偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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26☆キルヤの離反

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「・・・誰がっ、そんなふざけた罠に同意したんだ!」

軽薄・温厚・女好き。キルヤの代名詞と言えばそんな単語で。
能力的には高いと言われながら、その能力の大半は要領よく家長に可愛がられるために消費され、何かに真剣になっている姿を見たことがない、というのが大方の評価だ。

そのキルヤが、感情を爆発させ、冷や汗を流し、自家の私兵を引き止める様は、異様なまでに目立った。

「父上、撤退の許可を!無理であれば、中央政府が瓦解する前提で領民の避難と食料の確保を優先してください!」

慌てているのは、キルヤひとり。

処刑場にいた罪人バウがすがった、ユナとサウラの姉弟。この姉弟が、ユオとサフラで、しかも、サフラが小賢しい力を持っているかもしれない、と言う噂が一部に流れたせいで、兵を出して罠狩りを行うことになった。

かもしれない、だの、噂だの。裏付けも取れていない話だが、万一と言うことがある。

それが今回の罠狩りの動機だ。あくまでも、念のため、であり、保険、であり、圧倒的に有利な者が仕掛ける簡単な狩りという認識。当然方法もずさんだった。

国境の未開拓地にサフラが潜んで捕らえられないなら、泣き叫ぶユオの声を流しておびき出せばいい。子どもや伴侶を大切にする魔物の狩りで、人間がよく使う手だ。

「ああ、キルヤ。奴隷女の悲鳴を罠に使うのが心痛むのか?本当にお前の欠点は優すぎることだな。すぐに終わるから、旅行でもしておいで。ほら、小遣いをやろう」

キルヤは、話の通じなさに目を閉じた。
自分を溺愛し、毎日のように話したがり、親ばか全開で能力をほめちぎっている父親ですらこの反応なのだ。他は推して知るべしとしか言いようがなかった。

ユオがキルヤの屋敷に忍んできてから、半年と経っていない。
ユオが漏らした話だけでなく、ユオが死なないとすら、自分は無条件に信じていたのだと思い知る。

ユオが死んだ。
あの賢くて、特殊な女が、心臓裏に三つ目の焼孔をあけられるような理由は、でっち上げてすら存在しないだろうに。

それでもユオは死んだのだ。
ユオの虐殺を知ったサフラの力は、きっとユオが言ったとおりに膨大で、制御不能に荒れ狂うだろうに。

引き上げられるだけの自分の財産を引き上げ、側近だけを強引に引き連れて、全速力で、国境とは逆方向にむいて逃げてやろうか?

そう考えないではなかったが。
キルヤは、深いため息をつくと、引き上げられるだけの自分の財産を引き上げ、使用人や側近に退職金を渡すと、結局、全速力で『国境に』向かったのだった。
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