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13☆甘えんぼ

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12才の女子、というのは、こんなにも7歳の男児から抱きつかれたり、すり寄られたり、甘えられたり、するものだったろうか?

ユオは赤くなった頬と、どうしても上がってしまう口の端を手のひらで覆った。
前世の記憶が真面目一本なスポーツ選手だったせいで、正直一般常識に自信がない。

サフラは、すごい子だ。

有能で、豪胆で、可愛らしくて、素直で。
そして優しさに至っては、こちらが心配になる程。

そんな子に思い切り懐かれた日には、前世で開花しそこなった恋愛脳・・いや、息子愛脳?まで発掘される。

前世の19才はほとんど病院で、どんどん体が動かなくなっていく時期で、異性にアタックする機会も、当然赤ちゃんを産むチャンスもなかった。
おかげで、好き、も、可愛い、も、それほどどぎついものではないけれど。それでも、多分、サフラが思っている好きに比べると、少し濁っている。

うーん、12才。恋愛悩あったら、気持ち悪い、かな?

そんな風に思ったから。一応、サフラにも主張してみたのだ。
私は、ここに来る直前まで19才だったので、12才扱いは危険です、と。
サフラは、村の占い婆によると自分の前世は100歳まで生きたらしいと、謎のマウントを取り返しに来た。

うん、残念な程に意図が伝わっていない。

私が自分の身分で卑屈にならないのは、単純にこちらの社会とかかわった経験がないせいで、私個人の特殊事情過ぎない。逆に言えば、普通にこの世界で育ったサフラには、貴族種>平民>奴隷の序列感があって普通だと思う。

その上、私の役に立つスキルは手から調味料が出せるぐらい。サフラが火炎だの雷だの出せるのと比べると、あまりに些細だ。
なのに。サフラには、蔑まれることもなく、えらく大切にされている。

もちろん、サフラに余裕があるなら、私の面倒を見たって、普通に優しいで済む。
でも実際には、世間から彼への風当たりの強さは、暴風を通り越して竜巻レベル。家があろうが将来の就職が約束されていようが、飢え死にしそうになるのだから貧乏が極まっている。

その状態で、自分より私の生存を優先しようとするとか。生き物の生存本能として大丈夫なのか?と心配になる。

「ねーねー、すねすね攻撃はもうおわり?弟子には全身で愛されてないとイヤだ!とかゆってくれないの?」

「そんな拗ね方はしていません!」

「んふふ。ユオのおかげで、しばらく魔力切れしないし、婿に行く理由の8割は消えました!」

「・・・7歳児が、直近のご飯食べに婿入りするのは、人身売買っていうと思うよ?」

「美味しいご飯は好き!あと、キルヤ様の提示してくる賭け事も好き!でも、ユオが一番好き!!」

なんか多様な『好き』に混ぜられて、どさくさにまぎれたけれど、キルヤ様との賭け、ってなんだ?

「ご飯が食べられるならずっと私と居ます?」

私の切り返しが意外だったのか、サフラはちょっとまごついた。

「ユオとは、ご飯抜きでもずっと一緒にいます!ただ死んじゃうと一緒にいられないから、そうならないように、努力しようかな、って」

サフラの話し方が、歯切れ悪くなる。
親が子に離婚話をきり出す前とか、こんな感じ?・・って、相手は7歳児なんだけどね。

サフラは、肩身が狭そうに言った。
うちの国は、17になるまで、まともには稼げない。17になっても、女性は不妊になる手術をしないと自力で契約ができない。

だから、手持ちのお金で生きのびるしかないのだけれど、僕の体が超贅沢でわがままなせいで、どう計算しても、僕とユオの成人まで生き延びるだけのお金がない。

契約能力がなくても、国境で魔物を狩れば、物々交換と後腐れのない現物売買で生きていけるけれど、装備がないと即死だし、旅費もばかにならないし。

それで、僕の価値を高く見てくれているキルヤ様に、投資するつもりで助ける気はないかと聞いた。立場がものいうこの国で、成人男性で王族の血統持ちなんて最強だから。

キルヤ様は、この家を担保に、保険付きでひとり分の装備一式買えるようにしてくれて、で、ユオの装備を買った。

あ、ほら、みて、みて。武器と収集ボックスは既製品だから、もうあるよ。
でもパワードスーツはオーダーメイドだから、少し待ってね。
ふふふ。楽しみだね。

サフラの話がいったん途切れる。

えーっと?やっと、脳がサフラの話を理解する。って、え?この子、自分のじゃなくて私の装備買っちゃったわけ?!
ふふふ、じゃ、ないでしょう?!

「なんで、自分の装備を買わないのよ?!」

「僕は17で軍属になれば装備は支給されるもん」

「17まで生き延びる金がない、という前提だったのでは?」

「そこは、節約と創意工夫で何とかなるかな、と」

「で、何ともならず、10年どころか2日で倒れたわけですね?」

「あはは。失敗は成功の母!」

あぶなすぎる。おまけに話の前提に、大きな穴がひとつある。

奴隷は、転売できるのだ。

「・・・そこまで切羽詰まれば、私を売るべきでしょうが」

私らが放されていた柵の内側にも、盗賊が押し入ったことがある。そいつらは、食用奴隷は、やわらかい肉が売りだから12才で卸されるだけで、ちょっと育てれば、労役にも戦にも家事にも愛玩物にも転用できるのだと言っていた。

「きゃぁ、師匠を売れなんて、ユオの不良!それぐらいなら、ユオに超危険な国境で魔物狩らせて、たかった方がマシ!ぐれてやる!ヒモになってやるんだ!」

「分かりました、急いで魔物狩るから、ぜひグレて。で、パワードスーツが来るまでにどれくらいかかります?旅費ってどれくらい?」

もどかしい。試験管育ちの私は、普通の12才よりもさらにこの世界をなにも知らない。
サフラを守るどころか、うまく守られることすらできない。

「気が早いなぁ。1週間はかかるよ。あと簡単に『グレて』なんていわないでよ。危なくなったら僕を捨てて。絶対怒らないから」

「自分のじゃなく私の装備を買った段階で、私の方が怒りそうですが?」

「師匠に万一があって、成長する気も生きる気もなくなったら、僕、暗殺されて終わりじゃないかなぁ。2人で死ぬよりユオが生き残った方が嬉しい」

「・・・こっどもらしくなぁい!師匠として、まずは、サフラをコロコロの可愛い子供にしてやるわ!話はそれからよ!」

不出来な師匠は、思い切りそう吠えたのだ。
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