偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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70☆ユオにつく監視

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ユナとサウラの姉弟がガーディアンだという噂がたっているクェリテに、中央がサフラ王子≒ガーディアンと決めつけて進軍すれば、サウラ≒サフラ王子と推測する人間は相当数出てくるのが当然で。

最近は、わざわざ専属のスパイなど雇わなくても、街の情報屋さんという感じのラフな業者がサフラめがけてネタを持ち込んでくる。

ガーディアンならめっけもの、王子だったら大当たり。違ったとしてもコウラ市長やらキルヤ様やら上層部にツテが多いのは確定で、換金性の高い現物をたくさん持っている魔物狩りの手練れ。
必要な情報の範囲が広くて、支払いも心配ない優良で安全な買い手。多分そんな評価だ。

今日も、僕がサンドイッチを待っている間だけで2人も来た。
ふたりとも、この後、ユオがキルヤ様の恋人だと言う噂が出回るだろうと言った。
キルヤ様が、ユオに、キスを、したのだそうだ。
窓が開いていて、とてもよく見えたと。

思い切り顔が強張りそうになるのを何とか耐えた。大っぴらに自分が王子だと認めないかぎり、ユオは姉ってことになっているから。二十を超えた姉に恋人が訪ねてきてキスしました、で暴れるわけにはいかない。
いかないけれど、机とか握り崩しそうになった。

業者は、ユオのキスに情報の肝は置いていないので、話はサクサク進む。

その場面を監視していた奴らが、キルヤさまとユオのキスを見て、大慌てで接触した相手が、王直下の能力者集団『セズ』のメンバーだった、とか。

それは確かに聞き捨てならない。

『セズ』は、現在、クェリテ¥のガーディアン相手に、厄災をよこせ、と脅しをかけてきている。

応じれば潤沢な資金と中央での権力を約束するが、断ればガーディアンだという噂がある人間を大っぴらに指名してひとりひとりツブしていくと。

厄災なんて、常識で考えれば、ただのお荷物で、廃棄物だ。

今回はたまたまクェリテの人間や国境付近の魔獣はしのげて、中央からの派遣組だけがボロボロになるのを見こしてキルヤさまが出したけれど、普通にこの世界でどこかで封じ込めるだけなら、完全に赤字。文句なく負の財産だ。

あんな縁起の悪いものを欲しがるなんて、絶対ろくな意図じゃない。

それに、中央の人間にとって、処刑したユオは、能力者のユナではあり得ないから。
セズが、ユオを監視するなら、ガーディアンだと噂の人間をツブす、の筆頭候補に、ユオを考えているということだ。

ユオとキルヤ様のキス、というネタがどれほどショックだろうと、この情報を最後まで聞かずに帰るわけにはいかなくて。

さっさと殺してしまえば楽だけれど、ユオ師匠は弟子には、いい子でいて欲しいようで、僕が人を殺すのを嫌がる。

わりと倫理観がないと自認する『彼女』までそうだったのだからユオ自身は筋金入りだ。

情報を持ちこんでくれた彼らに多目の支払いをして、大急ぎで家に戻る。
僕が出かける前にぐるぐる巻きにしめておいたチェーンはなくなっており、かわりに家の前には、女性の警備がつけられていた。その警備は、キルヤ様はとっくに部屋を出たと教えてくれた。

ユオのいる寝室の鍵を開けようとしたら、内側からチェーンがかけられていて焦る。
しかも、呼んでも起きてくれない。

ガガンッ
ガチャッ
ギギギ ゴンッ

一拍とおかず、壊して入った。

「ゆお、ユオ、師匠!!」

すやぁ。

ユオは、僕が出て行ったときよりも、呼吸が随分楽そうで、熱っぽくもなくて、表情もとても穏やかにねむっていた。

キルヤ様の、おかげ、か。

僕とは違い、短時間の訪問で、ユオをこんなにも健やかにできる、強い大人。嫉妬が、臓腑を焼くようだ。

ユオをかるくゆすってみる。上掛けがずれて、ほぼ半裸なのがわかった。
この姿で、キルヤ様と・・と考えたら、おもわず、ユオの顔のすぐ横で枕に爪を食いこませてしまい、ユオの顔がコロンと近づいてきた。
それでも、ユオに起きる気配はなく、熟睡。

我慢できずに、そのまま覆いかぶさって抱きしめる。

「ん、さふらぁ?おかえりなさぁい」

手抜きとしか言いようがない薄さに目をあけて一秒。僕を確認すると、ユオはふにゃりと笑った。

・・・。
僕のものだと、大声で叫びたい。

油断すると力が入ってしまいそうになる両腕でユオを締め上げたりしないように細心の注意を払う。気が緩んだが最後、ぎゅうぎゅうに抱きしめて、キルヤ様と何があったか問いただしてしまうにちがいない。

でも、僕に、そんな権利も資格もない。恋人、なのかどうかも、わからない。
ユオが、僕と同じベッドで眠ってくれる時の気持ちは、多分、「しょうがないなぁ、甘えんぼに育てちゃったからなぁ」だ。

師匠に裏切られ、捨てられ、死なれたと思ったあの慟哭の時から、まだ1年とたっていない。あれほど狂ったように荒れて腑抜けた癖に、恋情に浮かされれば、ユオを見捨てようかとすら考える。そんな自分が本当に気持ち悪かった。

でも、師匠は、それを怒らない。それどころか、怒っていないと証明するように、触れさせてくれるようになった。
そこに、ユオの望みはない。僕が望んだから。

何度もユオに向かって窄まりそうになる腕を意志の力で固定していたら、ガチガチに力が入っていたようだ。

「んー、硬い・・。腕まくらでマッチョ自慢とか嬉しくない」
って。

「ごめん、ね、おこして」

頭のてっぺんに唇を押し付けて謝る。

「んにゃ、おきない。あと10時間はねてやる・・・って、あれ?私、キルヤ様に言われて部屋の内鍵かけた気がするんだけど、どうやって入ったの?」

ぽやん。そんな擬音が似合う表情で、なんの嫌悪感も示さずに、ただのなぞなぞのように聞かれる。

「キルヤ様とおんなじ方法だよ。キルヤ様、なんの用だった?」

「あー、仕事の依頼~」

「僕も、手伝う?」

「いらな~い。弱っちいからこそ勤まるおとり役なのに、チートなサフラはつれていけませーん」

嘘をついている風でもなく、照れも気負いもなく、ユオは答える。

「おとり?危ないことはやめて。ユオに危ない感じの監視がついてる。中央関係なんだ。キス、なんてみせつけるから・・・」

そんなことさせられるかとばかりに、思わず恨みがましい言葉が出てしまったところで、

ちゅ

ものすごく可愛いキスがきた。

「もー、しゃべり過ぎで起きちゃったじゃない。せっかく、昔のサフラの夢を見ていたのにぃ。おこった、本物で夢の続きしてやる」

ぜんぜん怒っていない優しい声で、そんなことを、言いながら、僕を抱きしめる。それから、すりすりと猫のように顔と頭を僕にこすりつけたり、頭を撫ぜたり。

・・・何年も前、僕が、ユオにしたことばかりだった。

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