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22. 汚い大人とお粗末な落としどころ
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「シェドを次代の王とすることに反対しているのではない。だが、彼の魔力は大きすぎる。思うさま魔素を吸ったら今すぐにでも反乱できてしまうぞ。」
「平時は相性の悪い魔素で抑え、非常時のみ相性の良い魔素で覚醒させるしかなかろう。」
「そううまくいくか?必要な魔素も吸収できずに壊れるのではないか?」
「いやあれほどの器だ。壊れはすまい。抑え込むことを考えたほうが良かろう。」
「ミケの方はどうする。王妃として鍛えて魔素を生ませるのか?それとも魔素のみ搾り取りこちらで管理するのか?」
「なるほど、先に絞り切るのか。それは妙案かもしれん。シェドに必要な魔素を我々の管理下にストックして置けばシェドの状態も管理できる。」
「しかし、魔素の保存にも限度があるぞ。」
「ミケ以外に相性の良い魔素をもつ愛妾を探せば済む。もう少し扱いやすい者がいるだろう。」
「相性が良いだけの魔素と鍛えられた王妃の魔素とは雲泥の差だろうが。近隣国に英傑が出たら何とする。」
「ミケは捕らえた状態で生かしておいて、強制的に修練にかけてから、魔素を搾り取るべきでは?」
「堂々巡りだ!鍛えた後のミケが敵の手に渡ったら、我が国の武器がすべて彼女の言うことを聞きかねんのだぞ。狂妃の再来だ!」
「それほど不安なら、ふたりまとめて消すか?・・・そう思っているのだろう?アドリス」
王の声に、喧々諤々だった場に静寂が落ちる。
場を振られたアドリスは、伏せがちな目で、心持ち頭をさげた姿勢で口を開いた。
「・・・思って、おります。」
「つづけろ」
「シェドは、はじめて合う魔素を吸ったのです。ミケに執着するかと。彼女の不遇を知れば黙ってはおりますまい」
「だろうな。王自身が至高の武器だ。『我が国の武器がすべて彼女の言うことを聞きかねん』のだろう?シェドが真っ先に聞く」
「はい。魔素の質が合うのみなら好都合のはずでした。ミケを質にシェドを管理すれば済む。しかし、ミケは単独で宝剣をもねじ伏せた。宝剣がシェドを主としたがったにもかかわらず、それを、ねじ伏せたのです。彼女は燃料ではない。危険な武器です。王妃にも、愛妾にも、人質にも、向きません」
「そうだな。向くものがあるとすれば、王か、敵、といったところか」
「はい。ゆえに、ミケは消すべきです」
「それが、シェドも消す理由になるか?」
「シェドが、ミケの消却に同意できるならば、なりません。しかし私には、シェドがミケの魔素にすでに執着があるように見えました。彼は、ミケに不遇を強いたものを、すなわち国を、憎むようになります」
「要は、魔道具にすらそっぽを向かれたこの王は、10歳そこそこの女童が怖くて、息子ごと殺すわけか」
「申し訳、ありません」
「いや、間違っておらぬ。それに、二度目だしな。引き返せる時期はとうに過ぎた」
王とアドリスの間では結論が出たようだが、他の三人はかなりざわついている。
今のところ、近隣国との間に戦の気配はなく、国内は豊作、疫病も出てはいない。
平時であれば、国を治めるのに大きな魔力は必要とされない。
王に、民衆の信仰対象となるレベルの魔力があること、次代に引き継ぐまで壊れず、王妃の魔素を御せること、それで足りるのだ。
ヒューゴどころか、ルイスレベルの魔力ですら、なにも困りはしない。
「で、では、次代の王と王妃は、いかがいたしますか。ヒューゴとライラでよろしいでしょうか?」
「ああ、どれでもよかろう」
王は自嘲気味にそう答えると、アドリスを従えて部屋を後にした。
教育キャンプの責任者も、嬉しそうにいそいそと席を立つ。ヒューゴとライラの家から褒美のひとつももらえるのかもしれない。
残ったのは、宰相と元帥のみだ。
「なんともお粗末な落としどころだな」
「まったくだ。平時に慣れ過ぎだ。王の腕輪がはずれ、宝剣が修練もしていない14の子どもにひれ伏したのだぞ?どれだけ王の魔力が衰えているのか考えるだけで恐ろしいわ」
「それでも、国は平和なのだ。平地に乱を起こすわけにもいくまい?」
「乱を起こすつもりなどない。有事にも備えるべき、と言っているだけだ」
「わかっている。だが、案があるのか?」
「アドリスは、シェドのミケへの執着を確信している。1度吸っただけでとらわれる程
あの女の魔素は旨いと思うか?」
「旨いとどうなる。お前が吸うか?」
「ひそかに捕らえて、いくつかの名家の共有財産にする。国で召し上げて複数の当主に愛妾として共有させればよい」
「ほう!干からびるまで吸わせるわけか。共有地の悲劇、だな。うまい手だ。ヒューゴが次代に決まれば、脱落したホルヘ家は絶対に乗るし、侯爵家が乗ればあとは芋蔓だ。名家の当主はヒヒジジイが多いからな!」
「特別に旨い魔素ならどんな手を使っても奴らは囲いつづける。他の家より多く魔素を得ようと限界まで搾取するから、ミケが立つ暇などない」
「守りも固まる、か。お互いミケを殺さぬように牽制し合いながら、敵味方問わず奪いに来るものは全てなぎ倒すだろうな。シェドには取り戻せん。まぁ、10歳児がどれほどもつかはわからんが」
「どちらでも良い。もたぬほど吸いつくした時には、各家当主の魔力は増しているはずだ。有事に自分が前に出たいと思う程度にはな。逆にミケが弱ったままでももつのなら、折を見てシェドの質に使うこともできよう」
「なるほど。流石に元帥殿は策士だ。その話、乗った。キャンプの者が寝入り次第、ミケをさらって隠す」
「決まりだな。私はアドリスが先走らぬように牽制するとしよう」
「平時は相性の悪い魔素で抑え、非常時のみ相性の良い魔素で覚醒させるしかなかろう。」
「そううまくいくか?必要な魔素も吸収できずに壊れるのではないか?」
「いやあれほどの器だ。壊れはすまい。抑え込むことを考えたほうが良かろう。」
「ミケの方はどうする。王妃として鍛えて魔素を生ませるのか?それとも魔素のみ搾り取りこちらで管理するのか?」
「なるほど、先に絞り切るのか。それは妙案かもしれん。シェドに必要な魔素を我々の管理下にストックして置けばシェドの状態も管理できる。」
「しかし、魔素の保存にも限度があるぞ。」
「ミケ以外に相性の良い魔素をもつ愛妾を探せば済む。もう少し扱いやすい者がいるだろう。」
「相性が良いだけの魔素と鍛えられた王妃の魔素とは雲泥の差だろうが。近隣国に英傑が出たら何とする。」
「ミケは捕らえた状態で生かしておいて、強制的に修練にかけてから、魔素を搾り取るべきでは?」
「堂々巡りだ!鍛えた後のミケが敵の手に渡ったら、我が国の武器がすべて彼女の言うことを聞きかねんのだぞ。狂妃の再来だ!」
「それほど不安なら、ふたりまとめて消すか?・・・そう思っているのだろう?アドリス」
王の声に、喧々諤々だった場に静寂が落ちる。
場を振られたアドリスは、伏せがちな目で、心持ち頭をさげた姿勢で口を開いた。
「・・・思って、おります。」
「つづけろ」
「シェドは、はじめて合う魔素を吸ったのです。ミケに執着するかと。彼女の不遇を知れば黙ってはおりますまい」
「だろうな。王自身が至高の武器だ。『我が国の武器がすべて彼女の言うことを聞きかねん』のだろう?シェドが真っ先に聞く」
「はい。魔素の質が合うのみなら好都合のはずでした。ミケを質にシェドを管理すれば済む。しかし、ミケは単独で宝剣をもねじ伏せた。宝剣がシェドを主としたがったにもかかわらず、それを、ねじ伏せたのです。彼女は燃料ではない。危険な武器です。王妃にも、愛妾にも、人質にも、向きません」
「そうだな。向くものがあるとすれば、王か、敵、といったところか」
「はい。ゆえに、ミケは消すべきです」
「それが、シェドも消す理由になるか?」
「シェドが、ミケの消却に同意できるならば、なりません。しかし私には、シェドがミケの魔素にすでに執着があるように見えました。彼は、ミケに不遇を強いたものを、すなわち国を、憎むようになります」
「要は、魔道具にすらそっぽを向かれたこの王は、10歳そこそこの女童が怖くて、息子ごと殺すわけか」
「申し訳、ありません」
「いや、間違っておらぬ。それに、二度目だしな。引き返せる時期はとうに過ぎた」
王とアドリスの間では結論が出たようだが、他の三人はかなりざわついている。
今のところ、近隣国との間に戦の気配はなく、国内は豊作、疫病も出てはいない。
平時であれば、国を治めるのに大きな魔力は必要とされない。
王に、民衆の信仰対象となるレベルの魔力があること、次代に引き継ぐまで壊れず、王妃の魔素を御せること、それで足りるのだ。
ヒューゴどころか、ルイスレベルの魔力ですら、なにも困りはしない。
「で、では、次代の王と王妃は、いかがいたしますか。ヒューゴとライラでよろしいでしょうか?」
「ああ、どれでもよかろう」
王は自嘲気味にそう答えると、アドリスを従えて部屋を後にした。
教育キャンプの責任者も、嬉しそうにいそいそと席を立つ。ヒューゴとライラの家から褒美のひとつももらえるのかもしれない。
残ったのは、宰相と元帥のみだ。
「なんともお粗末な落としどころだな」
「まったくだ。平時に慣れ過ぎだ。王の腕輪がはずれ、宝剣が修練もしていない14の子どもにひれ伏したのだぞ?どれだけ王の魔力が衰えているのか考えるだけで恐ろしいわ」
「それでも、国は平和なのだ。平地に乱を起こすわけにもいくまい?」
「乱を起こすつもりなどない。有事にも備えるべき、と言っているだけだ」
「わかっている。だが、案があるのか?」
「アドリスは、シェドのミケへの執着を確信している。1度吸っただけでとらわれる程
あの女の魔素は旨いと思うか?」
「旨いとどうなる。お前が吸うか?」
「ひそかに捕らえて、いくつかの名家の共有財産にする。国で召し上げて複数の当主に愛妾として共有させればよい」
「ほう!干からびるまで吸わせるわけか。共有地の悲劇、だな。うまい手だ。ヒューゴが次代に決まれば、脱落したホルヘ家は絶対に乗るし、侯爵家が乗ればあとは芋蔓だ。名家の当主はヒヒジジイが多いからな!」
「特別に旨い魔素ならどんな手を使っても奴らは囲いつづける。他の家より多く魔素を得ようと限界まで搾取するから、ミケが立つ暇などない」
「守りも固まる、か。お互いミケを殺さぬように牽制し合いながら、敵味方問わず奪いに来るものは全てなぎ倒すだろうな。シェドには取り戻せん。まぁ、10歳児がどれほどもつかはわからんが」
「どちらでも良い。もたぬほど吸いつくした時には、各家当主の魔力は増しているはずだ。有事に自分が前に出たいと思う程度にはな。逆にミケが弱ったままでももつのなら、折を見てシェドの質に使うこともできよう」
「なるほど。流石に元帥殿は策士だ。その話、乗った。キャンプの者が寝入り次第、ミケをさらって隠す」
「決まりだな。私はアドリスが先走らぬように牽制するとしよう」
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