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84. 時間稼ぎ
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ミケの体力では、走れば息が上がるのは当然で、気配を消すとか、到底無理だった。
こっそりは諦めて、格子戸を蹴り開けて、普通に踏み入る。
入った瞬間、ソナはライヒに唾を吐きかけて、意識を失った。
おお、かっこいい。
全裸で両腕つられて気絶しているわけだから、無事じゃないだろうが、とりあえず、今の行動を見る限り、壊れちゃいない。
「来たわよ。ソナを離して」
ライヒが、憤怒の表情で、ソナとミケを交互に見る。
ミケを相手にすべきと頭ではわかっていても、ソナの行動に腹が立って仕方がないのだろう。
「ずいぶん早かったな。そんなに会いたかったか?」
ミケは肩をすくめてみせる。
「ソナにね。あなたは当然忘れていたわよ、印象薄いし?」
へっ
ライヒは鼻で笑って、ソナに近づき、手首の鉄の輪をはずした。
ソナがくたくたと床に崩れ落ちる。
「ソナの中にもあの鉄の玉、入ってるぜ?お前が生意気な口きいたら、すぐにこいつの腹を突き破るからな」
そういって、コードのついた鉄の輪を二つ、ミケの方に放った。
「自分でつけろ。1年前の続きをしようぜ。ああ、逃げようなんて思うなよ?ここはお前用に作られた牢だろう?」
ぎっ
と音がして、格子戸が閉まる。
「目的は?私と会いたいだけなら、ソナは帰してくれないかしら?」
ミケは鉄の輪をゆっくりと自分に嵌めながらライヒの反応を探る。
「ずいぶんと、生意気な口を利くようになったな。パチドは躾が甘いと見える」
ライヒの表情には余裕があり、自分が逆らわれないと思い込んでいるらしい。
ここの封印にずいぶんと信頼を置いているものだ。
手練れの魔術師どもが死んでからは誰もろくに手入れできず、今となってはミケの魔素で動いていると言うのに。
出て行かなかったからといって出ていけなかったとは限らない。
ルカやパチドに比べて想像力が足らなすぎると思う。
それでも、ソナの中であんな鋼鉄ポップコーンをはじけさせるわけにはいかない。
「はめたわよ」
パチドに向けて、コード付きの輪がつながった両手を振ってみせる。
「腰の獲物を投げろ」
あー、投げても怒らないかな、魔剣のマー君。
さっき走っている間に、仲良くなって。役職名で呼ぶなというので、急遽マー君になった。
ごめんねぇ。あとでちゃんとお手入れして、飾り紐も買ってかげるから、ちょっとだけ普通の剣のフリをして?
鍔なりがしそうなところを、先手必勝でなでなでしてから、放る。
がちゃん
あ、偉い、ちゃんと落ちた。
「・・・随分と素直だな。話でも、するか?」
そう言えば、この阿保と会話したことはない。挨拶だけでレンツがのけぞったくらいだから、ライヒも珍しいのだろうか。
ソナが、かすかに身じろぎをした。多分、もうすぐ気づく。
彼女の両手は自由で、心折られてもいない。
何とか自力で鉄の玉を体から出してもらえれば、ライヒの言うことを聞く必要はない。
普通なら、ぐずぐずしていたら軍に踏み込まれて、適当に冤罪ひっ被せられてしまいだろうが、軍のNo2パチドの力を持っているのは、シェドだ。いずれ来てくれる。
うん、時間稼ぎの価値はある。
「いいわよ?挨拶もしたことがなかったものね」
「パチドを捨てて、俺に飼われるなら、生かしてやらなくもない」
「・・・・え゛。無理でしょう、色々!現実を見なさいよ!」
ひとつ、1度は下賜された身よ?パチドが私を捨てることがあっても、逆はない。
ひとつ、あんたが女飼って生かしておけるわけがない。ザリガニすら飼えんわ、阿保。
ひとつ、そんなことは、ソナも私もパチドもだれも許さない。身の程を知れよ、無能。
「無理?俺がパチドを追い落とせば、嫌でもそうなる。お前が自ら俺のところに来るなら、手加減してやってもいい」
そういえば、こいつも私を自分に下賜せよって上申書をあげていたのだっけ。いや拷問させろ、だったかな?
「取り返されて、ひどい目に合うわ」
私じゃなくて、あんたがだけれども、ね。
馬鹿なのかと一喝してしまうと時間稼ぎにならないので、どうとでも取れる言い方をしてみる。
「俺がパチドに負けると?」
絶対負けるわよ。
パチドもシェドも魔素ケチるからこんな雑魚に夢見せちゃうんだわ。
あー、後は立場の問題もあるか。
外にシェドの気配が追加されたけど、魔術グリーンと、がっつりにらみ合ってしまっている。無理して私の味方をしなくてもいいからね、シェド。お仕事大事。
それでも、シェドがここにいれば、軍に踏み込まれて、ソナをかっさらわれるという最悪の事態にはならないだろう。
「・・・」
ちょっと、答えにくかったのと、外の気配を探っていたのとで黙っただけなのだけれども、ライヒは私が迷っているとでも思ったらしい。
斜めというか、パラノイア全開な提案をしてくる。
「ミケ、このまま連れ去ることもできるが、俺に服従して、自分から来るなら生かしてやる。どうだ?俺への服従心を試してやろうか?」
ばらりと重い音がして、パチドは自分の上着から、どこの恐竜を追うのかと突っ込みたくなるような長い鞭を引き抜いた。
何のためもなく、それを振り回してソナを打とうとするので、あわてて、ソナの前に回り込む。
バシーン
派手な音とともに、私の上着が裂けた。
「んっ」
いたた。
服の上からとはいえ、頭使わなきゃいけない時に麻酔モードは無理なので、どうしても息が詰まる。
痛みにのたうち回るふりで転がり、ソナに近づいた。
あ、えらい、ソナ起きてる。
ライヒに背を向けて、ジェスチャー1秒。
人差し指でお腹を指さした後、人差し指と親指を丸めて円を作り、足側に向かって開く。
意味は簡単、お腹に入れられた鉄の玉を出して。
ソナからは、瞬き二回の了解サインだ。
よし任せた。
こっそりは諦めて、格子戸を蹴り開けて、普通に踏み入る。
入った瞬間、ソナはライヒに唾を吐きかけて、意識を失った。
おお、かっこいい。
全裸で両腕つられて気絶しているわけだから、無事じゃないだろうが、とりあえず、今の行動を見る限り、壊れちゃいない。
「来たわよ。ソナを離して」
ライヒが、憤怒の表情で、ソナとミケを交互に見る。
ミケを相手にすべきと頭ではわかっていても、ソナの行動に腹が立って仕方がないのだろう。
「ずいぶん早かったな。そんなに会いたかったか?」
ミケは肩をすくめてみせる。
「ソナにね。あなたは当然忘れていたわよ、印象薄いし?」
へっ
ライヒは鼻で笑って、ソナに近づき、手首の鉄の輪をはずした。
ソナがくたくたと床に崩れ落ちる。
「ソナの中にもあの鉄の玉、入ってるぜ?お前が生意気な口きいたら、すぐにこいつの腹を突き破るからな」
そういって、コードのついた鉄の輪を二つ、ミケの方に放った。
「自分でつけろ。1年前の続きをしようぜ。ああ、逃げようなんて思うなよ?ここはお前用に作られた牢だろう?」
ぎっ
と音がして、格子戸が閉まる。
「目的は?私と会いたいだけなら、ソナは帰してくれないかしら?」
ミケは鉄の輪をゆっくりと自分に嵌めながらライヒの反応を探る。
「ずいぶんと、生意気な口を利くようになったな。パチドは躾が甘いと見える」
ライヒの表情には余裕があり、自分が逆らわれないと思い込んでいるらしい。
ここの封印にずいぶんと信頼を置いているものだ。
手練れの魔術師どもが死んでからは誰もろくに手入れできず、今となってはミケの魔素で動いていると言うのに。
出て行かなかったからといって出ていけなかったとは限らない。
ルカやパチドに比べて想像力が足らなすぎると思う。
それでも、ソナの中であんな鋼鉄ポップコーンをはじけさせるわけにはいかない。
「はめたわよ」
パチドに向けて、コード付きの輪がつながった両手を振ってみせる。
「腰の獲物を投げろ」
あー、投げても怒らないかな、魔剣のマー君。
さっき走っている間に、仲良くなって。役職名で呼ぶなというので、急遽マー君になった。
ごめんねぇ。あとでちゃんとお手入れして、飾り紐も買ってかげるから、ちょっとだけ普通の剣のフリをして?
鍔なりがしそうなところを、先手必勝でなでなでしてから、放る。
がちゃん
あ、偉い、ちゃんと落ちた。
「・・・随分と素直だな。話でも、するか?」
そう言えば、この阿保と会話したことはない。挨拶だけでレンツがのけぞったくらいだから、ライヒも珍しいのだろうか。
ソナが、かすかに身じろぎをした。多分、もうすぐ気づく。
彼女の両手は自由で、心折られてもいない。
何とか自力で鉄の玉を体から出してもらえれば、ライヒの言うことを聞く必要はない。
普通なら、ぐずぐずしていたら軍に踏み込まれて、適当に冤罪ひっ被せられてしまいだろうが、軍のNo2パチドの力を持っているのは、シェドだ。いずれ来てくれる。
うん、時間稼ぎの価値はある。
「いいわよ?挨拶もしたことがなかったものね」
「パチドを捨てて、俺に飼われるなら、生かしてやらなくもない」
「・・・・え゛。無理でしょう、色々!現実を見なさいよ!」
ひとつ、1度は下賜された身よ?パチドが私を捨てることがあっても、逆はない。
ひとつ、あんたが女飼って生かしておけるわけがない。ザリガニすら飼えんわ、阿保。
ひとつ、そんなことは、ソナも私もパチドもだれも許さない。身の程を知れよ、無能。
「無理?俺がパチドを追い落とせば、嫌でもそうなる。お前が自ら俺のところに来るなら、手加減してやってもいい」
そういえば、こいつも私を自分に下賜せよって上申書をあげていたのだっけ。いや拷問させろ、だったかな?
「取り返されて、ひどい目に合うわ」
私じゃなくて、あんたがだけれども、ね。
馬鹿なのかと一喝してしまうと時間稼ぎにならないので、どうとでも取れる言い方をしてみる。
「俺がパチドに負けると?」
絶対負けるわよ。
パチドもシェドも魔素ケチるからこんな雑魚に夢見せちゃうんだわ。
あー、後は立場の問題もあるか。
外にシェドの気配が追加されたけど、魔術グリーンと、がっつりにらみ合ってしまっている。無理して私の味方をしなくてもいいからね、シェド。お仕事大事。
それでも、シェドがここにいれば、軍に踏み込まれて、ソナをかっさらわれるという最悪の事態にはならないだろう。
「・・・」
ちょっと、答えにくかったのと、外の気配を探っていたのとで黙っただけなのだけれども、ライヒは私が迷っているとでも思ったらしい。
斜めというか、パラノイア全開な提案をしてくる。
「ミケ、このまま連れ去ることもできるが、俺に服従して、自分から来るなら生かしてやる。どうだ?俺への服従心を試してやろうか?」
ばらりと重い音がして、パチドは自分の上着から、どこの恐竜を追うのかと突っ込みたくなるような長い鞭を引き抜いた。
何のためもなく、それを振り回してソナを打とうとするので、あわてて、ソナの前に回り込む。
バシーン
派手な音とともに、私の上着が裂けた。
「んっ」
いたた。
服の上からとはいえ、頭使わなきゃいけない時に麻酔モードは無理なので、どうしても息が詰まる。
痛みにのたうち回るふりで転がり、ソナに近づいた。
あ、えらい、ソナ起きてる。
ライヒに背を向けて、ジェスチャー1秒。
人差し指でお腹を指さした後、人差し指と親指を丸めて円を作り、足側に向かって開く。
意味は簡単、お腹に入れられた鉄の玉を出して。
ソナからは、瞬き二回の了解サインだ。
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