ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

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19. 魔道具の造反

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ミケという少女が進み出て、シェドの手を取った途端、鍔鳴りが止んだ。
彼女から魔素が流れ、シェドに吸い込まれていった。
空気がわらった、アドリスはそう思った。

その後に起こったことは、思い出したくもない。
アドリスの剣が、飛んだのだ。
吹っ飛んだのではなく、ふわりと飛んだ。
剣を握り込んでいたアドリスごと。

そして、赤い顔のシェドと、どや顔のミケの前に、降りた。
剣を離せなかったアドリスは、あろうことか守るべき王の前を離れ、シェドとミケの前に膝をついたのだ。



・・・なにしてくれちゃうかな、このオジサンは。
剣に引き寄せられるように、シェドの前に膝をついたアドリスをみて、ミケの目は点になった。

シェドに振り払われて、次の相手に替わる。教室ではよくある風景だ。
この先はライラに譲らないと色々まずいので、さっさと下がりたいのに、ミケが下がろうとすると、剣が床を滑るようにミケの前に滑り込む。
それに引きずられて、アドリスが拝礼とでもいう姿勢をミケにさらすことになる。

なに、その剣、もち上んないわけ?
も、剣離せば?

行動を迷うミケの耳に、ごとりと重い音が響く。

げ、王の腕輪まで、ティムマイン王からはずれて落ちた。
しかも、王の後ろの人が拾おうとしたら、シェドの方に転がっていくではないか。

これ、王の証じゃないの?
衆人環視のなかではずれるとか、まずくない?
シェドを盗み見ると、あーあ、と言わんばかりの顔で目を覆っている。

わ、私のせい?
目立たずシェドをケアして点数稼ぐつもりがやらかした?
やだやだやだやだ、シェドにきらわれるーーー。

魔道具が悪いとばかりに、腕輪に向かってしっしと、かるく人差し指をうごかしてドツボにはまる。

パン、パパパン

と軽く弾ける音がして、教室中の魔道具が暴れた。
最悪だったのは、計測器。
これまでシェドがごまかしてきたと言うのに、武力属性から治癒属性から創造属性に至るまで、すべての針が最高値を超えて振り切れた。

アドリスが王の腕輪を拾い上げようとして、剣に縫い留められたままもがいている。
その間にも腕輪はシェドに向かって転がって。

ちょっとそこの腕輪!あんた、勝手にシェドにはまってピカピカ光ったりする気じゃないでしょうねぇ?
シェドは力隠したいんだってば。
やーめーてー。

後から考えると、もう遅いと気付くのが遅いあたり、10歳児といわれて反論できない残念さなのだが、勢いのままに傷口を広げる。

ミケは、剣と腕輪をさくっと拾いあげた。
そのまま流れるような動作で、剣は脇に、腕輪は顎にはさんで、両手でアドリスを引っ張りあげ、王の方に向かってどつく。

タマシイが抜けた顔で、たたらを踏んで王のそばに戻ったアドリスの前で、ミケはさっきまでずさんにアゴだの脇だのにはさんでいた腕輪と剣を恭しく差し出した。

恐ろしい程に完璧なポーカーフェイスで、かましたセリフは、
「落ちました、よ?」
うそをつけ、うそを。

その後ミケは、さらに教室の測定器をにらみつけて黙らせ、お後がよろしいようでとばかりにライラの後ろへと引っ込んだのだ。

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