偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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71☆いつからだ?

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いつから、だったのだろう。
師匠師匠とまとわりつく僕から、ユオが距離をとろうとし始めたのは。

昔、女の子が、僕に手作りのお菓子を持ってきてくれて、好きだと、言われた。

僕は、毎日、ユオに好きだと言っているのに、ユオが、にっこり姉のふりをして、その子に食事を出したり、僕をけしかけたりしたから。

僕は怒って、ユオが出した食事を食べなくて。

「なんで、おこるの?」

「ユオこそ、なんで、僕を、捨てたがるの?」

「捨てぇ?・・てなくて、師匠離れは、正常な発達段階っていうか。サフラは、これから、恋愛もして、好きな事や仕事もして、幸せてんこ盛りで過ごすんだから」

「ぜんぶ、ユオとする」

「それはちょっと・・・」

「好きな人が、できたの?だれ?」

「ええとぉ・・近日中に漁って来る」

「ユオ!!」

僕のユオ好きに、恋愛も入っていることを、ユオははじめから知っていたと思う。

ユオは、僕のことばかり考えてくれる。それが、恋愛と呼ばれるものじゃなくても、僕がユオに恋愛するのを、嫌がったり気持ち悪がったりしたことはなかった。

3年前、かな。
ユオが、剣を持たなくなったのは。
何度も倒れて、血を吐くことすらあって。

ユオは、『やばーい、クローン体の限界、早すぎ!激しい運動はやめて体にいいものたーべよ!』って言いながら、あれだけ自由自在にあやつれた剣を、置いた。

心配で、一時もユオから離れられなくなった僕を抱きしめては、
『弟子にたかるつもりだから、頑張ってね~』
といって、ドアの外へと追い出す。

だから、僕のトレーニングは、その頃から異様なまでにガチ。
クローン体の寿命が短いなんて、7歳児でも知っている常識だったし、ユオの体が丈夫じゃないことは、国境で一緒に狩りをしていればすぐわかる。ユオを丈夫にするのが当面の目標な僕が、トレーニングに精を出さないはずがない。

そのせいで、いろいろ力がつきすぎて、ガーディアンなピノアさん達ともすっかり仲良し。ユオと二人がかりの命がけで狩っていた魔獣も、片手で捻れるようになってしまった。

『サフラ―、師匠は弟子のヒモになるわ!貢いでもらうの!』

ユオはそんな風に言って良く笑ったけれど、引き出しの多いユオはいつまでも完璧な師匠だった。数学の勉強とかが終わった後は、昔の部活の友達の技だけど、とか言いながら、変装メイクとか声帯模写とか変わったことまで教えてくれた。

その頃はまだ、僕の治癒を喜んでくれた。

ユオが、僕の力を拒み始めたのが、いつからか、わからない。
ひどい厄災が増え始めたころから、だんだん?
ユオは、焼き孔から僕の力が厄災の次元に抜けるのが嫌だったと説明したけれど、なんとなく、時期がずれている気がする。

たしかに、はじめは、僕も厄災退治で結構ぼろぼろになったから、力を温存しろって、理由だった気がする。でも、僕の治癒を本格的に嫌がり始めたのは、もっと後?

半分寝ぼけたユオに聞くのは反則だろうか。

「ユオ。ユオが僕の力を拒み始めたのって、厄災がひどくなった以外にも理由ある?」

・・・。
答えない、か。
でも多分、これはYES、だ。

「はじめて、焼孔をあけられたのって、3年前、なの?」

・・・
これも、答えない。けど、息を殺している気配がびくびく。

「ひょっとして、ちがう、の?」

いつだ?いつ?

何日も離れていたことなんて、本当に数回で、連絡が途絶えたことなんて・・・
一度だけ、ある。

師匠の、叙任、式、だ。

「い、ちばん、はじめ、から?」

僕が、師匠になって、って、言ったから。中央のやつらが、保険をかけた・・・

がばっ

ユオがこっちを向いて、叫びそうになった僕の口をふさぐように、頭ごと抱きかかえた。

あの事のユオは、まだ12才、だった。

僕なんかを・・・卑屈に縮こまる7歳児、それも王族という導火線を引きずった役立たずを抱えた女の子が、それも、食用奴隷のクローンが、権力の暴虐を拒めたはずが、ない。

ユオに隠された答えは、いつも、最悪の想像から、数倍下を行く。

短命なクローンが、焼孔まで開けられて、長く生きられるはずが、ない。
成長も、将来も、子どもを産むことも、ない。

僕の、不安にまみれた恋情は、いつも未来のユオの約束をもとめた。僕のせいで、失った未来の約束を。
どれほど疎ましかっただろうか。

・・・さふら、サフラ、サフラ!

何度も呼ばれて。気が付くと、ユオの顔が凄く近くにあった。僕を、水面に引き上げるように、両肩を掴んで。

「わ、私の、前世のトコでは、臓器売買とかっ、普通にあったから!『生活できないなら腎臓売る?』なんて日常会話だったから!!」

言っていることは、めちゃくちゃだけど、全身で僕が傷つかないように守ろうとする師匠顔で。

キスを、する。
部屋が金色であふれる程、治癒力を注ぐキス。拒まないで、拒まないで、拒まないで。

ユオは、ほんの一瞬、眉を寄せて身を固くしたけれど、すぐに力を抜いた。
僕の力は、はじめから、ユオのものだったかのように、金色の渦を巻いて、流れ込んでいく。

ユオの中に、空白と、切れ切れの場面がみえる。

切れ切れの場面の中で、ユオは、いつもひとりだった。
白い部屋で、シーツに溶けてしまいそうに細いユオも、中央の権力でがんじがらめにされて、焼孔を開けられるユオも、次元の狭間で左手をちぎり切るユオも。

僕は、いつもそこに、いなかった。
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