偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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50☆消えたくない、かな?

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狭間を粉々にする時、手を握っていてくれと、彼女が言った。

両手で彼女の左手をおし抱く。震えているのはどちらの手なのだろう。
軌跡は今やくっきりと通っていた。

目をつぶる彼女に、衝撃が近づいてくる。
何度ユオが消える絶望を味わえばいいのか。

ばしゃり、とも、ガツン、ともきこえる、圧力の塊が、勢いよく降った。

消えたくない、と。
僕ににそう言ってくれた彼女の意識は吹き飛んで、いくら手を握っても反応が返ってこなくなり、心が奥底から冷えていく。

何度も彼女の輪郭がぼやけて、器ごと吹き飛んだのではないかと思う。

だが、その度に押し抱いた左手から、また形が戻っていく。
『クレーム係さん』がユオを羽化させたときのように。

衝撃が止まると、まばゆいばかりの気が広がった。本物のユオ、だった。

次元が震えるのがわかる。
ユオのための次元の「お帰りなさい」が、雪をあたためる。
こんなにもユオは絶対的だったろうか。薄い気の『彼女』とは似ても似つかない。

ユオが、帰ってきた。
生きて、帰ってきたのだ。

彼女が消える絶望を、ユオが存在する歓喜が塗りこめて、心がちぎれていく。

そのあと、ユオは何日も意識がなかった。
せめて、ユオを癒したかった。
けれど、僕の力はかたくなに拒まれて、ユオに流れ込んではいかない。

彼女に求められて与えたときの心地良さが思い出されて、ただ体と心の中を食い荒らされる。

僕は救いを求めるように、ユオの手に触れたまま眠りに落ちる。
はなれそうになると手に力が入り、その動作に自分で驚いて、何度も目を開けた。

そして、何回めだったろう。目を開けた瞬間に、ユオと、目があった。

「ユオ・・・?」
「ん」

恐る恐る呼ぶと、小さな返事がある。

そして、憔悴しきった体を起こしながら、ユオつぶやいた。

「私、うわ、帰って来たんだ。強引なことしたのね、無理やり力を奪って・・」

ひどい第一声もあったものだと思う。奪うどころか、欠片も力を吸ってはくれなかったのに。

「おかえり、なさい。目が覚めて、良かった。ユオ。」

ユオを見ると、体の中を暴れる力が、外皮を突き破ってほとばしってしまいそうで下を向く。

ユオが愛しくて、ユオに求められたくて、苦しい。
彼女を思い出して、彼女を求めてしまいそうで、苦しい。
ユオに力を与えられない自分など、存在する価値すらないのに。ユオは、サフラの力を拒む。

何が、誰かれ構わず、だ。
僕は消えてしまった彼女に毒ついた。

消えた彼女の他に、サフラの力を受け取ってくれるものなどいない。力を分けるのが幸せだったのは、自分の力の意味を知らなかったときだけだ。

そのあとは、与える心地良さすら苦しくて。
消えてくれとしか言えないくせに倒れこむ自分を、彼女は笑って抱きとめた。
大切で大切で大切で。それでも一度も大切にできなかった。

僕の手の中で、彼女は吹っ飛んだ。

夢を見る。
夢の中のサフラは、泣いている彼女を器にしようと、無理やり押さえつけていた。輪郭がぶれて、暴れるユオを何度も何度も。

それが、苦しくて。それを、後悔して。でも、その後悔すら、ユオへの裏切りで。

たから、ユオが目覚めても、僕はユオの部屋で長い時間をすごせない。
生きて帰ってくれた、幸せのすべてであるはずのユオの側で、全身で喜びを表して、抱きついて・・・そんな当たり前の行動が、とれない。

それだけで、自分の役割も存在意義も分らなくなって、ただ、ユオが寝ている部屋の周りをぐるぐる回る。
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