偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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34☆風邪ひいた

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身体がずっしりと重くなり、寝室に入るなりへたり込んだ。

あー、これは間違いなく、明日起きられないな。ま、すでにベッドにすら上がれないけれど。

末端から冷えていく感覚も、肺が膨らまなくなる感覚も、視界の光が消えていく感覚も、喉もとをすっきり通過した後の暴れないヤツなら、飽きるほど本体ユオの記憶の中にたまっている。

指先すら持ち上がらなくなって『このまま死ぬかもなー』、と思いながら落ちた夜は、4桁にのるだろう。その記憶の中のユオは異様に年寄りくさかった。

体感から言わせてもらえば、記憶の量だけで年は食わないと思う。
私には、ばらばらで整理の悪い記憶が30年分くらい押し込まれているけれど、自分が30歳近い気はしない。

だって、ほとんどはスポーツ三昧の前世子供時代と、12歳の体のままサフラと狩猟採集生活してた現世の記憶だし。残りだって、病院とか、クレーム係さんとか、次元の狭間とか?
子供時代と夢のないファンタジー世界のプロになっただけで、大人になったわけじゃないのでは?って。

だから、ユオの、サフラへの子ども扱い・・いや違うな、子ども扱いを言い訳にした恋情の拒絶、か・・それがどこから来るのかも、よくわかっていなかった。

でも、いざ自分が立てなくなってみると、恋愛沙汰にもつれ込むルートが閉じていることも、ユオが異様に年寄りくさかった理由も、まぁ、理解はできる。

気力、体力、生命力。思考力に、判断力。それらがだらだらと抜けていく脱力感のなかで、『ユオとサフラの時間は、共にあり得ない』という事実を、どう収集させようか、なんてことばかり考えていたら、それだけで倦むし、歳を食う。

それなのに、当のサフラは共にあるためだけに、人の枠組みから外れかけるとか、ないわーって。

がちゃ

げ、出た。

ドアを開け、床の私を見て息をのみ、サフラがこちらに駆けてくる。
やれやれ、見られたくない時に限って。

「ユオ・・・なぜ言わないっ!」

指ですら動かないのに、口やら視線やら動かす気には到底なれませんって。
本体ユオなら、もうちょっと見栄を張ったかも、と思わなくはないけれどね。

冷たい床から引きはがされて抱きこまれると、サフラの心地よい体温に、痛みやしびれが溶けていく。

ああ、なるほど。
こういう時に『このまま死ぬかもなー』っておもうのは、なかなか癒える。死が、痛みをはがしてくれる、脱皮するみたいに疲れを脱ぎ捨てられるって、そんな気分になるから。

だからきっと、ユオの『このまま死ぬかもなー』は、布団にはいって寝る前とかが多かったのだろう。

そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。

もぞもぞ。
痛みが引いているのに、動きにくいなー、暑苦しーなー、なんて思いながら目が覚めて。

胸元に引っ付いているサフラを発見。

なんだこれは。

青年期を迎えた男性がとる格好とは思われないほどまるまって、子どもじみた手つきで私の服にしがみつき、気のせいじゃなければ頬に涙の跡?

しっかり育った彼の肩幅やら足やらは、いくらまるまろうが私の胸どころか上掛けにもおさまらない。ついでにいうなら、ユオの記憶の中のサフラならともかく、私に相対した実際のサフラは、威圧的とまではいわなくとも、弱弱しくはなかったわけで、壮絶に違和感がある。

ぽやん

そんな感じでひらいた彼の瞼は、泣いただろ、と突っ込みたくなる程度には腫れていて、心なしか、唇とかも普段よりぷくっと赤かった。

「捨てないで」

「・・・へ?」

寝言に返事しちゃいけない、って話はいつの記憶だっけか?

脈絡がなさ過ぎて返事のしようもないので黙っていたら、すりすりと子猫のように顔を擦り付けられて、服の端を齧られた。

「わ、私が、寝ぼけて何か言いました?」

「・・・このまま、死ぬかな、って、言った。ほっとしたみたいに」

あー、熱あったからなぁ。どこまで思考でどこまで外に出したか自信がない。

「もう、治りましたのでご心配なく」

よいしょ、とばかりにサフラを押して体を起こすと、うぇ、クラクラする。
頭から血が抜けていく感覚があるから、多分顔色も急激に悪くなったのだろう。

肘をカクンとたたまれて、サフラに着地。ごろんと転がされて、ながれるように仰向けに寝かされた。サフラの顔が至近距離に来たからつい顔をそむける。

「しょっちゅう、だったよ。ユオが、ひどい顔色で眠るとき、せいせいしたみたいに、息を吐く。僕を・・捨てたい、って言うみたいに」

「本体そこまでデリカシーなくないとおもうけど?!」

「デリカシー、の、問題、なんだ・・口に出さないだけで」

あ、やべ、失言、ってか、カマかけられた?

「違うってば。えーと、そう、おまじない!厄除けのっ。本体の『死ぬかもなー』は、いたいのいたいのとんでいけ、と一緒だと思う!」

我ながら、正しい比喩だと思ったのだけれど。
サフラは、泣き顔の数倍真っ暗な表情のまま、私の顔を上に向けさせて、キスをした。
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