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126. おめでとう

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シェドが、ルカと結婚式したのを気にしていたから、ミケはオーデに水を向けてみる。

「ねぇ、ルカに乗り換えない?」

正直、オーデがいないと、新生フェルニアの国民は、ものすごくまとまりにくいと思う。

『絶対嫌だ。精霊王に会えなくなる』

うーん、絶対付きで、即答か。
で、精霊王?またずいぶん大袈裟な神様を持ち出してきたものだ。相当嫌って事だろうか。

私もオーデが大好きだし、ものすごく助けてもらっているし、別れ話とかするつもりではないのだけれども、シェドと結婚式するなら、べったりはちょっとまずくて。

平時のオーデは、クエン酸風呂に入ったり、粉をはたいて拭いてもらったりするのが大好きだから、別に年がら年中私の腕にはまっているわけではない。だが、はまったが最後、びっかびかに魅了の力を発揮して、人心を思う存分練り上げてしまうから。オーデとフェルニア国民との絆はどんどん深くなっていく。

それはオーデと私がくっついている以上、私がどんどんムーガルの支柱であるパチドから遠くなるということで。

私は、魔の森を守ってくれたら、フェルニアの人間でいると、ルカとタイキに約束した。フェルニア王都には、ソナと作り上げているクルル商会もあるし、迷宮回廊は虎の子だ。
敵だったのだから当たり前なのだが、ムーガルにもムーガル軍に良い印象はない。あちらに行けば、周り中私のことが嫌いだろうし。移住とかは、本当は怖い。

でも、ムーガルの海から、海水を引いた水牢があったのだから、きっと、海の側のどこかには、迷宮回廊がつながっている亀裂がある。
過去のフェルニアの最大版図と重ねて海を探せば、あるいは、ルードが目覚めれば、ムーガルとフェルニアをあっという間に行き来する道も開拓できると思う。こそっとシェドの側で暮らして、フェルニアに通勤する分には、なにも問題はない。ルカとは実際に籍を入れているわけでもなんでもないから、例えばこそっと結婚したことに、くらいなら何とでもなる。

でもオーデをくっつけたまま、ムーガル軍最上層のシェドと、公の関係になることや、式を挙げることは、多分無理だ。

南の方だと、誰にも誓ったり、見られたりしない結婚『式』あったりしないかな。チャド・フロラインに聞いてみようか、と、ソナと一緒に、魔の森に出かけたところ、びっくり仰天。
魔の森に、ちいさな、ちいさな、妖精がふたり。花に腰かけて、足を揺らしていたのだ。

「ちゃ、チャド・フロライン――!よ、よ、妖精がいた!!」

私達は驚いて、チャド・フロラインの小屋へ転がり込んだ。

チャド・フロラインは、ええ、そうね、『おめでとう』とミケに言って、小屋をまた改築しなきゃ、部屋が足りなくなるわねぇ、と話を続け、ドアから外に半分体を出してきょろきょろしている。

おめでとう、って、なんだ?
なんで、部屋が足りなくなるのかな?

ソナが、ちょっと考えてから、ミケに聞く。
「・・・ミケ、あなた、本当におめでただったりする?」
「へ?まさかぁ!諸事情知っているでしょ?!」

諸事情。パチドとタイキの二人がなかなかに刺激的なショーを見にいったことによる、一連の売り込みの数々と大騒ぎ。捌いたのは基本的にソナで、その大騒動の発端が、シェドの『内臓は動くのか』疑惑だ。ミケのお腹の中が傷だらけだから、どうやっても今のままでは子どもは無理だから、触れて治癒できるのかを気にした。

「いや、私、冥界がなんでそんなにミケやフロラインの『お腹』目の敵にするのか不思議でさ。オーデとマー君の宴会に混ざって聞いたら、精霊王が生まれて精霊界が元気になるから、って」

はい?冥界って、そんな俗な意思あるの?!
オーデが、精霊王に会えなくなる、って言っていたのは、比喩じゃないの?!

「ほら、いらっしゃい、あなたたち。会いたがっていたでしょう。『フロライン』よ」

チャド・フロラインは、どうやら、小さな妖精ふたりを呼び寄せて、いたらしい。

そか、フロラインね、フロライン。
おきろー、箱入り!呼ばれています!

寝起きで、ぼひゃっと、覇気のないフロラインだけれど、妖精たちは嬉しかったらしい。
彼女の気配を感じると、謎のダンスを踊り始める。決して可憐でも上品でもないダンス。まぁ、好意的に解釈したとしても、子孫繁栄とか五穀豊穣とか・・・?
でも、掛け声は、がんばれ、がんばれ、フロライン。

「フロラインに、産め、ってこと?」

割と直接的に、ソナが聞くと、チャド・フロラインは、ちょっと気まずそうな顔で、

「200年前は、精霊王は産まれられず冥界の勝ち。フロラインとルードの意識が残る時間もそろそろ限界。となると、ミケとシェドが最後の希望と言えば、そうなのよねぇ」

と言った。

「冥界が、勝った?ルードが人間界を守ったのに?」

ソナが真っ先につっこむ。

「もともと、人間界と冥界の争いでは、ないの。冥界と精霊界の戦いで精霊界は虫の息。精霊王が生まれなければ、もうだめね。だから、冥界の魔素は、ルードやシェドを狙うの」

「ご、めん、チャド・フロライン。話が、読めないのだけど・・」
ミケが説明を求める。

「ルードとフロラインの子どもが、精霊王で、精霊王の存在が、精霊界と人間界の扉なの。弱った精霊は、人間界で甘やかしてもらってなんぼだから、扉がないと減る一方」

「き。聞いてないよ?」

「そりゃ、内緒だし」

「思いっきり言っているじゃない!」

「私半分チャドだし。母の愛にかなうものなし。親族応援しても罰則無しね」

いいわけ?!言い訳が必要だったの?!

「ひょっとして、ルードがクラムルに騙されたのは、狙われたせい?」

「精神攻撃はあちら十八番だからねー。愛する人の魔素を絞り抜いてミイラにするとことか、他の男と情を通じているとことかを、何度もフラッシュバックされちゃうと、人間界の男って弱いのよ。単純で簡単。」

「はぁ?そんな裏があるわけ?!魔素絞りミイラって、シェドも昔似たようなこと言ってなかった?シェドもなの?!」

「裏じゃなくて、世界三つ跨いだ、大表よぉ。ルードは、人間界重視しすぎて負けたけれど、シェドは、ミケのお腹、直そうとしたのね。200年ぶりの大きな一歩だから、この子達みたいに見切り発車で生まれてくる妖精がではじめたの」

ミケの感覚では、だけれども、初めてルードでもパチドでもないシェドと、ちゃんと『した』わけなので、そう言うおめでとうならおめでたいけれど、お腹を直した訳じゃないので、ぬか悦ばせ感が半端ない。

「ど、ど、ど、どうしたらいいの?!私、多分、お腹の中、こわれたままよ?!シェドとの完遂おめでとう、だけじゃダメでは?!」

「だからぁ、完遂おめでとうじゃなくて、一部でも治り始めたのがおめでとう、で、200年、攻め込まれ続けた後の『初』反撃なの。何度もあれば、少しずつマシになるじゃない」

一部、治り始めた?

「・・ひょっとして、治癒、手が触らなくてもできる?」

「まぁ、手じゃなくても、シェドが触れた周辺なら。あの子、薬口移ししながらミケの喉を治癒していなかった?その時も手じゃなかったでしょ?同じよ」

ぼっっ

自分の顔が、真っ赤になったのがわかる。
・・・昨日、手じゃないシェドが、お腹の中をいっぱい触りました。

「が、が、が、が、がんばります」

「なるように。もともと人間界の争いではないもの。義務なんてないわ。好きにしていいのよ。ひとのうちの家族計画に異世界が口出すなんて良くないわ」

そんな壮大な家族計画をした覚えはない!

そもそも公的に家族になる『結婚式』は難しいけれど、どうすればいいかな、っていう相談にきたはずなのに。

え、なに、ひょっとしてオーデってば、私の子どもを期待して、離れない、って言っているわけ?

「こ、国宝の王の腕輪が、私から乗り換えたら、精霊王に会えなくなるって、言ったの、関係ある?」

「ま、力のある魔道具なら、今度こそ、って思うわよ。ルードが抱えた黒の魔素を、捨てられるとすればミケだけだし?」

「捨てられるの?!」

「昔からシェドに合わない魔素捨てていたのでしょう?原理は同じよ。ただ、それやっちゃうとミケに影響が出るかも。シェドがもちこたえてくれるなら、放っておいた方がいいわ」

「もちこたえられないと、どうなっちゃう?」

「んー、疑って、嫉妬して、ミケを傷つけて、ルードの二の舞?」

ぞ、ぞ、ぞ、ぞ、ぞ。

結婚式どころの騒ぎじゃない。

私はよろよろと、魔の森を後にした。
だ、ダメージ大きい。

でもまぁ、フロラインが、ルードの態度が変わった理由がわかって、涙を流していたから、そのことはちょっとだけ良かったかも。

それからの私は、隙あらばシェドにまとわりついて、魔素を流したがった。
手のひら越しに自分の魔素を流しながらシェドの中のルードからこっそり黒の魔素を吸い出して、ぺっぺぺっぺと捨てるのだ。
物心ついた3~4歳の頃からのキャリアがあるので、わりと怪しまれずに吸い出せる。

そうはいっても、シェドに警戒されてしまえば多分ばれるから、今日得た情報はしばらくシェドに内緒にすることにした。

こないだのシェドとのバトルで、ルードが積極的に子供を殺そうと鞭うったのではないと確信したらしいフロラインは、すっかりおとなしくなってしまった。その彼女は、たまにごそごそと起き出して、捨てられる黒の魔素を眺めては、満足してまた眠りにつく。

はやく、ルードと会えるといいね。
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