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27☆悲鳴の効果
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この大音量は何?!悲鳴?!
空が白み始めたとはいえ、人の活動時間には程遠い時間に、ピノアは飛び起きた。
「いやー-っ、やだぁっ、いや、いや、いやぁっ」
「ゆるしてください・・・お願いします、何でもします」
どちらかというとか細いといっていい声質の悲鳴が、拡声されて、人の声とは思えない大音量で響き渡っている。
昨日、徒党を組んでやって来た中央の軍属たちが、国境の森沿いに設置していたのはこれか。原理的には、子どもの魔獣の悲鳴で群れを釣る時のトラップと同じだ。
そこそこの防御力を維持している町ではとっくの昔にすたれたが、戦績がジリ貧な場所の狩りではいまだに使われると聞く。
誰の声、と認識するには人工的に増幅され過ぎていたし、いかにも録音して切り張りして繰り返しています、という音質だったから切迫感は薄かったが、それでも声を聞いた街人は、嫌な予感でじっとりと汗をにじみださせた。
ガーディアンであるピノアとて例外ではない。
こうしてはいられない、早く仲間と合流して、対策すべきだ、と、ベッドを飛び出したピノアの聴覚が、信じがたい内容をひろった。
「やめてぇ。それを近づけないでっ、・・・あああ、かれ、の、師匠になったのは、私のせいじゃありません・・・たすけてぇ!」
「し、しり、ません、本当にかれがどこにいるかなんて、貴族種が、す、捨てた奴隷と連絡なんて、とるはずがないじゃないですかぁ!やだっ、やだぁ!!」
っ!!
奴隷が師匠になったことなんて、歴史上たった一度だ。ユオただ一人。
これが、ユオの、声だと言うのか?
これがユオの声なら、このトラップのターゲットはサフラ?
獣用の罠で、あのサフラを、捕まえるって?
中央政府が、ユオに焼孔した時の悲鳴で、サフラを釣ろうって?!
ばかなの?!自殺なの?!
虫取り網で溶岩流を封じ込めようとするようなものだ。サフラの激怒で大地が溶けるほうが絶対早い!
サフラには、聞こえてしまっているだろうか。
ユオの訃報が届いてからのサフラは、夢を見て暴れてすら周囲を害しかねないと、自分で作った次元で眠ることが多い。もちろん眠っていないことも多い。
この声を聴いているかは半々だ。
「ぐぎゃぁーーーっ、ああっ、ああっ、がぁあああ」
耳を覆いたくなる苦痛の絶叫と、悲痛な懇願が、切り張りされて、不自然なスピーカー音で繰り返された。
家を飛び出したピノアの耳に、軍属どもが、家から出るなと喚いて回る声がとびこんだ。
ほ。まだ中央の軍属が生きているなら、サフラはここにいはいない。
サフラがこれを聞いたなら、奴らは跡形もなく蒸発しているはずだ。もちろんピノアが心配しているのは中央のやつらの生死ではなく、サフラのメンタルなのだけれども、それでも焦燥の度合いが少し下がる。
だが、ほっとするには早かった。
森からやって来る不気味な地鳴りが、悲鳴に引き寄せられるように大きくなっていく。
や、厄災??
すでに冷えていたピノアの肝は、もはや過冷却状態だ。
ピノア自身は、戦闘力の面では元から高くない。ユオは害され、今のサフラが動けるはずもない。仲間のひとりは最近隠居だとぬかして働かないし、攻撃力の高いふたりは中央の情報を探りに出た。今のクェリテのガーディアンは機能不全だ。
こんな状態で、また前回レベルの厄災が来たら、生きのびられるのは何割だろうか。
ピノアは高台に上って森を見る。
なんだ、あれは。
魔物の、群れ?
近づいてくる地鳴りは、一言でいえば、魔物の足音、だった。
荒れ狂った、魔ものの群れ。
しかも、人型も獣型もごったまぜで、あきらかに群れない種までがぎゅうと肩を寄せ合い、感情だの知能だのを感じにくい植物細胞腫ですら怒りと憎悪をあふれさせていた。
ユオの悲鳴を流してサフラを釣る、そんな狙い撃ちのはずのトラップは、どう掛け違えたのか、森から、地を埋め尽くすほどの憎悪を呼んだ。
空が白み始めたとはいえ、人の活動時間には程遠い時間に、ピノアは飛び起きた。
「いやー-っ、やだぁっ、いや、いや、いやぁっ」
「ゆるしてください・・・お願いします、何でもします」
どちらかというとか細いといっていい声質の悲鳴が、拡声されて、人の声とは思えない大音量で響き渡っている。
昨日、徒党を組んでやって来た中央の軍属たちが、国境の森沿いに設置していたのはこれか。原理的には、子どもの魔獣の悲鳴で群れを釣る時のトラップと同じだ。
そこそこの防御力を維持している町ではとっくの昔にすたれたが、戦績がジリ貧な場所の狩りではいまだに使われると聞く。
誰の声、と認識するには人工的に増幅され過ぎていたし、いかにも録音して切り張りして繰り返しています、という音質だったから切迫感は薄かったが、それでも声を聞いた街人は、嫌な予感でじっとりと汗をにじみださせた。
ガーディアンであるピノアとて例外ではない。
こうしてはいられない、早く仲間と合流して、対策すべきだ、と、ベッドを飛び出したピノアの聴覚が、信じがたい内容をひろった。
「やめてぇ。それを近づけないでっ、・・・あああ、かれ、の、師匠になったのは、私のせいじゃありません・・・たすけてぇ!」
「し、しり、ません、本当にかれがどこにいるかなんて、貴族種が、す、捨てた奴隷と連絡なんて、とるはずがないじゃないですかぁ!やだっ、やだぁ!!」
っ!!
奴隷が師匠になったことなんて、歴史上たった一度だ。ユオただ一人。
これが、ユオの、声だと言うのか?
これがユオの声なら、このトラップのターゲットはサフラ?
獣用の罠で、あのサフラを、捕まえるって?
中央政府が、ユオに焼孔した時の悲鳴で、サフラを釣ろうって?!
ばかなの?!自殺なの?!
虫取り網で溶岩流を封じ込めようとするようなものだ。サフラの激怒で大地が溶けるほうが絶対早い!
サフラには、聞こえてしまっているだろうか。
ユオの訃報が届いてからのサフラは、夢を見て暴れてすら周囲を害しかねないと、自分で作った次元で眠ることが多い。もちろん眠っていないことも多い。
この声を聴いているかは半々だ。
「ぐぎゃぁーーーっ、ああっ、ああっ、がぁあああ」
耳を覆いたくなる苦痛の絶叫と、悲痛な懇願が、切り張りされて、不自然なスピーカー音で繰り返された。
家を飛び出したピノアの耳に、軍属どもが、家から出るなと喚いて回る声がとびこんだ。
ほ。まだ中央の軍属が生きているなら、サフラはここにいはいない。
サフラがこれを聞いたなら、奴らは跡形もなく蒸発しているはずだ。もちろんピノアが心配しているのは中央のやつらの生死ではなく、サフラのメンタルなのだけれども、それでも焦燥の度合いが少し下がる。
だが、ほっとするには早かった。
森からやって来る不気味な地鳴りが、悲鳴に引き寄せられるように大きくなっていく。
や、厄災??
すでに冷えていたピノアの肝は、もはや過冷却状態だ。
ピノア自身は、戦闘力の面では元から高くない。ユオは害され、今のサフラが動けるはずもない。仲間のひとりは最近隠居だとぬかして働かないし、攻撃力の高いふたりは中央の情報を探りに出た。今のクェリテのガーディアンは機能不全だ。
こんな状態で、また前回レベルの厄災が来たら、生きのびられるのは何割だろうか。
ピノアは高台に上って森を見る。
なんだ、あれは。
魔物の、群れ?
近づいてくる地鳴りは、一言でいえば、魔物の足音、だった。
荒れ狂った、魔ものの群れ。
しかも、人型も獣型もごったまぜで、あきらかに群れない種までがぎゅうと肩を寄せ合い、感情だの知能だのを感じにくい植物細胞腫ですら怒りと憎悪をあふれさせていた。
ユオの悲鳴を流してサフラを釣る、そんな狙い撃ちのはずのトラップは、どう掛け違えたのか、森から、地を埋め尽くすほどの憎悪を呼んだ。
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