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最終章 旅立ち
6 二人の願い
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「ルーちゃん、休日だからいつもの呼び方で良い?」
「もちろん。私もリリーちゃんと呼んで良いですか?」
「もちろん!」
「二人とも、早く馬車に乗ってくれ」
「早くしないと、沢山見て回れませんよ」
玄関前には、馬車のドアを開けるレアと、護衛のために馬を引くクロードがいた。今日は珍しいことに、レアも馬車で移動するようだ。
二人は急ぎながらも楽しそうにレアが待つ馬車に乗り込んだ。走り出した馬車が市街地に入ると、ルイーズとリリーは街並みを見ながら目を輝かせている。そしてお店が立ち並ぶエリアに入ると、リリーはレアに馬車を停めるように頼んだ。
「ルーちゃんも、どこか寄りたいところがあったら言ってくれ」
「はい。でも、街並みを見ているだけで楽しいです」
「そうか、気に入ってくれて良かった。それならもう少しこの辺りを見てから、お昼にしよう」
「お姉さま、あそこに行ってもらえるんでしょうか?」
「そのつもりだ。お弁当も持ってきたからな」
三人は、街歩きを楽しみながらいくつかのお店を覗いた後、昼食を摂るために移動するようだ。馬車に揺られながら目的地に向かう間、リリーは窓から外を覗いてはきょろきょろと辺りを見渡している。
「リリー、落ち着け」
「リリーちゃん、どうしたの? 何か気になるものでもあった?」
「ううん、何でもない」
頭を横に振りながら答えるリリーは、心配する二人にぎこちない笑みを見せながらも、まだ外の様子を気にしているようだ。そんなリリーを呆れた様子で見ているレアは、二人に外へ出る準備をするように告げた。
どうやら目的地に着いたようだ。馬車が停まると、護衛をしていたクロードがドアを開けた。その瞬間、リリーは我先にと馬車から飛び出すと、その様子を見ていたクロードに抑えられた。
「リリーお嬢様、お二人が心配なされますよ」
「ごめんなさい。何だか落ちつかなくて」
「兄上に送った手紙のことですね。伝令に持たせる手紙に一緒に入れたのですから、おそらく御父上も気づかれているでしょう。ですから、心配は無用です」
リリーは驚いた顔をしながらも、小声で囁くクロードに何度も頷いた。そんな二人のやり取りを車内から見て安心したルイーズは、窓から外の景色を見渡すと、寂しそうな表情を浮かべた。どうやら押さえていた感情が抑えきれずに出てしまったようだ。リオンと来たときのことを思い出してしまったのだろう。
「ルーちゃん、大丈夫か?」
「レアさん……はい、大丈夫です」
レアは、そんなルイーズを気にかけながらも外へと連れ出した。
四人は、花畑を一望できる場所まで歩いて行くと、そこにお弁当を広げた。それから皆で食事をしながらおしゃべりを楽しんでいると、何やら遠くの方から微かな音が聞こえてきた。四人は顔を見合わせてから、立ち上がると音がする方を探るように見つめた。
「あっ! お兄様っ!」
ルイーズは、リリーの叫んだ言葉に驚きながらも、遠くを見つめながらその姿を探している。徐々に近づく音と共に、会いたくても会えなかった相手の姿が近づいてきた。
「私たちは邪魔だ。リリー、クロード向こうへ行くぞ」
名残惜しそう見ている二人を、レアが近くの植え込みへと連れて行った。
顔がはっきりと見える距離まで近づくと、リオンは馬から素早く降りてルイーズの前に駆け寄った。
「ルイーズ」
「リオンさん……、お久しぶりです」
「本当に、久しぶりだな。辺境には、いつ来たんだ?」
「……三か月…前に」
「そうか。会いにいくと言ったのに、行けなくてすまなかった。」
俯きながら顔を横に振るルイーズの瞳は、うっすらと涙が滲んでいる。
「屋敷に来てくれたこと知っています」
「……そうか。あの時は、自分が未熟なせいで父にも子爵にも会うことを許してもらえなかった」
「修道院に来ていたことも知っています」
「あれは……、一目だけでもと思ったんだ」
「お花、ありがとう」
「離れていても、思い出してほしくて。本当は、ブラン家に行ったときに会えたら渡そうと思っていたんだ」
リオンはルイーズの手を取り、顔を覗き込むと自身の思いを伝えてきた。
「好きだ。子供の頃からルイーズを想う気持ちは変わらない。もう誰にもとられたくないんだ。これからは、ずっとそばにいてほしい。」
「私も……、リオンさんが好きです。いつも近くに感じていたい。でも、私はリリーちゃんが心安らかに過ごせるまで、リリーちゃんの侍女を続けたい。そんな私だと、難しいかしら……?」
「いや、侍女は続けてくれて良い。俺もリリーも、一緒にいられるだけで幸せなんだ。だからどうか結婚してほしい」
「はい」
「ああ、やっとだ。抱きしめても良いだろうか?」
ルイーズは、恥ずかしいのか俯きながらも頷いた。近くから二人を見守る存在にも気づかないくらい、長いこと抱きしめ合っていた。
「兄上、必死だな」
「それは仕方がないですよ。子供の頃、ルイーズ嬢が婚約をしたと知ったときは、本当に落ち込んでいました。それなのに、今度はようやくと思ったら会えなくなるし。当主もリオンに我慢させ過ぎです」
「でも、砦にいるはずの兄上が何故ここにいるんだ」
「当主が帰還するリオンに伝令で手紙を届けたのですよ。『許す』と」
「私もお兄様にお手紙を書いたの」
「何て書いたんだ?」
「ルーちゃんが、寂しそうって」
「ルーちゃんは、リリーと一緒にいたとき楽しそうにしていたぞ」
「うん……そうなら嬉しい」
「さあ、お二人とも戻りますよ。早く当主に報告しなければ。これから忙しくなりますよ。」
ウキウキした様子のレアとリリーに、ほっとした表情のクロード。そんな三人の顔からは優しい笑みが零れていた。
「もちろん。私もリリーちゃんと呼んで良いですか?」
「もちろん!」
「二人とも、早く馬車に乗ってくれ」
「早くしないと、沢山見て回れませんよ」
玄関前には、馬車のドアを開けるレアと、護衛のために馬を引くクロードがいた。今日は珍しいことに、レアも馬車で移動するようだ。
二人は急ぎながらも楽しそうにレアが待つ馬車に乗り込んだ。走り出した馬車が市街地に入ると、ルイーズとリリーは街並みを見ながら目を輝かせている。そしてお店が立ち並ぶエリアに入ると、リリーはレアに馬車を停めるように頼んだ。
「ルーちゃんも、どこか寄りたいところがあったら言ってくれ」
「はい。でも、街並みを見ているだけで楽しいです」
「そうか、気に入ってくれて良かった。それならもう少しこの辺りを見てから、お昼にしよう」
「お姉さま、あそこに行ってもらえるんでしょうか?」
「そのつもりだ。お弁当も持ってきたからな」
三人は、街歩きを楽しみながらいくつかのお店を覗いた後、昼食を摂るために移動するようだ。馬車に揺られながら目的地に向かう間、リリーは窓から外を覗いてはきょろきょろと辺りを見渡している。
「リリー、落ち着け」
「リリーちゃん、どうしたの? 何か気になるものでもあった?」
「ううん、何でもない」
頭を横に振りながら答えるリリーは、心配する二人にぎこちない笑みを見せながらも、まだ外の様子を気にしているようだ。そんなリリーを呆れた様子で見ているレアは、二人に外へ出る準備をするように告げた。
どうやら目的地に着いたようだ。馬車が停まると、護衛をしていたクロードがドアを開けた。その瞬間、リリーは我先にと馬車から飛び出すと、その様子を見ていたクロードに抑えられた。
「リリーお嬢様、お二人が心配なされますよ」
「ごめんなさい。何だか落ちつかなくて」
「兄上に送った手紙のことですね。伝令に持たせる手紙に一緒に入れたのですから、おそらく御父上も気づかれているでしょう。ですから、心配は無用です」
リリーは驚いた顔をしながらも、小声で囁くクロードに何度も頷いた。そんな二人のやり取りを車内から見て安心したルイーズは、窓から外の景色を見渡すと、寂しそうな表情を浮かべた。どうやら押さえていた感情が抑えきれずに出てしまったようだ。リオンと来たときのことを思い出してしまったのだろう。
「ルーちゃん、大丈夫か?」
「レアさん……はい、大丈夫です」
レアは、そんなルイーズを気にかけながらも外へと連れ出した。
四人は、花畑を一望できる場所まで歩いて行くと、そこにお弁当を広げた。それから皆で食事をしながらおしゃべりを楽しんでいると、何やら遠くの方から微かな音が聞こえてきた。四人は顔を見合わせてから、立ち上がると音がする方を探るように見つめた。
「あっ! お兄様っ!」
ルイーズは、リリーの叫んだ言葉に驚きながらも、遠くを見つめながらその姿を探している。徐々に近づく音と共に、会いたくても会えなかった相手の姿が近づいてきた。
「私たちは邪魔だ。リリー、クロード向こうへ行くぞ」
名残惜しそう見ている二人を、レアが近くの植え込みへと連れて行った。
顔がはっきりと見える距離まで近づくと、リオンは馬から素早く降りてルイーズの前に駆け寄った。
「ルイーズ」
「リオンさん……、お久しぶりです」
「本当に、久しぶりだな。辺境には、いつ来たんだ?」
「……三か月…前に」
「そうか。会いにいくと言ったのに、行けなくてすまなかった。」
俯きながら顔を横に振るルイーズの瞳は、うっすらと涙が滲んでいる。
「屋敷に来てくれたこと知っています」
「……そうか。あの時は、自分が未熟なせいで父にも子爵にも会うことを許してもらえなかった」
「修道院に来ていたことも知っています」
「あれは……、一目だけでもと思ったんだ」
「お花、ありがとう」
「離れていても、思い出してほしくて。本当は、ブラン家に行ったときに会えたら渡そうと思っていたんだ」
リオンはルイーズの手を取り、顔を覗き込むと自身の思いを伝えてきた。
「好きだ。子供の頃からルイーズを想う気持ちは変わらない。もう誰にもとられたくないんだ。これからは、ずっとそばにいてほしい。」
「私も……、リオンさんが好きです。いつも近くに感じていたい。でも、私はリリーちゃんが心安らかに過ごせるまで、リリーちゃんの侍女を続けたい。そんな私だと、難しいかしら……?」
「いや、侍女は続けてくれて良い。俺もリリーも、一緒にいられるだけで幸せなんだ。だからどうか結婚してほしい」
「はい」
「ああ、やっとだ。抱きしめても良いだろうか?」
ルイーズは、恥ずかしいのか俯きながらも頷いた。近くから二人を見守る存在にも気づかないくらい、長いこと抱きしめ合っていた。
「兄上、必死だな」
「それは仕方がないですよ。子供の頃、ルイーズ嬢が婚約をしたと知ったときは、本当に落ち込んでいました。それなのに、今度はようやくと思ったら会えなくなるし。当主もリオンに我慢させ過ぎです」
「でも、砦にいるはずの兄上が何故ここにいるんだ」
「当主が帰還するリオンに伝令で手紙を届けたのですよ。『許す』と」
「私もお兄様にお手紙を書いたの」
「何て書いたんだ?」
「ルーちゃんが、寂しそうって」
「ルーちゃんは、リリーと一緒にいたとき楽しそうにしていたぞ」
「うん……そうなら嬉しい」
「さあ、お二人とも戻りますよ。早く当主に報告しなければ。これから忙しくなりますよ。」
ウキウキした様子のレアとリリーに、ほっとした表情のクロード。そんな三人の顔からは優しい笑みが零れていた。
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