偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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18☆クローン体はチープで姉バカ?

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すくすく育つサフラとじゃれ合いながら師匠をしている私は、毎日幸せだ。

それでも気づいてしまうことはある。

例えば、私・・ユオという個体は、もう長くは持たないな、とか。

余命カウントされた由生だった頃の経験から考えても、この体がそろそろ限界を訴えていることは疑いようがない。

もともと、クローンと言うこともあり、少々チープな造りなのだ。
おまけに両方の腎臓の後ろにひとつずつ、ふたつの焼孔が開けられている。

右の腎臓は、蓄積のはく奪。
左の腎臓は、魔力のはく奪。
最後の心臓が、命のはく奪。

毎年報告のたびに難癖をつけて追い回してくる国家権力に捕らえられ、秘密裏の裁判で焼孔を受けること2回。

世間様では、そろそろ王位争いが本格化してきていた。
第一王子サンと、第二王子のカイが、王位争いの双璧。
有力貴族は既にどちらを支持するか態度に出していて、どちらにもつけなかったり追い出されたりした家が、第三王子ユノについて、第一王子と第二王子が差し違えてくれないものかと、息をひそめながら裏工作でチクチクつつく。そんな情勢。

第四王子へボムはとっくの昔に追い落とされて死んだ。
第六皇子は生れ出ることすら許されず、母親ごと殺された。

第五王子のサフラは、暗殺を恐れて食用奴隷と国境に逃げて生死不明。まともな師匠につくことも、魔力を鍛錬することもなく、ただただ怯えて自らの可能性を潰し、表舞台から消えた弱者・・・というのが一般的な見解だけれど。
時たま思い出したように、不世出天才だから他国に食客として優遇されているとか、どこぞに潜んで反乱軍を準備しているとかの噂が出回り、あちこちから追手がかかった。

迷惑な話ではあるけれど、4歳でBランクの魔物を狩って、7歳で格付け試験をトップ通過すればねぇ。

実際のところは、うちの可愛いサフラは、吸収できるものは何でもモノにしてきた子です。能力だって、自由と幸せと、馴染んだ町の存続のために、存分に使っていますとも。

争う気がないだけ。
キルヤ様の家はカイ派だから、邪魔しないであげたいし、サフラは父親にも中央政治にもまったく興味がないから。

それでもお偉いさんというのは、万一を気にする。

一つ目の万一は、師匠になった私に本当に能力があってサフラを導いたり、能力はなくても、私がサフラの子をなして血をつなぐ可能性。
いや、サフラはまだ子供なんですが?なんて常識はこいつらには通用しない。

この可能性は、実は二つとも、右の腎臓の後ろに焼孔をあければ潰せる。
鍛錬しても魔力が上がらなくなるから無能力者確定だし、チープなクローン体を12才のまま止めれば、子も産めない。

ただ、ね、どこにでもイレギュラーは転がってるもので。クレーム係さんがくれた粗品系の私の能力は、この世界の魔力とは仕組みが違うっぽかった。そのことにうすうす気づいていた私にとって、焼孔は絶好の隠れ蓑。

焼孔をあける=中央からのスパイがつかなくなって定住できる。
たから、抵抗しなかった。

案の状、右の腎臓に焼孔が開いても、塩も油も調味料も出せるし、ポテチ作れたよ。それなのに追い回されなくなって、定住もできるようになった。

おかげで生活は随分楽。
サフラに栄養のあるものを沢山食べさせてすくすく大きくするのは幸せだった。

ね?私の勝ち。自分で言うのもなんだけど、賭け事全般、強いのです。
だからと言って楽しい話でもないし、初めからサフラには秘密にするつもりだった。

私がどれだけ惨めを晒しても、ばれなきゃいいのだ、とばかりに、中央では卑屈に振舞った。
焼孔されるのは、痛いし苦しいから、特別な演技も何もいらない。非力に怯えて、ギャン泣きして見せましたとも。

おかげさまで、クェリテの私と、食用奴隷の師匠は、誰が見てもきっぱり別人だ。
クェリテの私は今でも手から粗品が出せて、それなりの魔力持ちに見える。でも、魔力が使える焼孔もちは理屈上存在しない。よって別人の証明終わり。

その理屈にクェリテの強力な雲隠れをサポーターっぷりが加わった結果、中央政府どころか、国境街の人にも、私に焼孔があるなどとはバレようがない完璧さ。
我ながらうまくやった。

まぁ、サフラの能力が壮絶だから、どうやってもクェリテの実力は目立つはめになったけれど。厄災の規模が大きくなってからは特に。
だから、中央のやつらは、ふたつ目の万一を調べようと考えた。

師匠がどんなに無能でも、クェリテ方面に消えた第5王子が生きのびて傑物に育った可能性。

この可能性も、実は私の左の腎臓に穴をあければ間接的に推測できてしまう。師は一生に一人と決まっていて例外はなく、師匠と弟子の気はつながっているから。

推測方法も至極かんたん。風船を焼けた針でつつく感じ。空気がちょびっとなら、ぷしゅ、ってしぼむだけだけれど、大きな魔力が焼孔から出ればはじけて死ぬ。ついでに、はじけっぷりで、風船内の気体の量だの種類だのが推測できる。

どんなに無能だろうが、私がユオの師匠だ。
師匠は弟子の能力を自分の腎臓に留めて運び、年に1度、王に報告する義務がある。当然、王都にあらわれた私の体にはサフラの能力が詰まっているはずで。しかも右の腎臓にすでに焼き孔が開いている私は左の腎臓に溜めてくるしかない。

風船に穴をあけて、火を近づけてみれば、水素なら爆発するだろ、みたいな大雑把な検分でいける・・・って、先見の明のある師匠が、そんな手にひっかかるわけないじゃない。

第一、第二、第三王子まで足しても、到底届かない魔力量になりました、なんて報告したら、ぜぇったいロクなことにならないと知っていた有能な私は、最初から、サフラの魔力なんて運んじゃいません。

じゃぁ誰のかというと。ちょうどいい魔力量をもったピノアさんの息子さんのだ。私とピノアさんでサフラっぽく演出した加工品を、試行錯誤の末、左の腎臓に入れられるようになった。

もちろんピノアさんの息子さんの魔力は左の焼孔を突き破る程のパワーじゃない。

結果、サフラの魔力を溜めているはずの私の焼孔から漏れ出した魔力は少なく、私は死なず、サン派もカイ派もサフラを小物とみなして意識の外に追い出した。

この段階で、サフラは、中央政府から、忘れ去られた。

ただ、まぁ、やむを得ないことに。
息子さんの安全のためにも、連絡を密にしていたピノアさんには、私の状態がばれた。しかも、焼孔なんて一般人にはお伽話の域のはずなのに、彼女詳しくて。心臓の後ろに3つ目の焼孔をあけられれば、数日で死ぬことまで知っているとか、むしろびっくりです。中央政府の裏部隊稼業の出身者なのでしょうか。

そんな訳で、私に既に2つ焼孔があることを知っているピノアさん。
報告月が近づいてきた昨今、ものすごい心配圧力をかけてくるのだ。今にもサフラにばらしそうな勢い。拝み倒してやめてもらっているのだけれど、かなりきわどいところまで押してくる。

こまったなぁ。

そんなに心配してもらわなくても、クローン体の寿命は基本20年。私はもうすぐ22歳になる。
焼孔から命が流れ出るのが先か、クローン体のチープさ原因のエンストが先か。
どちらにしたって、そろそろもたないのは自分でわかるのだけれど、いかんせん、毎日が幸せ過ぎて。

いや、だって、人類の最高傑作みたいに良い男に育ち中の弟子が、ですね、師匠、師匠と笑顔全開で毎日大好き攻撃をかけて来て、体力の不調を訴える隙が無い程尽くしまくってくれたり、17になったばかりだというのに、いっちょ前に『ユオの男』アピールしてみたり。

かっ、可愛いい―――っ。
こんな夢を見たら、誰だって、あと5分でいいから寝かせて!って、思うよ!

出来の悪い子ほどかわいいですって?おほほ、関係ないわね、ええ、出来がどうだろうが、うちの子が一番かわいいんですから!

サフラにきいてみても、中央政府にも王都に一切関わりたくないし思い出したくもないという。私と国境に落ちのびるときに助けてくれたキルヤ様にだけは、一応義理があるから、敵対はしないと決めていて、ごくまれに連絡をとったりするけれど、他の連絡経路はゼロに等しい。

クェリテでの私たちは、親が死んでもたくましく生き抜く姉弟設定。
偽名はサフラがサウラで、ユオはユナ。呼び間違えても噛んだで許される範囲にした。ちなみに、私は強度のブラコン設定。いや、設定じゃないな。
うちの弟可愛い。うちの子可愛い。合わせてうちの弟子可愛い祭り。

他は、大して目立つ特徴もない。
自炊でこの上なくおいしいご飯が食べられてしまうので、特に贅沢する気にもならないし、どちらかというと節約家庭かも。

だって、私もサフラもちょっと能力が特殊なので、金策に走ると正直目立って仕方がない。
国境で大物の魔獣を狩ってしまった時の換金だって、おおかた時間を空けた物々交換で済ますし、お金は大した金額でなくても、他人名義口座をいくつも使ってばらかしてある。

すくすく育つサフラの能力は、大厄災のたびにいかんなく発揮されておりまして、本人もわりとどん欲に学ぶ方でした。

日常生活の仲良しと、厄災退治仲間の裏の仲良しに囲まれて、生活も安定している。しかも最近、うちのサフラと来たらモテるのです!
わかるわぁ。
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