偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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85☆小型犬

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「がるるるる」
「かっわーいーなー、小型犬みたいだ」

どういうわけか、私の左手の上を、猫じゃらしが舞っている。
キルヤ様は、左手の個性がいたくお気に召したようで、私を押し付けられるたびに彼女と遊ぶようになった。

私としてはすごく気が楽だけれど、このひとのことだからそれも計算済みかもしれない。

医者もサフラもピノアさんも、それから左手までが、そろって私をキルヤ様のところに行かせたがるもので、最近は結構な高頻度でお邪魔している。

キルヤ様といえば、もう完全にこの国の要なのによ?

実際に恩恵をうけた国境街や、住民からの人気は当然としても、現体制を維持してもらいた人々までも、必死でキルヤ様を王にしようとわっしょいしょい。

確かに、サフラがルビー色のシュレッダーになった時を思い出すと、ね。
セズを折られた王や、能力を干された王子たちや、中央の貴族やらは、正直サフラが王になったとたん絶滅危惧種行きだろ、って、私でも思うもの。必死にもなる。

そんな渦中で、無茶苦茶忙しいキルヤ様を、メンタルクリニック扱いする周囲の感性はいかがなものかと思うのだけれど。

さすがに申し訳なくて、仕事の手伝いを申し出てみても、休み方練習しに来てるんだろうがと一蹴された。キルヤ様の認識は、どうやらそういうことのようだ。

キルヤ様は、精神対話能力で左手と直接意思疎通ができるから、私は口を動かす必要すらなくとっても暇で。くわえてキルヤ様が私のこともまとめてたゆたゆあやすから、私はすぐにうとうとしてしまう。

「おい」
「なによっ」

「ユオねたぞ」
「だから?!」

「どーゆー魂胆か吐きやがれ」
「・・・。キルヤ様こそ、なんだって私ばっかり構うのよ!」

「あ?可愛いから?馬鹿なのに有能で、一途なのに股緩くて?」
「あんですってぇ?!」

「お前、サフラびいき公言してたくせに、ずいぶん嬉々としてうちに来るようになったなぁ。迫ってもいいのか?ユオはお前ほど、俺に警戒心ないぞ?」

「できるもんならやってみなさいよ。嫁に来いとかいう割に腰引けてんじゃない!」

「ち、鋭いな。確かに、俺は命削って愛情表現するユオが怖かったよ。だまし合いしたら負けるし。でもお前は、直情径行でぜんっぜん怖くないぞ。理想だなぁ?口説いてやろうか?」

ちゅう

「むっきーーっ。莫迦にして!もういいっ、別の男探す!すっごい顔がきれいなヤツ!見ただけでサフラが嫉妬で悶絶するようなのっ」

「は?サフラを嫉妬させたいわけ?もう十分してるだろ。送り迎えだけですごい顔してるぞ?」

「そーゆーもやもやレベルじゃなくてっ。タガが外れて、襲い掛かるような量が欲しいの!サフラとユオを昔みたいにいっちゃいちゃにしなきゃいけないだからっ」

「・・・それは、量の問題じゃないぞ。おまけに、セックスでどうにかなるストレスでもない・・・」

「あんたね、私のことどこまで馬鹿だと思ってるわけ⁈少子化脱却キャンペーンに毒されて『エッチすればいつでも仲直り!』とか思ってるとでも⁉」

「ちがうのか?」

「ちがう!ユオがパブロフだから、サフラの金色で上塗りするの!気持ちいいこと沢山して、生命力捨てないでも我慢できるようにして、で、で、で、びぇーーっ」

「うわ。わかったよ、わかったから、泣くな。ユオの目が腫れるだろ。あー、馬鹿じゃない、馬鹿じゃない、よしよし」

・・・

うつらうつらして、目が覚めたときには、もうサフラがお迎えに来る時間だった。
目がぬれタオルで冷やされてるけれど、圧倒的に顔が腫れぼったい。

そのせいか、キルヤ様がアイスティーを入れてくれて、サフラと話があるからちょっと待ってろって。なんか私、気が緩みすぎてる気がするなぁ。

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