偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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54☆ルビーダスト

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中央軍を、完璧に抑えきっているように見えたキルヤさまが、回復イマイチの私に助けを求めるなんて。

身内由来な困りごととしか考えられない。
だから、まぁ、サフラが切れたかな、と想像がついたのだけれど。

それにしても・・・

きれいだなぁ。

そう思った段階で、ユオは自分の多重人格を疑う。

目の前の状況は、一言で表現するなら戦場で、セズ率いる中央軍がクェリテになだれ込んできている最前線のはずだった。

ただ、力の差が大きすぎて、とてもそうは見えないだけで。

そこには斬撃の音さえない。ぽつんと立っているサフラに向かって、剣を構えて進む一群は、無音のシュレッダーに向かっていく紙きれのようだった。

動かぬサフラの数十メートルも手前で、彼らはルビー色の小さなきらめきにかわって昇華した。悲鳴が響くわけでも、血が流れるわけでもなく、ただサフラを照らす一瞬の光になって消えるのだ。

その光が、きれいだなぁ、なんて。

セズの重鎮であるパライは、サフラの乳母を殺した。
セズの実験を兼ねた処刑で、ユオは狭間に落とされた。
今だって、セズのほうが、わざわざ中央軍を連れてクェリテくんだりまで攻めてきた。

そんなわけで、サフラが目の前のセズをルビーダストに変えても、彼を悪逆非道と非難する国境の人間は極少だろう。キルヤ様もそれはわかっていたようで、私をここへ運んできてくれた仲間経由の伝言は、サフラを止めろ、ではなくて、サフラに正気を保たせろ、だった。

圧倒的な強者と化したサフラを前に、それなりの大義だの理由だのを持った人間の命が消えていくのは、心に負荷のかかる光景である『べき』だ。
すくなくとも、サフラに人を殺すなと教えた師匠だったならば、心が痛む『はず』。

それなのに、やわらかく揺らめくルビー色の光がサフラの頬をくすぐるのが、あまりにきれいで。

ちゅ

呆けた自分の唇が、サフラの頬を通り過ぎるルビー色をかすめた。

「・・・え・・」

その異常さは、サフラにもダイレクトに伝わったようだ。ルビー色の瞬きが止まり、ぎぎぎぎ、と、おかしな音がしそうな不自然さで、サフラはこちらを向いた。

一瞬の隙をついて、惰性で死のシュレッダーに向かっていたセズと中央軍を、キルヤ様が散らしはじめる。
キルヤ様から『よくやった、そのまま気をそらしとけ!』って、合図が来たけれど。多分私は、自分の意志で動いたわけではない。

「手紙の・・ゆお?」

ああ、やっぱりサフラも、そう思うのか。
私も、そんな気がする。

左手のユオ。手紙のユオ。
倫理も道徳も薄いと言いながら、あらゆる手を尽くして、私とサフラを暗闇から引っ張り出してくれた彼女。

フェンシング三昧の由生のころから、軽やかでありながら無駄がなく、さぼりまくるくせにあきらめず、私のバランサーであり続けた左手。

私はそれが好きだった。

だからそれに願をかけて、次元の狭間からサフラの作り出した次元に投げたのだ。彼女は、とてつもなくがんばった。クレーム係さんの庇護を受け、サフラの金色を吸収し、私をキャピラリーできるほど強くなって。

ただたまに、彼女の思考はちょっと斜め。
今日も彼女はなかなかに力強く。私の思考にかぶさって、きれいなものはきれいだ、などと、さざめいた。

カクン

膝から力がぬけて、頭から血が抜けて。
倒れるはずが、上腕二頭筋への圧迫で、ぎゅむむ、と引き留められる。

「ゆお、ユオッ!!」

声から察するに、私が地面に激突しないように支えているのは、サフラのようだ。
周りに人がいるなら、ユナとか姉さんとか呼んだ方が良いのでは? なんて、とても注意できるような体力はなく、そのままくたくたと弟子の腕の中に折りたたまった。

悪い気分ではない。外側からサフラに、内側から彼女にくるまれて、とてもあたたかい。
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