ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

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68. あなたは綺麗だから

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たぶん私は、もの凄く混乱、しているのだと思う。
部屋に入って来たパチドが、自分の中にそのまま入って来たような気がした。

どんな術を使われているのかすらわからないまま、自分の時間が定まらなくなって。

シェドに会い始めた3、4歳の頃とか、教育キャンプのときとか、魔の森の幸せなときとか、パチドに甘やかされているところとかが、ころころ切り替わりながら。

おしゃべりな幼少期ミケは、ずっと、パチドに向かって話しているようだ。

ちがうの。
シェドは、汚い私なんて、見たことがないの。
私が『初夜ーっ』って迫ったら、掛け声だと思ったくらい。
シェドは、魔素の好き嫌いが激しいから、わたしがぺぺってしてあげるの。
ピーマンを避けるみたいに上手に。

シェドは、私が、まもるの。
私の1番の夢は、シェドを守って、死ぬことだったけど、失敗して、
2番の夢の、シェドとの約束を守って死ぬことに変わったの。

だって、生きていると、大人になってしまうもの。
チャドさんやシェドと違う生き物になって、別種だと、知ってしまうもの。

私が大人になりたくない理由に、復讐は、関係ないの。
ただ、チャドさん達と、同種だと、思いしらされたくないだけ。

私が汚いのは、いろんな大人が私をゴミ箱にしたからじゃないの。
ただ、チャドさん達と、別種なだけ。

チャドさんは、毎日ご飯をつくってくれるの。三食も!
チャドさんは、熱が出るとおでこを冷やしてくれるの。何度も飲みものをくれるの。大変なのに、すぐに治らなくても、怒ったりしないのよ?

あんなふうに、なりたかった。

まったく。何を言っているかしらねこのミケは。

12才の頃のミケなんて、パチドは知らないのよ?
ま、だいぶシェドの記憶がこぼれているかもしれないけれど、その程度。

パチドが実際に知っているミケは、公妾くずれで、男がたくさん必要で?

あと何だっけ、まぁ、いいや、とにかく、薄汚いぼろくずだ。
それでも、シェドに引きずられて、私に優しくしてくれる。もう、甘々と言っていいくらいに。

うふふ。
私は、この生に、結構、満足、しましたよ。

ありがとう。

すぐ近くに見えるパチドに、ちょっと照れ臭かったけど、一生懸命大人ぶってつたえたのに。
パチドの顔は全然うれしそうじゃない。

それどころか、私の頭を抱えたパチドの唇が切れて、血がにじんでしまう。
俺は、いらないのかって聞いてくる。

まったく、そそっかしい人ね。
もー、涙まで出てるじゃない。
しょーがないなぁ。大サービスよ?

あのね、私、こんなふうに、死にたかった。
シェドの顔に、見送られてさ、好きだって言って、泣いてもらうの。

シェドの顔で、私のために泣いてくれて、ありがとう。
あ、そうだ、抱いてくれたのも、お礼言っとく。
そーゆーのは本物のシェドじゃ無理だからあなたとそうなって嬉しかった。ぐへへ。

私のことは、幸せな女認定で大丈夫だから、秒速で忘れていいわ。

あと、拗らせそうになったときはルカを見本にするのがいいと思うの。あの子はね、目がキラキラしていて、笑顔にパンチ力があるから、女の子がわちゃわちゃよってくる。
声としゃべり方はシェド似だしおすすめ!

だんだんどうでもよいことが気になってきてしゃべり続けているうちに。
パチドの体温が遠ざかっていった。

あー、やっと死ぬんだなって、思う。
もう、ぐちゃぐちゃの死体をどうしようとか、考える頭の隙間がない。

ばっちいして、ぺぺってすてて。

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