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97. 王の腕輪と魔剣

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げ、マー君!自分で来たの?待てなかった?!

ルカの手の中に飛び込んだ魔剣のマー君は、それはもう嬉しそうに・・暴れた。
気持ちはわかる、のだ。

魔力が低いティムマインを守らなければならなかった20年、7年前の教育キャンプでシェドの魔力を感じて夢を見て。でも結局王候補になったのはヒューゴだし、もとから折り合いが良くなかったアドリスは途中で心が折れた。

最近はライヒという、中身はペケだけど、運動神経だけ見れば至高の剣士とまみえられたのに、引っ付いているのが私じゃぁね。ぶん回したら多分腕もげるレベルの戦闘力だもの。多分相当ストレスがたまったと思う。

そんな、鬱屈の数十年を経て、やっと、名分、人格、魔力ともに◎で、剣の腕も文句なしのルカに出会えたマー君。そりゃ、大暴れしたいよ。

分かる、けど、だからと言って、これは派手過ぎる。

鞘に入ったままの一振りで、ムーガルの兵士が5人とか吹っ飛んでいくし、ルカの滞空時間も半端ない。
剣術自慢が何人かいたけれど、赤子の手をひねるどころの騒ぎじゃない。ドラゴンのブレスでたんぽぽの綿毛を飛ばす勢い。

さらに驚きなのは、鞘付きのマー君は、直接当たりさえしなければ、非戦闘民はそのままに、兵士だけを吹っ飛ばせるのだ。ルカが当てなきゃ済む。いや、普通はそんな立ち回りは難しいと思うけれど、ルカの体は本当に本人の思い通りによく動くみたいで。剣術っていうよりサーカス?

王城の広場に踏み込んできた数十人なんて、あっという間に散らされて、追加で投入されてきた一個師団が、立ちすくむ。

ジャジャジャッ

高く飛び上がったルカの手から金色の線がのびて、私とタイキのいる中央の舞台から半径30メートルくらいの円が引かれた音だった。広場の石畳を金色が走る。
ルカが何も言わなくても、ムーガルはこの線より中に入るなと、金色の帯が吠えている。

ムーガルの兵士は、肉弾戦は諦めて、飛び道具に頼ろうとした。
でも、動かない。当たり前だ、魔素がはいっていないもの。
可動の大砲みたいな魔道具系の兵器は、グリーンが指示したのか、流石に私由来ではない魔素が込められていたけれど、それでも、私が睨みつけたら簡単に抜けて行ったよ?

「これより、新生ムーガルの戴冠式を行う!」

タイキの声が、広場を震わせて。無傷の一般王都民の目は感極まって、ギラギラとウルウルのオンパレードだ。安全、というか、新生フェルニアの軍の方が優勢だとわかったのか、広場にどんどんフェルニア人が増えていく。
たまに、金の帯を踏み越えたムーガル兵士が、幻覚の炎に包まれて叫び声をあげる。

「こころよく我々を王城へ迎えてくれたムーガルには感謝しているが、話し合いは、日を改めてもらえるとありがたい」

タイキにそう煽られても、抵抗できるムーガル兵は居なかった。

「旧体制のフェルニアは敗れ去ったが、魔素の谷に守られた新生フェルニアは復興を果たし、自由に魔素の谷を動かす力を得て戻ったことを、皆に伝える」

風の噂にしか聞けなかったフェルニアの存続と、それをなさしめた伝説ルカの生存。そして、復興と新たな力の証明。

その報告を聞くことは、占領下で1年以上の雌伏を強いられたフェルニア人にとって、歓喜の瞬間であり、アイデンティティの再構築でもあった。
圧倒的な魔素と魔力の気配が、根付き切った信仰心を燃え上がらせて、一種のトランス状態だ。

中央の舞台を取り巻くように、フェルニア人が広がって、スクラムみたいに腕を組み始め、ムーガル兵をひとりたりとも戴冠式の舞台に近づけない覚悟を見せる。
その中で。

ひゅう
どんっ

フェルニア人のスクラムの上を飛び越えて、地響きを上げながら、舞台に降り立って来たムーガル兵がいた。

ムーガル軍の大佐、ライヒだった。

両手に持たれた二本の剣は、あきらかに魔道具だったが、残念ながら詰まっているのは完全にライヒになじんだ魔素だ。私にはつけ入る隙がない。

ルカがマー君の鞘を抜きはらう。
うわ、マー君のメンタル、よだれ出てる、よだれ!!

タイキが必死こいて、風圧で舞台周りのフェルニア人が飛ばないようにバリアを張るから、私も一生懸命、タイキに魔素をサポートする。
タイキが驚いたように私を見て、それから親指を立てた。

ルカとライヒの剣は、一回ぶつかるごとに、ものすごい音を立てる。
筋肉自慢のライヒに比べると、ルカはまだ16歳で線が細い。

それでもマー君は、大上段から振り抜かれた剣を真正面から跳ね飛ばさせる。
多分、ルカの方は、ライヒの剣をいなそうとしたんだよね。普通に受けたら手首砕けそうだし。
でもマー君がそれを嫌がり、ルカは何度もライヒの剣を受け、しかもだんだんと跳ね飛ばす勢いを強めていく。

ライヒが戦い方を切り替えて、突いてきたところへ、縦にしたマー君をあてて、ルカはくるっと回った。

そして、
ぱっこーん!
あきらかに、剣が人にあたって出すにしては、鋭くない鈍角な音がして、ライヒがボールのように吹っ飛んだ。

タイキの張ったバリアから押し出されるのを嫌がって、ライヒの剣が魔素を飛び散らせながら光を放って逆噴射していたけれども、マー君とはあまりにパワーが違う。

身長2m近いのではないかと思われるライヒが、体重100キロはありそうなライヒが、スクラムの上を飛んで、金の帯の外に押し出されるのを、おしかけた数千のフェルニア人が、呆然と見送った。

タイキが汗をぬぐいながら、私を見る。
さっさと戴冠しちまおう、という合図だととった私は、渡されていた冠に魔素収納の魔道具を組み込んだだけの実用重視の王冠をもって、舞台の中央に進み出る。
そして、ルカが舞台の端から歩いてくるのを待った。

ライヒは、金の帯の外で、ムーガル兵の立て直しを図っている。後先考えずに興奮して突っ込んでくるかと思ったけれど、まじめに仕事しているじゃない。万年賢者タイムにしてやったせいだとしたら利敵行為だったかしらね。

ルカが、マー君を鞘に戻して、ゆっくりと歩いてくる。
うん、これは文句なく絵になるな。
自分の国の王様が、こんなに強くて、若くてきれいだっていうだけで、自分に価値があるような気がしてくるもの。

「王妃家系ミケ・レンネルが、我らが王、ルカ・ネルバに戴冠をおこなう!」

タイキの声がリンリンと響いて、私はちょっとだけ屈んだルカの頭に、魔素お片付けのできる魔道具でつくった王冠をのせる。

広場の熱量がマックスに近づいて、みんながルカ万歳とか、フェルニアに栄光あれとか、叫びたそうな頂点のその時。

かぽっ

私の腕に、ひんやり違和感。

げ、お、お、お、オーデ?!
王の腕輪のオーデが、私の腕にはまってしまったのだ。
ルカの引いた金色の帯から、ゆらゆらと光が立ち上って、それに呼応するように空にオーロラが舞って。

人々が、跪いた。

フェルニア人は、ひざまずいてもいい。
半数程のムーガル兵がまぎれてひざまずいてしまったのも、まだ、いい。

でも、マー君!あんたがルカ連れで平伏してどうすんのよ!ルカまでひざまずいちゃったじゃない!!

主役よ?王様よ?頭に魔素を仕舞える魔道具王冠乗っけているのよ?

オーデぇ、どうしちゃったのよ。どうしても留守番していられなかったら、せめてルカにはまってよ!

と話しかけてみるが、なに、『16才の腕にはまったら、ロリなんだろ』、って?いつの話よ!7年前のシェドに向かっていったときに私が言ったこと根に持っていたわけ?おまけに私だってまだ19だからね!何百年も生きていたら3年なんて誤差でしょうが!

あ、だめだ。
フェルニア人が、王の腕輪を覚えていることは、むしろ登場を渇望していたことは、オーデを見る目の熱っぽさだけで、十二分に伝わってくる。

しかも、この切羽詰まった状態にもかかわらず、オーデの泣き言は激しくて。

自分の方が、マー君よりもっとつらかっただの、こんなに200年ぶりレベルの魔素と魔力が飛び交っているのに王の腕輪たる自分が置いて行かれるなんてとか、マー君がひゃっほう状態なのに出番なしなんてうらんでやるーとか、もう、感情大爆発。

これはもう、収拾不能だよ、タイキ、ルカ、どうしよう?!
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