偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

文字の大きさ
上 下
91 / 93

91☆乳歯

しおりを挟む
しゃべらないサフラに、ずーっとひっついて歩く。
サフラがゆっくり歩いてくれるせいもあるけれど、いつまで歩いても息が上がらないのは、わりと新鮮。

そっかぁ。今の私には、焼き孔も、転移紋もないのかぁ。

思い返してみれば、まじめな師匠をしていた時も、サフラのほうが強くなった後も、左手がクローン人形していたときも、ヨレヨレのヨボヨボだったものねー。

なんとなく楽しくなってスキップしてしまうと、前を歩くサフラの横顔が見える。
・・・強張ってるけど。

「自己嫌悪、と、自制で、息苦しいので、ひとりにしてもらえますか」

「あ。ごめんね、気がつかなくて・・」

しょぼん

立ち止まって、回れ右。

師匠とは名ばかりの黒歴史生産機ですからねー。おとなしくしますとも。
・・あれ?でも私の処刑歴知ってるってことは、もう何年も前から師匠じゃなかったこともばれちゃってるのか。

師匠になったときにもらったピンキーリングを引き抜いて、掌に転がす。
10年も、ご一緒したんだねぇ。

ごくろうさまでした。

労ってみたら、抜けた乳歯みたいに思えてきた。屋根の上に投げたら、ヨレヨレのヨボヨボだった私がすくすくに生え変わるかな。

そんな気分になって、ひときわ大きな屋根の集合商店の前で振りかぶる。

とどくかなあ?

がしっ

今まさに振りぬこうとしていた腕が動かなくなり、ピンキーリングを握ったこぶしが別の体温で抱き込まれる。

どろぼー?

いや、青い顔したサフラだった。
今さっき、ついてくんなと言われた気がするんですけど?

おまけに身長に差があるんだから腕でも手首でもひっつかめばいいものを、前に回って抱きとめるからぶっちゃったじゃない。

えー?これも私が悪いの?

「ごめ・・」
「やめたい、ですか」

何をかな?

「僕の師匠を、やめたいですか」

やめたいわけではなくて、現状の追認というか、つじつま合わせというか。

「・・・きれいな青が、藍より出ちゃってから随分経ちますからねー」

「金色は嫌いになりましたか。青色のほうが気になりますか」

私はサフラが出藍の誉れ♡って話をしてるつもりだったのに、どうやらサフラはキルヤ様の青色の力の話に持っていくつもりらしい。いきなりつるし上げちゃったから罪悪感かな?でも、あの人基本的にサフラに甘いから大丈夫だと思う。

「キルヤ様ならケガもしてなきゃ、怒ってもなかったよ?」

むしろ嬉々として利用してたよね・・

サフラにつるし上げられた姿わざわざさらした後、キルヤ様ときたら親族やら王都側からの伝令やら手紙やら要望書やらにまとめて同じ文章で返信だせって命令してたもん。
『申し訳ないが、私の一存で決めることはできない。いや、0.1存もないようだ』って。
サフラが中央に与するなって脅したみたいじゃない。

あれは絶対、傀儡の王さまのふりでシガラミ全般なぎ倒すつもりだ。
図々しいというか、無駄がないというか。

握っていたこぶしがひらかれて、金色のピンキーリングがサフラの手に移る。

「金色は・・・役立たずで、身の程知らず、ですね」

うわ。板挟みの中間管理職状態。

不快な思いしたのはサフラなので、全力でおもねてフォローに入るべきなんだけど。
でも左手は、ケバケバから助けてくれた上に、クレーム係さんに頼んで転移紋も消してくれた上に、なにより私なので、文句言えた義理じゃない。その左手がそそのかしたキルヤ様も同様・・ってか、完全に私が悪い。

「あー、うー、うちに、かえろっか」

目抜き通りに、姉弟設定で、板挟み。
口を開いただけで失敗を上塗りする未来しか見えないから、黙っててくてくおうちに向かう。

サフラも機嫌が悪いのはわかるけれど、家に向かう道すがら、やたらと通行人を威嚇するのはやめないか。

そもそも、心やましいのも、気恥ずかしいのも、私のほうが重症ではあるまいか。
ピーピー泣いちゃったし。

それに、エッチも、ね。左手が手紙だった頃のサフラは、あんなだったのかなって、ちょっと圧倒された。

思いの丈をストレートにぶつけられる相手への熱情。それは、私に向くべきではない大事なもので。頭色々頭いじられた上の事故って点を差し引いても、私がもらっちゃうのは、避けるべきだったと思う。乳歯が居座ると永久歯に悪いのだ。

サフラは部屋に入るなり私を椅子に座らせて、テーブルの上で手を握った。

「何を考えてるか、きいてもいいですか」

「どう、謝ろうかと」

「・・・僕が謝ったら、きいてもらえるんですか。かなしそうな顔、してたんですよ?気づいてないんですか?」

あー。ひとりになりたかったのに、私が悲しそうに見えてついてきちゃったのか。

「悲しくはないけど、サフラに嫌な思いをさせたことは大変遺憾におもっております?」

「とっさに指輪投げ捨てたくなるほど?嫌な思いって?僕は、あやまることもできないのに!」

いつからこんな息を詰めるみたいな話し方するようになったかなぁ。手におかしな力がはいって震えてる。

「なにに、怒ってるの?」

「怒って、ません。怖がってるだけ」

怖いものが、あるのかよ。
サフラを脅かすのは神様だっててこずるのに。
そう思いながらも条件反射でサフラを撫でる。
よしよし、なぜなぜ、何も怖くないですよー。

「ごめん、指輪を投げようとしたのは、ただの験担ぎ。資格はく奪されたのばれたくなくて、師匠を偽装する用だったから、役目おえた乳歯みたいに・・・」

「僕のすべてが、あなたにとっては、乳歯や、はしかや、突発性発疹ですよね」

「突発性発疹・・・は、さすがに・・」

生後半年くらいでかかるやつでしょうが。

「子どもにありがちな、一過性の、容易に忘れ去れる代替品。僕がどんなに必死になっても、あなたにとっては偽物だ。道行く男どもが、あなたを邪な目で見て欲を感じてるのと、変わらない」

私が悲しそうだったとか言っといて、その顔は反則だと思う。

「サフラの想いや成し遂げてきたことを偽物だと思ったことは、一度もない、です」

たまたま偽物確定だった自分が、サフラの近くにいただけで、サフラが偽物化することはないので、そこは誤解してほしくないところ。

「・・・いいですよ、否定して。いくらでも、不幸になれます。世界がすっぱい葡萄まみれになっても、ユオ以外欲しくない。どうせ昨晩のことも、腹を立てるでも、嫌うでもなく、『あれ』が、他の人にも、向くものだと、思ったんですよね」

うっわ、嫌みなんて言えるようになったのかぁ。
しかもなかなかの切れ味。

私みたいのとじゃなく、ピカピカな恋をして、キラキラな幸せ街道を爆走してほしかったなーってのは、私の理想であって、サフラのじゃないってか。

でも、大人が、子どもに夢見ちゃうことは、よくあるでしょう?
うちの子は天才だわ!医者になって大統領にもなってノーベル賞で世界一の企業家になるのよ!ってやつ。

今の私って、そんな愛息に『僕、ミュージシャンになるね!』とか言って、学校辞められちゃって。あたふたしてる保護者みたいなものでは?

それって、

「急に受け入れられる大人のほうが少なくない?・・徐々に、さ、少しずつ、受け入れられるようになるんだと思うの」

ミュージシャンでも大成してくれるなら、大成しなくても幸せなら、幸せって明言できなくてもそこそこ楽しいなら・・・そうやって、ゆっくり。

「ゆっくりなら、いいんですか。触れなければ、見なければ、あなたが、誰のものになっても、耐えれば?飢え死ぬまで『待て』をしてれば、信じてくれるんですか」

・・・
怖い弟子に、育ったなぁ。

「・・・恋人、みたいに、なってみる?もっと幸せになってほしかったなぁ、とは、まだ
思う。相手が私じゃ『めでたしめでたし』じゃなくて『やれやれ』って感じだし。でも、それがサフラのエンディングって決まったわけでもないし」

金縛りがとけたみたいに。サフラの目からきれいなしずくが落ちて。

「もっと幸せって、何ですか。みたいって?あなたが好きです、ユオ。恋人になりたいです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

処理中です...