君が去ない夏

2

　あの日以来、僕達が海に行く事はなかった。
　だって君の事を思い出してしまうから、あの君の笑った顔を思い出してしまうし
　君の温もりも、やさしい手の感触も、君の熱さでさえも僕は思い出して疼いて
　しまうんだ。
　
　
　愛していた。
　君以外誰も好きになんてなれないと思っていた。
　君が僕の全てだったんだ。
　
　
　なのに、君はいなくなってしまった。
　そんな僕が生きる意味なんてあるんだろうか？
　君がいない世界で僕はこれからどうやって生きて行けばいい？
　ねえ、おしえてよ。
　
　
「ねえ、おしえてよ！　」


　僕は海へ来ていた。
　あの日以来ずっと考えていた。
　僕を置いていってしまった君の事をずっと考えていた。
　それでも答えは出なくて、ここへ来れば何か分かるかもしれないと思ったんだ。
　
　
　でも誰も何も言ってくれなくて、
　海はただただ打ち寄せて来るばかりで、
　だから僕は答えを聞きに海へ入った。
　そうすれば答えが見つかると思ったから。
　
　
　だって君はそこにいるんでしょ？
　
　
「馬鹿野郎！　何やってんだよ！　」


　そんな僕を敦彦が引き戻した。
　
　
「もういいんだ。僕はもう、このまま生きて行くなんて出来ない！　
　このまま生きる事に何の意味があるって言うんだ！　」
　
　
「そんな事言うなよ！　意味ならちゃんとある！　俺がいるだろうが！　
　それじゃあ駄目なのか？　俺じゃあ駄目なのか？　」
　
　
　僕はその時初めて敦彦の気持ちを知ったんだ、でも
　
　
「敦彦の事を代わりにしてしまうよ？　」


「それでもいいよ。俺にはお前が必要だ！　」


　潮騒が聞こえる中で僕は敦彦を受け入れた。