偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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9☆共食いは嫌い

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おおっと、これは、ちょっと・・・な。

サフラと楽しくサバイバル生活をしていたら、なぜだかトップ通過していて。
ユオは、金一封が出る!という理由だけで、場違い感が半端ない「格付け試験の上位者のためのパーティー」とやらに紛れ込んでいた。

立食形式のテーブルに並んだ料理を見てユオは納得する。

これは確かに、人肉も人型魔物の肉も食べられないサフラは、生きにくかろう。偏食、とは違うと思うけれど。

私が由生だった世界の常識だと、食人、とか、共食い、というのは禁忌の方面。
文化的な問題とかもかるから一概に野蛮とか言ってはいけないとは思うが、それでも、バリバリ人肉を食う隣人がいたらドン引くし、人の顔とかにかぶりついている男性にときめける気はしない。

前提がそんなだったから、サフラが人肉を食えないことを壮大な欠点とか弱点と表現して、隠そうとする理由も、よくわかってはいなかった。

地獄分類されていた世界の割には、ここは快適だったし、さみしい、と言うほどでもなかったのだが、ちょっとだけ退屈で、人と会話してみたくなって。

そんな時に、よく見かけるサイズの貴族種より、随分小さな子が、食用奴隷を狩りたがらずにトラブっていたから、ちょっと手を貸してみたわけだ。その相手がサフラ。
今でこそ、ある種の推し活だと自覚して気張っているけれど、はじめの手出しはそんな理由。

結論から言うと、サフラはなんともアンバランスで面白い子だった。

隷属の暗示すらかけていない食用奴隷に、平気で刃物を渡してくるうっかりものだった。
あの世からもこの世からも地獄と称される魔物まみれの森に、一生住みたいと駄々をこねる変り者だった。

ナッツバーだの、朴葉蒸しだの、フィッシュアンドチップスだのに感動して号泣するから、どんだけオーバーなんだと呆れたが、確かに、いくらいい家にうまれても、食べ物が合わなきゃ不幸だわ。

そう納得させる程、立食パーティーのメニューは、当社比グロだった。
魔力の高い生き物を食べると、食べた分だけ能力が上がるのが貴族種だから、精のつく食材こそが高級。豪華なパーティーともなれば、そのおもてなし精神も善意も全力でグロ食材に振られる蟻地獄。

もとの世界でも、イモリの黒焼きとかマムシとかを食べるとむんむんになれるとか聞いた気がするけれど、通常の食事ではなかったはずで、これはなかなか強烈だ。
高そうな皿にのせようが、貴金属の匙でつつこうが、完璧なマナーで食べようが、そう言う問題ではない。

サフラは、自分と同じような場所・・人型の尾頭付きとか姿焼きとかお目々ぎょろぎょろとかのテーブルの前だ・・で私が立ちすくむのをみて、嬉しそうにお兄ちゃん言動を始め、まかせろとばかりに、デザートの場所に私を連れて行った。

果物とプティングとケーキとアイス。植物系+乳製品にほっとすると、帰りに市場で食材を買おうよ、と、サフラは嬉しそうに笑う。

貴族種でない庶民は、高級食材ばかりで生きているわけではないので、市場には普通の鶏肉や川魚、穀類なんかも売っているらしい。

それにしても、金一封とやらはまだか?

基本的に他人の目は気にしない方だが、そうとも言っていられない程視線が刺さる。
食用奴隷が珍しいのか、サフラに貼りついているのが邪魔なのか。両方かもしれない。
サフラがちらちらと盗み見られている。

私がいなければ近づいてくる奴も居そうだが、何というか、値踏み目線で、態度のでかい不快なやつばかりだ。

現状、特定の有力者の駒になる気がないサフラには、パーティーの参加者と会話しても、恩着せがましくされるか、威圧されるかで、何の得もないのだとか。納得。

食用奴隷を狩らずに魔物の森に入ろうとした時もそうだが、サフラは、ルールの穴はつきまくる方。
エスコートする人間にも、師匠にする人間にも、食用奴隷不可とは決められていないと言い張って、私を連れてパーティーに出た。
サフラは一応王の落とし種だが、幼い頃に母親とは死別して、家格というのか爵位もどきというのかよくわからないけれど、魔力量を維持するために、国から魔物肉の配給を受ける地位みたいなのだけが残った状態だったらしい。

地味な成績で目立たずに格付け試験クリアして、下級公務員として生きていけるなら良かったが、人型が食べられない時点で地味な成績は無理だったと思う。
人間や人型の魔物方が、獣型の魔物より弱く、サフラが食べられる肉は高得点なのだから仕方がない。

もちろん、サバイバル知識好きだった私が世話を焼けば、幼虫でもキノコでも小魚でもそれなりに美味しく食べさせてあげられるけれど、魔物が出ない乾ききった迂回路ではどの食材も手に入らない。

食料確保に森に入る→弱い魔物は逃げてくれるがマンイーター系は襲ってくる→襲ってきた魔物は倒す→倒した魔物は感謝して食う→魔力が満ちてはしゃぐ→腹が減る→初めに戻る。

そんな生活をしていたら、ぶっちぎりのトップ通過だった訳だ。
格付け試験のスコアは、師匠を雇うためのクーポンみたいに使えるらしい。トップのサフラは、理屈上、王の側近魔術師とか、長子王子のパトロンとか、今の勢力図が変わる程の人材を自分の師匠につけることもできた。
まぁ、実行したら暗殺者が山のように送られて、1週間と生きてはいないだろうけどさ、というのがサフラの言だけれども。

で、反対側に振り切れたサフラは、格付け試験終了と同時に、食用奴隷である私を師匠にするという届けを出した。
当然初めてのケース。乱心とも、逃避とも、事実上の王位継承権の放棄とも、いわれているけれど、本人に言わせれば、世間にどう思われるかなど、ナッツバーの欠片より軽いのだそうだ。

ただ、サフラの魔力は、質も量も格違いで、戦士、または、子ども用の種狙いなら目を付けられやすい。おまけに、サフラと結婚すれば、爵位もどきは、継げるらしい。

そこら辺を考慮すると、労なくして拾えるなら拾って搾取したいと考える奴らしか寄ってくる気がしない、とサフラはいう。親がいなくて立場が弱いからね、と。
父親側をここまで無視する段階で、王がまともな親でないことも、サフラが王位に興味がない事もうかがい知れる

そんな訳で、まともに会話できない畜産動物が貼りついていれば、弾除けにはなるかと、私は特に遠慮もせずにエスコートの位置というか、第三者と会話するのが邪魔な位置に居続けた。

反応はなかなかにてきめんで、サフラに恩着せだか威圧だかをしたい貴族種たちから、屠殺してやろうかと言わんばかりの視線が来る。

自分で言うのもなんだが、現在の私の見かけは12の少女だぞ?
今にも、物理的に攻撃をとばしそうな剣呑な目つきで見るんじゃねーよ、大人げない。

私の警戒感が上がったのを察したサフラは、人が近づいてくる度に私の手を握り、私への視線を遮るように前に立つ。
メンタル的には19なので、7つの子が全力で私を守って来るこの環境は抵抗があるのだが、身分上、逆をやるとまずそうなので甘んじる。

結局、牽制しあった油ギッシュなオヤジどもは遠巻きのままだった。途中で、ひとりだけまともに会話する気がある男が来た。キルヤ様という男性。食えない感じではあるけれど、サフラを認めている空気感は〇。
他は人食い花系の女性だった。子供というより幼児のふりしてにげてたけれど、声をかけて来た男女比で考えるなら、サフラは結構モテるのかもしれない。
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