6 / 141
6. 箱舟作戦
しおりを挟む
さかのぼること数日。
ルカは、直属の部下達に、かなり分が悪い賭けになることを正直に告げ、助けたい奴がいるか?と聞いた。
恋人とか、家族とか、世話になった人とか、ずっと飼っていたペットとか何でもいい。
まぁ、こいつに幸せな十数年を渡せたら、ちょっとはいいことしたなと思って死ねるような、そんな奴がいれば、連絡をとってみろと。
計画は簡単だ。
避難民と復興の即戦力になる奴らを移動させて、ムロの谷より北側を、フェルニアの箱舟にする。
お前らに助けたい奴がいれば、避難民に紛れ込ませろ。
うちの師団きっての精鋭に送らせる。
自力で歩けないなら、兵器輸送用の馬車に乗せていい。どうせ武器は持って行かないから、空っぽだ。
それから、避難民の中で、体格のいいヤツを見繕って、順次兵の格好をさせていけ。
ふりだけだ。女でも構わない。新兵を確保して軍を立て直すために北上しているように見せかける。
ああ、当面騙すのは、ムーガルじゃない、フェルニアの貴族たちの方。
ルカが作戦を説明していくにつれて、部下達の緊張度が上がっていく。
「フェルニアの王都は、見捨てるんですか?」
わかっていても、部下が納得しやすいように質問するのは、副将の仕事のうちだとばかりに、タイキが適時に質問を挟んでいく。
「見捨てる。が、虐殺され放題は寝覚めが悪いから、やらかしそうな師団・・まぁ、間違いなく、ライヒの師団が来たらやるよな・・は、叩いて、比較的まともな平定をしてくれそうなパチドに渡す」
「パチドは、まともですか?」
ちょっと面白そうに、タイキがつっこむ。
噂では、パチドは人の心を持たない継ぎ接ぎで、類を見ない冷酷さで、顔の皮を剥いだり、腹を裂いたりを楽しむのだと言われている。
「戦場での兵の動かし方を見ても、直接剣を合わせた感じでも、無駄に殺すタイプじゃないな。もっというなら、戦自体にやる気がない。なんでアレに冷酷無惨の代名詞がつくのか不思議だぞ」
「不気味なんでしょうね。元が死体で、魔術が効かず、何を考えているのかもよくわからない。でも、まぁ、何と言うんですかね、ライヒみたいな狂犬っぽさは皆無です」
口を挟んだのは、実際に戦場でパチドとまみえた回数が最多のゴルドーだ。説得力がちがう。
「そういう訳だ。この際、王都を踏みにじる情熱が薄ければそれだけでいい。・・・だから、北上してムロを目指す部隊を、ライヒに追わせないといけない」
その言葉に、ゴルドーすらぎょっとした表情を隠せない。
「避難民をおとりに?それこそ、虐殺し放題になりますよ?ライヒは、非戦闘民の方を先に狙った人質作戦が大好きですから」
「『部隊』って言っただろうが。残念ながら、おとりはお前らだよ。だから、大切なやつを避難民に入れとけと言った。この部隊の半分は、ムロに向かって全速前進。金山西の洞窟に潜む。」
ライヒの師団を引き付けて、叩くために?
緊張に心地よい高揚感がまざる。
総崩れになりそうなこの国を、ルカだけを信じて支えてきた精鋭軍だ。ルカに重要な任務を任せられたら、何でもやってみせる。
「残りの半分は?」
兵の冷静さを取り戻させるように、タイキが聞いた。
「半分は支援物資持ってムロ避難の応援にいき、洞窟で合流。避難民は、そのまま、金山の狸掘りの分岐を使って逃がす。で、その後洞窟を爆破。歩けない者たちの馬車組は、橋周りになるが、自分たちが通り次第橋は落とせ」
コルドーは感心したように小さく拍手する。
「うわ。そこまでやれば、確かに、新しい橋を架けるか、岩盤をぶち抜いてトンネルを通さないとムロに入れなくなりますね」
だが、ルカは、口の片端を上げて言った。
「新しい橋なんてかけさせねーよ。避難民と物資がムロに入り次第、俺が、城の主砲用に溜められた魔素をぶっ放して、ムロの谷も坑道も魔素で埋めるからな」
・・・。
数秒固まった後、ずっと冷静だったタイキの声が跳ねあがる。
「はぁ?!んなことしたら、大将がぐっちゃんこでしょうが!あの主砲はわざと暴発するように細工されているから打てないって言いましたよねぇ?!ムロの街に結界をはるために魔素だけ運ぶつもりだったのでは?!」
タイキは、副将的な質問形式をかなぐり捨てて、ルカに詰め寄った。
「主砲なら自重で下り坂のレールを進むが、魔素の重さじゃ無理だ。あと結界でムロの街を囲んだら、籠城と一緒になるだろ。こっち側から、進軍できないように魔素で盾を作る方が、自由度が高い。魔素扱いが抜群のフェルニアって、はったりにもなるし。王城が白旗を上げてもムーガルとこじれたら、もっと北側の国と交渉すればいい」
フェルニアの箱舟の先を考えるならば、確かにルカの案は、強い選択肢を複数残す。
「・・・フェルニアの無事な部分をごっそり箱舟にのせた状態で、その価値を他国に見せつけながら、敗戦させると?」
ルカは頷いた。
「箱舟フェルニアが遺る余地は十分にある。船に乗りそこなった王都の住民の方も、うちの部隊が、ライヒを翻弄して時間を稼げれば、多くは生き延びられるはずだ」
いくら狂犬嗜好丸出しのライヒでも、自国の平定がはじまっているフェルニア王都を、焦土にするわけにはいかない。
「大将、そんなにこの国好きでしたっけ?」
なんかもうしんみり、そんな感じでタイキが問いかける。副将放棄で友人モードだ。
「まぁ、ムロは嫌いじゃない。んで、本題だ。うちの師団の新兵とか、正直ライヒみたいなタイプにかかったらいいように遊ばれる。悪いが、あいつら、最後まで避難民を護衛させるって名目で、逃がしてやってくれないか。ライヒの師団には、精鋭だけであたりたい。・・・ええと、すまん、お前らに死ねと言っているかな」
ちょっと小さくなって、下を向いてしまった大将に、タイキがため息交じりに答える。
「言っていませんよ。ライヒを翻弄して時間さえ稼げば、やり方はなんでもいいのでしょう?生存確率が残るように俺が何とかしますよ。どっちかっていうと大将が一番危ない」
「自分が危険な側にいることが、免罪符になるとは思っていないが、まぁ、魔素と下り坂の回廊で同衾した段階で、裏切りようはないから、その点は信じろ。あと、タイミング命だから魔道具の通信は途絶えさせるなよ」
顔を上げたルカの頭は、すでに作戦行動が始まった仕様で。部下たちは会議がすでに終わったのだと感じる。
「大将、何人、連れて行きますか?」
「ムーガルには、降伏の証に主砲を破壊したと言うつもりだ。だから、俺に何かあった時に王城に白旗上げる奴と、主砲の破片を回収する奴。4人いればいい。あとは全員タイキに預ける。目的を達成したら各自ばらばらに落ちのびるから、ひとりで落ちられなそうなやつは全員新兵と一緒において来い」
ルカが立ち上がると、部下たちが一斉に唱和した。
「ルカ大将とタイキ副将に従います!」
ルカ達は、まずは避難民に持たせる物資を王宮の備蓄から調達だ、と意気込んだが、これは驚くほど簡単だった。
迷宮回廊が制せない以上、逃げようもない王城に、いったいどれだけ籠城するつもりだったのだろうか。何十部屋もつかってためこまれたた備蓄は、年単位で負けが込んでいるフェルニアとは思えない程豪勢だ。
ありがたい限りだが、こんなに準備をする時間があったのなら、他にもできることがあったろうに。
せめて迷宮回廊が、たった数か月でいいから有能な魔術師の一団で探索されていたならば、例え敵に包囲されても、王都にいる者たちを外に逃がすことはできただろう。
数年単位で組織的に探索されていたならば、敵に包囲される事態にすらなっていない。
ティムマインがビビり過ぎて、余力がある時期に魔術師をつかった探索をケチったせいだと、ルカは思う。
迷宮回廊は、入るだけで精神作用があり、錯乱したやつは出られなくなる。突発的な事故も多いし、結局現状では、ルカとタイキのペアでしか探索できない。
この2人で1月も迷宮回廊にかかりっきりになったら、誇張ではなく、出てきたときにはフェルニアは消えていると思う。使える道が1本でも見つかった段階で切り上げざるを得なかった。
時間は過ぎてしまったのだ。
全員助かる、なんてことはもうありえない。
☆
ルカが腕に嵌めた通信具で、タイキに話しかける。
「タイキ、どこまで進んだ?」
『我々は西の金山から60㎞で最後尾です。ライヒにちょっかいをかけながらなので。避難民は二手に分けました。馬車組入れると3つです。義勇兵の立候補は全員断りましたが、魔術師の生き残りが数人いたんで、そいつらだけは手伝ってもらっています』
「分かった。俺はいま、回廊のムロ出口側で主砲と格闘中だ。タンクいりなのに魔素酔いしそうってどんな魔素だよまったく。仕掛けが終わったら、一旦王城に戻るから、動きがあったら声かけてくれ」
『了解です』
避難民を守りながら、偽装させながら、作戦行動をしながらだと、馬でかけるよりかるく10倍は時間がかかる。
猶予は2~3日。
仲間を危険にさらすような情報漏洩はなるべく控えたいところだが、とりあえずミケには外に出るように言おう、とルカは計画を立てる。
ミケなら多分、魔素が暴発すれば、何が起こったかわかるから、自分でも動けると思うが念のため。
公妾ミケ。何度か会って分かったが、あれは凄い。
龍のような魔素をかかえて、クロヒョウのような気迫で、バラのような見かけの女。
話すとベルフラワーのようになるから、少し戸惑うけれど、あれは強い。多分、自分が何とかしてやりたいなんておこがましいほど。
自分が回廊に運び込んだ魔素は、もう尋常じゃないパワーを感じるけれど、これはあきらかにミケの魔素だと、ルカにはわかる。
それでも。・・・なーんか、危なっかしいんだよなぁ。
戦闘装備のまま、ミケの部屋とは名ばかりの牢に乗り込んで、看守3人を殴り倒す。ミケを毎度縛り付けていたから、若干私怨が入って多少多めに殴った。まぁ、気が付いても、数日は仕事できる状態じゃないだろう。
ミケの部屋へ行く。
ほんの少ししか話していないのに、ルカが主砲をぶっぱなすつもりだと気付いたミケは、
『主砲は、打ったが最後、射程距離の数倍は前後左右かまわず吹っ飛ぶ』とルカにばらした。
じーん。いい娘だなぁ。
主砲が吹っ飛んだ結果何千人が消えるとしても、強引に魔素を搾り取られたミケのせいじゃないし、きっとそのために無理をしてきたのだろうに。
ルカを心配して、これまでの労苦ごと差し出して。
本当に、ぜった、ぜったい、逃げろよ?
今の王城には、人が少ない。
王であるティムマインがとっくの昔に出奔しているので、王座の間自体が機能していないし、王の妃やら愛人やらはとっくの昔に疎開した。
王の間には、王の腕輪だのなんだのの魔道具を守るという名目で、護衛のアドリスと近衛が少々陣取っているし、貴族たちが会議する部屋には毎日ばらばらと出入りがあるが、食事をとる者も寝泊まりする者もほとんどいないので、王城付きの使用人は解雇された。
そんな城を守るために衛兵の数を割く余裕も減り、城付きだった兵のほとんどは戦地か、市街戦の準備へ。あとは、ミケが監禁されている離れに本人と、看守が数人いる程度だ。
タイキからの通信に応答すると、すぐに声が流れて来る。
『大将、ライヒが、火矢の部隊に集中して馬をつけています。我々を抜いて物資や馬車を狙いそうなので、これから30名ほどで奇襲攻撃をかけます。万一を考えてコルドーを残しますから、くれぐれも無茶をしないで下さいね』
「・・・あきらかに、お前の方が無茶に聞こえるぞ。2千の兵に、30名か。人数用意してやれなくて悪いな」
『足りていますよ。火矢の燃料に不燃剤を入れるための奇襲なので、切り合いはフェイクですませます』
「頼んだ」
タイキは、どんなに強くなっても剣に溺れないし、あの頭脳は最後の最後まで諦めない。ルカのために、ひとりでも多くの部下を生かして帰すと決めたなら、彼の戦は迷宮回廊も真っ青になるほど読みにくいものになるだろう。
つくづく、頼れる友人だ。
あとは、俺の問題、か。
迷宮回廊の中で再現できる道筋と、使える障壁を何度も何度もシミュレーションする。
谷を埋めるためには、主砲はムロの谷側で暴発させなければならない。
タンクの魔素は燃料としてつっこむのは最低限にして、残りはなるべく今のまま変性せずに連爆してほしい。
そうすると、どうやっても、爆発現場にいて、その場で魔素の噴出方向を操らなけばならないわけで、出たとこ勝負にならざる得ない。
勝ち目は多い、はずだ。自分の魔力で出せる壁は、どでかく強い。一本道の回廊を途中でふさいげば、魔素の逆流を防いで谷に流せる計算だ。
魔素の量が思ったより多かったとしても、自分が爆発でばらばらにふっとんだり燃えたりせず、魔素の動きが見えさえすれば、魔素が流れて欲しくない方向をひたすら壁でふさぐだけだ。
ルカは、タンクの中の魔素とシンクロするようにして神経を研ぎ澄ませながら、タイキからの、無事の連絡を待った。
『大将、タイキです。戻りました。わが軍の戦死者5名。ライヒ軍の死者はゼロですが、当面早足も重いものを持つこともできないレベルの負傷者が約4百、主に火矢の部隊です。敵の物損は火矢の燃料と、水筒になる革袋約2千。水の補給所で革シロアリを操って喰わせたので、ほぼすべて漏れます』
荷の重量はほぼ変わらず、2千の兵士で400の負傷兵を抱えて、水筒が全滅?
司令官の胃に穴が開くパターンだ。さすがタイキ、えげつなさがさえわたっている。
だが、あの忍耐力の欠片もないライヒでは、川にもよらず、怒り狂ってタイキの師団をひたすら追うかもしれない。
「よくやった。戦死者を労う。・・・タイキ、怪我しているのか?」
30人で突っ込んだなら、ほぼ全員タイキの虎の子兵士だったろうから、戦死者が5名も出て平然とできるわけもないが、それを差し引いても声が、おかしい。
『贅沢なこと聞かんで下さい。わが軍に走れないレベルの負傷者はゼロ。もちろん俺も走れます』
それは、ほぼ、自分の始末をつけた兵士がいたと言っているのと同じだ。作戦行動について行くことが出来ないような怪我を負った兵が、死地を担って目的を完遂したのだろう。
「分かった。攪乱は充分すぎる程だ。無理をするな。ライヒが少々早く戻っても、俺がなんとかする」
『早くなど戻させませんよ、大将。そっちこそ落ち着いてください。馬車組は橋を落とし終りました。狸掘りの坑道が、ムロ出身者の遊び場だったせいで、入れ替わりも、逃がすのも想定の3倍速。新兵の野営に見せかけた洞窟内の、うちの精鋭は戦意旺盛です』
やれやれ。
本当に完璧に理想を実現して見せるよな、うちの副官は。
そう感心しながら、ルカは王都の状況を報告した。
「パチドとグリーンは、もう1日もすれば王都につく。市街戦になだれ込まずに白旗があげられればどうやってもライヒは間に合わん」
『では、決戦は明日ですね。大将、必ずまた会いましょう。連絡が取れなくなったら探しに行きますからね、本気ですよ?』
「あほか。俺は、必ず谷を魔素で埋めてからパチドの前に白旗を上げる。だから、王城に白旗が見えれば万事成功だ。各自おちのびさせろ。王都に近づき過ぎる必要はない。タイキ、もう十分だ。その立派な頭温存モードに変更して真面目に副将やれ?」
釘を刺しておかないと、ルカを心配して戻ってきかねないのだ、この過保護な副官は。
『大将。ムーガルが恐れる将軍は今やルカひとりだと言うのに、新生フェルニアの盾になりに、投降予定の王城地下に単身で潜むとか、真面目ですか?死んだら殺しますよ?』
そして、翌日。パチドが王都に足を踏み入れた瞬間。
ルカは、回廊のムロの谷出口のすぐそばで、主砲を暴発させた。
出力をミニマムに絞って撃ったのに、魔素を最小まで抜いたのに。
主砲の暴発は地を割るがごとき炎の奔流を生んだ。
そして、魔素タンクの連爆、連爆、連爆。
回廊が溶けるかと思うほどの衝撃と、熱と光が、ルカの体を何度となく跳ね飛ばした。
はじめの爆風をかろうじて防いでも、光と音が衝撃となって意識を狩り取ろうとする。魔素が、うねりながら咆哮を上げているようだ。
意識が遠のくたびに、魔力の防御が剥げて、何度も壁だと岩盤だのに叩きつけられる。
それでもルカは、喉に流れてくる血をのみ込みながら、荒れ狂う魔素を前建つ壁を力の限りも補強した。こればかりは折れられない。
止れ、止れ、止れーッ!!
ルカの魔力で作られた壁に流れを阻まれた魔素が谷に流れ落ちはじめ、ほっとできたのはほんの一瞬。
確かに谷はあっというまに魔素に埋まった。だが、魔素の量の方が圧倒的に多かったのだ。タンクから出た魔素は膨張し続け、谷からあふれ出て回廊を逆流していく。
ルカの壁は強固だった。
だが、岩や土でできた回廊の天井や床や側壁は、ルカの魔力で作った壁程、強固ではなかったのだ。
ぱぱん、ぱぱぱん
熱せられると膨れてパチン と音を立ててはじけるソヨゴの葉のように、迷宮回廊の壁や床の四方が吹っ飛んだ。
閉めてあった隔壁などは、一瞬でぐにゃりと曲がり、倒れたルカを、魔素が呑み込んでいく。
普通なら、精神が一気に持っていかれるような魔素酔いと、物理的な衝撃と。
その中でルカは、まじないのようにミケの名を呼びつづけた。元がミケの魔素だからか、彼女の名を呼んでいると幾分落ち着くのだ。まぁ、程度問題ではあるが。
ミケ、ミケ、ミケ。ちょっとは手加減しろよ。
・・な・・のよ・・・
何ていった?大きい声でいってくれ、ミケ、俺、耳がおかしい
そうでしょうとも、耳から血がでているわよ。
もうちょい、建設的な幻聴がいいぞ
亀裂がたくさんあるんだから、早く外に出なさい
あー、そういう訳にもいかなくて。
なぁ、王城どっち?そこら辺に主砲の破片落ちてないか?
ちいさいのでいい?
でかいの。
馬鹿なの?持てるわけがないでしょうが。
もう。そこに、杖に出来そうなサイズの破片があるわ。それで我慢しときなさい。熱で溶けているから、なんか巻いてから支えにして。
ありがとう、ミケ。お前本当にいいヤツだな。
お人好しで死にかけているあんたに言われたくないわよ。本当に王城にでるの?
どうしても出ないと。
んー、そこの亀裂に、破片突き出してみたら?お仲間が引っ張ってくれるかもよ?
・・・
震える上に、手が血で滑ってなかなかいうことを聞かない長細い破片を、必死で亀裂に届かせる。まだ意識を失ってはダメだ。もう少し。
ルカは、直属の部下達に、かなり分が悪い賭けになることを正直に告げ、助けたい奴がいるか?と聞いた。
恋人とか、家族とか、世話になった人とか、ずっと飼っていたペットとか何でもいい。
まぁ、こいつに幸せな十数年を渡せたら、ちょっとはいいことしたなと思って死ねるような、そんな奴がいれば、連絡をとってみろと。
計画は簡単だ。
避難民と復興の即戦力になる奴らを移動させて、ムロの谷より北側を、フェルニアの箱舟にする。
お前らに助けたい奴がいれば、避難民に紛れ込ませろ。
うちの師団きっての精鋭に送らせる。
自力で歩けないなら、兵器輸送用の馬車に乗せていい。どうせ武器は持って行かないから、空っぽだ。
それから、避難民の中で、体格のいいヤツを見繕って、順次兵の格好をさせていけ。
ふりだけだ。女でも構わない。新兵を確保して軍を立て直すために北上しているように見せかける。
ああ、当面騙すのは、ムーガルじゃない、フェルニアの貴族たちの方。
ルカが作戦を説明していくにつれて、部下達の緊張度が上がっていく。
「フェルニアの王都は、見捨てるんですか?」
わかっていても、部下が納得しやすいように質問するのは、副将の仕事のうちだとばかりに、タイキが適時に質問を挟んでいく。
「見捨てる。が、虐殺され放題は寝覚めが悪いから、やらかしそうな師団・・まぁ、間違いなく、ライヒの師団が来たらやるよな・・は、叩いて、比較的まともな平定をしてくれそうなパチドに渡す」
「パチドは、まともですか?」
ちょっと面白そうに、タイキがつっこむ。
噂では、パチドは人の心を持たない継ぎ接ぎで、類を見ない冷酷さで、顔の皮を剥いだり、腹を裂いたりを楽しむのだと言われている。
「戦場での兵の動かし方を見ても、直接剣を合わせた感じでも、無駄に殺すタイプじゃないな。もっというなら、戦自体にやる気がない。なんでアレに冷酷無惨の代名詞がつくのか不思議だぞ」
「不気味なんでしょうね。元が死体で、魔術が効かず、何を考えているのかもよくわからない。でも、まぁ、何と言うんですかね、ライヒみたいな狂犬っぽさは皆無です」
口を挟んだのは、実際に戦場でパチドとまみえた回数が最多のゴルドーだ。説得力がちがう。
「そういう訳だ。この際、王都を踏みにじる情熱が薄ければそれだけでいい。・・・だから、北上してムロを目指す部隊を、ライヒに追わせないといけない」
その言葉に、ゴルドーすらぎょっとした表情を隠せない。
「避難民をおとりに?それこそ、虐殺し放題になりますよ?ライヒは、非戦闘民の方を先に狙った人質作戦が大好きですから」
「『部隊』って言っただろうが。残念ながら、おとりはお前らだよ。だから、大切なやつを避難民に入れとけと言った。この部隊の半分は、ムロに向かって全速前進。金山西の洞窟に潜む。」
ライヒの師団を引き付けて、叩くために?
緊張に心地よい高揚感がまざる。
総崩れになりそうなこの国を、ルカだけを信じて支えてきた精鋭軍だ。ルカに重要な任務を任せられたら、何でもやってみせる。
「残りの半分は?」
兵の冷静さを取り戻させるように、タイキが聞いた。
「半分は支援物資持ってムロ避難の応援にいき、洞窟で合流。避難民は、そのまま、金山の狸掘りの分岐を使って逃がす。で、その後洞窟を爆破。歩けない者たちの馬車組は、橋周りになるが、自分たちが通り次第橋は落とせ」
コルドーは感心したように小さく拍手する。
「うわ。そこまでやれば、確かに、新しい橋を架けるか、岩盤をぶち抜いてトンネルを通さないとムロに入れなくなりますね」
だが、ルカは、口の片端を上げて言った。
「新しい橋なんてかけさせねーよ。避難民と物資がムロに入り次第、俺が、城の主砲用に溜められた魔素をぶっ放して、ムロの谷も坑道も魔素で埋めるからな」
・・・。
数秒固まった後、ずっと冷静だったタイキの声が跳ねあがる。
「はぁ?!んなことしたら、大将がぐっちゃんこでしょうが!あの主砲はわざと暴発するように細工されているから打てないって言いましたよねぇ?!ムロの街に結界をはるために魔素だけ運ぶつもりだったのでは?!」
タイキは、副将的な質問形式をかなぐり捨てて、ルカに詰め寄った。
「主砲なら自重で下り坂のレールを進むが、魔素の重さじゃ無理だ。あと結界でムロの街を囲んだら、籠城と一緒になるだろ。こっち側から、進軍できないように魔素で盾を作る方が、自由度が高い。魔素扱いが抜群のフェルニアって、はったりにもなるし。王城が白旗を上げてもムーガルとこじれたら、もっと北側の国と交渉すればいい」
フェルニアの箱舟の先を考えるならば、確かにルカの案は、強い選択肢を複数残す。
「・・・フェルニアの無事な部分をごっそり箱舟にのせた状態で、その価値を他国に見せつけながら、敗戦させると?」
ルカは頷いた。
「箱舟フェルニアが遺る余地は十分にある。船に乗りそこなった王都の住民の方も、うちの部隊が、ライヒを翻弄して時間を稼げれば、多くは生き延びられるはずだ」
いくら狂犬嗜好丸出しのライヒでも、自国の平定がはじまっているフェルニア王都を、焦土にするわけにはいかない。
「大将、そんなにこの国好きでしたっけ?」
なんかもうしんみり、そんな感じでタイキが問いかける。副将放棄で友人モードだ。
「まぁ、ムロは嫌いじゃない。んで、本題だ。うちの師団の新兵とか、正直ライヒみたいなタイプにかかったらいいように遊ばれる。悪いが、あいつら、最後まで避難民を護衛させるって名目で、逃がしてやってくれないか。ライヒの師団には、精鋭だけであたりたい。・・・ええと、すまん、お前らに死ねと言っているかな」
ちょっと小さくなって、下を向いてしまった大将に、タイキがため息交じりに答える。
「言っていませんよ。ライヒを翻弄して時間さえ稼げば、やり方はなんでもいいのでしょう?生存確率が残るように俺が何とかしますよ。どっちかっていうと大将が一番危ない」
「自分が危険な側にいることが、免罪符になるとは思っていないが、まぁ、魔素と下り坂の回廊で同衾した段階で、裏切りようはないから、その点は信じろ。あと、タイミング命だから魔道具の通信は途絶えさせるなよ」
顔を上げたルカの頭は、すでに作戦行動が始まった仕様で。部下たちは会議がすでに終わったのだと感じる。
「大将、何人、連れて行きますか?」
「ムーガルには、降伏の証に主砲を破壊したと言うつもりだ。だから、俺に何かあった時に王城に白旗上げる奴と、主砲の破片を回収する奴。4人いればいい。あとは全員タイキに預ける。目的を達成したら各自ばらばらに落ちのびるから、ひとりで落ちられなそうなやつは全員新兵と一緒において来い」
ルカが立ち上がると、部下たちが一斉に唱和した。
「ルカ大将とタイキ副将に従います!」
ルカ達は、まずは避難民に持たせる物資を王宮の備蓄から調達だ、と意気込んだが、これは驚くほど簡単だった。
迷宮回廊が制せない以上、逃げようもない王城に、いったいどれだけ籠城するつもりだったのだろうか。何十部屋もつかってためこまれたた備蓄は、年単位で負けが込んでいるフェルニアとは思えない程豪勢だ。
ありがたい限りだが、こんなに準備をする時間があったのなら、他にもできることがあったろうに。
せめて迷宮回廊が、たった数か月でいいから有能な魔術師の一団で探索されていたならば、例え敵に包囲されても、王都にいる者たちを外に逃がすことはできただろう。
数年単位で組織的に探索されていたならば、敵に包囲される事態にすらなっていない。
ティムマインがビビり過ぎて、余力がある時期に魔術師をつかった探索をケチったせいだと、ルカは思う。
迷宮回廊は、入るだけで精神作用があり、錯乱したやつは出られなくなる。突発的な事故も多いし、結局現状では、ルカとタイキのペアでしか探索できない。
この2人で1月も迷宮回廊にかかりっきりになったら、誇張ではなく、出てきたときにはフェルニアは消えていると思う。使える道が1本でも見つかった段階で切り上げざるを得なかった。
時間は過ぎてしまったのだ。
全員助かる、なんてことはもうありえない。
☆
ルカが腕に嵌めた通信具で、タイキに話しかける。
「タイキ、どこまで進んだ?」
『我々は西の金山から60㎞で最後尾です。ライヒにちょっかいをかけながらなので。避難民は二手に分けました。馬車組入れると3つです。義勇兵の立候補は全員断りましたが、魔術師の生き残りが数人いたんで、そいつらだけは手伝ってもらっています』
「分かった。俺はいま、回廊のムロ出口側で主砲と格闘中だ。タンクいりなのに魔素酔いしそうってどんな魔素だよまったく。仕掛けが終わったら、一旦王城に戻るから、動きがあったら声かけてくれ」
『了解です』
避難民を守りながら、偽装させながら、作戦行動をしながらだと、馬でかけるよりかるく10倍は時間がかかる。
猶予は2~3日。
仲間を危険にさらすような情報漏洩はなるべく控えたいところだが、とりあえずミケには外に出るように言おう、とルカは計画を立てる。
ミケなら多分、魔素が暴発すれば、何が起こったかわかるから、自分でも動けると思うが念のため。
公妾ミケ。何度か会って分かったが、あれは凄い。
龍のような魔素をかかえて、クロヒョウのような気迫で、バラのような見かけの女。
話すとベルフラワーのようになるから、少し戸惑うけれど、あれは強い。多分、自分が何とかしてやりたいなんておこがましいほど。
自分が回廊に運び込んだ魔素は、もう尋常じゃないパワーを感じるけれど、これはあきらかにミケの魔素だと、ルカにはわかる。
それでも。・・・なーんか、危なっかしいんだよなぁ。
戦闘装備のまま、ミケの部屋とは名ばかりの牢に乗り込んで、看守3人を殴り倒す。ミケを毎度縛り付けていたから、若干私怨が入って多少多めに殴った。まぁ、気が付いても、数日は仕事できる状態じゃないだろう。
ミケの部屋へ行く。
ほんの少ししか話していないのに、ルカが主砲をぶっぱなすつもりだと気付いたミケは、
『主砲は、打ったが最後、射程距離の数倍は前後左右かまわず吹っ飛ぶ』とルカにばらした。
じーん。いい娘だなぁ。
主砲が吹っ飛んだ結果何千人が消えるとしても、強引に魔素を搾り取られたミケのせいじゃないし、きっとそのために無理をしてきたのだろうに。
ルカを心配して、これまでの労苦ごと差し出して。
本当に、ぜった、ぜったい、逃げろよ?
今の王城には、人が少ない。
王であるティムマインがとっくの昔に出奔しているので、王座の間自体が機能していないし、王の妃やら愛人やらはとっくの昔に疎開した。
王の間には、王の腕輪だのなんだのの魔道具を守るという名目で、護衛のアドリスと近衛が少々陣取っているし、貴族たちが会議する部屋には毎日ばらばらと出入りがあるが、食事をとる者も寝泊まりする者もほとんどいないので、王城付きの使用人は解雇された。
そんな城を守るために衛兵の数を割く余裕も減り、城付きだった兵のほとんどは戦地か、市街戦の準備へ。あとは、ミケが監禁されている離れに本人と、看守が数人いる程度だ。
タイキからの通信に応答すると、すぐに声が流れて来る。
『大将、ライヒが、火矢の部隊に集中して馬をつけています。我々を抜いて物資や馬車を狙いそうなので、これから30名ほどで奇襲攻撃をかけます。万一を考えてコルドーを残しますから、くれぐれも無茶をしないで下さいね』
「・・・あきらかに、お前の方が無茶に聞こえるぞ。2千の兵に、30名か。人数用意してやれなくて悪いな」
『足りていますよ。火矢の燃料に不燃剤を入れるための奇襲なので、切り合いはフェイクですませます』
「頼んだ」
タイキは、どんなに強くなっても剣に溺れないし、あの頭脳は最後の最後まで諦めない。ルカのために、ひとりでも多くの部下を生かして帰すと決めたなら、彼の戦は迷宮回廊も真っ青になるほど読みにくいものになるだろう。
つくづく、頼れる友人だ。
あとは、俺の問題、か。
迷宮回廊の中で再現できる道筋と、使える障壁を何度も何度もシミュレーションする。
谷を埋めるためには、主砲はムロの谷側で暴発させなければならない。
タンクの魔素は燃料としてつっこむのは最低限にして、残りはなるべく今のまま変性せずに連爆してほしい。
そうすると、どうやっても、爆発現場にいて、その場で魔素の噴出方向を操らなけばならないわけで、出たとこ勝負にならざる得ない。
勝ち目は多い、はずだ。自分の魔力で出せる壁は、どでかく強い。一本道の回廊を途中でふさいげば、魔素の逆流を防いで谷に流せる計算だ。
魔素の量が思ったより多かったとしても、自分が爆発でばらばらにふっとんだり燃えたりせず、魔素の動きが見えさえすれば、魔素が流れて欲しくない方向をひたすら壁でふさぐだけだ。
ルカは、タンクの中の魔素とシンクロするようにして神経を研ぎ澄ませながら、タイキからの、無事の連絡を待った。
『大将、タイキです。戻りました。わが軍の戦死者5名。ライヒ軍の死者はゼロですが、当面早足も重いものを持つこともできないレベルの負傷者が約4百、主に火矢の部隊です。敵の物損は火矢の燃料と、水筒になる革袋約2千。水の補給所で革シロアリを操って喰わせたので、ほぼすべて漏れます』
荷の重量はほぼ変わらず、2千の兵士で400の負傷兵を抱えて、水筒が全滅?
司令官の胃に穴が開くパターンだ。さすがタイキ、えげつなさがさえわたっている。
だが、あの忍耐力の欠片もないライヒでは、川にもよらず、怒り狂ってタイキの師団をひたすら追うかもしれない。
「よくやった。戦死者を労う。・・・タイキ、怪我しているのか?」
30人で突っ込んだなら、ほぼ全員タイキの虎の子兵士だったろうから、戦死者が5名も出て平然とできるわけもないが、それを差し引いても声が、おかしい。
『贅沢なこと聞かんで下さい。わが軍に走れないレベルの負傷者はゼロ。もちろん俺も走れます』
それは、ほぼ、自分の始末をつけた兵士がいたと言っているのと同じだ。作戦行動について行くことが出来ないような怪我を負った兵が、死地を担って目的を完遂したのだろう。
「分かった。攪乱は充分すぎる程だ。無理をするな。ライヒが少々早く戻っても、俺がなんとかする」
『早くなど戻させませんよ、大将。そっちこそ落ち着いてください。馬車組は橋を落とし終りました。狸掘りの坑道が、ムロ出身者の遊び場だったせいで、入れ替わりも、逃がすのも想定の3倍速。新兵の野営に見せかけた洞窟内の、うちの精鋭は戦意旺盛です』
やれやれ。
本当に完璧に理想を実現して見せるよな、うちの副官は。
そう感心しながら、ルカは王都の状況を報告した。
「パチドとグリーンは、もう1日もすれば王都につく。市街戦になだれ込まずに白旗があげられればどうやってもライヒは間に合わん」
『では、決戦は明日ですね。大将、必ずまた会いましょう。連絡が取れなくなったら探しに行きますからね、本気ですよ?』
「あほか。俺は、必ず谷を魔素で埋めてからパチドの前に白旗を上げる。だから、王城に白旗が見えれば万事成功だ。各自おちのびさせろ。王都に近づき過ぎる必要はない。タイキ、もう十分だ。その立派な頭温存モードに変更して真面目に副将やれ?」
釘を刺しておかないと、ルカを心配して戻ってきかねないのだ、この過保護な副官は。
『大将。ムーガルが恐れる将軍は今やルカひとりだと言うのに、新生フェルニアの盾になりに、投降予定の王城地下に単身で潜むとか、真面目ですか?死んだら殺しますよ?』
そして、翌日。パチドが王都に足を踏み入れた瞬間。
ルカは、回廊のムロの谷出口のすぐそばで、主砲を暴発させた。
出力をミニマムに絞って撃ったのに、魔素を最小まで抜いたのに。
主砲の暴発は地を割るがごとき炎の奔流を生んだ。
そして、魔素タンクの連爆、連爆、連爆。
回廊が溶けるかと思うほどの衝撃と、熱と光が、ルカの体を何度となく跳ね飛ばした。
はじめの爆風をかろうじて防いでも、光と音が衝撃となって意識を狩り取ろうとする。魔素が、うねりながら咆哮を上げているようだ。
意識が遠のくたびに、魔力の防御が剥げて、何度も壁だと岩盤だのに叩きつけられる。
それでもルカは、喉に流れてくる血をのみ込みながら、荒れ狂う魔素を前建つ壁を力の限りも補強した。こればかりは折れられない。
止れ、止れ、止れーッ!!
ルカの魔力で作られた壁に流れを阻まれた魔素が谷に流れ落ちはじめ、ほっとできたのはほんの一瞬。
確かに谷はあっというまに魔素に埋まった。だが、魔素の量の方が圧倒的に多かったのだ。タンクから出た魔素は膨張し続け、谷からあふれ出て回廊を逆流していく。
ルカの壁は強固だった。
だが、岩や土でできた回廊の天井や床や側壁は、ルカの魔力で作った壁程、強固ではなかったのだ。
ぱぱん、ぱぱぱん
熱せられると膨れてパチン と音を立ててはじけるソヨゴの葉のように、迷宮回廊の壁や床の四方が吹っ飛んだ。
閉めてあった隔壁などは、一瞬でぐにゃりと曲がり、倒れたルカを、魔素が呑み込んでいく。
普通なら、精神が一気に持っていかれるような魔素酔いと、物理的な衝撃と。
その中でルカは、まじないのようにミケの名を呼びつづけた。元がミケの魔素だからか、彼女の名を呼んでいると幾分落ち着くのだ。まぁ、程度問題ではあるが。
ミケ、ミケ、ミケ。ちょっとは手加減しろよ。
・・な・・のよ・・・
何ていった?大きい声でいってくれ、ミケ、俺、耳がおかしい
そうでしょうとも、耳から血がでているわよ。
もうちょい、建設的な幻聴がいいぞ
亀裂がたくさんあるんだから、早く外に出なさい
あー、そういう訳にもいかなくて。
なぁ、王城どっち?そこら辺に主砲の破片落ちてないか?
ちいさいのでいい?
でかいの。
馬鹿なの?持てるわけがないでしょうが。
もう。そこに、杖に出来そうなサイズの破片があるわ。それで我慢しときなさい。熱で溶けているから、なんか巻いてから支えにして。
ありがとう、ミケ。お前本当にいいヤツだな。
お人好しで死にかけているあんたに言われたくないわよ。本当に王城にでるの?
どうしても出ないと。
んー、そこの亀裂に、破片突き出してみたら?お仲間が引っ張ってくれるかもよ?
・・・
震える上に、手が血で滑ってなかなかいうことを聞かない長細い破片を、必死で亀裂に届かせる。まだ意識を失ってはダメだ。もう少し。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる