109 / 141
109. 暗器
しおりを挟む
タイキは、ぶすくれていた。個人に腹を立てたのは久しぶりだ。
クソ腹がたつ。
自分が気に入っている女が、死に損なって尚、自分から逃げる。
ソナに嫌われている理由は、なんとなくわかる気もする。
簡単にいうなら同族嫌悪。
彼女らは軍隊ではないけれど、いうなればソナはミケの副官だ。
かなり危ないことまでする、豪胆で、健気で、大将の事ばかり考える、ミケの副官。
ソナの行動は、いつもミケ第一でブレなくて。
俺は、彼女のそれが好きだったが、多分、ソナはいつもルカ第一でブレない俺が嫌なのだ。
大抵の人間は、自分だけの為より、守りたい人間の為のほうが汚いことをするし、それを恥じない特殊メンタルになる。
ソナにはかなり裏まで行動を読まれている気がするから、誠実なお坊ちゃんでないことも、特殊メンタルを恥じない分嫌なヤツになりやすいこともバレバレだ。
そりゃ警戒もされるし、好きだと態度に出したところで信用されないと読みは立つ。
だからと言って、仲良しになろうとしただろうが。せめて利用位してみせたらどうなのだ。
ソナにはたまに、斜め上に出る行動があって。
その理由は、ソナがパチドを好きだから、だと思う。今回は、まさにソレ。
珍しく弱って隙だらけのパチドの身代わりになって、えげつない暗器で刺されて。
当のパチドはかばわれたことすら気づかないのに、ソナはパチドの心のケアができればそれで満足。
治癒ができると知っている俺に向かって吐いた言葉は、『パチドを殺さないで』。
けっ。
そんなにあいつが好きか?
最初にソナの治癒をした時、肩の筋は伸びているし、顔から腹から殴られているし、見てわかる分だけでもかなり嗜虐的に痛めつけられた跡があった。
それなのに、時間を稼ぐ必要があるからと、その加害者のところに真っ先に殴られに行こうとしたのだ。
その時ですら、いくら何でも捨て身が過ぎると思ったのに。
実際にされていたことはもっとずっとひどくて。
電気ショックのダメージは外からではわからない。運が悪ければ、筋肉だろうが内臓だろうが破壊されるし、炎症するし、最悪壊死する。
殴られた傷を治癒しても、ソナの熱がなかなか引かなかったのは、そのせいだったのかと今更気づいた。
しかもその裏は、ムーガル軍がライヒの加虐趣味を組織的に支持?
虐待、強姦、虐殺、死姦の常習犯で、体術剣術は軍一と言われているくせに、人質戦略大好きのアレをか!
天災レベルに防ぎようもない、仕組まれた犠牲。捨てられるための生贄。
自分だけでなく、自分の大将に加えられる暴虐に苦しんで。どの国も一緒だと、吐き捨てながら、パチドに献身する。
パチドでなければだめか?
何度も聞きそうになる。
どうせ、ミケに渡しちまうのだろう?
パチドにも、気づかせたりはしないのだろう?
それなのに、パチドでなければだめか?・・・俺では、だめか?
心配した。
ソナを刺した奴を追って、始末して。あさった上着から、弾が発射済みの暗器が出た時は、血の気がひいた。賞金稼ぎじゃない。レーブルの特殊部隊だろうが。
レーブルの暗器は、質が悪い。
レーブルの特殊部隊は、ムーガルとフェルニアの膠着した戦場で、両軍の将官クラスを狙って、無差別に攻撃して行ったことがある。
タイキはルカについて従軍していたが、せいぜい初陣に毛が生えたレベルで、見ていただけだった。
その時は、市販の麻酔薬など、いくらをぶっかけても、大の男が治療中にひきつけは起こすは、食いしばった歯は折れるわ。果ては、致死率が高いのに苦痛の激しい治療を怖がって、自殺する奴まで出る始末。
ミケの魔素は、確かに市販の麻酔薬にくらべれば随分マシだろうが、限度がある。
気絶すらそう長いことしていられないのは分かっていた。
しかも盗聴器越しの会話から感じ取れるよりも、弾の位置がうんと深かったのだ
ここまで酷かったなら、パチドと話していた間も相当つらかったろうに。
ソナが、治療に耐えられなかったらと思うと怖かった。
今だけは、パチドの名前を叫んで助けを求めても許してやれると思った。
それでも、俺に縋りついて、爪と歯を立てて耐えるソナが、健気で、いじらしくて。
弾が取れた時は、ルカと出会って以来一度も祈っていない神に感謝したくらいだ。
弾を取り出すためにひどく抉ってしまった傷を治癒で閉じてやりながら、口に出すつもりのなかった言葉が滑り出る。
『本気で傷残してやりたい』
ソナに、自分の痕を刻みたいとか、かなり危険水域だと思うのだが。
「それ、いいね」
そうこたえて、笑ったソナの顔は。何と言えばいいのだろう、至純とか、無垢とか?
自分の命も大事な人も、一度も脅かされたことがない幼子が、満ち足りてまどろんでいるような感じで。
は。本気でパチドを殺したくなってきた。
俺が割とパチド殺した方が楽ではオーラをあちこちで出すのは、ウチがパチドを殺せないと外にバレたくないからで、ただのカモフラージュだ。ルカがミケの相手としてパチドを気に入っている以上、新生フェルニアにパチドを殺す選択肢はない。
それでもソナが心配した、睨んでいた云々は、まぁ、俺の個人的な嫉妬かな。
ソナに盗聴具を仕掛けたのは、純粋に心配だったからで、今回だってあの暗器さえ出なかったら、使う気はなかった。
それなのに、あの反応はキツイ。
完全に、俺が、ソナの裏切りを張っていたと、思った顔だよな。
ソナは協力者であって、部下でもないのだし、もとから俺に報告義務などない。惚れた男が、グダグダに弱っています、そうリークできるほど信頼されていないのも知っていた。
伝言も、レーブルとヘルクの動きも、ムーガルの思惑も、正しく伝えて来たくせに、なんだよ、あの、裏切りがばれた、みたいな顔は。
何が、『私に腹立てているのに、助けるの?』だ。
お前が死にかけて、俺が治癒するのが不思議か?
俺と寝たの、売春じゃないって認めたくせに、まったく頼る気なしか。
お前がパチドばかりを見ているから、好きだと言わないでやっているだけだろうが。
クソ腹が立つ・・・
クソ腹がたつ。
自分が気に入っている女が、死に損なって尚、自分から逃げる。
ソナに嫌われている理由は、なんとなくわかる気もする。
簡単にいうなら同族嫌悪。
彼女らは軍隊ではないけれど、いうなればソナはミケの副官だ。
かなり危ないことまでする、豪胆で、健気で、大将の事ばかり考える、ミケの副官。
ソナの行動は、いつもミケ第一でブレなくて。
俺は、彼女のそれが好きだったが、多分、ソナはいつもルカ第一でブレない俺が嫌なのだ。
大抵の人間は、自分だけの為より、守りたい人間の為のほうが汚いことをするし、それを恥じない特殊メンタルになる。
ソナにはかなり裏まで行動を読まれている気がするから、誠実なお坊ちゃんでないことも、特殊メンタルを恥じない分嫌なヤツになりやすいこともバレバレだ。
そりゃ警戒もされるし、好きだと態度に出したところで信用されないと読みは立つ。
だからと言って、仲良しになろうとしただろうが。せめて利用位してみせたらどうなのだ。
ソナにはたまに、斜め上に出る行動があって。
その理由は、ソナがパチドを好きだから、だと思う。今回は、まさにソレ。
珍しく弱って隙だらけのパチドの身代わりになって、えげつない暗器で刺されて。
当のパチドはかばわれたことすら気づかないのに、ソナはパチドの心のケアができればそれで満足。
治癒ができると知っている俺に向かって吐いた言葉は、『パチドを殺さないで』。
けっ。
そんなにあいつが好きか?
最初にソナの治癒をした時、肩の筋は伸びているし、顔から腹から殴られているし、見てわかる分だけでもかなり嗜虐的に痛めつけられた跡があった。
それなのに、時間を稼ぐ必要があるからと、その加害者のところに真っ先に殴られに行こうとしたのだ。
その時ですら、いくら何でも捨て身が過ぎると思ったのに。
実際にされていたことはもっとずっとひどくて。
電気ショックのダメージは外からではわからない。運が悪ければ、筋肉だろうが内臓だろうが破壊されるし、炎症するし、最悪壊死する。
殴られた傷を治癒しても、ソナの熱がなかなか引かなかったのは、そのせいだったのかと今更気づいた。
しかもその裏は、ムーガル軍がライヒの加虐趣味を組織的に支持?
虐待、強姦、虐殺、死姦の常習犯で、体術剣術は軍一と言われているくせに、人質戦略大好きのアレをか!
天災レベルに防ぎようもない、仕組まれた犠牲。捨てられるための生贄。
自分だけでなく、自分の大将に加えられる暴虐に苦しんで。どの国も一緒だと、吐き捨てながら、パチドに献身する。
パチドでなければだめか?
何度も聞きそうになる。
どうせ、ミケに渡しちまうのだろう?
パチドにも、気づかせたりはしないのだろう?
それなのに、パチドでなければだめか?・・・俺では、だめか?
心配した。
ソナを刺した奴を追って、始末して。あさった上着から、弾が発射済みの暗器が出た時は、血の気がひいた。賞金稼ぎじゃない。レーブルの特殊部隊だろうが。
レーブルの暗器は、質が悪い。
レーブルの特殊部隊は、ムーガルとフェルニアの膠着した戦場で、両軍の将官クラスを狙って、無差別に攻撃して行ったことがある。
タイキはルカについて従軍していたが、せいぜい初陣に毛が生えたレベルで、見ていただけだった。
その時は、市販の麻酔薬など、いくらをぶっかけても、大の男が治療中にひきつけは起こすは、食いしばった歯は折れるわ。果ては、致死率が高いのに苦痛の激しい治療を怖がって、自殺する奴まで出る始末。
ミケの魔素は、確かに市販の麻酔薬にくらべれば随分マシだろうが、限度がある。
気絶すらそう長いことしていられないのは分かっていた。
しかも盗聴器越しの会話から感じ取れるよりも、弾の位置がうんと深かったのだ
ここまで酷かったなら、パチドと話していた間も相当つらかったろうに。
ソナが、治療に耐えられなかったらと思うと怖かった。
今だけは、パチドの名前を叫んで助けを求めても許してやれると思った。
それでも、俺に縋りついて、爪と歯を立てて耐えるソナが、健気で、いじらしくて。
弾が取れた時は、ルカと出会って以来一度も祈っていない神に感謝したくらいだ。
弾を取り出すためにひどく抉ってしまった傷を治癒で閉じてやりながら、口に出すつもりのなかった言葉が滑り出る。
『本気で傷残してやりたい』
ソナに、自分の痕を刻みたいとか、かなり危険水域だと思うのだが。
「それ、いいね」
そうこたえて、笑ったソナの顔は。何と言えばいいのだろう、至純とか、無垢とか?
自分の命も大事な人も、一度も脅かされたことがない幼子が、満ち足りてまどろんでいるような感じで。
は。本気でパチドを殺したくなってきた。
俺が割とパチド殺した方が楽ではオーラをあちこちで出すのは、ウチがパチドを殺せないと外にバレたくないからで、ただのカモフラージュだ。ルカがミケの相手としてパチドを気に入っている以上、新生フェルニアにパチドを殺す選択肢はない。
それでもソナが心配した、睨んでいた云々は、まぁ、俺の個人的な嫉妬かな。
ソナに盗聴具を仕掛けたのは、純粋に心配だったからで、今回だってあの暗器さえ出なかったら、使う気はなかった。
それなのに、あの反応はキツイ。
完全に、俺が、ソナの裏切りを張っていたと、思った顔だよな。
ソナは協力者であって、部下でもないのだし、もとから俺に報告義務などない。惚れた男が、グダグダに弱っています、そうリークできるほど信頼されていないのも知っていた。
伝言も、レーブルとヘルクの動きも、ムーガルの思惑も、正しく伝えて来たくせに、なんだよ、あの、裏切りがばれた、みたいな顔は。
何が、『私に腹立てているのに、助けるの?』だ。
お前が死にかけて、俺が治癒するのが不思議か?
俺と寝たの、売春じゃないって認めたくせに、まったく頼る気なしか。
お前がパチドばかりを見ているから、好きだと言わないでやっているだけだろうが。
クソ腹が立つ・・・
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~
一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが
そんな彼が大好きなのです。
今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、
次第に染め上げられてしまうのですが……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる