57 / 141
57. 共依存
しおりを挟む
なぜ、好きだと口にすることが、あんなに気恥ずかしかったのだろう。
ミケを好きなこと位、自分でも分り切ったことで、チャドやフロラインどころか、そこら辺を駆けるパンダリスにさえばれていた気がするのに。
フェルニアの男女は、そろって奇形なのだと、フロラインは言う。
普通の人間は、魔素と魔力の両方をもって生まれ、そのバランスで魔術を使うものなのに。フェルニアの男は、魔素を作る器官を退化させてまで魔力を作る器官を発達させ、逆に、フェルニアの女は、魔力を作る器官を退化させて、魔素を作る器官を発達させた。
なるほど、確かに、そんな魔素と魔力を混ぜた魔術は、一見他国より優れて見える。
だが所詮は共依存なしには成り立たないまやかしだ。
奇形的に増殖を続ける魔力の負荷で、神経が焼ききれそうでも、ミケに魔素を流されれば一瞬で癒えた。
王妃家系なのに、走り回っても食べても遊んでも幸せそうに笑い、くだらないことでぎゃん泣きし、脇目もふらず俺を好いてくれるミケの魔素は、暴力的なまでに心地良くて。
それは、ミケを好きだという気持ちを押し流してしまうのではないかと、恐怖を覚える程だった。
魔素に魅入られ、自分が自分でなくなっていくのではないかという恐怖。
ミケが嫌がろうが、弱っていようが、最悪、死んでしまおうが、魔素を吸い立てる異形になり果てる夢を見る。
めでたく恋人になれたところで共依存、ヘマを踏めば魑魅魍魎。
そんな風に、拗らせていたから。
魔素を求める魔力が神経を焼いてのたうち始め、発熱で倒れることがふえても、年齢的に魔素の取り込みが必要なのだと理解しながら、意地を張った。
魔力なんかいらないと押し込めて、そいつが腐り堕ちるのをひたすら待って。
魔素を流させろと鉢巻きを締めて突進してくるミケに、大人の女の方がいいと嘘をついた。
だからあの日。
魔術師が大挙して押し寄せた時、俺は、流石にティムマインの息子だと叫びたくなるほどに無能だったのだ。
爆風で飛ばされた先は、大き目の地面の裂けめで、30mほど先に、ミケがぶら下がっているのが見える。
体を振り子のように降って、地表に蹴上がろうともがく俺のそばを、チャドが『シェドは自分で上がれるわね?ミケちゃん引っ張っとくから早めに来て!』と叫んで駆け抜けて。
風に巻き上げられたガラクタが体にあたって少し時間をロスしたが、何とか地表にあがった途端、魔術師の槍が、ミケに覆いかぶさっているチャドごと、2人を貫いた。
自分の無様さに、吐き気がする。
体一つ浮かせられず、槍一本止められない。
駆け寄る間にも、ミケは、血をまき散らしながら暴れて、四方八方に魔素ばかり消費するへたくそすぎる治癒をとばしていた。
チャドにかけたいのに、動けず、それでも、諦められず。
泣き叫ぶミケは自分の体を顧みない。
やめろ。お前の命が、流れ出てしまう。
フロラインもやめなさいと叫ぶけれど、消耗した精霊の声は、今のミケには聞こえないのだろう。
俺が2人の側に膝をつき、槍の柄を抑え、チャドの体をもって引き上げると、チャドの口が少しだけ動いた。
声はないが、フロラインが通訳してくれる。
ミケをお願いって。あと、貴方に、大丈夫だから凹まないのよ、って言っているわ。
ただ、あー、ちょっとチャドが言うほど大丈夫じゃないから、分業しましょう。
チャドは私が引き受けるから、あなたミケをお願いね。
ミケを抱きかかえて、まだ結界が効いている家に飛び込んだが、治癒すらろくにできなくなった今の俺は、何をお願いされることが出来るのだろう。
必死で魔力が不安定でも発動できる術を考えている間にも、ミケが無茶をする。
ミケは両足が折れ、爪が裂けて、背中のやり傷からどくどくと血を流しているのに、自分に残った魔素を俺に流そうと暴れ、自分よりチャドを看ろと叫び、この惨劇は自分のせいだと錯乱する。
挙句の果てには、常軌を逸した魔素まわしで、折れた両脚を焼き落とそうとする。
完全に自分の生を放棄した行動だった。
王の無能の流れ弾を、なぜ、いちばん関係が薄いお前が引き受けようとする。あんな迷惑なだけの父親にミケを殺される位なら、俺が魔素ごと喰らってしまえばよかった。
死ぬな、死ぬな、死ぬな。
もう、それしか考えられなくなって。
自分の防御も生命維持も全部切って、5才の頃、よれよれの魔力でチャドにしたのと同じように、ミケを、南に向けて、跳ばしたのだ。
ミケを好きなこと位、自分でも分り切ったことで、チャドやフロラインどころか、そこら辺を駆けるパンダリスにさえばれていた気がするのに。
フェルニアの男女は、そろって奇形なのだと、フロラインは言う。
普通の人間は、魔素と魔力の両方をもって生まれ、そのバランスで魔術を使うものなのに。フェルニアの男は、魔素を作る器官を退化させてまで魔力を作る器官を発達させ、逆に、フェルニアの女は、魔力を作る器官を退化させて、魔素を作る器官を発達させた。
なるほど、確かに、そんな魔素と魔力を混ぜた魔術は、一見他国より優れて見える。
だが所詮は共依存なしには成り立たないまやかしだ。
奇形的に増殖を続ける魔力の負荷で、神経が焼ききれそうでも、ミケに魔素を流されれば一瞬で癒えた。
王妃家系なのに、走り回っても食べても遊んでも幸せそうに笑い、くだらないことでぎゃん泣きし、脇目もふらず俺を好いてくれるミケの魔素は、暴力的なまでに心地良くて。
それは、ミケを好きだという気持ちを押し流してしまうのではないかと、恐怖を覚える程だった。
魔素に魅入られ、自分が自分でなくなっていくのではないかという恐怖。
ミケが嫌がろうが、弱っていようが、最悪、死んでしまおうが、魔素を吸い立てる異形になり果てる夢を見る。
めでたく恋人になれたところで共依存、ヘマを踏めば魑魅魍魎。
そんな風に、拗らせていたから。
魔素を求める魔力が神経を焼いてのたうち始め、発熱で倒れることがふえても、年齢的に魔素の取り込みが必要なのだと理解しながら、意地を張った。
魔力なんかいらないと押し込めて、そいつが腐り堕ちるのをひたすら待って。
魔素を流させろと鉢巻きを締めて突進してくるミケに、大人の女の方がいいと嘘をついた。
だからあの日。
魔術師が大挙して押し寄せた時、俺は、流石にティムマインの息子だと叫びたくなるほどに無能だったのだ。
爆風で飛ばされた先は、大き目の地面の裂けめで、30mほど先に、ミケがぶら下がっているのが見える。
体を振り子のように降って、地表に蹴上がろうともがく俺のそばを、チャドが『シェドは自分で上がれるわね?ミケちゃん引っ張っとくから早めに来て!』と叫んで駆け抜けて。
風に巻き上げられたガラクタが体にあたって少し時間をロスしたが、何とか地表にあがった途端、魔術師の槍が、ミケに覆いかぶさっているチャドごと、2人を貫いた。
自分の無様さに、吐き気がする。
体一つ浮かせられず、槍一本止められない。
駆け寄る間にも、ミケは、血をまき散らしながら暴れて、四方八方に魔素ばかり消費するへたくそすぎる治癒をとばしていた。
チャドにかけたいのに、動けず、それでも、諦められず。
泣き叫ぶミケは自分の体を顧みない。
やめろ。お前の命が、流れ出てしまう。
フロラインもやめなさいと叫ぶけれど、消耗した精霊の声は、今のミケには聞こえないのだろう。
俺が2人の側に膝をつき、槍の柄を抑え、チャドの体をもって引き上げると、チャドの口が少しだけ動いた。
声はないが、フロラインが通訳してくれる。
ミケをお願いって。あと、貴方に、大丈夫だから凹まないのよ、って言っているわ。
ただ、あー、ちょっとチャドが言うほど大丈夫じゃないから、分業しましょう。
チャドは私が引き受けるから、あなたミケをお願いね。
ミケを抱きかかえて、まだ結界が効いている家に飛び込んだが、治癒すらろくにできなくなった今の俺は、何をお願いされることが出来るのだろう。
必死で魔力が不安定でも発動できる術を考えている間にも、ミケが無茶をする。
ミケは両足が折れ、爪が裂けて、背中のやり傷からどくどくと血を流しているのに、自分に残った魔素を俺に流そうと暴れ、自分よりチャドを看ろと叫び、この惨劇は自分のせいだと錯乱する。
挙句の果てには、常軌を逸した魔素まわしで、折れた両脚を焼き落とそうとする。
完全に自分の生を放棄した行動だった。
王の無能の流れ弾を、なぜ、いちばん関係が薄いお前が引き受けようとする。あんな迷惑なだけの父親にミケを殺される位なら、俺が魔素ごと喰らってしまえばよかった。
死ぬな、死ぬな、死ぬな。
もう、それしか考えられなくなって。
自分の防御も生命維持も全部切って、5才の頃、よれよれの魔力でチャドにしたのと同じように、ミケを、南に向けて、跳ばしたのだ。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる