ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

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36. ※裏切りの罰

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あたりまえのように、パチドの祈りは届かなかった。

今日、ミケは、逆らってはいけないラインを超えて、裏切り行為に出た。
懐いたように見せかけたのはこのためかと、頭に血が上る。

「ふざけるなよミケ、機密書庫でなにを探していた、答えろ!」
「ごめんなさい、怒らないでっ」

細めの革帯で両手を頭上で一つにくくり、ミケは既にベッドの木枠に括り付けてあった。
それだけでは飽き足らず、ミケが怖がる鎖を首に一周、腰に一周巻いてある。鎖の方はそうキツく巻いてあるわけではないが、鎖の転がる感触を怖がって暴れなくなるのだ。

『公妾』時代に鎖で両手首の肉がそげる程の拘束を受けていたせいでトラウマなのだろう。
自由を奪ったのは久しぶりだ。不安なはずだが、強情顔は崩れない。

「俺も、ずいぶんと、舐められたものだな。裏切っておいて怒るな、か?」

数週間を一緒に暮らしても、逃げる気配はなかった。それどころか、どんどん馴染んでくるので、嬉しくなって、ミケの自由をだんだんと広げていったところ、パチドの外出した隙をついて、ミケはこそこそと機密文書を探ったのだ。

自宅に保管してあるのは、機密とはいえ、重要度はそれほど高くないものがほとんどだが、フェルニアの残党あたりには垂涎のものもある。
俺の仕事部屋をあさるだけでなく、引出しの鍵まで開けた跡もあり悪質だった。

女の体に傷をつけるのは趣味ではないが、簡単に許す気もない。
どうやって傷をつけずに痛めつけてやろうかと考えていて、レンツを思い出した。
我ながら女を責め慣れている方ではないので、見たままぐらいしかバリエーションが浮かばないのだ。

だが、あの時、奴がミケの後ろに回るたびにミケは酷く怯えていた。
羽根で背中を責めていたのだと思う。

腰の鎖を片手で吊り上げると、ミケの背中と腰が浮く。
羽根だのスリングゴムだのの怪しげな道具は、ベッドの下にごちゃっと押しこんだままだ。羽根を引っ張り出して使おうとしたが、おもったより短く、今の自分の体勢を考えると、腕を差し込んでも、背中の真ん中まで届かなそうだ。
やむなく、刀の手入れに使う粉はたきを使うことにした。

吊り上げしまえばミケの背中は無防備だが、あおむけに吊ったため、背中側は見えない。やむなく、あてずっぽうに粉はたきでさすってみる。

しばらくさすり続けていると、肩甲骨の間あたりで、ミケがぎゅうっと反り返って、悲痛な声を上げる場所をみつけた。

「ぎゃぁあッ、ぎぅ、あひーっ」

酷く辛そうだが、粉はたきでなぜたぐらいで死ぬわけも無し、体に傷もつかないので、折檻に最適だとばかりに、続けざまに粉はたきでさする。

「がッ、嫌ッ、うううッ」

「あああ、痛いです!ごめんなさい!うああっ」

ミケが錯乱していくにつれて、立ち上っていく魔素。それが、どういう訳か、今日はずいぶんと濃い。
甘くて、甘くて、抗うことが困難なほど。

気が付くと、背を弄るのを中断し、たまらずに口づけていた。ミケの舌を強く吸い出し、自分の腔内に引き入れて舌を絡める。

驚いたことに、ミケは一生懸命俺に口を寄せて自分の舌を動かしながら、初めて大量の魔素を流し込んできた。あの掌から流していた魔素が嘘のような圧倒的な濁流。

どくん、と全身が震える。
五臓六腑どころか命そのものにしみわたるような、天から降る甘露。
意識が生まれて初めて知った、満たされるという感覚。

抑えなくミケの意志で流し込まれた魔素の威力は、無理矢理吸い取った時よりもはるかに強力で、パチドの理性を打ちのめした。
この女無しで先を生きていくことに恐怖を覚えるほどの、圧倒的な快楽。

このまま彼女の魔素に浸されていたいと思考が薄まっていく中、嫉妬で塗りこめられて聞くに堪えない自分の声が、頭に響く。

『こうやって、男を操って来たのか』

びくりと頭が動き、正気に返って鎖から手を離す。

ミケは「うっ」と呻いて、頭上で両手を結ばれたもとの姿勢のままベッドの上に落ちた。
どくどくと脈打って全身がうるさい。

「・・満足か?」

他の男と同じように、いとも簡単に俺を篭絡できて、満足か?

ミケは、何かを必死で追い求めているような、切羽詰まった目で俺をみていたが、しばらくして口からでた言葉は、「ごめんなさい」だった。
自分の罪を認めた訳だ。

快楽の残滓が神経をひっかいて、怒りが体を突き抜ける。
優しくしてやろうと何度も反省し、愛しいとすら思い始めていたミケを、ズタズタにする自分が脳裏に浮かぶ。

その激情の対象が、自分の目の前に、仕置きされて当然の裏切りをして、無力そのものの恰好で転がっているとは。

腹の鎖を引いてごろりとうつ伏せにしてみる。

肩甲骨の間には、翼をもがれたかのような傷跡が二つ並んでいる。
そうまじまじと見たことはなかったが、少し冷静になりたいのもあって、じっくりと検分する。

左側の痕は、比較的新しく、下手くそながら一応の治癒が施されている。治癒が施されたにしては少し赤みが強いように見えるが、傷口としてはふさがっている。
右側の傷に至っては完全に古傷だ。

だが、ミケの呼吸がひどく荒く、恐怖で肌が泡立っているのをみると、痛みは本物にちがいない。

どんなに責められても、パチドの気が済むまで受け続けるしかない無防備な状態で、背中の弱みをさらされ、あからさまに平静を欠いたパチドの責めを待つ。そんな緊張に耐えかねたのか、ミケは早くもしゃくり上げ始めた。
それに喜びを感じる程の残虐性が自分にあったことに驚きながら、口を開く。

「さぁ、再開しようか。口を割ろうが割るまいが、二度と裏切れないように、骨の髄まで躾てやる」

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