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78. ソナのお手伝い

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シェドの方は、ミケやチャド・フロラインから見えるほど落ち着いていたわけではない。

パチドーっ、てめぇはやらかし過ぎだーっ!!

1年前、ミケが毒で意識不明に陥る前に数度。パチドはミケをむさぼっていた。
しかも、ミケへの暴言と暴行の数々付きで。

思い出すだに冷や汗で穴が掘れる!
服脱ぐたびに、ミケの敵側に落ちてどうする?!俺がミケでも、ルカになびくわ!
阿保なのか、阿保なのか、阿保なのか!!

そんな事を考えながら、なかなかの形相で、八つ当たり気味にミケが嫌っている手桶を破壊していた。

人の気配を感じて顔を上げると、ソナが、花をもって立っていて、あきらかに『大丈夫かコイツ』というという顔をしている。

ソナは、ミケの友達だ。少なくとも今は。
最初はパチドが欲求不満解消目的で呼んだ・・あー、ミケの前で呼ぶんじゃねぇ!・・商売女、だったはずなのだが、うちに送られて来たヘビからミケが彼女を守ってやったのがきっかけで意気投合。

はじめは、いかにも売れ残りな花をもってミケと話に来ていたが、魔の森でパチドがチャド・フロライに金貨を渡した後、ミケが稼ぎたいと騒ぎ始めたのに巻き込まれた。

すぐに、2人で一緒に商売を始め、ミケに意識がなかった1年の間も律儀に金を届けに来て、今や王都でも有名になった商会を切りもりしている。多分、占領下の王都では最も伸びている商会だ。

そんな訳だから、じつは、ミケも、金はざくざくある。
なのになんで、あんなぼろいカバンに、到底趣味とは思えないような宝飾品入れて出て行こうとするのかと思ったら、その金が自分のモノだと言う認識がない。俺が金を渡してみても一緒。いや、お前、金稼ぎたいと言ってなかったかと、つっこみたくなる。

街に連れて行ってみたら、そもそも買い物なんて、ほとんどできない。
何かを所有したり、自分の好みで何かを選ぶことに慣れていなさすぎて。
本当に、人間らしく生きていなかったのだと思い知らされる。

ミケがそんな状態だったから、まぁ、商売とか、市場とか、交渉事とか、そんな、動いている社会の雑多な匂いがするソナの来訪は、良い刺激な気がして。ソナは、俺の中でミケの友人認定になった。

ペコリ、と頭を下げたソナが、話しかけてくる。

「何というか、ずいぶん、雰囲気が変わられましたね」

彼女は基本的に俺にあまり興味を示さないから、俺が手桶を壊していたのが、よほど奇天烈に映ったのかもしれない。

「そうか?」

「ええ。・・・グリーン総司令の部下の方から、お見合いの打診がありましたが、いかがいたしましょうか」

グリーン?見合い爺に転向か?

「あー、利用できるなら利用して、邪魔なら断れ。不利がないように位はとりはからってやれる」

パチドがそう答えると、ソナはちょっと困った顔をした。

「ええと、私の、というより、パチド様の見合いです。グリーン様が、手練手管に長けた、という、少々貴族のお姫様たちには向かない条件を出されたらしく、あなたのお見合い候補者の探索範囲が広がり、私にまで声が」

・・・理解するのに5秒はかかった。

「ソナと俺の見合いー?んで、手練手管だぁー?!」

何を考えているのだ、あのオヤジは!

「ええ。とりあえずカラダで篭絡すれば嫁に認める、というなかなか大雑把なお見合い打診で。少し、時間を置いてからお断りしましょうか?多分、私がお断りすると次に行かれます。下手すると10人位まとめて送り込むかも」

「あの、くそヤブ・・・」

ソナは、すっかり面白いものを見た顔だ。

「時間を置かず、断っていい。すまなかった」

あやまる俺に、ソナはさらなる爆弾を投下した。

「かしこまりました。その、ミケが、お褥滑りがうんぬん言い出したのも、そのせいだと思いますし、ご相談に、のれることがあれば何なりと」

・・・??
!!!

おしとね、すべり?・・って、要は、もう寝ないってか?!
『もう』どころか、シェドになってから、まだ完遂すらしてないんだが?!
いや、パチドの時を含めたって大した回数じゃない!!

「い、い、い、今すぐ相談に乗ってくれ・・」



ミケが、パチドは昔馴染みで、それを彼が思い出してくれたのだと言い始めてから。
この二人ときたら、ソナから見たら、そりゃぁもうじれったかった。

どっちでもいいから襲っておしまい状態。

ミケは当然、純真無垢ではない。
そもそもの出会いがしらから、ソナが、バックをつけずに、ピンで売春しているのを『凄い』と表現してくれた。そして、搾取され放題だった自分の公妾時代を、情けないと一喝したのだ。

ソナは、どうしても嫌な客と寝なければいけない時期が重なって、怪しげな薬に頼りきりになっていた。
同業の女が同じような薬で死んでいくのを何度も見たけれど、自分はああはならないと馬鹿にしていた。たから同じ轍を踏んだ自分がものすごく情けなくて。

それを知った時ですら、ミケは、『凄い』と『えらい』を連発してくれた。品質管理なんてすごく信頼できる大商会みたいだと言うのだ。
品質管理。少々嫌な客でも一定のお金を払ってくれたなら薬を飲んででも一定のサービスは提供しようとするプロ根性の事をそう表現したらしい。

それから、ミケは、私もお金が稼ぎたいなぁ、と言い始め、真剣な顔で客の取り方を聞いて来た。
もちろん、パチド様のミケへの執着を知っているソナとしては、気が気じゃなかった。
万一、一緒に客など取ろうものなら絶対に殺される自信がある。でもその反面、自分がまともだと言われているようで、とても嬉しかったのだ。

その後、ミケは真剣な顔で売春はやっぱりお金儲けにはなりにくいと思うと言い始めた。当たり前だろう。本人たちの心持ちがどうあれ、蔑まれやすい職業だ。ごく稀に愛人になる勇者が出る位で、お金持ちになることは普通ない。

でも、ミケに言わせれば、その理由は、時間単位あたりに稼げる額が決まっているからうんぬんかんぬん。

で、商売を誘われて。結局、ソナは今、ミケの魔素で、すごく良い夢が見られる花を作って売っている。2人で売り方をああでもないこうでもないと工夫していたら、なんか、もう、指数関数的に売れ始めて。世の中にこんなにお金ってあるのかと、驚いているところだ。

一生抜けられないだろうなと、思っていた売春が、忙しすぎて、やめようと思う間もなくできなくなるとか。お金が集まると、別の仕事までどんどん持ち掛けられてくるとか。もっと集まると、詐欺話を持ってくる奴すらいなくなり、本当の美味しい話ばかり持ってきて恩を売りたがる有力者に囲まれるとか。

世の中というのは、ずいぶん多層でできた迷宮だったらしい。
自分でも恐ろしいことに、ソナは今や商会の女主人である。もちろん稼ぎは全部ミケと半分こしているが、それでも、増えていく一方だ。
他人の人生が変えられるほどのお金を動かすようになっても、ミケがミケだったから、ソナもソナだった。

そんなミケが、コケた。
自分を、汚いと言い始めた。
そりゃぁまぁ、我々はキレイな方ではない。はじめから分り切ったことだ。
でも、ミケのいう汚いは、なんか変なのだ。

まるで、自分が生きていること自体を、汚いと言っているかのよう。

最下層のドブのヘドロにつっこまれて、死ぬかどうかは、その生き物が綺麗か汚いかとは無関係だと思う。生きられたから汚いなんて屁理屈を、通してはダメなのだ。

だから、ソナは、パチドと、協力することにした。
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