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82. おびき出されるミケ
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最近のミケはお留守番が多い。
ライヒが恩赦になったそうで、シェドが尋常ではなくピリピリしているのだ。
確かにあまり思い出したくないキャラではあるが、ミケとライヒははじめから明らかな敵対関係だったので、ミケのほうに恨みがあるかと言えばそれほどでもない。
まぁ、子宮が欠損して敗血するほど傷ついて、子どもは望めないだろうなという状態になったのはこいつのせいではあるけれど、もともと公妾時代も魔素で機能を落として避妊状態にしていたから、そう褒められた状態ではなかったはずだ。
毒を流すにせよ、猟奇殺人を試みるにせよ、あるいは自分がティムマインを殺させるにせよ、まぁ敵なんだし、で、流せるミケはわりと大雑把かもしれない。
カサカサと生け垣が揺れるので、使用人に覗いてもらうと、レンツだった。
ミケに向かって、よ。と、気まずげに片手を上げる。
レンツは、ムーガル貴族の生き残りにしては、なかなか上手に世間を渡っている。
シェドは気を使ってミケの目につかないようにさせているが、パチドとはそこそこ仲が良かったようだ。酒場でせっせと情報交換をしていた。
「すまん、その、パチドが最近あまり会ってくれなくてな、急ぎで伝えたいことがあって、来ちまった。・・・元気か?」
「ええ、まぁ。そちらは?」
社交辞令だが一応レンツに元気かと聞き返したら、レンツは驚いて仰け反った。
「お、おう、何とかな。お前、普通に挨拶とか、できたのか」
なんだそれは。白痴扱いだったのか。
ド貧乏のスケープゴート家系だったけれど、一応貴族で末席の末席な王族家系だったのに。
「当たり前でしょう。パチドはまだ、しばらく戻りませんよ。伝言でよろしいですか?」
もの凄く久しぶりの必殺ポーカーフェイスで言ってやると、レンツは機械仕掛け並みにこくこくと首を縦にふった。
「あー、ライヒが出所してあぶねーから、花街の情報交換を密にしたんだ。どうやらソナが捕まっ・・」
ぐいっ
右手でレンツの襟首をひっつかみ、左手を強引に彼の手のひらに合わせて微量の魔素を流した。魔力量がイマイチのレンツは当然吸収できないけれど、この程度でもレンツの考えることはだいたい分るはずだ。
「ソナがライヒに?なぜ!どう危ないの!彼女はどこ?!」
「花街で立場の弱い女が二人、夜を買ったレンツに嬲り殺されて、パチドが警らを出してくれていた。警らは、ソナも商売女扱いで、どこかにしけこんだ前提で探しているが、今のソナは弱者じゃない。目的が違うと思う。パチドかお前になんか仕掛ける気じゃないかと、家に来た」
魔素の作用で話したにしては、情報が整理されていて、レンツが主体的に話しているのがわかる。
「偉いっ、流石パチドの友達!性癖の一個や二個流せるくらいお手柄です!このまま私の部屋の監視道具ごまかして、パチドが帰ってきたら事情を伝えてくれたら私の友達認定もあげますよ!じゃ、行ってきます!」
「おいまて、危ない」
「危ないのはソナ!私の友達に手を出そうなんて絶対許さんって、私は言えるけど、パチドは立場があるでしょ?なんの問題もない私が行きます!」
「お前、ライヒに殺されかけたのに、ライヒのアジトも知らず・・」
「ライヒなんていなくてもいい。ソナの場所なら何とか探せる!じゃ、たのみます!」
そしてミケは家から駆けだしたのだ。
足は治してもらっても、いまだに体力むんむんな訳じゃないし、相変わらず大した土地勘はないから、ミケはとりあえず迷宮回廊の支流に飛び込む。
ソナは、毎日、私の魔素に触れている。主要商品の良い夢の花を作ってくれているから。
だから、わかるはず。
ソナは、どこ?
私の魔素に毎日触れている、あの娘は、どこ?
迷宮を満たす、薄い魔素のほんの一部が、くるくると回って、凝集されていき、細い赤糸のように見える線があらわれる。
この糸の先にソナは居る。
無事でいて!
ミケはもう一度走り始めた。
・・・何この方向。
王城の、離れの地下、だ。ミケが公妾時代にとらわれていた場所。
ミケの魔素が研究され、ミケ用の封印が施された場所。
ふうん、パチドではなく、はじめから私に用ってわけか。
ライヒは、どれくらい強いだろうか。
魔術弱小国のムーガルにしては、やつの魔力量は多い方だが、使途は武力に全振り、ミケの魔素を直接吸ったとて、フェルニアレベルでは大したことがない。
魔素狙いではなく、ミケに騙されたことへの復讐の線が濃厚だ。
1年ちょっと前に、ルカにおぶわれた道の通りにすすんで、迷宮回廊から王城に抜ける。
外には、かなりの数の兵の気配。
丸腰もなんなので、先に王の間に寄った。
会議室以外締め切られ、人気のない王城は、魔道具の宝庫だ。
ミケから見ると、魔道具を守るために魔道具をつかうのは、あまり意味がないのではないかと思う。
ミケが開けろと言っただけで、自分からぼとぼと落ちてしまう錠前とか、どうなのだ。
王の間には、王の腕輪と魔剣。魔剣に『手伝って』と声をかけると、キラッキラに輝いて喜んだ。
王の腕輪に、自分もとねだられたが、王の腕輪の力は基本的に魅了系なのだ。忠誠心の集約とか聖性賦与とか、今はちょっと。ごめんね、今回はお留守番してください。
魔剣を腰に佩くと、自分から重量を減らしてくれた。優しいなぁ。いい子いい子。
これなら走れる。
よし、行こう!
ライヒが恩赦になったそうで、シェドが尋常ではなくピリピリしているのだ。
確かにあまり思い出したくないキャラではあるが、ミケとライヒははじめから明らかな敵対関係だったので、ミケのほうに恨みがあるかと言えばそれほどでもない。
まぁ、子宮が欠損して敗血するほど傷ついて、子どもは望めないだろうなという状態になったのはこいつのせいではあるけれど、もともと公妾時代も魔素で機能を落として避妊状態にしていたから、そう褒められた状態ではなかったはずだ。
毒を流すにせよ、猟奇殺人を試みるにせよ、あるいは自分がティムマインを殺させるにせよ、まぁ敵なんだし、で、流せるミケはわりと大雑把かもしれない。
カサカサと生け垣が揺れるので、使用人に覗いてもらうと、レンツだった。
ミケに向かって、よ。と、気まずげに片手を上げる。
レンツは、ムーガル貴族の生き残りにしては、なかなか上手に世間を渡っている。
シェドは気を使ってミケの目につかないようにさせているが、パチドとはそこそこ仲が良かったようだ。酒場でせっせと情報交換をしていた。
「すまん、その、パチドが最近あまり会ってくれなくてな、急ぎで伝えたいことがあって、来ちまった。・・・元気か?」
「ええ、まぁ。そちらは?」
社交辞令だが一応レンツに元気かと聞き返したら、レンツは驚いて仰け反った。
「お、おう、何とかな。お前、普通に挨拶とか、できたのか」
なんだそれは。白痴扱いだったのか。
ド貧乏のスケープゴート家系だったけれど、一応貴族で末席の末席な王族家系だったのに。
「当たり前でしょう。パチドはまだ、しばらく戻りませんよ。伝言でよろしいですか?」
もの凄く久しぶりの必殺ポーカーフェイスで言ってやると、レンツは機械仕掛け並みにこくこくと首を縦にふった。
「あー、ライヒが出所してあぶねーから、花街の情報交換を密にしたんだ。どうやらソナが捕まっ・・」
ぐいっ
右手でレンツの襟首をひっつかみ、左手を強引に彼の手のひらに合わせて微量の魔素を流した。魔力量がイマイチのレンツは当然吸収できないけれど、この程度でもレンツの考えることはだいたい分るはずだ。
「ソナがライヒに?なぜ!どう危ないの!彼女はどこ?!」
「花街で立場の弱い女が二人、夜を買ったレンツに嬲り殺されて、パチドが警らを出してくれていた。警らは、ソナも商売女扱いで、どこかにしけこんだ前提で探しているが、今のソナは弱者じゃない。目的が違うと思う。パチドかお前になんか仕掛ける気じゃないかと、家に来た」
魔素の作用で話したにしては、情報が整理されていて、レンツが主体的に話しているのがわかる。
「偉いっ、流石パチドの友達!性癖の一個や二個流せるくらいお手柄です!このまま私の部屋の監視道具ごまかして、パチドが帰ってきたら事情を伝えてくれたら私の友達認定もあげますよ!じゃ、行ってきます!」
「おいまて、危ない」
「危ないのはソナ!私の友達に手を出そうなんて絶対許さんって、私は言えるけど、パチドは立場があるでしょ?なんの問題もない私が行きます!」
「お前、ライヒに殺されかけたのに、ライヒのアジトも知らず・・」
「ライヒなんていなくてもいい。ソナの場所なら何とか探せる!じゃ、たのみます!」
そしてミケは家から駆けだしたのだ。
足は治してもらっても、いまだに体力むんむんな訳じゃないし、相変わらず大した土地勘はないから、ミケはとりあえず迷宮回廊の支流に飛び込む。
ソナは、毎日、私の魔素に触れている。主要商品の良い夢の花を作ってくれているから。
だから、わかるはず。
ソナは、どこ?
私の魔素に毎日触れている、あの娘は、どこ?
迷宮を満たす、薄い魔素のほんの一部が、くるくると回って、凝集されていき、細い赤糸のように見える線があらわれる。
この糸の先にソナは居る。
無事でいて!
ミケはもう一度走り始めた。
・・・何この方向。
王城の、離れの地下、だ。ミケが公妾時代にとらわれていた場所。
ミケの魔素が研究され、ミケ用の封印が施された場所。
ふうん、パチドではなく、はじめから私に用ってわけか。
ライヒは、どれくらい強いだろうか。
魔術弱小国のムーガルにしては、やつの魔力量は多い方だが、使途は武力に全振り、ミケの魔素を直接吸ったとて、フェルニアレベルでは大したことがない。
魔素狙いではなく、ミケに騙されたことへの復讐の線が濃厚だ。
1年ちょっと前に、ルカにおぶわれた道の通りにすすんで、迷宮回廊から王城に抜ける。
外には、かなりの数の兵の気配。
丸腰もなんなので、先に王の間に寄った。
会議室以外締め切られ、人気のない王城は、魔道具の宝庫だ。
ミケから見ると、魔道具を守るために魔道具をつかうのは、あまり意味がないのではないかと思う。
ミケが開けろと言っただけで、自分からぼとぼと落ちてしまう錠前とか、どうなのだ。
王の間には、王の腕輪と魔剣。魔剣に『手伝って』と声をかけると、キラッキラに輝いて喜んだ。
王の腕輪に、自分もとねだられたが、王の腕輪の力は基本的に魅了系なのだ。忠誠心の集約とか聖性賦与とか、今はちょっと。ごめんね、今回はお留守番してください。
魔剣を腰に佩くと、自分から重量を減らしてくれた。優しいなぁ。いい子いい子。
これなら走れる。
よし、行こう!
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※不定期更新です。
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