ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

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107. 獅子王ルード

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んー、んー、と、ソナはいたく真面目に首をひねる。

「いえ、根っこが同じかわからないですけど、私を助けに似てくれた時も、ミケ、一瞬不安定になりまして。あんまり言いたくはないですが、必要なので描写しますと、ミケが来てくれた時、ライヒは私の中にトゲトゲの鉄の玉つっこんだ状態で、軍貸し出しの拷問器具で電流を流して遊んでいました。で、ミケを脅した訳です。抵抗したら鉄の玉をソナの腹ぶち破って飛び出させてやるって」

「ライヒを処分・・いや、それより先に、ソナ、今からでも医者に・・」

「なにを今更なことを。あー、続きですが、ミケは、ライヒに媚びる演技をして私から奴の気をそらしている間に、鉄の玉を出せって指示した。媚びるったってミケは鞭うたれながらだったので、私は焦って強引に鉄の玉を引っ掻きだし、女性の大事な場所が血まみれに。おまけに結構顔殴られたり、お腹蹴られたりしてぐちゃんこだったから、ミケから見たら、内臓損傷して嘔吐、吐血、下は血まみれ、状態に見えたんでしょうね。半狂乱に叫び始めて普段からは考えられないほど不安定に」

「まてまてまて、それは俺でも半狂乱になる」

「ミケは、耐えられる限り最善を尽くします。軍が突入すれば濡れ衣確定のあの状況で不安定になるなんて、死にかねない。だから本当に限界な地雷があるって思った。ライヒは私に、ミケと同じ躾をしてやるから子宮ズタズタにされながら命乞いしろ、って言った。ミケは多分、やられたし、私が同じ目にあったと思って限界が来た。あなたに子宮の欠損を蔑まれたとかだったら、今回の不安定も納得・・」

「まって、くれ。頼むから、待って。違う、そんなことは言っていない、けど、ミケ・・」

まだ、パチドの頃。ミケは、絶対に起きない事のように、『子どもができるといいのに』といった。子どもという単語をあまりに抽象的な記号みたいに言われて、不安で、不安で、腹が立った。

治癒の術は、触れて治すのが、基本だ。軍が、電気ショックを拷問に使うのは、脾臓やら膵臓やら、簡単には触れられない臓器まで、潰せる、から。
病気なら魔素で、外傷なら魔力で、楽になれる。そんな希望を打ち砕いて、人の心を折るために。

王城の離れで、最後に聞いたミケの悲鳴は、そういう、悲鳴で。
それすら、無視して、シェドは、信頼してくれていたミケを、引き裂いた。
ミケを。ミケに。ミケが。

正気が剥がれかけた俺を見ながら、

「パ、チドさま?顔が、へん、では?」

ソナが、そんなことを言う。

「う、るさい。おかしくなりそうだから、だろ」

自分だってまともな顔をしているとは思っていない。

「いえ、そう言うのではなくて、目の色が薄くなって・・髪の毛そんなに長かった、ですか?」

真面目な顔をしたソナに引っ張られて、姿見の前に立つと。

彼女の言うとおり、あきらかに、おかしかった。
赤みの増した髪の毛は、優に10センチ以上伸びて肩にかかり、瞳の色が薄くなって、殆んど金色に見える程。
し、獅子王?

「な、な、な、なんだ、これは?」

「私の方が聞きたいですって。先祖返りとかですねか?それとも、誰かにとり憑つかれたとか?」

・・・あの、情動の主?
それにしても、この瞳は。
金の瞳が連想させるのは、この国ではたったひとり。

「ソナ。金の瞳から、何を連想する?」

「獅子王ルード・・・って、伝説の黒の魔術師?!パチド様、何拾っちゃっているのです?あ、王の血筋だと、拾わなくてもどっかで混ざっているの?い、いや、そう言う問題じゃないですよねぇ?!」

獅子王ルード。元祖黒の魔術師。迷宮回廊を自在に操り、フェルニア史上最大の版図を実現した実在の王だ。

精霊のいとし子であったフロラインを捕らえて強引に寵姫とするも、フロラインは、敵将フィールに心奪われて、狂妃と呼ばれるようになり、フェルニア軍に誅殺される。
狂妃フロラインの魔素はすさまじく、フェルニア軍は魔の森にわざわざ地下牢型の封印をつくって殺した彼女の灰を封印した。

怒り狂ったフィールが北上して、封印を破壊。ベルフラワーの群生地にフロラインの灰をひと握りまいて彼女を弔った。
だが、フロラインを失って半ば狂った獅子王ルードは、その灰を集めて被り、黒の魔術師になる。彼の魔術で、太陽は隠れ、海は腐り、諫めようとした者も、鎮めようとした者も、バタバタと倒れて死んだ。

歩くだけで落雷を呼び、咆哮で地震を呼び。人々は世界の終わりを覚悟したが、一瞬正気に戻ったルードは、魔の森の柱状節理からその身を躍らせて自分自身を谷底に屠り、人々を生かした。

そう、伝えられている。
かなりな迷惑野郎であるが、魔の森以北に犠牲が少なく、周辺国が恐れをなしてその後フェルニアに手を出さなくなったことと、魔力信仰が相まって、フェルニアではもっぱら悪役は狂妃と敵将。獅子王ルードは強いフェルニアの象徴扱いだ。

『お前が手に出来るのは、彼女の灰だけ』

シェドに繰り返される呪いの言葉。そのたびにかき消される正気。
やめろ、ミケは、フロラインじゃない。

彼女は『また』お前のものには、ならない。
うるさい、うるさい、うるさい。

「・・・ド様、パチド様?大丈夫です?」

長いこと、呆けていたらしい。

ソナが、心配そうに、覗き込んでいる。

「す、まない。大丈夫、だ。ルカ、には、俺は魔力封じをはずせないことと、レーブルとヘルクが手を組んだことを伝えてくれ。ムーガルにフェルニア平定を維持する能力はない。望みは他国に攻められず、侮られないことだけだ」

「うわ、侮られたくなければ、パチド様封じちゃ、駄目でしょうに」

「俺は、他国スパイが偵察できるメルホ平原で、派手な魔力ショーでもと思っていた。ムーガル王の希望はその亜流、ルカとミケを黒の魔術師に仕立てて、レーブルとヘルクに黒の魔術を食い止めるためにはムーガルが必要だと思わせる腹だ」

「ルカとタイキのペアも、ミケとオーデとマー君トリオも、ホンモノですよ?変態の応援団しかできないムーガル軍が、貴方の魔力無しで、何を食い止める気です?」

「魔力以外にも、パチドの使い道はあるさ」

「名声を体現した命ですか、獅子王ルードの外見ですか!いい加減、ムーガルへの義理立てなどやめておしまいなさい!ココには、ミケを悲しませるほどの価値等ありません!」

「・・・パチドにも、シェドにも、ミケを悲しませるほどの価値はないよ、ソナ。俺が、顔も知らないその他大勢の日常、なんてもののために体張るのは、狂っていくのがわかっていながらミケの側にいるよりはマシだからだ」

「そんな理屈が、ミケに通るとでも?!」

「狂ったルードは、ミケをフロラインだと思っている。近づけてはダメだ。食い殺しちまう・・」

我ながら、情けない、震え声で。
それを聞いた、ソナは遠慮容赦なく顔をしかめた。

「ミケに、待っていろと、言えないんですか」

「・・・」

「せめて、死なないと約束を。私は、ミケがミケを、また地獄へと追い立てるのを、見たくはない」

「・・・死なないよ。ムーガル軍には、魔の森にも、ルカにも、俺にも、手は出させない」

なけなしのハッタリでも、そう言ってみる。
ミケの悲しみが、少しでも、減るように。
裏切ろうが、ひどいことをしようが、もう会えなかろうが、ミケにとっての俺は、パチドでも、ルードでもなく、シェドだから。

「わかり、ました。ミケには、そう伝えます」

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