偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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52☆あと片付け

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「おーらい、オーライ!そこでぇ、すまーっしゅ!」

シュロの掛け声は、正直無理やり感のある明るめのトーンで、気づかわし気な視線をちらちらとお偉いさん方に投げていた。
決してバトミントンをしているわけではない。
厄災の、類似品の、後片付け中だ。

肉片が、ふよふよと重力に逆らって飛びやがるもので、ガーディアンの面々が自主的に清掃をしている。目的は、街人の安眠のための、ボランティア活動。

今回は厄災ではなく、人災だったが、結果的にグロに振れたので、人々の心のケアのためにも、殺伐としたものはさっさと片付けるに限る。
そんなわけで、隣町の国境ニュースを聞きながら、ガーディアンメンバーで後片付け。

毎度厄災退治に出てくるのは、ユオを入れて6名だった。今回は5名。ユオが死んで、サフラがおかしくなって、その代わりにキルヤがガーディアンの活動に出てきたから。

どうしても王都に戻りたくない実力者が複数居た点で、この町のガーディアン事情は恵まれている。
キルヤが探していたピノアは、時間を引延ばしたり縮めたりできる肝っ玉母さんだ。優しげに見えるが、力ずくの駆け落ちで、1ダースを超える死者が出たというから、そりゃまぁただものではないだろう。ユオが消えた今となっては、残りは男性。
念動力を細かく分割してゲーマーみたいに使う若者のシュロ。
中央で剣士やった後、政争うんざりで堕ちて来たらしいサーガ。
男は拳で勝負するとかいって、70過ぎて素手で魔獣狩りとか、やりたい放題のおじいちゃん、カル。

そして、最近やってきたキルヤ、の5人。

ガーディアンたちは、キルヤが大厄災を使ってスタンピードを制したのを目撃したし、サフラとユオが中央で唯一連絡を取っていたのがキルヤだったことも知っている。だから、興味津々ではあるのだが、噂と違いすぎて様子見。

隠居するから働かない、が口癖のカルですらキルヤをちらちら観察しながら、無駄口もたたかず、キリキリ働いている。

この町の厄災退治の報酬は変わっている。基本報酬は、転送機の使い放題、秘匿情報へのアクセスし放題、他人へのなりすまし放題といったところ。
金の報酬はないものの、何度も戸籍を変えてもらえるし、変えた戸籍で他国への通行証も出してもらえる。一度に2人の人間として存在しても黙認。普通は身元確認が必要な預貯金の移動だって、フリーパスでポンポン振り替えてくれる。

ここで厄災掃除をしている限り、町ぐるみで、雲隠れに協力してくれているようなもので、王都に情報が届くことはない。まぁ、「それ」が報酬になるタイプの人間が、こんなにいたのも驚きだが、凶悪犯や人格障害の能力者が入ってきたことがないのも驚きだ。

ユオとサフラのコンビも、もちろん微笑ましかった。

ユオの声を、懐かしく、思い出す。
「おつかれさまぁ、お茶にしませんかぁ?」

ちょっと間延びしたユオの声が響くと、いくら何でも綺麗すぎるだろ、というブルーやピンクの飲み物が揺れたものだ。

ユオは、ラムネ作りセットの着色料をクッキーやら飲み物やらにいれて楽しんでいたので、市場中探してもなかなかお目にかかれないような鮮やかな色のおやつができてしまう。

「あらぁ、素敵。気持ちが明るくなるわぁ」

ユオの料理に、いつも真っ先に飛びついていたのは、ピノアさんだった。

前回、ユオが最後に参加した厄災退治でも、町の人を逃がす時間を延ばしたり、敵に炎が届くまでの時間を縮めたりした。稀有な能力者だ。

3年ほど前の厄災では、やたらと形の変わるサラサラした敵が出たのだけれど、ユオがコーンスターチなるものをぶっこんで、ゲルにしてしまったことがあって。
それ以来、ピノアは、ユオの能力のファンを公言していた。

厄災退治のメンバーは、有事の時以外特に交流を持たないのが普通だが、ユオとピノアはお料理教室と称して頻繁にあっていて。
厄災をゲルにしたすぐあとに、ユオが『あんかけ』なるものを作っていたときは、男性陣は目を覆い、よく食えるな、と胃を抑えた。
それなのに、ピノアは、コーンスターチが、トウモロコシからつくれると聞いて、商売を拡大するつもりになったらしい。彼女はタフだ。

「ユオたち、すごく上手に立ち回って来たのに、今回はめだっちゃったわねぇ」

ピノアがそう言ったのをぼんやりと思い出す。

僕らは、サフラとユオを良く知っていた。
ユオが、王族の家庭教師もぶっ飛ぶような高度な教育をサフラに施していることも。
多分第五王子だろうなということも、中央のスパイから逃げまわっていることも。

彼らはうまくたちまわっていて、あとはもう目立ちさえしなければ、昔、サフラとか言う王子がいたな、位で誰からも忘れ去られることが出来るはずだったのに。

そんな時に出た、メガトン級の厄災。堕ちた国境の街は4つ。
居心地の良いこの町も、消え去る寸前だった。

自分たちを隠しながら動く余裕などなかった。

「仕方がないわ」

ユオは、そういって肩をすくめ、目の前の問題を優先したのだ。
そう、仕方がなかった。物理的に叩いて殲滅できる敵じゃなかったので。

力がついて、この世界以外の次元も見えるようになったサフラには、厄災の軌道が見えた。それを追って紙に書いて説明すると、ユオはたちまちその軌道の曲線を数式にして、そいつの出口を計算できるようになった。

解決策は、ユオが読んだ軌跡の先に、サフラが専用の次元を作り、閉じ込めること。

毛糸で作ったポンポンみたいに、真ん中で折れた生き物の残骸がたくさん生えたあいつ。腹が立つことに精神作用があって、仲よくしようと寄って来る。メンタルが揺らいだ生き物はたちまち吸い寄せられ、生きたまま外殻を覆った。そんな状態で焼き払おうものなら、生きている外殻が死んで、ポンポンの毛糸が増えるだけ。

そんな気が滅入る厄災だった。

寝ずに複雑な計算をするなんて、続くものじゃない。
ユオは、数学者呼んで来い!と叫んだけれど、ユオの言っている意味がわかるのは、何年も彼女の授業をうけたサフラくらいで。結局二人で計算三昧。

魔力を使った攻撃や防御の力を隠す方法は整備されていたが、ひたすら計算している姿を隠すことは考えられていない。

街の最高責任者コウラが、日に何回も駆け込んでは転がりながら出ていく。だれが見たって、彼らを市井の人とは思わないだろ、という状況になってしまった訳だ。

「・・・いい加減、限界だろ。サフラは、強くなったよ、ユオ。そろそろ、あんたが守ってもらう側になりな」

漏れ聞こえてしまったあの時のピノアの言葉をなぜもっと深く考えなかったのだろう。

出会った頃のユオは剣の扱いが凄く上手で、僕らはユオの剣技が大好きだったけれど。
ひどい体調悪化に何度かみまわれた後、ユオは剣を握らなくなった。
そろそろ適齢期だから控えるかなぁ、なんて嘘くさい言い訳で。

ユオが剣を振り回さなくなってから、ユオの周りによこしま一杯の男が増えた。
サフラがやさぐれながらも、絶対だれにも渡しません、返り討ちにしちゃる、と意気込んでいて、男から見ても可愛らしかった。

ユオが死んだと聞かされたとき、サフラの心は折れた。
自分で作った次元に引きこもって、ほとんどでてこなくなった。

そんなサフラの前で、あいつらは、ユオの悲鳴を流したのだ。
ユオの悲鳴。ユオが、焼孔される時にあげたのだと言う悲鳴を。

バキ、メキメキメキッ

あ、まずい、呆けた。

呆けると、つい、片づけている中央のやつらの頭蓋骨を割ってしまう。
特にユオに恋愛感情も師弟愛も感じていない僕ですらこうなのだから、サフラは、と考えると背筋が冷える。

だから、ポイ。

ただのゴミ。そう思おうと努力する。

ユオが、サフラに人殺しはダメ!って教えていたから、まぁ、全滅はさせなでくれるんじゃないかな。
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