偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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63☆すっきり整頓

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あれ?
左手のユオに任せて引っ込んで。
朝、目が覚めたら、なんかベッド周りがすっきりしていた。ケモナーシリーズが、どこかへ片付いている。

それから、やたらと健やかな顔でサフラが寝ているのを見る。
左手が、なだめたわけか。やるなぁ。

とおもったところで、記憶の揺り返し。

『泣いてるユオは嘘がつけません。ユオのイキたいは、生きたい、です。ちゃんと口に出せば忘れません』

げ。あ、んのやろーーーっ

なんつー夢誘導をやらかしてくれんのよ!
まとめて私にまでかけるとかっ、自己暗示になっちゃってるじゃない!信じらんないっ!!

つねっろうとした左手はするっと逃げて、私のえりぐりをびよんとのばした。

うわ、キスマークまみれっ。どんだけやらかした?!

『おほほ。サフラにはしっかり精神誘導効いたからねーー。あとは、あんたが頻繁に痴態さらせば、かけらも死にたがりに見えなくなって、サフラは安定。万事解決!』

って。ばっかもーん!
悪態つきまわっても、後の祭り。しかも、効き目があることは目の前のサフラの寝息をきいただけで分かるときてる。

とりあえず、左手にこれ以上自己暗示かけられないように、念入りに防御措置を施す。自分相手に鍵かけるとか、考えてもみませんでした!

おもえばこの左手、ユオが由生の頃から根性があった。
筋肉が溶けていく病気の中で、さいごのさいごまで、動いていたのが左手。
自殺ですかと何度も聞かれ、最後までいいえを押し続けたのも左手。
クレーム係さんの粗品を、持てるだけ全部抱えたのも左手、だった。

ちくしょー。とはおもうけれど、この左手ときたら本当に揺らがない。

まぁ、こんなだからこそ私は、左手を投げたのだろうけれど。サフラの隣で、きっと濃く、重くなって、私をサイフォンできると信じて。

帰って来たんだなぁ。
苦しそうなサフラを見ていた時は、帰ってこなくても良かったのにと思ったくせに、この子が健やかだと、帰ってこられて良かったと素直に思う。

サフラの目が開いた。
彼が私を見る眼からおどおどが消えていて、私を見ると、

「おはよう、ございます、師匠」
と言って笑った。

えー、えー、わかりましたよ。左手、あんたが正しい。

やれやれ、憑きものが落ちたようなすっきり顔しちゃって。
ちょっと悔しいかもしれない。

あの左手、忖度とかしないからね。うじうじした悩みなんて、血と筋肉と骨でできている左手とは無縁だと言い切りやがるんです。

くすぐったそうな小物が減った隙にマフラーと耳当ては自分で作ろう。
毛糸で丸いパッチを作って重ねるつもり。
ちょっと細めの糸で作れば毛羽立たないけど温かい耳当てができる筈。
そして、雪山に遊びに行くのだ。

ふと、何週間も先の予定を考えたのは、随分久しぶりだなとおもう。どうやら長いこと下を向いていたらしい。あと数か月か数年かわからないけれど、顔をあげて先を見るのは、実に良い気分だった。

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