21 / 93
21☆あいつら引っかけられないかな
しおりを挟む
バウは最近ツイていなかった。特に金銭面で。
国境に根を張っていれば、厄災に会うのは仕方がない。
そんなときは、ひたすら逃げて逃げて逃げまくる。そのために、大切なものは増やさないで、金目の物は身に着けて。そんな生活に慣れていたはずだったのに。
今回の厄災はひどすぎた。
風呂に入っている時に、瞬間移動のように現れて、宿ごと瓦礫の山になった。
裸のまま這い出す羽目になったバウは無一文。貴重品袋は千切れて燃えた。
「あいつら、こないだの厄災ですっげぇ稼いだだろ・・・カモにできないかな」
だからと言って、他人の金を狙っていい理由にはならないのだが。
しかも、厄災をしのいでくれた恩人をカモにしようというのはあまり褒められた話ではない。それでも、恵まれた奴は窮した奴にカモられるべきだとパウは思っていた。
「サウラとユナの姉弟?やめとけ、足しても成人にならねぇような年で親に捨てられて、自力で生き延びて来た叩き上げだぞ。甘く見ない方がいいって」
かろうじて筋肉のつき方が少年っぽいかもという位で15には到底見えない目つきをしたサウラと、妹にしか見えないのに20近いという噂のユナは、今回の厄災で一躍有名人になった。
それほど今回の厄災は、えげつなかった。
見た目は禍々しい死体のボールで、行動原理は、ひたすらに増殖ねらい。
魔物も人ものべつまくなしに引き寄せる。
おまけに瞬間移動ができて、国内に18ある国境の町に、好き勝手出没した。
国境は、魔物の領域と人の領域を分けるために存在している。
国軍は、魔物を人が住む国から追い出すために存在している。
そう思い込んでいた我が国は、魔物をはるかに凌駕した厄災の、縦横無尽な攻撃に到底対処できなかった。
国軍の兵士は欠片も役に立たず、いつ出るかわからない厄災に怯える国境街は孤立した。
それでも、国境の町は、厄災からの自衛のために、おのおの凄腕の能力者を囲っているものだ。ヒーローとして華々しくもてはやしている町もあれば、ひっそりこっそり隠している町もある。
この街、クェリテは、ひっそりこっそりの後者だが、おそらく、18ある国境街の中でも1、2を争うような自衛能力を持っている。時間さえ稼げば、きっと。その信頼だけが、人々の正気を保っていた。
そんな中で、凄腕どころか能力者とも認識されていなかった、ユナとサウラの姉弟が、厄災の瞬間移動の規則性を見つけた。姉弟は、規則性の内容を一生懸命説明しようとしたが、幼少期から風呂で素数の平方数を5桁まで数えるようなやつらの数学講義など聞くだけ無駄で。
理屈はいいから民間人の避難を誘導しろと言うことになり、みごとに厄災の通り道から人間をどけて見せた。
がりがりと音を立てて、何十枚もの紙を真っ黒にして計算をする姉弟を、町の有力者が御輿にのせて町長のいる建物に運んで行って。その後数日で、厄災は瞬間移動の先を次元の狭間に誘導されて消えた。
まさしく英雄。厄災ですっからかんになっても、年配のピエタはバウを諫める側にまわる。
あの件で、姉弟にどれだけ報酬が与えられていようが文句を言う気になどなれない、と。
確かに、あの厄災では、命があっただけでラッキーだ。あれは、厄災の中でも異常だった。
あきらかにこの世の者ではないどろりとした喜悦の塊が、人だけでなく動物も魔物もお構いなしに折りたたんで、骨が折れるメキメキという音で、音楽を奏でた。
ピエタは、サフラとユオが、ソレに向かっていったのを見ていた。能力者でなければ死んでいるはず。それなのに、厄災が去った後でもあの二人は生きている。
町が彼らを隠しているならば詮索はしないし、バウに教えてやる義理もないが、あの姉弟の活躍は、絶対に紙に計算を書いただけではない。感謝こそすれ、あがめこそすれ、まちがっても、敵に回すべきではないのだ。
それでも詐欺師を生業として来たパウの煩悩はとまらない。
「たまたま、厄災で駆り出された兵士と悶着しているのが聞こえた。姉弟じゃないらしい。言うほど年の差があるとも思えないし、つけ込む隙はあると思うんだ」
バウは、大金が入ったグループのメンバー同士を疑心暗鬼にさせて、不安につけ込んでその金をかすめ取る。その手の詐欺で自分の右に出る者はいないと自負してきた。
もちろん、相手の戦闘力が高い可能性を考えないわけではないが、自分が振るわれる訳ではないから関係ない。
なにより、パウの経験上、彼らはアンバランスなのだ。
財布を握っているのは姉役のユオで、サフラは完全に尻に敷かれている。が、あきらかに、サフラの方が強いし、パーティを組みたい男も、狙っている女も多いのだ。
血気盛んな十代の男が小姑に不満がないはずがないのでは?
妄想がとまらないバウに、ピエタの呆れたような声音が降りかかる。
「わかった、姉弟じゃなく、同じ孤児院から逃げた他人だと仮定しようや。で、そいつらが今回の町を救ってくれた。何か変わるか?」
それを聞いて、バウはピエタを引き込むのは諦めることにする。
他に、適任者がいるはずだ。
サフラが分かりやすくモテる一方で、ユオはそこまでではない。が、数として多くないだけで、ユオにディープに執着している奴は絶対的に存在している。モテる理由もモテない理由も同じだ。ユオの見かけが、年に比して幼すぎるから。
それこそ詐欺では?と思うほど。何年もほとんど背が伸びた気がしないし、透きとおるような薄い体と白い顔は、ぱっと見病弱。言動がパワフルで、剣の腕まであるからごまかされてしまうが、そう言う好みのやつが見れば垂涎。バウとて、ユオが好みじゃないとはいいがたい。
ここはひとつ、ユオをサフラから引きはがしたがっている男と組みたいところだ。
国境に根を張っていれば、厄災に会うのは仕方がない。
そんなときは、ひたすら逃げて逃げて逃げまくる。そのために、大切なものは増やさないで、金目の物は身に着けて。そんな生活に慣れていたはずだったのに。
今回の厄災はひどすぎた。
風呂に入っている時に、瞬間移動のように現れて、宿ごと瓦礫の山になった。
裸のまま這い出す羽目になったバウは無一文。貴重品袋は千切れて燃えた。
「あいつら、こないだの厄災ですっげぇ稼いだだろ・・・カモにできないかな」
だからと言って、他人の金を狙っていい理由にはならないのだが。
しかも、厄災をしのいでくれた恩人をカモにしようというのはあまり褒められた話ではない。それでも、恵まれた奴は窮した奴にカモられるべきだとパウは思っていた。
「サウラとユナの姉弟?やめとけ、足しても成人にならねぇような年で親に捨てられて、自力で生き延びて来た叩き上げだぞ。甘く見ない方がいいって」
かろうじて筋肉のつき方が少年っぽいかもという位で15には到底見えない目つきをしたサウラと、妹にしか見えないのに20近いという噂のユナは、今回の厄災で一躍有名人になった。
それほど今回の厄災は、えげつなかった。
見た目は禍々しい死体のボールで、行動原理は、ひたすらに増殖ねらい。
魔物も人ものべつまくなしに引き寄せる。
おまけに瞬間移動ができて、国内に18ある国境の町に、好き勝手出没した。
国境は、魔物の領域と人の領域を分けるために存在している。
国軍は、魔物を人が住む国から追い出すために存在している。
そう思い込んでいた我が国は、魔物をはるかに凌駕した厄災の、縦横無尽な攻撃に到底対処できなかった。
国軍の兵士は欠片も役に立たず、いつ出るかわからない厄災に怯える国境街は孤立した。
それでも、国境の町は、厄災からの自衛のために、おのおの凄腕の能力者を囲っているものだ。ヒーローとして華々しくもてはやしている町もあれば、ひっそりこっそり隠している町もある。
この街、クェリテは、ひっそりこっそりの後者だが、おそらく、18ある国境街の中でも1、2を争うような自衛能力を持っている。時間さえ稼げば、きっと。その信頼だけが、人々の正気を保っていた。
そんな中で、凄腕どころか能力者とも認識されていなかった、ユナとサウラの姉弟が、厄災の瞬間移動の規則性を見つけた。姉弟は、規則性の内容を一生懸命説明しようとしたが、幼少期から風呂で素数の平方数を5桁まで数えるようなやつらの数学講義など聞くだけ無駄で。
理屈はいいから民間人の避難を誘導しろと言うことになり、みごとに厄災の通り道から人間をどけて見せた。
がりがりと音を立てて、何十枚もの紙を真っ黒にして計算をする姉弟を、町の有力者が御輿にのせて町長のいる建物に運んで行って。その後数日で、厄災は瞬間移動の先を次元の狭間に誘導されて消えた。
まさしく英雄。厄災ですっからかんになっても、年配のピエタはバウを諫める側にまわる。
あの件で、姉弟にどれだけ報酬が与えられていようが文句を言う気になどなれない、と。
確かに、あの厄災では、命があっただけでラッキーだ。あれは、厄災の中でも異常だった。
あきらかにこの世の者ではないどろりとした喜悦の塊が、人だけでなく動物も魔物もお構いなしに折りたたんで、骨が折れるメキメキという音で、音楽を奏でた。
ピエタは、サフラとユオが、ソレに向かっていったのを見ていた。能力者でなければ死んでいるはず。それなのに、厄災が去った後でもあの二人は生きている。
町が彼らを隠しているならば詮索はしないし、バウに教えてやる義理もないが、あの姉弟の活躍は、絶対に紙に計算を書いただけではない。感謝こそすれ、あがめこそすれ、まちがっても、敵に回すべきではないのだ。
それでも詐欺師を生業として来たパウの煩悩はとまらない。
「たまたま、厄災で駆り出された兵士と悶着しているのが聞こえた。姉弟じゃないらしい。言うほど年の差があるとも思えないし、つけ込む隙はあると思うんだ」
バウは、大金が入ったグループのメンバー同士を疑心暗鬼にさせて、不安につけ込んでその金をかすめ取る。その手の詐欺で自分の右に出る者はいないと自負してきた。
もちろん、相手の戦闘力が高い可能性を考えないわけではないが、自分が振るわれる訳ではないから関係ない。
なにより、パウの経験上、彼らはアンバランスなのだ。
財布を握っているのは姉役のユオで、サフラは完全に尻に敷かれている。が、あきらかに、サフラの方が強いし、パーティを組みたい男も、狙っている女も多いのだ。
血気盛んな十代の男が小姑に不満がないはずがないのでは?
妄想がとまらないバウに、ピエタの呆れたような声音が降りかかる。
「わかった、姉弟じゃなく、同じ孤児院から逃げた他人だと仮定しようや。で、そいつらが今回の町を救ってくれた。何か変わるか?」
それを聞いて、バウはピエタを引き込むのは諦めることにする。
他に、適任者がいるはずだ。
サフラが分かりやすくモテる一方で、ユオはそこまでではない。が、数として多くないだけで、ユオにディープに執着している奴は絶対的に存在している。モテる理由もモテない理由も同じだ。ユオの見かけが、年に比して幼すぎるから。
それこそ詐欺では?と思うほど。何年もほとんど背が伸びた気がしないし、透きとおるような薄い体と白い顔は、ぱっと見病弱。言動がパワフルで、剣の腕まであるからごまかされてしまうが、そう言う好みのやつが見れば垂涎。バウとて、ユオが好みじゃないとはいいがたい。
ここはひとつ、ユオをサフラから引きはがしたがっている男と組みたいところだ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる