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87. 俺のモノ
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軍部での仕事を終えて、屋敷に戻る前に、すでに嫌な予感がした。
グリーン直属の部隊が、いない。
魔道具で自分の屋敷を確認する。人の配置にも集音にも不自然はない。ミケの部屋にも人の気配がある。
とりあえず、帰ろう。
自宅に駆け戻るという行為自体、パチドのイメージ戦略上良いものではないが、それどころではなかった。
屋敷に近づくと、かけてある警報系の術が片っ端から切られているのがわかった。こんなことを、なんの問題も起こさずにやってのけるのは、ミケだけで。
ミケが主体的に出て行こうとすれば、誰も止めることはできない。
足元から震えが上がってきそうになるのをようやく抑えて屋敷にかけこむなり、使用人が声をかけてくる。
「レンツ殿がお見えです」
「レンツ?」
あまりに意外な方面の客だ。レンツは、もっともムーガルの役人に顔が知られたフェルニア貴族。パチドには協力的で、ライヒを嫌っており、警戒対象ではなかった。
「はい、どうしてもお願いしなければならないことがあるとのミケさまのご指示で、レンツ殿はミケさまの自室に待機されています」
「ミケの部屋にだと?!」
ミケの部屋をノックもせずに開けると、レンツが窓の方を向いて何やら悪戦苦闘していた。
「何をしている?!」
シェドの声はなかなかに尖っていたが、答えるレンツは悪びれない。
「ミケに頼まれて、仕事中だよ!いつまでやればいいんだ?!」
いつの間にかバルコニーに仕掛けられていた魔道具があったそうで、レンツはそれに向かって、ミケがいるかのように偽装しているのだという。
当然、ミケは居ない。
「何がどうしてそうなった?!」
「ソナがライヒに捕まった。警らは、ライヒがソナを商売女扱いしてしけ込んだと思っているから花街の外を探さないが、痛めつけてミケを釣るエサにするつもりなら、花街には居ない。だから、パチドに相談に来たんだが、あっさりミケに見抜かれてな」
ソナが、ライヒに捕まった?なぜそこで、自分で出ていく!
「馬鹿なのか?!罠に決まっているだろうが!」
「ミケは、パチドには軍での立場があるから、自分が奇襲をかける方がいいと。レガスには、罠はどちらかと言うとパチド向けだと説得された。俺もそう思う」
屋敷内は、パチド以外が仕掛ける魔道具が入らないように、ガチガチに警戒していた。確かにバルコニーは屋敷内ではないが、大抵の魔術師の仕掛けならシェドは気づいたはずで。
案の状、魔道具からはグリーンの気配がした。
「ミケは、その魔道具を、誰の紐付きだと言った?」
「言っちゃいないが、パチドが警戒していないなら軍だと思ったろうな。で、ライヒの裏をかきたいから手伝えってさ。協力したら昔の無礼はチャラにしてやるっていうから・・・ミケは、あんな風に、しゃべるんだな」
軍の紐付きだと伝えれば、軍の公的な作戦に歯向かわせることになる。黙っておくのは、レンツに対する気遣いといえば気遣いか。
被害の大きさに鑑みると、ミケは、昔の確執だの軋轢だのに縛られることが少ない。親以外は。
ミケは、自分がライヒにおびき出されることより、ミケをエサに、俺がグリーンにおびき出される方を心配したわけか。
グリーンは、シェドのミケを諦めようかと迷っているふりなんぞには騙されていなかった。
付き合いが長いだけのことはある。
自分の読みの甘さのせいなのに、目の前の色が消えて、レンツも使用人も怒りのままに跳ね飛ばしてしまいそうだ。
どくん。また、あの情動がやってくる。
ミケが、奪われる。
彼女は『また』お前のものには、ならない。
何度繰り返しても、お前が手に出来るのは、彼女の灰だけ。
俺のモノだ!俺のモノだ!俺のモノだ!
呼吸を深くして、情動を逃がす。
ミケ、ソナ、無事か。すぐに、行く。
グリーン付きのレイに連絡を取る。
「グリーン総司令とその直属部隊は、どこだ」
「ご、極秘に、王城の離れに向かわれました。情報統制レベルAAAです」
城の離れ。ミケに公妾としての日々を強いた牢獄か。
ふざけやがって。
グリーン直属の部隊が、いない。
魔道具で自分の屋敷を確認する。人の配置にも集音にも不自然はない。ミケの部屋にも人の気配がある。
とりあえず、帰ろう。
自宅に駆け戻るという行為自体、パチドのイメージ戦略上良いものではないが、それどころではなかった。
屋敷に近づくと、かけてある警報系の術が片っ端から切られているのがわかった。こんなことを、なんの問題も起こさずにやってのけるのは、ミケだけで。
ミケが主体的に出て行こうとすれば、誰も止めることはできない。
足元から震えが上がってきそうになるのをようやく抑えて屋敷にかけこむなり、使用人が声をかけてくる。
「レンツ殿がお見えです」
「レンツ?」
あまりに意外な方面の客だ。レンツは、もっともムーガルの役人に顔が知られたフェルニア貴族。パチドには協力的で、ライヒを嫌っており、警戒対象ではなかった。
「はい、どうしてもお願いしなければならないことがあるとのミケさまのご指示で、レンツ殿はミケさまの自室に待機されています」
「ミケの部屋にだと?!」
ミケの部屋をノックもせずに開けると、レンツが窓の方を向いて何やら悪戦苦闘していた。
「何をしている?!」
シェドの声はなかなかに尖っていたが、答えるレンツは悪びれない。
「ミケに頼まれて、仕事中だよ!いつまでやればいいんだ?!」
いつの間にかバルコニーに仕掛けられていた魔道具があったそうで、レンツはそれに向かって、ミケがいるかのように偽装しているのだという。
当然、ミケは居ない。
「何がどうしてそうなった?!」
「ソナがライヒに捕まった。警らは、ライヒがソナを商売女扱いしてしけ込んだと思っているから花街の外を探さないが、痛めつけてミケを釣るエサにするつもりなら、花街には居ない。だから、パチドに相談に来たんだが、あっさりミケに見抜かれてな」
ソナが、ライヒに捕まった?なぜそこで、自分で出ていく!
「馬鹿なのか?!罠に決まっているだろうが!」
「ミケは、パチドには軍での立場があるから、自分が奇襲をかける方がいいと。レガスには、罠はどちらかと言うとパチド向けだと説得された。俺もそう思う」
屋敷内は、パチド以外が仕掛ける魔道具が入らないように、ガチガチに警戒していた。確かにバルコニーは屋敷内ではないが、大抵の魔術師の仕掛けならシェドは気づいたはずで。
案の状、魔道具からはグリーンの気配がした。
「ミケは、その魔道具を、誰の紐付きだと言った?」
「言っちゃいないが、パチドが警戒していないなら軍だと思ったろうな。で、ライヒの裏をかきたいから手伝えってさ。協力したら昔の無礼はチャラにしてやるっていうから・・・ミケは、あんな風に、しゃべるんだな」
軍の紐付きだと伝えれば、軍の公的な作戦に歯向かわせることになる。黙っておくのは、レンツに対する気遣いといえば気遣いか。
被害の大きさに鑑みると、ミケは、昔の確執だの軋轢だのに縛られることが少ない。親以外は。
ミケは、自分がライヒにおびき出されることより、ミケをエサに、俺がグリーンにおびき出される方を心配したわけか。
グリーンは、シェドのミケを諦めようかと迷っているふりなんぞには騙されていなかった。
付き合いが長いだけのことはある。
自分の読みの甘さのせいなのに、目の前の色が消えて、レンツも使用人も怒りのままに跳ね飛ばしてしまいそうだ。
どくん。また、あの情動がやってくる。
ミケが、奪われる。
彼女は『また』お前のものには、ならない。
何度繰り返しても、お前が手に出来るのは、彼女の灰だけ。
俺のモノだ!俺のモノだ!俺のモノだ!
呼吸を深くして、情動を逃がす。
ミケ、ソナ、無事か。すぐに、行く。
グリーン付きのレイに連絡を取る。
「グリーン総司令とその直属部隊は、どこだ」
「ご、極秘に、王城の離れに向かわれました。情報統制レベルAAAです」
城の離れ。ミケに公妾としての日々を強いた牢獄か。
ふざけやがって。
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