偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

文字の大きさ
上 下
13 / 93

13☆甘えんぼ

しおりを挟む
12才の女子、というのは、こんなにも7歳の男児から抱きつかれたり、すり寄られたり、甘えられたり、するものだったろうか?

ユオは赤くなった頬と、どうしても上がってしまう口の端を手のひらで覆った。
前世の記憶が真面目一本なスポーツ選手だったせいで、正直一般常識に自信がない。

サフラは、すごい子だ。

有能で、豪胆で、可愛らしくて、素直で。
そして優しさに至っては、こちらが心配になる程。

そんな子に思い切り懐かれた日には、前世で開花しそこなった恋愛脳・・いや、息子愛脳?まで発掘される。

前世の19才はほとんど病院で、どんどん体が動かなくなっていく時期で、異性にアタックする機会も、当然赤ちゃんを産むチャンスもなかった。
おかげで、好き、も、可愛い、も、それほどどぎついものではないけれど。それでも、多分、サフラが思っている好きに比べると、少し濁っている。

うーん、12才。恋愛悩あったら、気持ち悪い、かな?

そんな風に思ったから。一応、サフラにも主張してみたのだ。
私は、ここに来る直前まで19才だったので、12才扱いは危険です、と。
サフラは、村の占い婆によると自分の前世は100歳まで生きたらしいと、謎のマウントを取り返しに来た。

うん、残念な程に意図が伝わっていない。

私が自分の身分で卑屈にならないのは、単純にこちらの社会とかかわった経験がないせいで、私個人の特殊事情過ぎない。逆に言えば、普通にこの世界で育ったサフラには、貴族種>平民>奴隷の序列感があって普通だと思う。

その上、私の役に立つスキルは手から調味料が出せるぐらい。サフラが火炎だの雷だの出せるのと比べると、あまりに些細だ。
なのに。サフラには、蔑まれることもなく、えらく大切にされている。

もちろん、サフラに余裕があるなら、私の面倒を見たって、普通に優しいで済む。
でも実際には、世間から彼への風当たりの強さは、暴風を通り越して竜巻レベル。家があろうが将来の就職が約束されていようが、飢え死にしそうになるのだから貧乏が極まっている。

その状態で、自分より私の生存を優先しようとするとか。生き物の生存本能として大丈夫なのか?と心配になる。

「ねーねー、すねすね攻撃はもうおわり?弟子には全身で愛されてないとイヤだ!とかゆってくれないの?」

「そんな拗ね方はしていません!」

「んふふ。ユオのおかげで、しばらく魔力切れしないし、婿に行く理由の8割は消えました!」

「・・・7歳児が、直近のご飯食べに婿入りするのは、人身売買っていうと思うよ?」

「美味しいご飯は好き!あと、キルヤ様の提示してくる賭け事も好き!でも、ユオが一番好き!!」

なんか多様な『好き』に混ぜられて、どさくさにまぎれたけれど、キルヤ様との賭け、ってなんだ?

「ご飯が食べられるならずっと私と居ます?」

私の切り返しが意外だったのか、サフラはちょっとまごついた。

「ユオとは、ご飯抜きでもずっと一緒にいます!ただ死んじゃうと一緒にいられないから、そうならないように、努力しようかな、って」

サフラの話し方が、歯切れ悪くなる。
親が子に離婚話をきり出す前とか、こんな感じ?・・って、相手は7歳児なんだけどね。

サフラは、肩身が狭そうに言った。
うちの国は、17になるまで、まともには稼げない。17になっても、女性は不妊になる手術をしないと自力で契約ができない。

だから、手持ちのお金で生きのびるしかないのだけれど、僕の体が超贅沢でわがままなせいで、どう計算しても、僕とユオの成人まで生き延びるだけのお金がない。

契約能力がなくても、国境で魔物を狩れば、物々交換と後腐れのない現物売買で生きていけるけれど、装備がないと即死だし、旅費もばかにならないし。

それで、僕の価値を高く見てくれているキルヤ様に、投資するつもりで助ける気はないかと聞いた。立場がものいうこの国で、成人男性で王族の血統持ちなんて最強だから。

キルヤ様は、この家を担保に、保険付きでひとり分の装備一式買えるようにしてくれて、で、ユオの装備を買った。

あ、ほら、みて、みて。武器と収集ボックスは既製品だから、もうあるよ。
でもパワードスーツはオーダーメイドだから、少し待ってね。
ふふふ。楽しみだね。

サフラの話がいったん途切れる。

えーっと?やっと、脳がサフラの話を理解する。って、え?この子、自分のじゃなくて私の装備買っちゃったわけ?!
ふふふ、じゃ、ないでしょう?!

「なんで、自分の装備を買わないのよ?!」

「僕は17で軍属になれば装備は支給されるもん」

「17まで生き延びる金がない、という前提だったのでは?」

「そこは、節約と創意工夫で何とかなるかな、と」

「で、何ともならず、10年どころか2日で倒れたわけですね?」

「あはは。失敗は成功の母!」

あぶなすぎる。おまけに話の前提に、大きな穴がひとつある。

奴隷は、転売できるのだ。

「・・・そこまで切羽詰まれば、私を売るべきでしょうが」

私らが放されていた柵の内側にも、盗賊が押し入ったことがある。そいつらは、食用奴隷は、やわらかい肉が売りだから12才で卸されるだけで、ちょっと育てれば、労役にも戦にも家事にも愛玩物にも転用できるのだと言っていた。

「きゃぁ、師匠を売れなんて、ユオの不良!それぐらいなら、ユオに超危険な国境で魔物狩らせて、たかった方がマシ!ぐれてやる!ヒモになってやるんだ!」

「分かりました、急いで魔物狩るから、ぜひグレて。で、パワードスーツが来るまでにどれくらいかかります?旅費ってどれくらい?」

もどかしい。試験管育ちの私は、普通の12才よりもさらにこの世界をなにも知らない。
サフラを守るどころか、うまく守られることすらできない。

「気が早いなぁ。1週間はかかるよ。あと簡単に『グレて』なんていわないでよ。危なくなったら僕を捨てて。絶対怒らないから」

「自分のじゃなく私の装備を買った段階で、私の方が怒りそうですが?」

「師匠に万一があって、成長する気も生きる気もなくなったら、僕、暗殺されて終わりじゃないかなぁ。2人で死ぬよりユオが生き残った方が嬉しい」

「・・・こっどもらしくなぁい!師匠として、まずは、サフラをコロコロの可愛い子供にしてやるわ!話はそれからよ!」

不出来な師匠は、思い切りそう吠えたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...