偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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6☆初めての共同作業

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うげ。なんだこれは。

サフラと共に行動し始めてから3日。ユオは派手に呻いた。

目の前でざばざばと激しい水しぶきを上げてのたくるのは、茶色く長い筒、じゃない、脚だ。

ここは湖。淡水にタコは居ないのでは?!

前世しばりのツッコミで、反応が2拍遅れた。

吸盤が、トマトの輪切りサイズだけれど、動きは水族館のタコ。
何度見てもタコの脚。
しかも、足のサイズから推測するに、全長はかるく牛を超えるのでは?

イメージだけでいうなら、オクラホマ・オクトパス。
ネッシーとかツチノコの仲間というのか、普通いないよな、と思わせる、淡水域の巨大生物。
足の間に、ギロチンとしか表現しようのない嘴があった

呆然としている間に、サフラが短刀を構えて、私とタコの間に立ちはだかる。

「ユオ、逃げて!」

って。いや、待った!確かにひるんだけどね?!

だからと言って、どうやっても力じゃ勝てない魔物相手に、ちびっこにかばわれて逃げる自分とか、個人的に嫌だ。
あー、見かけは12才のひ弱クローン体だけど、前世の記憶は19才のスポーツ選手だからさ。

タコって9割筋肉とか言われるし、どう考えても力強いよね?

ボディービルダーの太腿より太いだろって脚が3本がかりでサフラに巻き付く。さらには、吸盤で吸い付いたサフラを、がちんがちん鳴る嘴に向かって引き寄せながら、水に沈めようとする。

サフラは締め上げられてほとんど動かない手から短刀の攻撃を繰り出すが、なまダコ野郎がやたらと伸縮自在なせいか切れていない。

あわてて、ぶっとい脚をかいくぐって、嘴とサフラの間に滑り込む。
ふざけんなよ、たこ焼きにしてやる。

手からの放出を最大にして、タコの嘴の中に、大量の塩をぶち込んだ。
予定では、塩の上から油もぶち込んで、サフラから火種をもらえば、つぼ焼きレベルに燃やせるかも、とか考えていたのだけれど。
どうやらこのタコもどきときたら、浸透圧調節が極端に下手な生き物だったらしい。

火なんかなくても、塩だけで、雄叫びを上げて、目の間から頭にかけて、みるみる縮んでいく。ナメクジ30倍速。

調子づいて、手からガンガン塩を出し、サフラに巻き付いている足の根もとにもなすりつけた。
サフラを締め付ける力は格段に弱くなったが、素肌の腕に吸い付いた吸盤がえげつない!

真空バキュームよろしくサフラの右腕の皮膚を吸いこんで離さないのだ。
彼の腕の色がみるみる変わっていく。
どうしたらいい?!

慌てる私の前で、サフラは短刀を自由になった左手に持ち替えた。

ザクッ

止める間もなく、私の目の前で、サフラは自分の右腕と吸盤の間に、思い切りよく刃を差し込んだ。岩場からフジツボでもとるように、一気に。

「ちょっと!」

血と刃と空気が吸盤と皮膚の隙間の容積を増して、真っ赤に染まった吸盤が剥がれていく。

歯を食いしばったサフラは、倒れるどころか、すでにラグビーボール程に縮んだタコの頭をヘッドロックするかの如く抱えて仁王立ちになった。

すげぇ。こんな7歳児、見たことないわ。
ロリでもショタでもないけど、ちょっとホレたかも。

巨大だったタコは、サフラの腕から垂れ下がるようにして動かなくなった。塩まみれのまま、真水で薄めることもできずに縮み続け、カーテンのようにヘロヘロになって。

「ユオ、ユオ、けがはない?大丈夫っ?ごめん、ごめんね・・」

いや、なんだって私のほうが気遣われた謝られたりしているのかな?

血が流れ放題の腕でタコのアタマを締め上げながら、サフラ君が、私を気遣っている。
泣きそうな顔で、あやまっている。
それでわかった。この子、私を守る気なんだ、って。

「はい、無傷で元気です。ありがとう。ひょっとして私たちって息ぴったり?サイコーですね!」

そう答えて私は親指を立てて見せた。
大丈夫だと、そんなに必死に守らなくても、ユオは死にもしなければ、サフラから離れて行ったりもしないと教えてあげたくて。

そのあと、怪我をしたサフラをゆっくり休ませたくて、私はサフラを自分の隠れ家に連れて行った。

洞窟、なのだけれど、風の音が止まないせいか、他の生き物に今一つ人気がない。たまに大きいけれど大人しいモンスターワームが死に場所に選ぶくらいの、人気も魔物気もない隠れ家だ。

それでも、岩の区切り方ひとつで、防音室だろうが冷燻室だろうが作れるし、温かい風が出る風穴と、冷たい風が出る風穴がはっきりしているから、切り替えて冷暖房完備の気分ができるので、気に入っている。

干物や燻製も作れるし、装備や食料を置いておいても、昆虫にすら盗られたことがないのもいい。

あのオクラホマ・オクトパスもどきも干しダコにしてやろうと、木と紐でハンガーを作る。
風の吹き続ける風穴の前にぶら下げてみると、身長2メートルの大男が着るワンピースみたいになってはためいた。
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