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20. もみ消せる限度

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今度という今度は。闇に葬るなど無理だった。

教育キャンプの魔道具は現実を録画した挙句、シェドの魔力量として歴代最高を記録した。
無能と言えど教育キャンプの教師は10人を超える。
子どもと言えど、目撃者は名門貴族の子弟たちだ。

シェドの魔力量については、王と側近たちからすれば想定の範囲内と言えなくもない。
だが、なんだあの少女は。

アドリスが膝をつかざるを得なかったのは、宝剣が持ち上がらなくなったからだ。
王が腕輪を落としたのは、腕輪がどうしてもシェドに触れたがって暴れたからだ。
王家に伝わる最高峰の魔道具だ。当然意志がある。

それを何食わぬ顔で拾い上げ、びびらせ、だまらせ、教室に忘れたハンカチのごとき気軽さで落とし物扱いしたあの少女。

魔素の量は多い事は見ただけでわかった。
だが、シェドに流した量は微々たるもので。
知っているのだ。シェドが他人の魔素を嫌う事も、ほんの少しの量でシェドが回復することも。
ついでに言うなら、ミケという少女は自分の能力をアピールする気はなかった。
子どもの浅知恵で悪手を積み重ねて目立ちまくっただけだ。

まともな教育を受けられたとも思えない貧乏貴族。
自他とも認める末席の末席。
金に飽かせて鍛え上げた16才程の名家子弟でも壊れる者が続出する過酷な教育キャンプだ。
そこに、家が禄をもらい続けるためだけに、何の準備もできていない11の娘を生贄に出したのだと親の陰口が回る程度で、彼女の能力自体は全く知られていなかった。

会議のテーブルを囲んだのは5人。王と、教育キャンプの責任者と、アドリスと、元帥と、宰相。
皆無言だ。

真っ当な方向で行くとすれば選択肢は2つ。
今日の諸々をなかったことにするか、シェドとミケを次代の王と王妃にするか。

今日をなかったことにしても、本人たちに不満はあるまい。むしろ隠したがっている。
他も名家の子弟しか残っていなかったから、プライドにかけて黙っているだろう。だがそれは、最大の戦力を国内に野放しにすることだ。

次の案のシェドとミケを次代の王と王妃にするということは、選ばれた事情を説明することだ。
確かに彼らの能力を公にすれば彼らを選ぶことになんの異論も出まい。が、短時間とはいえ、今の王が腕輪の加護を失い、近衛隊長が宝剣に見捨てられるほどの能力となると話が違ってくる。国が割れるかもしれないし、彼らが成長しきる前にと、戦を仕掛けてくる国があっても不思議ではない。

ミケに至ってはあの幼さと残念な頭に王妃教育など施して大丈夫か。
王妃として鍛え上げられた魔素は武力そのものだ。涙の一滴、髪の毛の一筋、血肉のひとかけらとて、敵に渡すわけにはいかない。

200年ほど前に、敵の将と情をかわした王妃がいた。狂妃フロラインと呼ばれる。
当然粛清され、肉片も残らぬように燃やし尽くされ。灰は、墓所とは名ばかりの山奥に作られた地下牢に封印された。

だが、フロラインも大人しくやられるがままではいなかった。
彼女は粛清される直前、自分の髪を編み込んだ下げ緒を敵の将に送っていた。その下げ緒をつけた刀を守りにした敵将の強さは異常だった。
瞬く間に王国の南半分を奪ってフロラインの墓所になだれ込んだのだ。

我が国にとってどれだけ迷惑であっても、狂妃フロラインと敵将の間の情は真実の愛と呼ばれうるものだったのかもしれない。

敵将はフロラインの墓所から封印をはずし、灰を彼女が好きだったベルフラワーの群生地にまくと、満足したのか進行をやめた。
だが、奪われた南の土地は二度と王国に戻っては来なかったし、墓所のあった山は魔の森となり、我が国と敵将の国を遠く隔てた。

魔力の強い人間は、我が国にだけ生まれるわけではない。
王は、強力な王妃の魔素を得てこそ他国を圧倒できる。
だが同時に、王妃の魔素は、汎用性が高すぎるのだ。
他国に奪われれば、何の枷もなく他国の魔術師を利する。

諸刃の剣なら二方向にしか刃がついていないからまだマシだ。王妃の魔素は360度どこを向いても力を出す。

強い感情は内容が何であれ強い魔素を産むし、特定の人間を愛したりすれば未曾有の力を発揮しかねない。愛情も恨みも残さず苗床にして大輪の花を咲かせるが、それが我が国の益になるかは王妃の心の傾きひとつ。
下手に恋愛体質の王妃などが誕生した日には、恐ろしくて外遊にすら出せない。

だから、初めに戻るわけだ。
あの小さな頭に王妃教育など施して大丈夫か。
至高の魔道具すらねじ伏せたミケの魔素と、シェドの魔力に不満はない。ミケがシェドにあった魔素が流せるならばそれもめでたいことだ。だが、感情の安定という王妃の資質を見極めるには幼すぎる。
王妃教育で力を得た後、色ボケられたりした日には、即、狂妃フロラインが再誕する。

堂々めぐる会議は、夜が更けるまで続いた。
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