偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

文字の大きさ
上 下
61 / 93

61☆私よ、わ、た、し

しおりを挟む
デザートを食べたり、新聞を読んだり、編み物をしたり。
ユオのそんなのんびりタイムは、最近受難だらけだ。

ユオがくすぐったがるのを知っていながら、僕が際限なく触りまわすから。

逃げるのがすっかり上手になってしまった最近のユオは、僕が絡みつくと、危機を感じたアルマジロみたいに丸まるのが常だったけれど。今日は違った。

「もっとして?サフラ」

という。

「さっさと逃げようとしてる?だめだよ?」

全身に、子どもが玩具を取り上げられる前のような警戒が、にじんだ。

「そじゃ、なくて。私よ、わ、た、し」

そう言ってユオは、左手をひらひらさせる。

「ちぇ、いっぱい力もらったし、エッチもしたのになぁ。あっさり忘れた?」

ユオじゃ、ない?

「・・・・手紙の、ユオ?」

『彼女』が笑ったのを、心臓が、感じた。

あらゆる感情をもつれさせて、治癒力も欲情も狂ったように吐き出す僕を、笑って抱いてくれたあの人が、そこにいる。
恨みで人の形から外れかけていた僕を、恋情の塊に変えながら、結局は僕に消された『彼女』が、そこにいる。

体をはがして顔を見ようとするサフラに、ユオはぎゅうとしがみついたままで。
がじがじと、シャツの上から僕の胸を噛んでみせて、ふがふがとそのまましゃべる。

「うん、そう。私だって分かった途端引っぺがそうとか、冷たくない?」

「・・・顔を、みせて、おねがいだ」

頬に手を当てて顔をあげさせると、いたずらっぽい目をした彼女がいた。
荒れ狂うサフラにむかって優しくしろと強請った時そのままの顔で。
消えてしまった、いや、僕が消したと思っていた、彼女そのままで。

「へへ、ここまではっきり残るとは自分でもびっくり。また会えてうれしい」

そういうと、彼女はもう一度胸に顔をうずめてしまう。

ぎゅう。腕をせばめて、ユオの実在を確かめる。

「ユオの、なかに、あなたが、居るの?」

「んー、混ざって薄まると思ったんだけどさ、なんか比重違う感じで、私は私なのよね。でもべつに本体も嫌がってないし、仲よくしてます」

「なかよ、く?ユオも、わかっていて・・」

「当たり前でしょうが。自分のことよ?今の状態も合意済みだから、遠慮せずにがばっといらっしゃいよ、がばっと」

「・・・憂さ晴らしだと、思っていたくせに」

はじめが、そうだったから。終わりが、ああだったから。
あなたと呼ぶことも、好きだと口に出したこともなく、どれ程特別に思っているか、伝えることもできずに。

「あら、晴れなかった?」

「好きでしたから・・」

あなただから触れたかったとか、どれほどあなたを手放したくなかったかとか、そんなことはとても伝えられないほど、過程も結果も事実も裏切りで。それでも伝えられないことが苦しかった。

憂さ晴らしに使っているとか、ユオを取り戻す器を造るために抱いているとか。そう思われているかと思うだけで死にたくなるほど。

「私も好きよ?過去形じゃなく、ね!本体のことも好きでしょう?好きが2倍でよかったわね?」

「僕の中で、あなたと、ユオは、ちがう。ユオを裏切って、あなたを切り捨てて。今度はユオの体を使って、あなたを抱くの?」

彼女は、心底うげろげろ、という顔をした。

「なんなの、その複素数を微分しましたみたいな、ねじれた考え方は?」

「・・・」

「あーのーねー。私が好きだったとか言っときながら、また会えてうれしいくないの?」

「うれ、しい」

ぎゅう。
どうしていいかわからない程、うれしい。

「ユオが生きて帰ってきたのは?嬉しくないわけ?」

「うれしい」

時間がたつのが耐えがたい程、うれしい。
ユオが、死んだと聞いてからは。
毎日息が苦くて、心臓が万力で潰されているみたいで、頭が溶鉱炉にぶち込まれたみたいだった。自分も世界も壊してしまいたかった。

「私達が、サフラ、サフラ言って、腕の中にいるのは?」

「うれしい」

うれしい。
腕の中の実在が、大切すぎて、奇跡のようだ。

「じゃ、嬉しそうな顔しなさいよ!それとも、本体が不機嫌になった途端相殺されちゃうような、ちゃっちい嬉しさな訳?」

「違う、けど、自分が、気持ち悪い。僕のせいで、また、消えたがるかもしれないのに、離れられなくて、許されたくて、触れたくて、怖い」

そうだ、怖い。繰り返すことが、怖い。
次は、絶対に耐えられないから、怖い。

「消えたがってないっつーの。心臓裏に孔喰らったポカを取り戻そうと、ユオ、無茶苦茶がんばったのよ?」

その間に、僕が何をしていたか、あなたは知っているじゃないか。

ちゅ

いつのまにか、ずり上がって来た彼女が、僕の口の端にキスをする。
それから、耳たぶと、まぶたにも。

「怖い、苦しい・・・」

「はいはい、楽にしたげるから私と寝よ?とりあえず、がばっとおいで、がばっと!」

「・・・僕がユオを好きな事を、あなたは知っていて、僕があなたを好きな事を、ユオが知っているのに?」

「???」

「僕は、好きな人でも平気で裏切って、あなたにたかるクズだ。ユオが必死で守った弟子なのに」

「・・・んーと?ひょっとして、ユオのことが好きなのに、私のことも気に入ったのが不道徳って話してる?」

他に、どう表現できる?

「いやいやいや?!ユオだってサフラのどこが好き?って聞いたら、目が好きとかいうんじゃない?!鎖骨が綺麗って言われたら嫉妬して自分の鎖骨折る女とか聞いたことある?!」

「あなたは、僕のせいで吹き飛んだ」

「元気ですからお気遣いなく?!」

「ユオは、僕に治癒される位なら死にたがった。なんで・・・なんで?」

ユオは、言わない。ひとりで消えようとした理由も、僕を信じない理由も。
ひっく、ひっくと情けなく、呼吸がしゃくりあがる。

「あー、なるほど、本体の口からそれが聞けないからぐだってんのか。わかった、無理矢理聞き出そう。拷問ごっこエッチ編!」

「・・・ユオの、嫌がることなんて・・」

でも、『彼女』には、やったのだ。やめてくれと絶叫する彼女をなぶり責めて、傷口を抉った。
ユオにだって、抱きつかせて、嫌がるファーをわざわざあてて、逃げないことを確かめる。

「ちまちまくすぐって抱きつかせてんのと大差ないわよ。だいじょうぶ、だいじょうぶ!めろめろのべろべろにして聞き出すだけだから!」

自分は、正常じゃないのに。まるで、長年の安心できる仲良しみたいに、あなたが話すから。

「お、お酒つかえって?」

「何言ってんの、あんたよ!ほら、予行演習、さっさと脱ぐ!」

「予行、って・・・」

「私で練習して、ユオで本番!ついでに据え膳の返品は不可!」

そういうと、彼女は、自分の服をぱぱっと脱いで、当たり前のように、僕の上着のボタンをピンと弾いて外した。

頭が、くらくらする。彼女に触れたい欲と楽になりたい欲求と、むりにしゃくり上げるのを止めた酸欠で。

「ちょっと、まって・・・」

僕の、安い理性や葛藤は、ちょっとだけ上目ずかいの彼女の視線で、ユオからもらうには、あと数億光年かかりそうな、艶っぽい唇の動きで。
簡単に、割れる。

言葉を返した時には、自分がもう堕ちているのが、わかっていた。

「じゃ、さ、前、みたいなのは?うんと焦らされたやつ、気持ち良かった、よ?」

びくん。
あんなひどいことをしたのに、嫌ではなかったと、言ってくれるの?
自分のが、ふるえて、ズボンのぎちぎちが、キツくなったのが、わかる。

「・・・ひどいこと、していいの?」

「ひどいのは困る。けど、サフラのことしか考えられなくなるのはね、すき」

僕の手に自分からファーを握らせて、彼女は自分からソレに体をよせた。

「きっと、前を思い出して、嫌な感じがするよ?それでも僕を好きって、言ってくれる?」

「うん、好きって叫ぶかも」

太腿の内側とウエストの周りをなぜるファーの感触だけで泣き出しそうな顔なのに。彼女は僕の理性をふき飛ばすような声でそう囁いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...