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75. おかえり抱っこ
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見てはダメといくら唱えても、ミケの目はシェドの表情をガン見してしまうし、言葉すら、シェドといた時をなぞってしまう。
「カバンをみたでしょう?ちゃんと生きるわ。放っておいて!」
「げ。ミケの『放っておいて』は後片付け大変なんだぞ。魔の森の家の側にシロアリがキノコ生やした時だって、ひとりで菌園全部移動させようとするから、家が傾いたろうが」
「なっ、なにを思い出したのよぉっ!」
きっと、邂逅で、シェドの記憶をたどったのだ。チャド・フロラインは、シェドの昔のものなんてたくさん持っているのだから。
そんなもので動揺する自分が嫌だ。
シェドにおかえりを言って、しがみつく自分を思い出すのが嫌だ。
「ん?思い出したのは、シェドが、生きていること。だから、このまま抱っこしとけばそのうちミケが『おかえり』って言ってくれること。放っておいた後の片づけするのは俺だぞって言ったら、無茶が2割減位にはなること。あと、どんだけ悪態ついても結局『生きていてよかった』って言ってくれること、かな」
パチドは、言わない。こんなことは言わない。私の闇を覗き込まず、覗き込ませず、あの人は、いつも私が壊れないように気遣ってくれた。
「・・・あなた、誰?」
「シェドだよ。壮絶に格好悪い15のまま時間が止まって、心底どうでもいいパチドの記憶が4年分も積もった、シェドだ」
それから、彼は、私の唇に短くキスをして、おかえりと言ってと、ねだった。
「信じ、ないわ。シェドは、私の唇にキスはしないの。好きな人が居るから、しないの」
「ミケ、国語だけじゃなくて地理も弱いな。あの環境で、俺にミケ以外の『好きな大人の女』が実在するとしたら、カラカラバトかパンダリスの成体とかになるぞ」
「シェドが言ったの!」
「ああ、言ったなぁ。思春期真っ盛りで、魔素の渇望期まで重なって。好きな子にはとても見せられないような夢を見て錯乱して?ほんっと、いいとこなしだな、シェドは。それでも、ミケは・・・シェドのただいまが遅いと怒るんだ」
あなたなんてシェドじゃないわ
そうだな
シェドはばらばらになったのよ
反省しています
私のせいなの
両脚焼き落とそうとしたのは確かに利敵行為だな、頭真っ白になったぞ
シェドはもう私のことが嫌いだわ
お前がシェドかよ
たくさん殺したの。汚いミケはシェドのミケじゃない。
はいはい。ミケの美醜は変わっているな。俺はどのミケも大好きです。
でべでべ泣いて、ぐちぐち吐いて。それのすべてにシェドみたいな答えをもらう。
「分かった、分かった。で、もしミケの事が好きじゃないシェドが帰ってきたら、おかえりしてやらないんだ?そんなシェドなら、ばらばらのままの方がいいな?」
そういって、何度もキスをする。
「ゆってないもん。そんな事、ゆってない・・」
「ただいま、ミケ。遅くなってごめん。風に溶けて戻れなくなっても、一緒に行くべきだった。でも、戻って来たから。格好悪いままだけど戻って来たから。ただいま、ミケ。おかえりって言って?」
催眠術にでもかかったみたいに。シェドが浸みこむ。
シェドが生きているかどうかはシェドの確信が決めるのだ。記憶ではなく、パーツではなく、私ではなく。シェドが決めるのだ。
だから、シェドは生きている。
殺されていなかった。
シェドはシェドのままで、この世界に居る。
「おか、えり、シェド、おかえりなさい。私のことが嫌いでも、怒っていても、パンダリスの方が好きでも、そんなことどうでも良くて。シェド、帰ってきてくれてよかった。生きていてくれてよかった」
「よし、じゃぁ、抱っこだな。離すぞ、落ちるなよ」
そういってシェドは、両手をぱっと離して。
私はすっごく変な格好でしがみついたまま、シェドの胸に顔を埋める。
私の頭は壊れてしまったようだ。
だって、パチドの服なのに、シェドの匂いがする。
それだけじゃなく。
この年齢であり得ない恥ずかしい恰好でしがみついて、満たされ切った気持ちになるとか。
抱きしめ返されて、頭ポンポンされて。
出奔の決意どころか、自分の危険性すらどうでもいい気がして眠気まで襲って来るとか。
だって、本当にシェドなら、どうせ私が考えたって仕方がないのだ。
シェドとのかくれんぼは、いつも瞬殺で見つかった。追いかけっこで逃げ切れたことは一度もない。
シェドの前の私は、人間としての危機管理能力を放棄している。
でも、大丈夫なのだ。シェドがいれば、全部大丈夫。
シェドのいる世界は、それだけで価値があり、美しく、温かい。
「カバンをみたでしょう?ちゃんと生きるわ。放っておいて!」
「げ。ミケの『放っておいて』は後片付け大変なんだぞ。魔の森の家の側にシロアリがキノコ生やした時だって、ひとりで菌園全部移動させようとするから、家が傾いたろうが」
「なっ、なにを思い出したのよぉっ!」
きっと、邂逅で、シェドの記憶をたどったのだ。チャド・フロラインは、シェドの昔のものなんてたくさん持っているのだから。
そんなもので動揺する自分が嫌だ。
シェドにおかえりを言って、しがみつく自分を思い出すのが嫌だ。
「ん?思い出したのは、シェドが、生きていること。だから、このまま抱っこしとけばそのうちミケが『おかえり』って言ってくれること。放っておいた後の片づけするのは俺だぞって言ったら、無茶が2割減位にはなること。あと、どんだけ悪態ついても結局『生きていてよかった』って言ってくれること、かな」
パチドは、言わない。こんなことは言わない。私の闇を覗き込まず、覗き込ませず、あの人は、いつも私が壊れないように気遣ってくれた。
「・・・あなた、誰?」
「シェドだよ。壮絶に格好悪い15のまま時間が止まって、心底どうでもいいパチドの記憶が4年分も積もった、シェドだ」
それから、彼は、私の唇に短くキスをして、おかえりと言ってと、ねだった。
「信じ、ないわ。シェドは、私の唇にキスはしないの。好きな人が居るから、しないの」
「ミケ、国語だけじゃなくて地理も弱いな。あの環境で、俺にミケ以外の『好きな大人の女』が実在するとしたら、カラカラバトかパンダリスの成体とかになるぞ」
「シェドが言ったの!」
「ああ、言ったなぁ。思春期真っ盛りで、魔素の渇望期まで重なって。好きな子にはとても見せられないような夢を見て錯乱して?ほんっと、いいとこなしだな、シェドは。それでも、ミケは・・・シェドのただいまが遅いと怒るんだ」
あなたなんてシェドじゃないわ
そうだな
シェドはばらばらになったのよ
反省しています
私のせいなの
両脚焼き落とそうとしたのは確かに利敵行為だな、頭真っ白になったぞ
シェドはもう私のことが嫌いだわ
お前がシェドかよ
たくさん殺したの。汚いミケはシェドのミケじゃない。
はいはい。ミケの美醜は変わっているな。俺はどのミケも大好きです。
でべでべ泣いて、ぐちぐち吐いて。それのすべてにシェドみたいな答えをもらう。
「分かった、分かった。で、もしミケの事が好きじゃないシェドが帰ってきたら、おかえりしてやらないんだ?そんなシェドなら、ばらばらのままの方がいいな?」
そういって、何度もキスをする。
「ゆってないもん。そんな事、ゆってない・・」
「ただいま、ミケ。遅くなってごめん。風に溶けて戻れなくなっても、一緒に行くべきだった。でも、戻って来たから。格好悪いままだけど戻って来たから。ただいま、ミケ。おかえりって言って?」
催眠術にでもかかったみたいに。シェドが浸みこむ。
シェドが生きているかどうかはシェドの確信が決めるのだ。記憶ではなく、パーツではなく、私ではなく。シェドが決めるのだ。
だから、シェドは生きている。
殺されていなかった。
シェドはシェドのままで、この世界に居る。
「おか、えり、シェド、おかえりなさい。私のことが嫌いでも、怒っていても、パンダリスの方が好きでも、そんなことどうでも良くて。シェド、帰ってきてくれてよかった。生きていてくれてよかった」
「よし、じゃぁ、抱っこだな。離すぞ、落ちるなよ」
そういってシェドは、両手をぱっと離して。
私はすっごく変な格好でしがみついたまま、シェドの胸に顔を埋める。
私の頭は壊れてしまったようだ。
だって、パチドの服なのに、シェドの匂いがする。
それだけじゃなく。
この年齢であり得ない恥ずかしい恰好でしがみついて、満たされ切った気持ちになるとか。
抱きしめ返されて、頭ポンポンされて。
出奔の決意どころか、自分の危険性すらどうでもいい気がして眠気まで襲って来るとか。
だって、本当にシェドなら、どうせ私が考えたって仕方がないのだ。
シェドとのかくれんぼは、いつも瞬殺で見つかった。追いかけっこで逃げ切れたことは一度もない。
シェドの前の私は、人間としての危機管理能力を放棄している。
でも、大丈夫なのだ。シェドがいれば、全部大丈夫。
シェドのいる世界は、それだけで価値があり、美しく、温かい。
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