偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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11☆サフラ昏倒

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キルヤ様がサフラのうちに遊びに来た。
パーティーで、サフラに声をかけていた中ではまともそう。周りと比較すれば、だけれど。

可愛がり脳を刺激され中とはいえ、友達との談笑タイムをぶち壊しに行くほどの根性は持ち合わせていないので、お茶だけ入れて部屋を出て。

盗み聞きにならないようにと、2歩ほど下がったはずなのに。
サフラの大声が追いかけてきた。

「ユオでは、ないですから!ぜったい!気持ちの悪いこと言わないでください!」

べこ。
流れ弾。へこんだ。

想像するに、キルヤ様が囲ってやるとか言って、断った挙句、あの奴隷と結婚でもする気かとか挑発されての答えかな。
奴隷と愛などあるかと、現状を基に言い返すのは分かるけどさ。ぜったい、とか、気持ち悪い、とかまでいくとちょいへこむ。
って、私ってばどんだけサフラを気に入ってるのさ。

ま、前世でも、プレゼントをもらうとか、ファンです、と言ってもらうことはあっても、特別な異性を作れるような時間はなくて、オタ活にも恋愛にも家族愛にも無縁だったからな、人の心の機微に疎いのかもしれない。

サフラは、頭をなぜると、嬉しそうにする。
サフラは、すぐ手をつなぎたがる。
サフラは、私に抱きついて眠りたがる。

それが当たり前だったから。
どうなると気持ち悪いのかな、とか考えただけで、身動きが取れなくなって。
それでも、心のどこかで、嫌われてはいないと思っていて。

そんな葛藤が、行動を不自然にした。多分、拗ねている、と言う表現が当てはまるような、目を合わさないとか、顔をちゃんと見ないとかの方向に。

だから、気づくのが遅れたのだ。

サフラの顔色が悪くて、体がふらつくこと。
声がかすれて、瞳の色が薄くなったこと。
急激に、サフラの体重が落ちたこと。

前の世界の先入観で、体重というのは、そんなに急激に落ちたりしないものだと、思っていたのも災いした。

そして、サフラが、倒れた。

急に崩れ落ちたサフラは、カサカサ音がしそうなほど唇や指先が渇いて、髪の毛がパサついて、肩幅が半分になったかと思うほど小さくなっていた。

医学の知識がなくたって、長く入院していれば、栄養失調とか脱水症状の患者もみる。
倒れたサフラの見かけは、どう見てもそっち方面だ。

なんで?!

つい昨日まで、山菜取りにいこーよとか、丸顔に満面の笑みで声をかけてきて、怪しげな天ぷらやら、甘いものやら食べてはご機嫌で、拗ねた態度の私を『反抗期なの?思春期なの?それとも更年期なの?!』とか言いながらつつきまわしていたのに?

大慌てで、ベッドに運び、外に助けを呼びに出ようとして必死の形相のサフラにしがみつかれる。

「ごめん、ごめんね。驚いたよね。でも、理由もわかっているし大丈夫だから・・・」

「どう見ても大丈夫じゃない!理由何?!」

「えーと、魔力の取り込み不足。ほら、毎日おいしいもの食べさせてもらっていたから、つい!うっかり!嫌いな魔物系、口にし忘れちゃって」

軽い口調を心掛けているのだろうが、声はかすれて、しがみついた手はあまりの弱々しい。

「魔物系、食べないとこうなるって知っていたの?!先に言って!」

普通にたべものの好き嫌いの問題だと片づけていた私が甘かった。
貴族種が、魔物から魔力を摂取しないと生きていけないことを、意図的に私に隠していたわけ?

「怒らないで!あ、家の名義をユオに変えたんだ!手数料に売却額の半分とかとるけど此の家売れる悪徳弁護士も見つけた。奴隷身分を国から買い上げるぐらいの金額は残るはずで・・」

色々大問題な情報がぶち込まれていたが、それどころではない。

「そんなこと聞いてない!どうすれば治る?魔物を狩ってくればいいの?」

「ごめん。計算したけど家を売っても、魔物狩りの装備は買えない。格付け試験のフィールドは、あれでも大物が出過ぎないように管理済みなんだ。普通の狩場は装備なしじゃ無理」

「やってみなきゃわかんないでしょうが!狩場ってどこ?!私の心配している場合?このシスコン!」

ユオは、オーバーアクションで、僕を怒鳴りつけ、にらみつけ。そのくせ、僕の問題を自分で解決しようと無理をする。何がシスコンだ、この、過保護師匠。

「おちついてください、ってば、師匠。何とかするから。ちょっと嫌なこと後回しにし過ぎただけだから」

「何をする気よ?」

「あー、死んだ母親の買置き品、魔物のプロテインパウダーを飲む!人間って、飲んだもの全部は吐ききれないんだって。魔力もいくらかは体に残るハズで・・ 」

パウダーなんて、人型が入っていてもわからない。
というか、コスパ的に考えてまず入っている。
そして、サフラが人型を摂取してしまった時の吐きっぷりたるや、内臓でんぐり返して血のスプレーになるんじゃないかという派手さと聞いている。

「吐くのにどんだけ体力使うと?!その体でやるとか、ほぼ自殺でしょうが!」

私の、前世唯一の救急車体験は、ダイエット目的で加熱用のカキをたらふく生で食べ、脱水症状をおこした従妹の付き添いだ。

あの世のシステムエラーで自殺判定された私が言えた義理じゃないけれど、すでに、飢餓状態・脱水状態の癖に、アレルゲン過剰摂取して吐きまくろうとか、治療行為とは到底呼ぶ気になれない。

「自殺、って失礼な。すっごく飲食したくないものを、生への執着でもって、決死の努力で流し込むのに?!」

「完全に決死だけが先行してるよ?!・・それより、パウダーになっていても、何年も前の物でも、いいの?」

洞窟で干したあの巨大ダコでも、いい?

淡水にいたんだから普通のタコじゃないわけで、普通のタコじゃなければ魔物だ。
あいつ、腹が立ったからたこ焼きにしてやろうと。
干して畳んで、カバンの底にぺちゃんと敷いて、持って帰った。

「うち、母親がいる時から裕福ってわけじゃないから、そんなにいいものは置いてないんだ」

申し訳なさそうなサフラの台詞を、普段なら否定するのだろうけれど、時間が惜しい。

「30分・・いや、15分だけ待っていて!」

部屋から駆けだす。

獣の皮で作った、いかにもぼろい私の鞄は、最近出番もなくて。
ほぼこの家に来た当初のまま、サバイバルグッズ入れと化して棚に立てかけられていた。

濡れないように底の方に入れたことさえ恨めしくおもいつつ、中身を投げ散らかす。

あった。が、硬いんじゃ、このタコ!!畳んで畳んで畳んだまま固まってる!!
戻るのかコレ?!

タコ飯?タコ鍋? 
どれが一番、早く料理できて消化にいい?!

ひと晩で、顔が変わる程激やせするくらい進行が速いのだから、料理用の材料をもうひと晩かけて水で戻すとか無理だ。
煮まくるしかないか?

火を起こしながら、カメの水を盥に移しながら。
鋸でタコ足の先をぎこぎこ切って、切りくずまで盥の水にぱらぱら入れる。

塩を大量にぶっこんだ頭側とか、足の太い処とかを避けてもまだ少ししょっぱいが、水を吸って戻るさまは圧巻だった。

盥のまま火にかけると、タコ足の先の癖に、太さがあっという間に、私の腕を超えていく。
切りくずでもなめこサイズ。

米とか卵とか野菜の切れ端とかしょっぱさが薄まりそうな具材を叩き込み、タコ自体の味の薄さに顔をしかめながら、グルタミン酸で強引に補って、最大火力でガンガン煮る。

御出汁がとか、灰汁が、とか言っている場合じゃない。
タンパク変性の速度よりも吸水膨張が勝ったらしいタコが盥から突き出てくる様は、すでに食べ物の範疇を超えている。

それでも根性でぐつぐつしていると、タコ足はゆっくりと縮みはじめ、何とか盥に収まった。
到底食欲をそそる見かけではないが、なるべくかわいらしい椀についでみる。

味見をすると、見かけよりははるかに優しい味だった、いや、見かけがバイオレンスすぎるから比較問題だが、まぁ、ぎりぎりアワビのおかゆを、タコで代用した感じのチープなタコ粥。

椀と匙だけ持って、走って戻る。

サフラの唇はあちこち割れて。落ち窪んだ眼は既にホラー映画仕様だというのに。
この子は、おかえり、と言って全力で笑うのだ。
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