25 / 141
25. B・フロライン
しおりを挟む
「ちょっとぉ!いつから王家は、おばかさん祭りになったの?200年来の緩衝地である、このありがたーい魔の森に向かって、大砲ぶちかましてきたわよ!」
シェド達がこの森にすみ着いて1年。
はじめは儚げだった精霊は、ミケの魔素を吸ってどんどん元気になり、いまや、図太いといって過言でない。
「あったまきた!耳から手突っ込んで奥歯ガタガタいわせちゃる!」
そしてもう、言うことに至っては、どこのオバサンデスカと突っ込みたくなるほど、可憐でない。
「そんなおこらないで。ほら、鉄だよー。炉を補強して、焼き芋つくろ?」
「おい、ミケ、エプロンに大砲の玉をのせて歩くな」
のんきなミケと、オバサン化した精霊と、すっかり健康になったチャドと。
危機感の欠片もなく、今が幸せでたまらないと言う顔をする彼女らを、シェドは守りたいと思う。
今はまだ、貧民街の住民を牽制したくてたまに鉄の玉を飛ばしてくるくらいだけれど、エスカレートしないとも限らないし。
力が、欲しい。いや、ないと絶望的なのに。
シェドは、自分の力が落ちていくのを感じていた。
理由は、わかっているのだ。
魔素を取り込まないといけない年代になった。ただそれだけ。
「ミケちゃんと、いちゃいちゃすればぁ?ほら、ちょっとチューってしただけで、元気もりもりよぉ?」
びくっ。
ババァ・フロラインとでも呼びたくなる面構えの精霊が、耳元でささやく。
「12になったばかりのあの残念幼児と何しろって?」
シェドは、赤い顔で精霊をにらみつける。
「だってさぁ。200年前のご先祖たちも大失敗したのよ。フロラインが殺されて、すっごく後悔して。別にそこらのカブトムシみたく所かまわずエッチしろと言ってる訳じゃなし、いいじゃない、チューでも、ギューでも」
「うるせーよ」
狂妃と呼ばれるフロラインは、もとは南の出身だったらしい。
王国では敵将としか呼ばれず、フロラインと情をかわしたとして悪役固定のフィールも南の人間で、フロラインの弟だったそうだ。
ふたりとも精霊のいとし子で、よく魔の山で遊んでいた。
やがて、フロラインはフェルニアに捕獲される。
能天気だった南の国に比べると、そのころのフェルニア王国はぎすぎすしていた。
王の魔力の劣化が始まったころで、王国の系統の違う魔素体質の女をもとめて「狩り」にきていたわけだ。
ただまぁ、フェルニアで王子をしていたルードが、そこそこ気の利く男だったこともあり、フロラインをかろうじて慰み者にならないように守ったし、彼女に恋すらした。
だがやがて、冥界と人間界のバランスがかしいで天災が起こり、それはフロラインのせいにされてしまう。
フィールは苦労してフロラインを取り戻そうとしたけれど、その時にはもう遅かった。
ルードはフロラインを守り切れなかったし、フィールは間に合わなかった。
フロラインはフェルニアに殺され、灰は念入りに地下牢に封印された。
怒り狂って攻めあがったフィールは、封印された墓を解放し、灰をまいてフロラインを弔ったのだ。
ここ魔の森は、フロラインが良く遊び、殺され、灰がまかれた場所。
精霊はフロラインの魔素に惹かれてこの地に根付いたから、断固フロラインびいきだったし、思いやら灰やら願やらを吸収しまくった結果、フロラインに似てきてしまった。
南出身のチャドもどこかでフロラインの血を引いているらしく、8年前も、シェドがへたくそな転移で飛ばしたチャドを、フロライン化した精霊が辛くもキャッチして、かくまってくれたのだ。
チャドが悪く言わないフロラインを、ミケも絶対悪く言わないから、俺らがこの森に受け入れられるのは早かった。
そして今、精霊は、フロラインを見るような目で、ミケを見ていたし、自分自身がフロラインと呼ばれるのも喜んでいる。
シェド達がこの森にすみ着いて1年。
はじめは儚げだった精霊は、ミケの魔素を吸ってどんどん元気になり、いまや、図太いといって過言でない。
「あったまきた!耳から手突っ込んで奥歯ガタガタいわせちゃる!」
そしてもう、言うことに至っては、どこのオバサンデスカと突っ込みたくなるほど、可憐でない。
「そんなおこらないで。ほら、鉄だよー。炉を補強して、焼き芋つくろ?」
「おい、ミケ、エプロンに大砲の玉をのせて歩くな」
のんきなミケと、オバサン化した精霊と、すっかり健康になったチャドと。
危機感の欠片もなく、今が幸せでたまらないと言う顔をする彼女らを、シェドは守りたいと思う。
今はまだ、貧民街の住民を牽制したくてたまに鉄の玉を飛ばしてくるくらいだけれど、エスカレートしないとも限らないし。
力が、欲しい。いや、ないと絶望的なのに。
シェドは、自分の力が落ちていくのを感じていた。
理由は、わかっているのだ。
魔素を取り込まないといけない年代になった。ただそれだけ。
「ミケちゃんと、いちゃいちゃすればぁ?ほら、ちょっとチューってしただけで、元気もりもりよぉ?」
びくっ。
ババァ・フロラインとでも呼びたくなる面構えの精霊が、耳元でささやく。
「12になったばかりのあの残念幼児と何しろって?」
シェドは、赤い顔で精霊をにらみつける。
「だってさぁ。200年前のご先祖たちも大失敗したのよ。フロラインが殺されて、すっごく後悔して。別にそこらのカブトムシみたく所かまわずエッチしろと言ってる訳じゃなし、いいじゃない、チューでも、ギューでも」
「うるせーよ」
狂妃と呼ばれるフロラインは、もとは南の出身だったらしい。
王国では敵将としか呼ばれず、フロラインと情をかわしたとして悪役固定のフィールも南の人間で、フロラインの弟だったそうだ。
ふたりとも精霊のいとし子で、よく魔の山で遊んでいた。
やがて、フロラインはフェルニアに捕獲される。
能天気だった南の国に比べると、そのころのフェルニア王国はぎすぎすしていた。
王の魔力の劣化が始まったころで、王国の系統の違う魔素体質の女をもとめて「狩り」にきていたわけだ。
ただまぁ、フェルニアで王子をしていたルードが、そこそこ気の利く男だったこともあり、フロラインをかろうじて慰み者にならないように守ったし、彼女に恋すらした。
だがやがて、冥界と人間界のバランスがかしいで天災が起こり、それはフロラインのせいにされてしまう。
フィールは苦労してフロラインを取り戻そうとしたけれど、その時にはもう遅かった。
ルードはフロラインを守り切れなかったし、フィールは間に合わなかった。
フロラインはフェルニアに殺され、灰は念入りに地下牢に封印された。
怒り狂って攻めあがったフィールは、封印された墓を解放し、灰をまいてフロラインを弔ったのだ。
ここ魔の森は、フロラインが良く遊び、殺され、灰がまかれた場所。
精霊はフロラインの魔素に惹かれてこの地に根付いたから、断固フロラインびいきだったし、思いやら灰やら願やらを吸収しまくった結果、フロラインに似てきてしまった。
南出身のチャドもどこかでフロラインの血を引いているらしく、8年前も、シェドがへたくそな転移で飛ばしたチャドを、フロライン化した精霊が辛くもキャッチして、かくまってくれたのだ。
チャドが悪く言わないフロラインを、ミケも絶対悪く言わないから、俺らがこの森に受け入れられるのは早かった。
そして今、精霊は、フロラインを見るような目で、ミケを見ていたし、自分自身がフロラインと呼ばれるのも喜んでいる。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる