ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

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9. ルカとミケの牢での再会

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「俺は、にげろっつったよなぁ?」

ルカは、ミケに魔素を流されながら、自分の魔力を「使われて」手を治癒するという珍しい体験をしながら、文句を垂れる。

「あたしも、逃げろと言ったでしょうが。子どもが国のしりぬぐいとか、ばかなの?ヤングケアラーなの?おせっかいすぎ」

「俺、あんたの『愛人』だったぞ、子ども呼ばわりすな!」

「逆でしょおが。いやそもそもあんたなんて愛人じゃないわよ、せいぜい弟よ、弟!」

「え・・若い方が愛人なんじゃないのか?ミケっていくつ?」

「18、だけど、たぶんその愛人の定義、違うし」

「うわ、そんなに年?」

「しつれーな愛人だな。だから弟って言ったのに。はいはい、旦那様。体中血だらだらでもまだ血気盛んとか、脳が線維芽細胞でできている並みにお若いですね」

「・・・ミケ、性格変わってないか?口撃が3倍速とか。なんか楽しいぞ」

「元気ねー。そんなに気力あるなら逃げられたわよ」

「無理そうだったから、ミケに酷い事したジジイを殴る方優先した。死ぬ前くらい褒めくれてもいいんだぜ?」

そのジジイことアドリスをどう殴ったか身振りで再現するルカに、ヘビだのトカゲだととってきて自慢する猫の幻影が見える。

「いらないわよ。ばか?」

「ひでぇ。逃がした仲間が王都離れるまでの時間稼ぎも・・・ってか、え、なんで俺こんなにしゃべれてるの?これ死ななくない?どんな治癒した?!」

「いまさらか。おおばか?」

「おおばかは、ミケだよ!こんな治癒できる程器用なら余裕でにげられただろぉ?!」

「探し物があったのよ。で、みつけたし。どっこもばかじゃないわよ」

そうだ、みつけた。
シェドの気配。パチドの中にはシェドのパーツが使われている。間違いない。

「うわ、ばかは俺か。生きるなら利き手潰されちゃマズイ・・って動くぅ⁈」

ばかな弟程可愛い・・・かもしれない。

ルカは踏みつぶされたはずの右手をグーパーし、さすり、手首にまかれた細い紐に気づく。

「なに、コレ」

「私の髪の毛入りミサンガ」

「告白か?お守りか?普通の男ならどん引くぞ。ミケって重い女だったんだな!」

「どーいう発想よ。そうじゃくて、それつけてれば魔素で埋まった谷だろうが、迷宮回廊だろうが超えられる」

「・・・は?」

「私の魔素は、私を攻撃しない。だから・・・」

「・・・その理屈でいくと、ミケは通れるな。なのに、なんで俺にこんなもんつける?まさか一人で行けって・・」

「1人じゃない。あんたの友達が迎えにきた」

「へ?迎え?」

4人?いや、5人いる。
かすかな呼吸音がするのに、足音が聞こえない。
肉を刀で差す音がするのに、悲鳴が聞こえない。

ルカが緊張で体を固くすると同時に、ボコッとくぐもった爆発音がして、格子のはまった扉が開き、顔の下半分を黒い布で覆った男がばらばらと駆け寄ってくる。

「大将!生きています?!」

後ろの二人は、いかにもそこら辺の内装をへし折った木切れに適当に落ちていた布を結んでつくりましたと言わんばかりの即席の担架を持っている。
ただ、その落ちていたっぽい布、魔道具だわ。野営道具を運ぶときとかに使うお高いやつ。

まぁ材料にあり合わせ感があふれていたとしても、一刻前のルカを見ているなら担架を作ってきたのは正しい措置だ。
とても立ち上がれる状態ではなかったから。

声に聞き覚えがあったのだろう。ルカは、緊張を解いて、怪訝な声をかえす。

「タイキ?何をやっている!俺が必死こいて白旗上げたのは、戻るんじゃなくて離れるためだぞ?!」

「あんたこそなにやってんですか!ばらばらに落ちのびるのに同意したのは、全員逃げると思ったからです。それを王城に直行して半ごろされるとかどういう了見・・」

途中で言葉が止まったのは、ルカの顔色が良すぎたせい。
斥候に出した兵は、大将は血まみれで立ち上がることもできないまま、あの化物に右手を踏み砕かれたと半泣きだったのに。

「大将、あんた、うごける、のか?」

答えたのは、ルカではなく、ミケだった。

「動け過ぎるから、ちょっと借りるわよ」

ミケが指先をひらり動かすと、即席の担架がくるりとルカを包み込み、頭から足まですっぽり隠して閉じた。魔道具は強い魔素の意志を汲むので楽勝だ。

むー、ぐぅーー
じたばたじたばた。

即席担架に包まれたルカは、がまぐ口財布に閉じ込められたネズミ状態になってしまった。

「あ、の?」

タイキと呼ばれた男が、担架を裂くべきか一瞬迷って、ミケをみる。

「えーっと、ルカは、今、魔素のなかでも迷わないから、ここの地下から魔素の谷を抜けて、5万人いるとかいう仲間のとこまで運んで逃げてくれない?」

「迷宮回廊と魔素の谷を抜けられると?」

「ええ。ルカの手の紐さえはずさなければね。ただ、今ちょっと、あなたたちの大将、錯乱ぎみでさ。紐千切りそうなの。悪いけど、このまま魔素の中まで運んじゃってくれないかしら」

「・・・あなたは?」
「ずっと会いたかった惚れた男のところに行くから忙しいの。この子を頼めるかしら?」

「ありがとう、ございます」

「こちらこそ。えーと、あなたも見えるかしら、あのもやもや。王城の地下の魔素迷宮まで続いてるわ。迷宮に入ったらあれが濃くなる方に行けば谷につく」

ミケが手を開くと、即席担架はゆっくりと倒れていき、支えの木が、迎えに来た男たちの手におさまる。
なるほど、もやもやと表現された魔素と同じ色。
この女が、魔素の谷の生みの親か。

「大将に、伝言は、ありますか?」

「グッドラック。あと、私は大人の恋愛中な上に、ちょっと毒が体に回っちゃって手遅れなの。だからお子様は気にしないでと伝えて」

とてつもなく冷静に、手遅れだといわれて、やりたいことがあると言われて、タイキは、自分たちの説得程度では、ミケが絶対に折れないと感じる。

「わかり、ました」

タイキはミケに深々と頭を下げると、殿をひとり指定して、ルカのくるまった担架を間に挟むようにして退却を開始した。

ここで、ルカの意見など聞こうものなら、ぜったいに女と一緒じゃないと逃げないと言い張るのは、長年の付き合いから想像がつく。

だが、彼女の面構えたるや、ルカが駄々をこねた程度でどうにかなるようには思えなかったのだ。
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