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13. ミケを探して風に溶ける
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「おい、ミケがついに壊れたらしいぞ」
他の奴らの陰口を風が運んできて、固まる。
「地下牢に、鎖三重で入れられたらしい。相当苦しんで足を引っ張ったみたいで、健が傷ついて足首ぷらぷらなのに、治療しようとしたら、笑いだしたって」
足首ぷらぷら?
あの後、潮が引く前に、ミケは俺の足の上で寝始めたから、潮が引いた後、そおっと鎖の中に足を戻した。
さすがにゆるゆるだと一回はずしたのがばれるから、少しは締めたが、健だけは先に俺が治癒したし、ミケ本人の魔素を引っ張って、教師どもにバレないレベルに麻酔もかけた。
俺が出された時にはミケはまだ寝ていたから定かではないが、足首ぷらぷらになる程、酷くはなかったはずだ。
もうひと晩入れられたとか?
まさかな。それじゃぁ、ほぼ殺人だ。
そこまでやらないとは思うが、教師たちはもう一人二人壊したいらしく、ミケの家に力がなさすぎてスケープゴート向きなので一抹の不安は残る。
教師たちがもう一人二人壊したい理由は、かなり初期に壊れたのが、名門中の名門な王の血統だったせいだろう。侯爵家の16才、ルイス・ボルへ。
前評判が高く、本人のプライドも高かったが、いかんせん徒党を組んで、庶子系や貧乏貴族の子弟を狩りにかかるので、面倒になって俺が潰してしまった。
まぁ、教育キャンプ自体がデスゲームだから、早めに人数を減らしたいルイスの気持ちはわからなくもない。が、露骨すぎたし、俺やミケの迷惑は相当なもので。
ミケがさっさと脱落したがったなら、俺らの方が先にでていっても良かったのだが、いかんせんミケは禄の額を気にして最後まで残る気でいる。
次代が決まるまでキャンプに残っていれば、将来性を見込まれて、家族が受け取る禄が倍になるからだ。
ルイスは、修練中に組手のふりをして、俺に毒物をぶち込んできた。それをそのまま奴の体に転送したら、全身から血を吹いて倒れた。
流石に死んだら困るので、自動的に増血するようにしてやった。
俺としては親切心だったのだが、教室が血のプールになり、机の上まで床上浸血。
本人が錯乱して、自分の頸動脈とか大きい血管を死ぬ寸前まで魔力で締めまくったせいで、魔道具に自殺判定されてリタイアになった。
俺のせいだとはバレてはいない、はずだ。本人以外にはだが。
おまけに、図々しいやつだし、ちょっと休めば治るだろう。壊れずにリタイアできたなら感謝されてもいいくらい、というか、俺だったらめちゃくちゃ喜ぶが、侯爵家のプライド的には不味かったらしい。
ルイスのメンタルが弱かったわけじゃないと示したいのか、教師たちが積極的に弱った奴らを潰しに来る。
特に弱めの家の子弟は露骨に理不尽な罰にさらされるし、リンチになろうが黙殺される。
仕事なのだから、大人しく優秀と思うやつを選んでいればいいものを。
そんな訳で、いまや、庶子系の俺と、貧乏系のミケ以外は、侯爵家に腰ぎんちゃくな名門貴族の子弟しか残っていない。
それでもこれまで自殺系判定されたのはルイスだけだからか、教師たちはあわよくばミケでと思っているフシがある。
こんな恣意的な選抜方法で、王と王妃決めてダイジョブか、この国。
流石、ティムマインを王にしただけのことはある。
ため息をつきながら、体を風に溶かして、ミケを探す。
医療室で、ふくらはぎに包帯をまかれて、一応ベッドはある独房にいるのをみつけた。
で。ほんとに笑いそうだ、この阿保。
小窓の隙間から独房の中に入る。
「お前な、もうちょっと弱ったふりしとけよ」
そう口を開くと、ミケはきっちり顔を俺の方に向けた。
風に溶けて来たので、姿は見えず、かすかな声しか届いていないはずなのだが。コイツは何故だかすぐに気づく。
「いらっしゃい、シェド。も、なにあの置き土産、治療中に噴き出すとこだったよ」
今も口元が波打っている。
「ああ、麻酔の解説か?」
「それよ!医者が足をひねったり引いたりするたびに『痛さの度合いは、タンスの隅に時相20kmで小指をひっかけたレベル』とか、『ワニ蟻15センチに噛まれたレベル』とか、頭に浮かぶやつ!具体的なのに全然わからなくて吹くかと思った!」
「いや、だって、おまえ、あの傷で全然痛そうにしないのもマズイだろ」
「笑う方がまずいよぉ」
「だから、笑うなって」
ひとしきりニパニパした後、ミケは表情を改めた。
「あ、そういえば笑えない情報もあったよ。王と近衛が視察に来るって」
ミケは、その規格外の魔素で、相手のごく表層の思考を読むことがある。
触りまわすみたいな感覚がして相手にバレるのであまりつかわないが、情報は確かだ。
「・・・最悪だな」
ここの教師ぐらい魔力量が低ければ何とでもごまかせるし、ここの魔道具は安ものでそれぞれ穴があるから慣れてくれば誤魔化しようはある。が、魔力が高いうえに、そこそこ警戒心もある王や近衛はそうはいかない。
手抜きまくり、罰かわしまくりの俺らにとっては鬼門だ。
「ねー。も、ライラとヒューゴでいいから決めてくんないかなぁ」
ミケは遠慮なく、最悪のスジを出してくる。
プライドで認知が歪んだ二人組だ。勘弁してほしい。
「せめて、ロイスとカリンあたりに落ち着けないと、国の先が不安だぞ」
この2人は、まともだと思う。魔力も高いし、話も通じる。それにたぶん二人は両思いだ。
「あはは。そんな国ならいいけどねー。ロイスもカリンもヒューゴの家に援助受けているでしょう?押しのけたくないんじゃない?」
「その理屈で行くと、のこり全員アウトだろ。セリもクルトも、家格的にはヒューゴの劣位だぞ」
今残っているのは、俺とミケを入れて8人。女4、男4。
名門=しがらみもち、なので、家格を考慮するなら、庶子系や新興系が追い出された時点で詰んでいる。
「ライラは、ヒューゴより、シェドがいいみたいよ?」
「俺を殺す気か!」
「セリもさ、シェドに色目使って来るよね」
「そんなものを使われた覚えはない!干物になるまで吐くぞ」
「カリンならいい?」
「だから、俺を王候補に配置するな!王妃の魔素取り込めない王とか、国のシステム丸ごとちゃぶ台返しだわ!」
他の奴らの陰口を風が運んできて、固まる。
「地下牢に、鎖三重で入れられたらしい。相当苦しんで足を引っ張ったみたいで、健が傷ついて足首ぷらぷらなのに、治療しようとしたら、笑いだしたって」
足首ぷらぷら?
あの後、潮が引く前に、ミケは俺の足の上で寝始めたから、潮が引いた後、そおっと鎖の中に足を戻した。
さすがにゆるゆるだと一回はずしたのがばれるから、少しは締めたが、健だけは先に俺が治癒したし、ミケ本人の魔素を引っ張って、教師どもにバレないレベルに麻酔もかけた。
俺が出された時にはミケはまだ寝ていたから定かではないが、足首ぷらぷらになる程、酷くはなかったはずだ。
もうひと晩入れられたとか?
まさかな。それじゃぁ、ほぼ殺人だ。
そこまでやらないとは思うが、教師たちはもう一人二人壊したいらしく、ミケの家に力がなさすぎてスケープゴート向きなので一抹の不安は残る。
教師たちがもう一人二人壊したい理由は、かなり初期に壊れたのが、名門中の名門な王の血統だったせいだろう。侯爵家の16才、ルイス・ボルへ。
前評判が高く、本人のプライドも高かったが、いかんせん徒党を組んで、庶子系や貧乏貴族の子弟を狩りにかかるので、面倒になって俺が潰してしまった。
まぁ、教育キャンプ自体がデスゲームだから、早めに人数を減らしたいルイスの気持ちはわからなくもない。が、露骨すぎたし、俺やミケの迷惑は相当なもので。
ミケがさっさと脱落したがったなら、俺らの方が先にでていっても良かったのだが、いかんせんミケは禄の額を気にして最後まで残る気でいる。
次代が決まるまでキャンプに残っていれば、将来性を見込まれて、家族が受け取る禄が倍になるからだ。
ルイスは、修練中に組手のふりをして、俺に毒物をぶち込んできた。それをそのまま奴の体に転送したら、全身から血を吹いて倒れた。
流石に死んだら困るので、自動的に増血するようにしてやった。
俺としては親切心だったのだが、教室が血のプールになり、机の上まで床上浸血。
本人が錯乱して、自分の頸動脈とか大きい血管を死ぬ寸前まで魔力で締めまくったせいで、魔道具に自殺判定されてリタイアになった。
俺のせいだとはバレてはいない、はずだ。本人以外にはだが。
おまけに、図々しいやつだし、ちょっと休めば治るだろう。壊れずにリタイアできたなら感謝されてもいいくらい、というか、俺だったらめちゃくちゃ喜ぶが、侯爵家のプライド的には不味かったらしい。
ルイスのメンタルが弱かったわけじゃないと示したいのか、教師たちが積極的に弱った奴らを潰しに来る。
特に弱めの家の子弟は露骨に理不尽な罰にさらされるし、リンチになろうが黙殺される。
仕事なのだから、大人しく優秀と思うやつを選んでいればいいものを。
そんな訳で、いまや、庶子系の俺と、貧乏系のミケ以外は、侯爵家に腰ぎんちゃくな名門貴族の子弟しか残っていない。
それでもこれまで自殺系判定されたのはルイスだけだからか、教師たちはあわよくばミケでと思っているフシがある。
こんな恣意的な選抜方法で、王と王妃決めてダイジョブか、この国。
流石、ティムマインを王にしただけのことはある。
ため息をつきながら、体を風に溶かして、ミケを探す。
医療室で、ふくらはぎに包帯をまかれて、一応ベッドはある独房にいるのをみつけた。
で。ほんとに笑いそうだ、この阿保。
小窓の隙間から独房の中に入る。
「お前な、もうちょっと弱ったふりしとけよ」
そう口を開くと、ミケはきっちり顔を俺の方に向けた。
風に溶けて来たので、姿は見えず、かすかな声しか届いていないはずなのだが。コイツは何故だかすぐに気づく。
「いらっしゃい、シェド。も、なにあの置き土産、治療中に噴き出すとこだったよ」
今も口元が波打っている。
「ああ、麻酔の解説か?」
「それよ!医者が足をひねったり引いたりするたびに『痛さの度合いは、タンスの隅に時相20kmで小指をひっかけたレベル』とか、『ワニ蟻15センチに噛まれたレベル』とか、頭に浮かぶやつ!具体的なのに全然わからなくて吹くかと思った!」
「いや、だって、おまえ、あの傷で全然痛そうにしないのもマズイだろ」
「笑う方がまずいよぉ」
「だから、笑うなって」
ひとしきりニパニパした後、ミケは表情を改めた。
「あ、そういえば笑えない情報もあったよ。王と近衛が視察に来るって」
ミケは、その規格外の魔素で、相手のごく表層の思考を読むことがある。
触りまわすみたいな感覚がして相手にバレるのであまりつかわないが、情報は確かだ。
「・・・最悪だな」
ここの教師ぐらい魔力量が低ければ何とでもごまかせるし、ここの魔道具は安ものでそれぞれ穴があるから慣れてくれば誤魔化しようはある。が、魔力が高いうえに、そこそこ警戒心もある王や近衛はそうはいかない。
手抜きまくり、罰かわしまくりの俺らにとっては鬼門だ。
「ねー。も、ライラとヒューゴでいいから決めてくんないかなぁ」
ミケは遠慮なく、最悪のスジを出してくる。
プライドで認知が歪んだ二人組だ。勘弁してほしい。
「せめて、ロイスとカリンあたりに落ち着けないと、国の先が不安だぞ」
この2人は、まともだと思う。魔力も高いし、話も通じる。それにたぶん二人は両思いだ。
「あはは。そんな国ならいいけどねー。ロイスもカリンもヒューゴの家に援助受けているでしょう?押しのけたくないんじゃない?」
「その理屈で行くと、のこり全員アウトだろ。セリもクルトも、家格的にはヒューゴの劣位だぞ」
今残っているのは、俺とミケを入れて8人。女4、男4。
名門=しがらみもち、なので、家格を考慮するなら、庶子系や新興系が追い出された時点で詰んでいる。
「ライラは、ヒューゴより、シェドがいいみたいよ?」
「俺を殺す気か!」
「セリもさ、シェドに色目使って来るよね」
「そんなものを使われた覚えはない!干物になるまで吐くぞ」
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