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最終章 旅立ち
7 ずっと一緒に
しおりを挟む大自然に囲まれた辺境の教会。
高く澄んだ鐘の音が響く中、生涯を誓い合ったばかりの新郎と新婦が教会の扉から参列者の前に現れた。そんな二人を祝うように、祝福の言葉を浴びせる多くの者たちで、普段は静寂なこの場所も幸せな空気に包まれている。
新郎新婦には、誰も入り込むことのできない二人だけの特別な雰囲気が漂っている。参列者たちには聞こえていないが、リオンはルイーズの傍らで、〈女神だ〉〈きれいだ〉〈愛している〉などと囁き続けている。
ルイーズは、ブラン家とクレメント家が用意した総レースのウエディングドレスを身に纏いながら、そんなリオンの言葉に苦笑いをしながらも、時より優しい目でリオンを見つめている。
「必ず幸せにする」
「私も、貴方を幸せにしたい」
そんな二人の姿をうっとりと見つめる女性陣たちと、リオンの甘さに引き気味の男性陣。その近くでは、しくしくと泣き出すルーベルトと慰めるエイミー。なんとも対照的な場面が広がっていた。
時はリオンが求婚した一年前に遡る。
遠征先から急いで屋敷に戻ったリオンは、騎士団を解散させるとその足で花畑に向かったそうだ。そこには愛しのルイーズが、一人ぽつんと佇んでいた。(リオンにはそう見えていた)
リオンは、この機を逃すかとばかりに早急に行動した。ルイーズから結婚の同意を得ると、クレメント家に戻り父親へ話を通して一年後の結婚を認めさせた。
先ずは婚約だと、半月後にはルイーズと二人でブラン家を訪問。帰省と婚約の話にブラン家の人たちを大層驚かせた。こんな早くに姉に会えるとは思っていなかったリアムとミシェルは、滞在の延長をお願いして、それからの三日間は姉と共に楽しいひと時を過ごしたようだ。
その際、元婚約者のオスカーが、ルイーズの帰省を知り謝罪に訪れた。本人は、もう一度やり直したいとルイーズに縋ったが、横にいるリオンに睨まれ静々と帰っていった。
その後、王宮で婚約の手続きを済ませると、友人たちに報告をしてから辺境へと戻った。そして、クレメント家の屋敷に着くと、二人はそれぞれの生活に戻っていった。
しかし、隙あらばルイーズの側にいようとするリオンは、辺境伯とレアから再三にわたり注意をされると、結婚式までの接近禁止令が出された。そんな予期しない出来事もあったが、同じ建物内にいるだけでも幸せそうな二人は、ようやく結婚式を迎えることができたようだ。
それから数年後。
ルイーズとリオンは、二人の子供を連れて思い出の花畑へピクニックに来ていた。
リオンとそっくりな8歳の息子が、ルイーズにそっくりな4歳の妹の手を引いている。二人は到着するなり花畑で遊び始めた。
「この地に来てから、もうすぐ10年が経つのね。16歳で侍女科に移ることを決めてから、色々なことがあったわ。あなたと再会して、意識してたのにまた会えなくなって。
あの時は、侍女の仕事にやりがいを感じていて、そのときにリリーちゃんに出会ったの。リリーちゃんの笑顔を見ると嬉しかった。ずっとお仕えしたいと思ったわ。
でも、そんなとき貴方が求婚してくれた。とても嬉しかった。これでずっと一緒にいられるんだと思ったらすぐに返事をしていたわ」
「ああ、そうだったな」
リオンは昔のことを思い出しているのか、穏やかな表情でルイーズを見ている。
「お父様ーーお母様ーー見てください!」
「わたしのもみてー!」
「見てるぞ。二人とも上手にできたな」
子供たちは、少し離れたところから二人に花冠を見せている。
「二人のところに……、ルイーズ?」
「ずっと……一緒って…約束…したわ」
リオンが振り返ると、子供たちを見つめるルイーズの頬には涙が伝っている。泣き止まないルイーズを、リオンは優しく強く抱きしめた。
しばらくして、ルイーズの顔を覗き込んだリオンは、彼女の目蓋にそっとハンカチを押し当てた。ルイーズが顔を上げて「ありがとう」と伝えると、リオンは軽く目を見開いた。
「ルイーズ……目の色が」
「何か……おかしい?」
「いや……とても…きれいだ」
瞳を潤ませたリオンを、微笑みながら見つめるルイーズ。その瞳の色は、新緑を思わせる透き通るような若葉の色だった。
Fin
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