シューバさまを操るエサにされる。
虫けら格の自分も、頼りないSPも、こんなところで一人になってしまうあかりさん自身も、独力ではここからあかりさんを離脱させられない。
お金で済むなら、別の悪党の手を借りてでも。
シューバさま、シューバさま、ごめんなさい。
☆
ゼルダに株主として出向いていたあかりが、帰りがけに市場でトラブルに巻き込まれたと、サシャからさとるに電話が入った。
「畑里が、拉致られたぁ?!レノの周りは抑えてたろうが!」
スマホを肩にはさんで、武器や弾薬をせっせと装備しながら、さとるが怒鳴る。
「いえ、一般人として拉致されたというか、あかりさんの価値がわからない雑魚の人質狩りに巻き込まれたというか・・」
「あの阿保!ここまで勘が落ちると、あいつ自身がいちばん凶器だぞ」
「本当は、メイが強行突破して逃げる手もあったのですが、市場裏の緩衝地帯でメイが暴れればあかりさんの身バレに繋がるので止めました。今尾行していますが、キュニのセト砦に行くみたいです。えーと、人質買取業者に売られたと思ってください。そこで上層部にあげるべき人質か、人身売買行きか等の検分になると思います」
シューバにごく近い人間にバレている。だが、シューバを誑かそうとする国民の敵、畑里あかりがホゴラシュに帰って来たことは、武装勢力一般にまで広く知られているわけではない。
たしかに大騒ぎは避けたい。
「わかった。マッドのところによって、強制的にホワイト・プログラム解除する方法聞いてからすぐに追う。身バレしてホゴラシュ中に追われるとか目も当てられない」
「はい、今回、多分ですが、クルラが人質狩りに手引きした可能性が高いです。レノから逃がすためかもしれないので、一概に敵認定はできませんけど」
なるほど。
たぶん、あかりをではなくて、シューバを助けているのだろう。
さとるが医療機器研究室に駆け込むと、話を聞いていたのだろうマッドは、すぐに2個セットのパッドを出してきた。
「あかりさんのホワイト・プログラムの解除装置です。両耳の後ろに貼って起動すると、数秒で隙間が閉じます。記憶の混乱があっても、数分以内にはおさまります。」
「俺、見つけ次第あいつを戻すわ」
「はい。この状況で、キュニの砦で暴れて内紛になるよりましでしょう」
誰も彼もが、あかりをこのままにしておくのは限界だと思っているが、過去の傷があかりを害さないか心配で、二の足を踏む。
あかりが潰れないと、もっとも信じているのはさとるだ。だから、決断するのもさとるでいいはずだ。
さとるが、セト砦につくと、サシャが端末を持って待っていた。
「あかりさんに発信機をつけました。この壁の内側です。強引に奪還するなら、メイが一部隊連れてきますがどうしますか?」
あかりの場所とメイの場所が示された端末を渡しながら、サシャが指示を仰ぐ。
「最悪の場合はそれで頼むが、とりあえず、今晩は俺が一人で入って、こっそり脱出って路線を狙おう」
「はい。基本的には要人用ではないので、ひとの出入りも激しく、兵の練度も低めです。ただ数が多いので、揉めると被害も大きくなるとおもいます」
「了解した」
さとるがそう返事をして、マシンガンを背中側に回すと、サシャがお気をつけてと言いながら、さとるの服や靴に小さな発信機を付けた。
「何をひっくり返してでもご自分の命優先でお願いします。あなたに何かあって『クリスタ』が壊れたら、シューバ様も連爆して、焦土と化します」
「脅さないでくれ」
「事実です」
心配そうな顔のサシャを見ると、さとるはつい昔と比較してしまう。
くす。
「サシャ、俺にやさしくなったなぁ」
「・・・メイにあることない事告げ口されたいですか。もし死んだらあかりさんと駆け落ちしたと報告しますよ」
「勘弁してください。行ってきます」
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