偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

文字の大きさ
上 下
6 / 93

6☆初めての共同作業

しおりを挟む
うげ。なんだこれは。

サフラと共に行動し始めてから3日。ユオは派手に呻いた。

目の前でざばざばと激しい水しぶきを上げてのたくるのは、茶色く長い筒、じゃない、脚だ。

ここは湖。淡水にタコは居ないのでは?!

前世しばりのツッコミで、反応が2拍遅れた。

吸盤が、トマトの輪切りサイズだけれど、動きは水族館のタコ。
何度見てもタコの脚。
しかも、足のサイズから推測するに、全長はかるく牛を超えるのでは?

イメージだけでいうなら、オクラホマ・オクトパス。
ネッシーとかツチノコの仲間というのか、普通いないよな、と思わせる、淡水域の巨大生物。
足の間に、ギロチンとしか表現しようのない嘴があった

呆然としている間に、サフラが短刀を構えて、私とタコの間に立ちはだかる。

「ユオ、逃げて!」

って。いや、待った!確かにひるんだけどね?!

だからと言って、どうやっても力じゃ勝てない魔物相手に、ちびっこにかばわれて逃げる自分とか、個人的に嫌だ。
あー、見かけは12才のひ弱クローン体だけど、前世の記憶は19才のスポーツ選手だからさ。

タコって9割筋肉とか言われるし、どう考えても力強いよね?

ボディービルダーの太腿より太いだろって脚が3本がかりでサフラに巻き付く。さらには、吸盤で吸い付いたサフラを、がちんがちん鳴る嘴に向かって引き寄せながら、水に沈めようとする。

サフラは締め上げられてほとんど動かない手から短刀の攻撃を繰り出すが、なまダコ野郎がやたらと伸縮自在なせいか切れていない。

あわてて、ぶっとい脚をかいくぐって、嘴とサフラの間に滑り込む。
ふざけんなよ、たこ焼きにしてやる。

手からの放出を最大にして、タコの嘴の中に、大量の塩をぶち込んだ。
予定では、塩の上から油もぶち込んで、サフラから火種をもらえば、つぼ焼きレベルに燃やせるかも、とか考えていたのだけれど。
どうやらこのタコもどきときたら、浸透圧調節が極端に下手な生き物だったらしい。

火なんかなくても、塩だけで、雄叫びを上げて、目の間から頭にかけて、みるみる縮んでいく。ナメクジ30倍速。

調子づいて、手からガンガン塩を出し、サフラに巻き付いている足の根もとにもなすりつけた。
サフラを締め付ける力は格段に弱くなったが、素肌の腕に吸い付いた吸盤がえげつない!

真空バキュームよろしくサフラの右腕の皮膚を吸いこんで離さないのだ。
彼の腕の色がみるみる変わっていく。
どうしたらいい?!

慌てる私の前で、サフラは短刀を自由になった左手に持ち替えた。

ザクッ

止める間もなく、私の目の前で、サフラは自分の右腕と吸盤の間に、思い切りよく刃を差し込んだ。岩場からフジツボでもとるように、一気に。

「ちょっと!」

血と刃と空気が吸盤と皮膚の隙間の容積を増して、真っ赤に染まった吸盤が剥がれていく。

歯を食いしばったサフラは、倒れるどころか、すでにラグビーボール程に縮んだタコの頭をヘッドロックするかの如く抱えて仁王立ちになった。

すげぇ。こんな7歳児、見たことないわ。
ロリでもショタでもないけど、ちょっとホレたかも。

巨大だったタコは、サフラの腕から垂れ下がるようにして動かなくなった。塩まみれのまま、真水で薄めることもできずに縮み続け、カーテンのようにヘロヘロになって。

「ユオ、ユオ、けがはない?大丈夫っ?ごめん、ごめんね・・」

いや、なんだって私のほうが気遣われた謝られたりしているのかな?

血が流れ放題の腕でタコのアタマを締め上げながら、サフラ君が、私を気遣っている。
泣きそうな顔で、あやまっている。
それでわかった。この子、私を守る気なんだ、って。

「はい、無傷で元気です。ありがとう。ひょっとして私たちって息ぴったり?サイコーですね!」

そう答えて私は親指を立てて見せた。
大丈夫だと、そんなに必死に守らなくても、ユオは死にもしなければ、サフラから離れて行ったりもしないと教えてあげたくて。

そのあと、怪我をしたサフラをゆっくり休ませたくて、私はサフラを自分の隠れ家に連れて行った。

洞窟、なのだけれど、風の音が止まないせいか、他の生き物に今一つ人気がない。たまに大きいけれど大人しいモンスターワームが死に場所に選ぶくらいの、人気も魔物気もない隠れ家だ。

それでも、岩の区切り方ひとつで、防音室だろうが冷燻室だろうが作れるし、温かい風が出る風穴と、冷たい風が出る風穴がはっきりしているから、切り替えて冷暖房完備の気分ができるので、気に入っている。

干物や燻製も作れるし、装備や食料を置いておいても、昆虫にすら盗られたことがないのもいい。

あのオクラホマ・オクトパスもどきも干しダコにしてやろうと、木と紐でハンガーを作る。
風の吹き続ける風穴の前にぶら下げてみると、身長2メートルの大男が着るワンピースみたいになってはためいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)

処理中です...