偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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33☆自信

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おっとなしーなー。

明石焼きとタコ粥をたらふく食べさせたころから、サフラから血の匂いがしなくなった。

まぁ、目つきは昏いわ、ピリピリしてほとんどしゃべらないわで、到底平常モードには遠いのだろうけれど、外出もせずに私のそばにいるから、多分誰も殺してないと思うのだ。

私の方も、そうか、この年頃だと色気より食い気かと納得して、記憶にあるご飯で簡単そうなものを片っ端から作ってみる。

塩焼きそばとか、卵焼きとか、ハンバーガーにチャーハン。
あと、ポテトチップスとか、フィッシュアンドチップスも。

もとから市場で手に入る調味料も少ないのだけれど、家においてある調味料はさらに少なくて、不便だなーと思ったら、サフラのそばにいたころのユオは手からいろんな調味料を出せたのだそうだ。

うらやましいぞ、そのかくし芸。
私はそんな器用なことはできないけれど、マヨネーズ位なら自作できる。

市場では、肉も魚も貝も手に入るけど、ちょっと中身が何かわからないものが多すぎてパス。
高額なものは特に要注意だ。エビだと思ったらウサギみたいな顔がついていた時と、鶏肉だと思ったら人面がついていた時にはマジに飛び上がった。

サフラの言によれば、安いものを買えばその手のグロ食材には当たらないらしいのだけれど、貨幣価値の把握もあいまいな私にとっては難関すぎる。

めんどくさくなって、自分で魚を釣ってみたら、異様に上手でした。われながらほれぼれするね!

そんなわけで、自給自足かよって位、狩猟採集に力入れていたら、筋肉の使い方とかぐんぐんうまくなって。

初めのころの、出来損ないのロボットみたいな動きはもう出ない。
早口言葉もいけるし、脳内シミュレーションだけなら運動神経もよさそうだ。

『サフラを宥めろ』?
オーケー、オーケー。
初めのころのビビりが嘘のように、最近の私は自信満々。

キルヤ様やピノアさんやほかの仲間をみても、サフラはわりーと、周りの人間に恵まれてるっぽいし、なんとかなるでしょ。
反抗期の魔王の一匹二匹、どんとこいですわ!って。

ま、目の前のサフラの両手が血に染まっているのを見て、ぐずっと溶ける程度の根拠のない楽観でしたけどね。

「げ。殺っちゃった?!」

「あ・・・意識的には、殺していない、とおもう。死んでなければだけど」

なんなのさ、その『やめようと思ったけどやめた』みたいなどっちつかずなセリフは。
とりあえずファイティングポーズで進み出て、サフラの手を取ってみる。

うそ、自分の血?
サフラの指の爪が、生命線の親指側の掌にざっくりと食い込んで、血が流れていた。
しかも、これ、一回の跡じゃない。

「ちょっとっ、プーさんの肉球みたいな色になってるわよ!?」

「・・・何色?」

もっともなツッコミを食らいながら、救急箱までひきずっていく。
じくじくの傷と、ドクドクの傷と。

「自傷にみえるけど、違うとうれしいから、理由言ってみたりしない?!」

止まっていない血をガーゼで抑えながら。固まってしまった血を消毒液で溶かしながら。
とりあえずこっちを向けやコラ、とばかりにサフラの視線の先に割り込む。だって表情があの世向いた老人みたいで、全然目が合わないんだもの。

「悲鳴は、聞かなかったんだ。聞いたら多分、あいつら全員死ぬから」

「いやいやいや?なんか受け答えがずれてる気がするのは私だけ?」

めげずにもう一度、サフラの視界のど真ん中に自分を持ってくると、彼の両うでが一瞬伸ばされて、私を挟んだ。

ぎゅう、ぎゅぎゅう。

血が付くのを気にしてか、手のひらを上に向けたまま抱きしめるもので、一瞬なんの絞め技かとおもいましたよ。

「あいつらが、餌にした悲鳴が、ユオのもので。それが、僕がへらへらしているときにとられたもので。それを大音量で繰り返し晒されって聞いても・・・それでも、我慢した」

うわ。中央政府ってば、ユオが壊れる音を餌にサフラを釣ろうとしたんだ?
そりゃまた命知らずなことを。

「た、たいへん、よくがんばりました」

ほめてみている間にも、ぐぐぐ、とサフラの腕が固くなっていくのは、ひょっとして、また爪を内側にしてこぶしを握りしめようとしてる?
気をそらすべき?

がじがじ がじがじ

可動範囲が制限されているので、やむなく押し付けられているサフラの胸板をかじってみる。もちろんケガさせたら本末転倒なので、歯形とかつかないように、軽く。

がじ?

あ、腕が少し緩んだ。

自由になったばかりの左手で、首元のスカーフをひっつかみ、サフラの目の前に投げあげて、もも色の薄布を、ふぁさっと彼の眼前にひろげる。

赤ちゃんがさ、サングラスかけたりして目の前の色を急に変えると泣き止むことあるじゃない?あれの応用版。由生の時は、この技で何度も姪っ子を・・・ 

って、ありゃ?

なぜ私は、腕を固められた上、至近で顔を覗き込まれているのかな?ユオってば師匠やってる間、格闘技ばっかり教えてたんだろうか。

「それも、伝言?」

自分の言動のルーツは大概無意識だ。今だって、サングラスの技は整理が途中で止まっている記憶をさらって引っ張り出したのであって、伝言じゃないな、と確認するのにも2秒くらいかかる

「伝言というより、伝承の技・・・じゃなくて、血~」

「とめた」

あ、治癒、自分にもできるんだ?
先にゆってほしかったわぁ、とか思っている間に、サフラの手首から先がみるみる青白くなっていく。誰が血流ごと遮断しろといった?!

「とめ方が間違ってる!こら、流せ!手が死ぬ手が死ぬ~!」

根性で暴れてみると、割と簡単に解放されたので、団子型になるまで、サフラの掌にそこらへんにある布を巻き付けて、血流を再開させろと喚く。
それから、指先に肌の色が戻るのを確認して、団子からはみ出している指先をがっちり押さえて爪を切ってやった。犬の爪切り気分。

ふう。

ひと仕事終えた気分で、力を抜くと、いつの間にか背中がすっぽりとサフラでつつまれて暖かくなっている。

「ユオの手紙は、ずいぶんと多機能だ」

「ほめてます?」

聞いてみたのは、世話を焼かれた弟子が出すには、あまりに暗い声だったからで。

「・・・どちらかというと、腹を立ててる」

あ、そ。
その割には、私の首筋にたくさんあなたの息やら唇やらが当たってますけどね。

サフラは結構『かたい』方なのか、いきなり服を剥いでくるようなことはなかったけれど。私がおとなしくしているのをいいことに、無遠慮に撫でまわしてくるし、ためつすがめつ探られてる感すごい。

何度もそんな経験をしているうちに、私は、自分の心臓の後ろと、腰の両脇に、触られると、耐えがたい感じの場所が3つ、あることに気づいた。

どんなにそうっとでも、触れられると激痛。しかも、それだけじゃなくて。暴れ出したいような、消えてしまいたいような、そんな冷たさが走る。ついでに言うなら、この世から吸い出されるような、息が詰まって死の淵を覗き込んでいるようなそんな脱力感が襲う。

一言で言って最悪。思い浮かぶイメージは、命を吸い込んでしまう、小さな、空洞。
今まさに、サフラの指がそよいだ場所。

「・・ぐ」

その場所だけは、髪の毛がかすめるだけで、体がふるえる。
でも、なるべく、バレないようにと奥歯を噛みしめた。

目下のところ、女抱かせてガス抜きさせるのが圧倒的に近道、っていう私の持論は変わってないからね。不利な怪我は隠す!

「ユオの記憶が、あるんですか。教えて、ください。何があって、何で・・・」

焦れてる声だよなぁ。
彼としては、女抱くより他に気になることがある。
わかってはいるのだけれど、残念ながら、私はサフラののぞむ答えをまだ持っていない。
いずれはこのばらばらな記憶がまともに並ぶ日が来るのだろうけれど、結構先になりそうだ。

固まっていると、サフラは、自分に私の背をもたせ掛けるようにして楽な姿勢にかえてくれた。あの空洞を抉られる確率が遠のいて、全身から力が抜ける。

サフラの声は、こんなに低かったろうか。
耳元でそよぐ呼気がくすぐったくて身をよじろうとすると、呼吸が止まるほどきつく締め上げられて、耳を食まれた。

あ、うん。それはありなんだ?
私の自己紹介にすっげー形相するから、ユオとは個体間距離が遠目だったけ?と考えたけれど、そういうわけでもないらしい。ま、そりゃそうか、本体ユオは可愛いものは容赦なくかわいがるしな。

「ユオ・・・」

呻くように私の本体の名を呼びながら、私にすがりつくサフラは苦し気で。
慰めてあげたいのだけれど、脳みその中身が薄まっている自覚があるので、とりあえず黙っておくことにする。
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