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64. もういいかな?
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気合いを入れていた割に、ライヒの魔力が吸い出された量は多かったようだ。まだ考え事ができる程度には、呼吸が楽。
パチドの全部がシェドだと聞いてから、ミケは、周りが思うほどパチドとシェドをはっきり分けられてはいない。
だから、今日は、シェドに、怒られた気分になってしまう。
冷たい目で、シェドに蔑まれるのは、思った以上にきつかった。
アレルギー大王だった頃のシェドの記憶が少しでもあれば、私の不調が魔力アレルギー状態だってことはすぐにばれる。
そりゃ、どこの男だってなるよな。
普通、手だの口だの××だのくっつけて流すもんだし。
正直、あの程度の魔力が昇華できないとは思わなかったのだ。
わかっていたら初めからルカに頼んだかもしれない。いや、どんだけ弱ってるんだという話になるから、やっぱり頼まなかったかな。
外皮一枚ごまかしたところで、魔素量に任せて遅らせ続けた、毒だの、敗血だの、皮下出血だので、きっと私の死体は見られたものじゃなくなるだろう。パチドならともかく、シェドにはぜひともみられたくない。大概、彼の前から消えたほうがいい気がする。
そうなると、まぁ、誤解ぐらいどうでもいいか、と。
公妾やっていたのは事実だし、監禁所にはライヒもいたし、大まかに括れば、大差ない。
消えた時、あのビッチどこ行きやがった、また男か!位で済む方がいい気もする。
魔力を吸い出すのは、治癒とは違うから、邂逅に入ったりはできない。
それでも、何となく、柔らかなタイプとか、嫌な感じ、とか、魔力の持ち主のイメージ位は感じ取れるから。
個人の特定までは無理だろうけれど、万一パチドが私の中の魔力がライヒのものだとバレたら、ルカと私がティムマインの殺害現場にいたって芋蔓しそうな気がするから、吸い出される量は少ないに越したことはない。
そんなわけで、シェドから言われたことは、全部覚悟済みの言葉だったし、彼にはなるべく魔力を吸い出して『もらわない』ことが、既定路線だった。
・・・それなのに、あんなに泣いてしまった自分が信じられない。
うつらうつら。
発熱がうっとおしいな。
なんか、色々どうでもよくなってきた。
あんな目でみるくらいだもの。ぐちゃぐちゃの死骸一個見たところで、きっと、たいして気にしない。
そうしたら、もう、このまま、目が覚めなくてもいいかな。
気が楽になったせいか、とても、いい夢を見た。
シェドに看病してもらっている夢。
熱を出して私がぐずると、額を冷やすタオルを取り換えるときに、おでこにキスしてくれるのだ。
目が開かないけど、今、おでこがちゅってなった。
「シェド」
「ん?」
「シェド」
「なんだ?」
「シェド」
「はいはい」
ほら、何回呼んでも答えてくれる。
魔の森のシェドは、何でも許してくれる。
「ねぇ、シェド。私、もう、死んじゃっても許してもらえる?怒らない?嫌わない?怒鳴らない?」
シェドは、許すとは言わなかったけれど、頭を撫でてくれた。
怒っては、いない。
うれしい。とても長かったの。
夢はいいな。
怒っていないシェドが飲ませてくれたジュースが、すいすい喉を通っていくもの。
最近、喉に腫れものが多くなって、飲み物を飲むのがおっくうだったから、とても新鮮。
んー、起きたくない。
起きたくない、のに。
ぎゅうぎゅうと、抱きしめてくるのは、だれじゃー!
って。あーあ、目を開けちゃった。
そうしたら、私を抱き込んで、パチドが眠っていた。
サイドテーブルには半分くらい残ったジュースがあって、自分の喉に触れてみると、痛く無かった。
喉のできものとか腫れとかは、実は相当治癒が難しい。ちゃんと触れられないし、よく見えないし。それがジュースをごくごく飲めるまで回復とか、どうやった訳。
喉の奥まで指つっこんだ?うーん、げろってないといいけどな、私。
いずれにせよ、大容量魔力使って、治癒したのは間違いないと思う。
ひょっとすると、治癒が天才兼秀才的にうまかったシェドより上手かもしれない。
パチドと来たら、こんな治癒を、邂逅の目的もなく、見返りもなく私に使ったりして、お人好しなのがバレバレ。戦場では冷酷無残が売りだったと聞いているのにイメージ戦略がブレてるよ。
そう言えば、足を治癒するときに言われたな。
何も見ないから、大人しくしてろ、か。
こっちのせりふだわ。
何も見なくていい。大人しく消えさせて。
私を抱きしめていたパチドの手にほんの少し魔素を流して緩め、ベッドからそおっと抜ける。
パチドの指先が、凄く私を、離したくなさそうに曲がった。
なんかさ、最近思うんだけど、パチドって、シェドに引きずられているよね。
あんたは私が大事なのかよって、突っ込みたくなる。
さて、どこへ、行こう。
あ、最終的には柱状節理に消えたい訳だけど。
せっかく痛く無くしてくれたから、ぎりぎりまで寄り道をしよう。
お金がないから魔素回廊でいける範囲よね。
帽子と水筒と、あー、アクセサリーは売りやすそうだから、2、3個ポケットに入れておこう。大事なのは、ルカがくれたやつだけだから、あとはどれでも一緒。
それから、最後にパチドの顔を見る。
ふふ。
体が布団に隠れているときだけは、パチドも童顔だな、っておもう。
さようなら。元気でね。
ベッドを魔素で、くるむ。
少しだけ、眠りが深くなるように。
それから、部屋のドアを出て玄関へ。
あれ、ルカの気配がする?
んー、あの子も心配性だし、出ていくところを見られたくはないな。裏口から出るか。
庭をまわって、裏木戸へ。
差し込むだけの、簡単な打ち掛け錠をはずすと。
ストッ
細い短刀が木戸に深々と刺さった。
あ。
勝手に、目が、短刀の軌跡を逆にたどる。
そこには、とても寝起きとは思えない、きちんと服を着て、外出もできそうなパチドが、怖い顔で立っていた。
パチドの全部がシェドだと聞いてから、ミケは、周りが思うほどパチドとシェドをはっきり分けられてはいない。
だから、今日は、シェドに、怒られた気分になってしまう。
冷たい目で、シェドに蔑まれるのは、思った以上にきつかった。
アレルギー大王だった頃のシェドの記憶が少しでもあれば、私の不調が魔力アレルギー状態だってことはすぐにばれる。
そりゃ、どこの男だってなるよな。
普通、手だの口だの××だのくっつけて流すもんだし。
正直、あの程度の魔力が昇華できないとは思わなかったのだ。
わかっていたら初めからルカに頼んだかもしれない。いや、どんだけ弱ってるんだという話になるから、やっぱり頼まなかったかな。
外皮一枚ごまかしたところで、魔素量に任せて遅らせ続けた、毒だの、敗血だの、皮下出血だので、きっと私の死体は見られたものじゃなくなるだろう。パチドならともかく、シェドにはぜひともみられたくない。大概、彼の前から消えたほうがいい気がする。
そうなると、まぁ、誤解ぐらいどうでもいいか、と。
公妾やっていたのは事実だし、監禁所にはライヒもいたし、大まかに括れば、大差ない。
消えた時、あのビッチどこ行きやがった、また男か!位で済む方がいい気もする。
魔力を吸い出すのは、治癒とは違うから、邂逅に入ったりはできない。
それでも、何となく、柔らかなタイプとか、嫌な感じ、とか、魔力の持ち主のイメージ位は感じ取れるから。
個人の特定までは無理だろうけれど、万一パチドが私の中の魔力がライヒのものだとバレたら、ルカと私がティムマインの殺害現場にいたって芋蔓しそうな気がするから、吸い出される量は少ないに越したことはない。
そんなわけで、シェドから言われたことは、全部覚悟済みの言葉だったし、彼にはなるべく魔力を吸い出して『もらわない』ことが、既定路線だった。
・・・それなのに、あんなに泣いてしまった自分が信じられない。
うつらうつら。
発熱がうっとおしいな。
なんか、色々どうでもよくなってきた。
あんな目でみるくらいだもの。ぐちゃぐちゃの死骸一個見たところで、きっと、たいして気にしない。
そうしたら、もう、このまま、目が覚めなくてもいいかな。
気が楽になったせいか、とても、いい夢を見た。
シェドに看病してもらっている夢。
熱を出して私がぐずると、額を冷やすタオルを取り換えるときに、おでこにキスしてくれるのだ。
目が開かないけど、今、おでこがちゅってなった。
「シェド」
「ん?」
「シェド」
「なんだ?」
「シェド」
「はいはい」
ほら、何回呼んでも答えてくれる。
魔の森のシェドは、何でも許してくれる。
「ねぇ、シェド。私、もう、死んじゃっても許してもらえる?怒らない?嫌わない?怒鳴らない?」
シェドは、許すとは言わなかったけれど、頭を撫でてくれた。
怒っては、いない。
うれしい。とても長かったの。
夢はいいな。
怒っていないシェドが飲ませてくれたジュースが、すいすい喉を通っていくもの。
最近、喉に腫れものが多くなって、飲み物を飲むのがおっくうだったから、とても新鮮。
んー、起きたくない。
起きたくない、のに。
ぎゅうぎゅうと、抱きしめてくるのは、だれじゃー!
って。あーあ、目を開けちゃった。
そうしたら、私を抱き込んで、パチドが眠っていた。
サイドテーブルには半分くらい残ったジュースがあって、自分の喉に触れてみると、痛く無かった。
喉のできものとか腫れとかは、実は相当治癒が難しい。ちゃんと触れられないし、よく見えないし。それがジュースをごくごく飲めるまで回復とか、どうやった訳。
喉の奥まで指つっこんだ?うーん、げろってないといいけどな、私。
いずれにせよ、大容量魔力使って、治癒したのは間違いないと思う。
ひょっとすると、治癒が天才兼秀才的にうまかったシェドより上手かもしれない。
パチドと来たら、こんな治癒を、邂逅の目的もなく、見返りもなく私に使ったりして、お人好しなのがバレバレ。戦場では冷酷無残が売りだったと聞いているのにイメージ戦略がブレてるよ。
そう言えば、足を治癒するときに言われたな。
何も見ないから、大人しくしてろ、か。
こっちのせりふだわ。
何も見なくていい。大人しく消えさせて。
私を抱きしめていたパチドの手にほんの少し魔素を流して緩め、ベッドからそおっと抜ける。
パチドの指先が、凄く私を、離したくなさそうに曲がった。
なんかさ、最近思うんだけど、パチドって、シェドに引きずられているよね。
あんたは私が大事なのかよって、突っ込みたくなる。
さて、どこへ、行こう。
あ、最終的には柱状節理に消えたい訳だけど。
せっかく痛く無くしてくれたから、ぎりぎりまで寄り道をしよう。
お金がないから魔素回廊でいける範囲よね。
帽子と水筒と、あー、アクセサリーは売りやすそうだから、2、3個ポケットに入れておこう。大事なのは、ルカがくれたやつだけだから、あとはどれでも一緒。
それから、最後にパチドの顔を見る。
ふふ。
体が布団に隠れているときだけは、パチドも童顔だな、っておもう。
さようなら。元気でね。
ベッドを魔素で、くるむ。
少しだけ、眠りが深くなるように。
それから、部屋のドアを出て玄関へ。
あれ、ルカの気配がする?
んー、あの子も心配性だし、出ていくところを見られたくはないな。裏口から出るか。
庭をまわって、裏木戸へ。
差し込むだけの、簡単な打ち掛け錠をはずすと。
ストッ
細い短刀が木戸に深々と刺さった。
あ。
勝手に、目が、短刀の軌跡を逆にたどる。
そこには、とても寝起きとは思えない、きちんと服を着て、外出もできそうなパチドが、怖い顔で立っていた。
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